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久遠の神話

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第百話 加藤との話その十二

「たっぷりと食べないと駄目なのよ」
「それもバランスよくなんだ」
「それで身体を動かすのよ」
「じゃあ今の僕は」
「それ続けるのよ」
 バランスのよい大量のものを食べる食事とスポーツをだというのだ。
「いいわね」
「そうするべきなんだ」
「とにかく食事はバランスよくよ」
 母はフカヒレスープを飲みつつ話す。
「そうしなさいね」
「御飯だけでも駄目なんだね」
「お米さえ食べてれば人は死なないっていうわね」
「そうでもないんだね」
「ああ、それ駄目よ」
 御飯ばかりの食生活はだ、母は一言で否定した。
「脚気になるわよ」
「脚気になるんだ」
「そう、昔は脚気で結構な人が死んだから」
「そういえば日露戦争とかは」
「そう、白米ばかり食べていて沢山の人が死んだからね」
「駄目なんだね」
「おかずも食べて。御飯だけならね」
 つまり主食だけ食べる場合はというのだ。
「麦とか玄米とか入れたりとかね。十六穀御飯とかもいいわよ」
「とにかく白米だけじゃ駄目なんだ」
「脚気になるから」
 それは絶対にというのだ。
「駄目よ」
「そうなんだね」
「脚気は死ぬから」
 母の言葉は厳しかった、今も。
「実際に死んだ人多かったのは今お母さんが言った通りよ」
「怖いんだね」
「それだけバランスのいい食事が大事だってことよ」
「そうなるんだね」
「もっとも脚気は森鴎外のせいでもあるけれど」
 ここでこの文豪の名前が出た。
「あの人お医者さんで陸軍の偉いさんでね」
「脚気がどうとか言ったんだよね、確か」
「そう、脚気菌があるとか言って栄養的に白米は問題ないとか言ってね」
「白米にこだわってなんだ」
「それで沢山の人が脚気になったのよ」
 それが日清戦争だけでなく日露戦争にも影響した。日露戦争での脚気の死者は尋常ではない数字になってしまった、森鴎外本名森林太郎の頑迷な主張により。
「まあ森鴎外はね、人間としてはね」
「いい人じゃなかったんだ」
「偉人ではないわね」
 時に偉人とされることがあっても、というのだ。
「まあ偉人って人間としてどうかって人も多いけれど」
「多いんだ、偉人なのに」
「ベートーベンも偉人だけれどいい人ではなかったわよ」
 尊大かつ頑迷で極めて気難しく尚且つやたら癇癪を爆発させた。人付き合いの能力は皆無でその為敵も多かった。
「結構な変人や嫌な人も多いのよ」
「偉人って言われてる人には」
「ええ、森鴎外もね」
 人間性は、というのだ。
「褒められた人じゃないし夏目漱石もね」
「あの人も問題あったんだよね」
「被害妄想強くておっちょこちょいでしかもヒステリックだったのよ」
「全然いい人じゃないね」
「そういうものよ。偉人でも全部見習うべきじゃないわよ」
「森鴎外とかベートーベンとか」
「まあベートーベンみたいな人にはそうはなれないわ」 
 音楽的才能よりも人間性を見ての言葉だ。確かに彼は耳を悪くしそれが彼の人生と人間性に大きな影響を及ぼしたがそこに家庭環境や人間関係も影響してそうした人間になっていったと言われている。元々そうしたところが多分にあったかも知れないが。 
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