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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第43話 ハルケギニアよ!!私は帰って来た!!

 こんにちは。ギルバートです。苦節6年(ハルケギニアでは3ヶ月弱)……ようやく……ようやくハルケギニアに帰ってきました。気分はもう「ハルケギニアよ!! 私は、帰って来たぁーーーー!!!!」です。どこぞのソロモンズ・ナイトメア風に叫びたい気分です。

 いやもう、ディル=リフィーナでは色々とあったのです。

 どっかの半魔神の(元)王様に会ったり……。
 義姉弟の和解を手伝わされたり……。(弟に姉上と呼ばせてやりました♪)
 旅の目的を話をしたら、案内役の名目で暴走王女押しつけられたり……。(仕返しか?)
 負けじと神殺し様が、紅雪を押し付けてきたり……。(張り合わないでほしい)
 終いにはその2人とレンで、三つ巴の喧嘩に発展したり……。
 性魔術の訓練は理性をガリガリ削る上に、相手をしてくれたレンが……。

 案内役の2人は全くの役立たずだし、この3人が行く先々で騒動を起こしてくれるし、もし霊体で無ければ私の胃は穴だらけ確実です。……血、吐きますよ。どこぞの錬金術師の師匠みたいに。

 しかし、もうそんな生活とはおさらばです。早速肉体に戻ります。



 そして気が付くと、そこは知らない町でした。それにやたら目線が高い気がします。

「(重なりし者よ。もう帰って来たのか?)」

 体の中から声が聞こえました。今のは木の精霊ですね。

(はい。用事が済んだので帰ってきました。ここは何処ですか?)

「(ヴィンドボナとか言う街だ)」これは、風の精霊か?

(ヴィンドボナと言えば、ゲルマニアの首都ですね。何故こんなところに?)

「(元々トリスタニアで遊んでいたのだが、少々目立って(・・・・)しまってな。丁度飽きてきた所だったので、少々足を延ばしてみた)」

 今のは土の……って、聞き捨てならない単語があったような気がするのは気のせいでしょうか?

「(我は暴れられたので気持ち良かったぞ)」

 アウト!! アウト!! アウトーー!! 今、火の精霊は何と言った? 暴れたって何ですか? なんでやねん!! お目付役のティアは……ティアは何処ですか? あれほど頼んでおいたのに、何故このような事態になったのですか? いや、とりあえず落ち着け。深呼吸をして乱れた心を落ち着かせます。

(それでティアは何処ですか?)

「(韻竜ならすぐ帰って来るぞ)」

 水の精霊に言われて、私はあたりを見回ります。すると直ぐに、黒髪の美女を発見する事が出来ました。やけに(やつ)れていて、とぼとぼ歩くその姿に哀愁を感じずには居られませんでした。

「ティア」

 思わず声をかけると、ティアはビックっと震え顔をこちらに向けました。

「あ 主……なのか?」

 私が頷くと、ティアの目からボロボロと涙が流れだします。そして、手に持った木のカップを落とすと、凄い勢いで私に抱きついてきました。よほど辛い思いをしていたのでしょう。私はティアを抱きしめ、頭を撫でてあげました。体の中で木の精霊が「(勿体ないではないか)」等と騒いでいますが今は無視です。ついでに周りのギャラリーも無視です。

 ティアが落ち着くのを待って、中身がぶちまけられた木のカップを店に返却すると、私達はティアがとっておいた宿に行きました。

 部屋に入り鏡で自分の姿を確認すると、凄い事になっていました。私の姿は、スキンヘッドの大柄なオッサン(筋肉ムキムキ)になっていたのです。ティア(人間ver)と並んで歩いたら、美女と野獣と言う言葉が異様にしっくりきます。おまけとして、体には大きな入れ墨が施してありました。精霊達が刺青の由来を話してくれましたが、私は何故この文様を刺青にするのか理解できませんでした。

 簡潔にイメージを言うと、剛腕な錬金術師のこの世すべて悪刺青バージョンですか。……カオスな外見です。精霊達から“そんな邪悪な刺青と、この聖なる刺青を一緒にするな”と言う抗議の意思が伝わって来ます。まあ、私には違いが分からないのでスルーします。

「しかし、背や手足の長さが違うだけで、ここまで動き辛くなるとは思いませんでした」

 宿に帰る途中で、あまりの動き辛さに精霊に肉体の操作権を譲渡して、代わりに歩いてもらいました。屋台を見かけるたびに、フラフラと立ち寄ろうとするので、そのたびにティアが苦労して止めて居ました。終いにはティアに泣きつかれ、肉体の操作権を戻す羽目になりました。おかげで何度転びそうになったか……。

「主。もう元の姿に戻っても良いのではないか?」

 鏡で今の自分の姿を観察していた私に、ティアが提案してきました。もう仕入のアリバイを作るには、十分すぎるほどの時間が経っています。ここがゲルマニアなのは気になりますが、もう元の姿に戻っても問題ないでしょう。

(精霊達よ《変化》の術を解除してもらえますか?)

 私の提案に精霊達の反応は様々でした。特に土の精霊が、私の提案に難色を示したのは意外でした。

「(美しいからこのままで良いのではないか?)」と、土の精霊。

「(刺青以外は、どう考えても駄目だろう)」と、風の精霊が言うと、他の精霊が同意します。

「(美しいとはこういうことを言うんだ)」

 風の精霊がそう言うと、頭の中に男のイメージが流れ込んで来ました。ひょろひょろの優男でしたが、やたらひらひらした服を着ていて、髪が地面に引きずるほど長かったです。……ハッキリ言って気持ち悪かったです。それに続き「(違う!! こうだ)」と、火の精霊がイメージを公開しました。それは細くも筋肉質で、真っ赤な髪が真上に向けて立っていました。しかも、何か赤いオーラみたいなものを纏っています。……赤い超野菜人ですね。次が水の精霊で、ケバケバのおかまっぽい男でした。……見なかった事にしよう。精霊達が(人の中で)言い争いを始めましたが、木の精霊だけは我関せずでした。

「(重なりし者よ。元の姿に戻すぞ)」

 木の精霊がそう言うと、私は元の姿に戻っていました。慣れ親しんだ姿って素晴らしいです。もう、あんなショッキングな姿になりたくありません。元の姿に戻った私を確認すると、ティアは泣きながら「あ あるじ~!!」と、抱きついて来ました。引き剥がそうとも思いましたが、本気で泣いているようなので放っておく事にします。私の中では木の精霊が、他の精霊の仲裁に入っていました。助かります。

 暫くしてティアも落ち着いたので、私がいない間に何があったか聞く事にしました。

「ティア。私が不在だった間に、何があったか教えてください」

 そう言って抱きついたままのティアを放すと、何かこの子舌打ちしましたよ。しかも「レンだけズルイのじゃ」とか、私の中から「(人の交尾が……)」等と、聞こえた様な気がしました。絶対気のせいです。そう思わないと、私の精神がヤバイ事になります。あぁ……純心だったティアは何処へ……。これは絶対にティアとレンが、互いに影響し合っている事が原因ですね。 ん? そこでようやく気付ました。レンは何処へ行ったのでしょうか?

「ま まずい!!」

「如何したのじゃ?」

 今の今まで、すっかり忘れていました。一緒に戻って来たはずのレンが居ないのです。

「ティア。私と一緒に帰ってきたはずのレンが居ません」

「あっ!!」

 気分は子供と遊びに行って、子供を忘れて来てしまったお父さんです。……滅茶苦茶焦ります。……そうだ!!

「ティア。レンを感知出来ますか? 出来なければ、レンに《共鳴》で呼びかけられませんか?」

「う うむ。直ぐに呼びかけるのじゃ。……精霊の大樹の前におるぞ」

 良かった。とりあえず無事だけは確認出来ました。と言っても、分霊に無事も何もないのですが。

「(黒い鱗が突然白い少女になったので驚いたぞ。重なりし者を探しながら、本体が応えてくれないと泣いていた)」

 私の中に居る木の精霊が、突然話しかけて来ました。そう言う事は、もっと早く言って欲しかったです。

「(白い少女も貴様等も、我に助けを求めなかっただろう。我は精霊達の仲裁で忙しかったのだ)」

 そう言われると、何も言えませんね。

「主。レンにはカトレアの所へ行くよう指示を出したのじゃ。もう問題なしじゃ。それから主がディル=リフィーナに行っていた時の話じゃな」

 やけに急いで次の話題に移ろうとするティアに、違和感を覚えました。……あぁ、そう言う事か。

(自分に責任追及が来る前に逃げたな。レンの問い掛けを無視していたから)

「(ほう。気付いたか。しかし見逃してやれ。我等の相手で疲弊していたからな)」

(……そうですね)

 私が木の精霊と話していると、ティアは「話せば長くなるのう」と言って、飲み物を用意し始めました。私はその隙に、魔法の道具袋から杖とディル=リフィーナ製の服(こちらの普段着が無かった)を取り出し、ダボダボになった服から着替えます。

(それより黒い鱗がレンに変わったと言いましたが、レン(分霊)の触媒にはティアの髪の毛を使ったはずですが……)

「(たまたま人間の髪に対応した竜の部位が、鱗だっただけだろう。そして、重なりし者が向こうへ飛ばされる際に巻き込まれ、触媒のみその場に置いてけぼりをくったのだろう)」

(行きは死者に囲まれ、帰りは置いてけぼりとはレンもついてませんね)

「(行きもか? まあ、別の世界を堪能出来たのだ。不運の見返りは十分にあったのだろう?)」

 私は苦笑いしながら曖昧に頷くと、そこで木の精霊との話を打ち切り、ティアの様子に目を向けます。ティアが用意している飲み物は水だったので、私は杖を抜き水差しとカップの中にアイス《氷》の魔法で氷を作り出します。|3(ティール)に入った所為か、今日は温かいので氷はあった方が良いでしょう。

「さすが主じゃな。ぬるい水を飲まなくて済むのは歓迎じゃ」

 ティアが嬉しそうに頷き、それぞれのカップと水差しをテーブルに置きます。

 私とティアがテーブルに着くと、ティアが口を開きました。



---- SIDE ティア ----

 水の精霊が腕?をふるうと、主がその場に力尽き倒れたのじゃ。その光景を見た時、吾はこれが仮初(かりそめ)であると同時に、近い将来に本当に起こりえる事態であると、この時に実感したのじゃ。

 実感と同時に湧き上がったのは、激しい怒りじゃった。

「上手く逝ったようだな」

 怒りの感情を持て余していた吾は、木の精霊の声に正気を取戻す。そうじゃ。警戒は忘れてはならぬが、まだ来ぬ未来を気にしていては疲れてしまう。そして、いざ事が起こった時に“疲れて動けませんでした”では、泣くに泣けぬのじゃ。そう自分に言い聞かせ、怒りに乱れた心を落ち着かせる。

「では、分霊を体に入れるぞ」

 そう言った木の精霊を皮切りに、精霊達が半サント位の結晶を作り出して主の口の中に放り込んで行った。その作業が終わると、精霊達は用は済んだとばかりに、顕現を解除し消えてしまった。そして気付くと、この場には吾と動かない主だけになってなっておった。

(オイルーンは離れた場所におるから良いとして、レンは何処へ行ったのじゃ?)

 レンを探して視線をさまよわせていると、主の体が起き上がり軽い運動を始めたのじゃ。最初はぎこちない動きじゃったが、肉体の操作に慣れたのか次第に違和感のない動きが出来るようになって行った。やがて精霊達は満足したのか、運動を止めこちらに向き直ったのじゃ。

「韻竜よ。我等の中で、どのイメージで《変化》するかもめている。どの精霊のイメージを使うか貴様が選べ」

 主が言葉を発したのじゃ。しかしその口調は、普段の主の物とは全くの別物じゃった。この口調は間違いなく精霊達の物じゃな。

 しかし突然選べと言われて、吾は困ってしまったのじゃ。悩んでも解決せぬと分かった吾は、消去法で候補を1柱ずつ外す事にした。先ず論外(ドジ踏みそう)の水の精霊は候補から外すとして、火の精霊はやたら目立つ姿にしそうじゃし、風の精霊は風にびらびらなびくのが好きそうじゃ。この3柱はやめておいた方がよかろう。残りは木と土の精霊じゃが、この2柱の精霊は良識がありそうなので少々悩むのじゃ。しかし木の精霊は、エコエコ言っていて主の体をやたらミニマムにされるかもしれぬの……。

「土の精霊が良いと思うのじゃ」

 吾がそう伝えると、「我をまといし風よ、我の姿を変えよ」と、呪文を唱えた。そして風が主の体と包み、主の体が膨張して世紀末な暗殺拳の使い手の様にビリビリと破れたのじゃ。

 そこに立っていたのは、やたらとでかい中年の……、しかも服が破れ全裸になったオッサンじゃった。筋肉が大盛になっており、髪の毛が1本もなく人相も悪いオッサンじゃった。そこには当然主の面影など一切なかったのじゃ。……そして何より、暑苦さ満載なのじゃ。

「準備は出来た。行くぞ」

 吾が現実逃避をしておると、おっさんが猫状態の吾をむんずとつかみ走り出したのじゃ。……全裸のままで。

「ま 待て……」

「先ずは我等の領域(ドリュアス領)からだな」

 猥褻物陳列男(精霊)はそう言いながら、人間の限界をはるかに超えた速さまで加速する。このままでは人目に触れ確実に騒ぎになる。止めようと声を出そうにも、走る腕の振りでシェイクされ続け……。まあ、この状況で吾がキレたのは自然な成り行きと言えるのじゃ。

 吾は《変化》を解き猥褻物陳列男(精霊)に、自慢の尻尾でムーンサルトテイルアタックくれてやったのじゃ。吾の位置が男の真上だった為、男は“弾丸らいなー”で飛んで行き、木を数本薙ぎ倒してようやく止まったのじゃ。

「吾の話を聞かんか!! 愚か……も……。 あ 主の体がぁーーーー!!」

 吾が焦って主の体に駆け付けると、男は平気な顔で起き上がる。

「痛いじゃないか」

 精霊たちの感想は、この一言で終了したのじゃ。吾の近接の切り札が……。

「カウンター《反射》を使ってなければ、この体が(・・・・)死んでいたかも知れんがな」

 そう言って、HAHAHAHAとアメコミのヒーローの様に笑うオッサン(全裸)に、スピンテイルアタックを放ってしまった吾は悪くないのじゃ。

「なかなか痛いぞ」

「痛くしておるのだがら当然じゃ!!」

 なおも攻撃の姿勢を見せる吾に、オッサンは降参のポーズをとったのじゃ。これが5柱の上位精霊(分霊)の集合体と思うと頭が痛くなるのじゃ。

「韻竜よ。貴様の要求は何だ? これ以上我の眷属が無為に傷つけられるのはかなわん。言ってみろ」

 この発言は木の精霊の物じゃな。視線を倒れた木に一瞬だけ向けたのが分かったのじゃ。

「先ずはその恰好を何とかするのじゃ!!」

 吾の言葉にオッサン(精霊)が頷くと、何やら呪文を唱え始めおった。舞い上がった精霊達が、ようやく話を聞いてくれるようになった事に、吾は内心でホッとしておった。しかしそれもすぐに裏切られたのじゃ。呪文が終わると、オッサンの全身が入れ墨で覆われておった。……無論全裸のままで。

「それはなn……」

「この文様は、我ら精霊を象った物だ。この胸の中央にあるのが、木の精霊を象ったものd……」

 ドシィィーーーーン!!

 吾が尻尾を地面に叩きつけると、精霊は途端に大人しくなったのじゃ。と言うか、吾からにじみ出る殺気に気付いたのじゃろう。

「……服を着ろ」

 オッサンが明らかに不満の表情を浮かべる。

「早く」

「そんな煩わしい物着て居られん」

 以前吾が主達に言った言葉が、吾にかえってきおった。吾の返答は、主達をここまで苛立させたのじゃろうか?

「吐くぞ」

 吾は殺気を込めながら言った。

「……何を?」

「ブレス」

「この体へ?」

 吾は首を横に振る。

「誰に吐くn……」

 言い終わる前に、首を横に振ってやる。

「では、どk」

「精霊の大樹」

 場がシンと静まり返った。固まるオッサン(精霊)を無視して、吾は精霊の大樹へ移動しようとしたのじゃ。

「分かった。韻竜。要求を呑もう。だが問題がある」

「問題?」

 我が振り返り問いかけると、オッサンが大きく頷いてから口を開いた。

「この体に合う服が無いのだ」

 そこからがまた大変じゃった。服は買うしかないという結論に達した物の、その時になって初めて吾が主から預かった財布を持っていない事が発覚。わたわたしている所に、オイルーンが財布を持って追いついて来て本当に助かったのじゃ。ホッとしたのもつかの間で、服を買うにも人の居る所に行かねばならぬ。人の居る所へ行くのに必要な服が、人が居る所でしか手に入らないと言う矛盾に頭が痛くなったのじゃ。結局カトレアに救援を要請する羽目になったのじゃ。しかしオイルーンに迎えに行ってもらったカトレアが、オッサンを見るなり卒倒したのじゃ。うわごとで、私のギルが……ハゲ・オッサン・変態・全裸と言っていたので、その気持ちは痛いほど良く分かるのじゃ。

 カトレアに服の問題(吾の分も含め)を解決してもらったと思えば、オッサンの姿をした精霊はフラフラと移動しては、行った先々で問題を起こすので全く気が休まる時が無かったのじゃ。……何度食い逃げ扱いされた事やら。

 ドリュアス領を一通り見て回った頃には、既に3月(ティール)も目前に迫っておった。しかしこうなると、精霊達が「領外の町も見てみたい」と言い出すのは、当然だったのかもしれぬ。治安の良いドリュアス領じゃったから、吾の苦労(スリ、詐欺、強盗、ボッタクリ等にあわないという意味で)はかなり軽減されていたはず……。となれば、下手に治安の悪い所へ行けば、どうなるかなど考えるまでもないのじゃ。しかし精霊の要望を、無視するわけにもいかぬ。吾は「もうすぐ主が帰ってくるはず」と自身に言い聞かせ、行き先を検討したのじゃ。

(……候補としては、王都トリスタニア、モンモランシ領、ラ・ヴァリエール領、ラ・ロシェール……辺りか、国外はフォローが効かないので却下じゃな)

 吾はこの時そう結論を出したのじゃ。そしてオッサン(精霊)に候補地から選択させると、迷わず「王都トリスタニアだ」と返答されたのじゃ。

 しかし、この時に吾は知らなかった。ドリュアス家の策略(塩爆弾大作戦)で、王都が混乱している事を……。

 王都までの移動手段は、近くの森まで吾が風竜に《変化》して騎獣となり、そこから旅人に扮して王都に入る事にしたのじゃ。わざわざ吾が《変化》を使い人に目撃されるリスクを負ったのは、移動中に(はぐ)れる等のトラブルが起きる方が厄介と判断したからじゃ。

 吾の思惑は上手く行き、王都トリスタニアに入ったのじゃが……。

「物々しいのう」

「以前と雰囲気が違うな」

 吾とオッサン(精霊)が、そう言ったのも無理からぬ事と思う。決して活気が無いわけではないが、時々通りかかる兵士にみな怯えている様じゃ。

「とりあえず魅惑の妖精亭へ行くぞ。そこなら食事・宿・情報と、今欲しい物が全て手に入るのじゃ」

 吾はそう言うと、魅惑の妖精亭へ足を向けたのじゃ。

「その手を放せ」

 当然のごとく吾の手は、早速勝手な行動をしようとしたオッサン(精霊)の襟首を掴んでおるのじゃ。油断も隙もないとはこの事じゃ。

 魅惑の妖精亭に入ると、ジェシカ達の「いらっしゃいませ~」と言う声が響いたのじゃ。(ジェシカ達の事はカトレアを介した記憶提供で知っていた)そして情報をもらえそうな人物を探す。ざっと目を通したが、時間帯(3時頃)の所為か客の数は9人とまばらで、うち5人が商人と思われる格好をしておった。

(さて、店主に話を聞くのが一番確実じゃが……。ん?)

 カウンター席へ数歩進んだ所で、奥のテーブル席に見知った顔があるのに気付いたのじゃ。吾はそこで迷わず進路を変え、奥のテーブルの金髪青年の対面に移動する。ちなみに、勝手に席に座ろうとする巨漢のオッサン(精霊)の襟首を掴み引きずったので、物凄く目立っているのじゃ。

「相席よろしいかの?」

 吾がそう聞くと、金髪青年は「良いですよ」と答えながら、さっと手を上げ何か合図の様な物をする。すると吾の動きに合わせて背後に回っていた二つの気配が、元の席に戻っていくのを感じたのじゃ。吾はその片割れのテーブルにオッサン(精霊)を座らせると、ウェイトレスに1スゥ銀貨を渡し店のお勧めを適当に持ってくるように頼んで、ようやく金髪青年の対面に座ったのじゃ。

「すまぬの。ファビオ」

「で、何が聞きたいのですか? 韻竜(・・)さん」

 不意打ちとはこの事じゃな。これとはカトレアと居る時に、別荘の廊下で一度すれ違っただけのはずじゃが……。

「良く吾の事を知っておったな。その秘密を知るのは、ドリュアス家でもごく一部のはずじゃが……」

「ソース(情報源)は秘密です」

 ファビオが意地悪な表情で、人差し指を口に当て秘密のポーズをする。(こんな時に主のマネをされてもな)しかしそのポーズはすぐに崩れ、ファビオの表情が苦笑へと変わったのじゃ。

「……と言いたいところですが、後でギルバート様()にソースは報告しておきます。まあ『迂闊な御兄弟がいると大変ですね』と、言う事で……」

 この様子では、吾が主とカトレアに対して二重契約している事も知られとるな。ディーネかアナスタシアか分からぬが、主のお仕置きフルコース決定じゃな。御愁傷さまじゃ。!! 待て、そのような話題をこの様な場所で……。

「聞き耳防止用のマジックアイテムを作動済みです。更に言えば、あなたの正体も漏れないように細工済みです」

 吾の表情を読み取って、先回りして答えられてしまったのじゃ。こいつ本当に優秀じゃな。この若さでとても信じられぬのじゃ。

「で、私に何を聞きたいのですか?」

 見事な先制パンチをもらってしまったのじゃ。本当にこの男が敵でなくて良かったのじゃ。

「王都の様子がおかしいのは何故じゃ?」

 ファビオは一瞬眉を顰めたが、すぐに元の表情に戻ると口を開いた。

「塩の事はご存知ですか?」

「ああ。『塩爆弾大作戦』じゃろう」

「いえ。今は『オペレーション・ソルトボム』と言ってあげてください。アズロック様の“不名誉”を、これ以上喧伝する事も無いでしょう。マギ商会の新人の発案ですが……」

 再び苦笑いを浮かべるファビオじゃが、流石に“不名誉”とハッキリ言うのはどうかと思うぞ。まあ、あのネーミングセンスでは仕方が無いが。

「で、その『オペレーション・ソルトボム』が如何したのじゃ?」

 特に変わってない様な気がするのはスルーじゃな。

「はい。この作戦が信じられない位きれいに成功しました。……そう。上手く行きすぎと言う位に」

「それは今回の作戦に巻き込まれて、塩の取引で大量の破産者を出したと言う事か? ああ、だから犯罪者が増えて……」

 吾は合点が行って1人で納得するが、ファビオは首を横に振った。

「いえ、確かに無関係な者の被害は出ましたが、当初の予想と比べると圧倒的に少ないのです」

「如何言う事じゃ?」

 吾は思わず首をひねってしまった。

「原因は欲に駆られた馬鹿貴族達が、儲けを独占しようとした事です。巻き込まれた者達は、情報操作により一晩で資金を用意しました。しかし借金をしようにも、借りる相手の方も最低限の塩を確保する為に資金を欲していたのです。これにより自然と手持ちの資金を軍資金にするしかなくなりました。これに拍車をかけたのが、馬鹿貴族達が傘下の商会を使い以前から金策をしていた事です。これにより馬鹿貴族達に資金が集中しました。更に、自分達が仕組んだ事から『塩の値段が下がる事は無い』という油断が重なりました」

「つまり、被害は馬鹿貴族達とその傘下に集中したと……」

「はい。よほどのドジを踏んでいなければ、大きな損をする事は無かったはずです」

 言い切るファビオじゃが、それがトリスタニアの様子がおかしい事とどうつながるのじゃろう?

「ここからが本題です。馬鹿貴族達やその傘下の商会は、かなり不味い所からも資金を用立てて居た様なのです」

(うわぁーーーー。出来れば聞きたくないのじゃ)

「あなたもギルバート様から“ロマリアンマフィア”と言うのを、聞いた事があるではないですか? 神官の特権を利用し、奴隷や麻薬で儲けている蛆虫共ですよ」

 やっぱり聞きたくなかったのじゃ。テーブルに突っ伏しそうになるのを、吾は必死に堪えたのじゃ。

「まあ、後の流れは簡単です。ロマリアンマフィアが資金回収に乗り出し、馬鹿貴族達から金をむしり取り傘下の商会を乗っ取ったのです。おかげさまでロマリアンマフィアの活動が、過去に例が無いほど活発化しています。クルデンホルフやマギ商会で、流通関係に先手を打てたので麻薬大量流入の報告は上がっていませんが、奴隷確保の人攫いが最近スラムで多発しています。国王が事態収拾に動いていますが、神官の特権を盾にされて下手に踏み込めず……」

「状況は最悪じゃな。しかしそこまで強引な手を打つものなのか? 時を置かずに尻尾を掴まれるじゃろう」

 吾が率直に言うと、ファビオの眉間にしわが寄ったのじゃ。

「これはあくまで私の予想ですが、ロマリアンマフィアは短期間で資金を回収し撤退します」

 ファビオの眉間のしわが更に深くなり、顔色も怒りで赤みを帯びてきおった。

「ロマリアンマフィアの撤退に合わせ、教皇辺りがトリステイン訪問を行うでしょうね。そしてある程度のパフォーマンスをして、ロマリアの威光によりトリステイン王国の治安が回復したと……。要するに小遣い稼ぎと、ロマリアの威光を見せつけるデモンストレーションですよ」

「……なっ!!」

 吾は開いた口が塞がらなかった。話には聞いておったが、神官とは何処まで腐っておるのじゃ。

「あくまで私の予想です。しかしロマリアの威光が強まれば、神官の特権を盾にするロマリアンマフィアも動きやすくなるのは間違いありません。まあ、少なくともトリステイン王国の治安が、これから更に悪くなる事は目に見えています。それをどうにかする為に、トリスタニアまで来たのですが……」

 ファビオはそこまで語ると、ため息を吐き黙ってしまった。恐らく調査の方が、上手く行ってないのじゃろうな。

 吾も今のファビオの発言を検証してみるが辻褄は合うのじゃ。それ以外で考えられるとしたら、高位貴族を抱き込んで大事にならない様にしているか、ロマリアの威光により絶対発覚しないと思っておるかじゃ。前者は王が動き出した事から考えられぬ。後者はいくらなんでも、そこまで無能じゃなかろう。……いかん。ファビオの話が正しく思えて来たのじゃ。

 どちらにしても、トリスタニアには長居しない方が良いじゃろう。ただでさえ吾は、オッサン(精霊)を抱えているのじゃ。これ以上の面倒事は断固として、ご免こうむるのじゃ。

「情報は感謝するのじゃ。今日はここに宿をとり、明日朝一でトリスタニアを立つ事にする」

 吾はファビオに軽く頭を下げ席を立つと、空腹を感じオッサン(精霊)の居るテーブルに行き食事を始めたのじゃ。主の情報通り、魅惑の妖精亭の食事は物凄く美味かったのじゃ。しかし、会計の時に度肝を抜かれる羽目になったのじゃ。31エキュー12スゥ6ドニエ。かなり高い料理も頼んでいたので、1エキューを超える可能性は十分に考えていた。じゃが31エキューって何じゃ? ……原因はオッサン(精霊)が頼んだヴィンテージワイン(お値段30エキュー)じゃった。本当にこのオッサン(精霊)は油断ならんのじゃ。



 昨日はブルドンネ街のみを散策(治安が悪くなっているので、メインストリートから外れるのは怖い)し、夜はオッサン(精霊)とO☆HA☆NA☆SHIしてトリスタニアからの撤退を了承させるのに苦労したのじゃ。その甲斐あって、朝食が済んだらラ・ヴァリエール領へ移動する事になっておるのじゃ。

「はぁ~。とりあえず厄介事は回避するに限るのじゃ」

 吾は面倒事を回避できた安心感から、油断しておった。顔を洗う為の水を取りに来た井戸の前で、人の気配に気付けなかったのじゃ。

「スリープ・クラウド《眠りの雲》」

 背後からスリープ・クラウド《眠りの雲》をまともに食らってしまったのじゃ。何とか抵抗(レジスト)しようと試みるも、緊張を解き緩み切っていた吾は眠りへと落ちてしまった。



 目が覚めると、そこは檻の中で周りは荷が積まれた広い倉庫じゃった。檻の中には少女が7人ほど囚われておった。服装から察するに、スラムからさらわれて来た者達じゃろう。すぐ近くには数人ほど少年が入れられた檻もある。

「目が覚めたのね」

 同じ檻に入れられた少女の一人が、話しかけてくる。

「私はブリジット。身なりは良いみたいだけど……。あなた貴族なの? お忍びとか?」

 吾の服を見てそう言ってくる。吾の服は元々カトレアの服じゃからな……。

 ブリジットの年はファビオより少し下の15から16くらいか? 金髪青目で薄汚れた格好をしておるが、体はやや細目じゃが目鼻立ちは整っておる方じゃ。

「吾は貴族ではないぞ」

「嘘言わないで。こっちはスラムで何年も暮らしているの。平民はそんな仕立ての良い服は着れないし、まだ新しいから古着でもないでしょう。商人等の裕福な平民なら、もっとそれっぽい服を着るでしょう」

(洞察力はあるな。スラムと言う環境故か? しかし……)

 ブリジットの目には、どこか必死さがうかがえた。まるで吾が貴族でなければならぬような雰囲気じゃ。じゃが嘘を吐く意味は無いな。

「嘘は言っておらぬ」

「誤魔化さないで。黒髪の貴族なら、ドリュアス家の人間でしょう? なら、あの《岩雨》と《乱風》が、助けに来てくれるのでしょう?」

 ブリジットから懇願の様な物が伝わってきたのじゃ。(……そういう事か)得心が行き流石に哀れに思えて来たのじゃ。

「吾は貴族ではない……」

 吾がそう言うと、ブリジットの顔が絶望に染まる。

「じゃが、ドリュアス家の縁者と言うのは正解じゃ。助けは来るし、来なければ吾が何とかしよう」

 吾は迷いなくそう言い切った。……言ってから不味い事に気付いたのじゃ。これで吾の正体を晒せば、ドリュアス家の縁者に韻竜が居るとばれてしまうのじゃ。吾は内心で「しまった」と思ったが、この娘は吾をドリュアス家の縁者と思い込んでおった。いや、正確には思い込もうとしていた……か。ここで吾が否定しても、助かればブリジットはドリュアス家の名前を出すかもしれぬ。なら認めた上で、口止めした方が確実じゃろう。

 まあ、どの道言ってしまった物は仕方が無いのじゃ。たとえ相手にスクウェアメイジが居ても、精霊魔法のカウンター《反射》で十分に対応できる。わざわざ《変化》の魔法を解く必要はないのじゃ。幸いこの場は風が通っているので、風の下級精霊がおるから戦力には困らん。

「そう。やっぱりね。私達は助かるわ!!」

 ブリジットの言葉に、囚われた少女達が喜びの声を上げる。しかし全員に共通して言えるが、吾の言葉を真の意味で希望と受け取った者は居ないと言う事じゃ。相手が神官の威光を盾にする犯罪者組織(ロマリアンマフィア)である以上、たとえドリュアス家であっても簡単に手を出せる物ではない。それ以前に吾の言葉が“この場に居る者に希望を与える嘘”と、思っている者も居る様じゃ。その証拠に喜び笑顔を見せておるが、目に希望を得た者特有の輝きが無い。

(少し腹立たしいの。我の言葉に説得力は無しか? 今に見ておれ……)

 とりあえず自力で脱出するとして、杖無しで魔法を使ったとなると騒ぎになりかねない。何か杖の代わりになる物は、……都合良くあるわけないか。そう思い周りを見回すと、倉庫自体はかなり大きく目に見える範囲に窓や覗けそうな隙間は無いし出入り口は貨物搬入口だけじゃ。じゃが風が流れている事から、奥側に窓や出入り口等の空気の通り道があるはずじゃ。

 檻の中と言うのもあるが、搬入口の鉄格子の扉が閉められて居るので、精霊魔法を使わなければ脱出は不可能な状況じゃな。大声を出し助けを呼べればとも思うが、この感じでは聞き耳防止用のマジックアイテムを使っているな。搬入口から覗いたくらいでは、荷物に邪魔されてこちらを視認する事はまず不可能じゃ。

 現在位置は精霊達に頼んで把握(はあく)可能。時間は腹のすき具合と日の傾きから、スリープクラウドを食らってから1時間と少しと言った所か……。現在位置と時間から見て、連れ去られてここに入れられ、そう時を置かず目覚めたな。

 ……さて、どうしたものか。

 まあ、いざとなれば如何とでもなるか。それより気になるのは、オッサン(精霊)が如何しているかじゃ。吾が居ぬ間に騒ぎを起こしていなければ良いが。

(……はてしなく不安じゃ。早く脱出せねば)

 オッサン(精霊)には、風の精霊に伝言を頼む事にしたのじゃ。現在地と状況に加え「絶対に騒ぎを起こすな」と伝える。……が、どう考えても無駄なんじゃろうな。うぅ……鬱になってきたのじゃ。

 風の精霊にお願いして周りの状況を調べてもらっていると、倉庫の奥に居室兼事務所の様な物があると分かったのじゃ。そこで数人の男が、一人の男に食って掛かっておったのじゃ。

 食って掛かる男達は、ギュアギャア五月蠅いが簡単に言うと「約束通り女奴隷1人を俺達に提供しろ」と言っておる。どうやら男達は、奴隷を確保する為に雇われた人攫いの様じゃ。それに対応する男は「黒髪の女は高値すぎて駄目だ」と答える。ディテクト・マジック《探知》で吾が未通な事を知り、高値で売る為に吾を未通のままにしておきたいのじゃろう。こちらの男は、ロマリアンマフィアの“トリステイン支部長”と言った所か。檻の前に見張りが居ない理由は、この言い争が原因じゃな。

 しかも言い争いの原因は“誰が吾の身を汚すか”……か。

 ……これで馬鹿共の処遇は決まったな。それと同時に、作戦の方向性も決まったのじゃ。方向性さえ決まれば作戦を考えるのも楽じゃ。

 先ず木の棚を崩し破壊する。適当な木片を取り寄せ、杖の形に加工する。後は風のメイジを装って、馬鹿共(ロマリアンマフィア)を徹底的に殲滅する。大雑把な作戦じゃが、1人も逃がす心算はないのじゃ。この作戦を確実に成功させるには、一時とは言えこの場の精霊と“契約”が必要じゃろう。“契約”さえしておけば、長い呪文を省略出来るし、もし吾がドジを踏んだ時に風の精霊がフォローしてくれるはずじゃ。

 そう思った吾は、周りの人間に悟られぬよう注意しながら、この場に居る精霊達に“契約”をお願いする。

 ……しかし帰って来た返答は拒否じゃった。

「馬鹿な!!」

 つい口から声が漏れてしまい、周りから注目を浴びてしまったが、吾にそれを気にする余裕は無い。

 先程まで精霊達は吾のお願いを聞いてくれたのじゃ。これは吾が対価(まりょく)を支払い、精霊が労働(まほう)する小さな“契約”じゃ。それが出来なくなったと言う事は、場の精霊が他の者と“契約”もしくは“上位の精霊の支配下にある”事を意味する。そしてそんな事が出来るのは……。

 ドッカァーーーーン!!

 派手な音と共に、倉庫の石壁を突き破って何者かが入って来たのじゃ。それは大柄スキンヘッドでムキムキの暑苦しいオッサン(大きな刺青付き)じゃった。その左腕に金髪の青年を抱えておった。

 オッサン(精霊)とファビオは何をやっておるのじゃ!! と、心の中で突っ込みを入れてしまったのは仕方がなかろう。

 ……この状況に檻の中の人間は、完全にフリーズ状態になったのじゃ。馬鹿共も異変に駆け付けたは良いが、あまりの事態に(主に心が)対応出来ていない様じゃ。(今ならその気持ちは良く分かるのじゃ)

 オッサン(精霊)は吾の姿を確認すると、ファビオを後ろにポイッと投げ捨ててサイドチェストのポージングを決める。と同時にオッサンの後ろから、落下音と「へぶぅ」と言う悲鳴が聞こえたのじゃ。……ファビオは大丈夫じゃろうか? と言うか、突っ込みどころが多すぎじゃ!!

「悪漢共!! 我が正義の鉄槌をくれてやろう!!」

 ポージングを決めながら、オッサン(精霊)が決め台詞?を吐く。そこでわれに返った馬鹿共が、一斉(いっせい)にオッサン(精霊)に攻撃を開始したのじゃ。そして、そこからの展開は早かったのじゃ。自称火のトライアングル(おそらく事実)やら自称風のスクウェア(間違いなく嘘。おそらくラインクラス)を含め、その場にいた馬鹿共を全て殴り倒したのじゃ。……それもHAHAHAHAと、アメコミのヒーローの様に笑いながら。

 相手からすれば、この状況は恐怖を感じずには居られなかったじゃろう。見た目だけでも怖いのに、攻撃がトライアングルクラスの魔法も含め全て跳ね返されたのじゃから。しかも逃げられぬ様に風で陣を敷き、逃げ出した馬鹿は強制的に走る方向を変えられ、何時の間にかオッサン(精霊)に向かって走っているのじゃ。最後の方は顔や股間からあらゆる物を垂れ流し、許しを乞うていたのじゃ。

 本来なら主の様に「ザマーミロ」と言うのじゃろうが、凄惨過ぎてちょっとコメント出来ぬのじゃ。

 戦闘“?”終了後に吾は檻から解放され自由の身となったのじゃ。そして吾は、現実を認識出来ずに呆けているブリジット達を連れて倉庫から逃げ出し、適当な所で戻って来ると、ファビオが興奮しながら居室兼事務所の資料を漁っておったのじゃ。ちなみにオッサン(精霊)は、誰も見て居ないのにポージングを繰り返しておった。

 ……何じゃろう? このカオスな状況。

 ファビオが興奮しながら主の父を呼びに行き、オッサン(精霊)と一緒に魔法衛士隊が引き取りに来るまで馬鹿共の見張りをさせられてのじゃ。待っている間にオッサン(精霊)が、ポージングを決める度に感想を聞いて来たのじゃ。お願いじゃから止めてほしい。切実に。

 そして一番困ったのが事情聴取を求められた事じゃ。当然オッサン(精霊)が、まともな受け答えが出来るはずが無いのじゃ。更に言えば、ばらしてはならぬ事も平気で喋りそうじゃ。その場は興奮状態であることを理由に逃げて、後日主の父にオッサンが精霊である事を話して事情聴取を免除してもらったのじゃ。その際証拠として、オッサンの口から1サント位の木の精霊(分霊)が飛び出したのは、吾も度肝を抜かれたのじゃ。当然、主の体=オッサンと言う事実は隠したのじゃ。……主の名誉の為に。

 安心したのも束の間で、トリステインでオッサンの存在が噂になってしまった。噂の元はブリジット達じゃな。

 王都トリスタニアに居づらくなった吾等は、ファビオに誘われてゲルマニアの首都であるヴィンドボナに行く事になったのじゃ。と言うか、ファビオがオッサン(精霊)を誘って、吾が拒否権を発動する前に行き先が決定していたのじゃ。

 ヴィンドボナに着いてからは、今までと別の意味で大変じゃった。やたら吾が声をかけられ、最悪の場合オッサン(精霊)との決闘騒ぎにまで発展する。そんな時はオッサン(精霊)の代わりに、吾が決闘を受ける羽目になるのじゃ。……オッサン(精霊)では、精霊魔法(先住魔法)と看破される様な魔法を使いかねないので、これは仕方が無い処置なのじゃ。

 そしてオッサン(精霊)に飲み物を買って、戻ってくるとそこには吾を韻竜ではなくティアと呼ぶオッサンの姿が……。

---- SIDE ティア END ----



 ティアが話し終わると、私は頭を抱えてしまいました。

「で、ファビオは如何したのですか?」

 頭は痛いですが、聞く事は聞いておかなければなりません。

「ファビオはアルブレヒト3世に面会した後、調整があると言って一足先にドリュアス領に帰ったぞ」

 ティアの話だけでは、不明瞭な部分が多すぎます。これはファビオにも話を聞かなければなりませんね。それに、このままヴィンドボナに居たら、ティアに目をつけた男達と決闘騒ぎになるかもしれませんね。もしその相手がゲルマニアの有力貴族だった場合は、面倒事になりかねません。早く自領に帰るにこした事はありません。

 ……何だかんだ言って、自分の家でゆっくり休みたいだけですが。

「ティア。明日朝一でドリュアス領へ戻りましょう。……精霊達は如何するのですか?」

 私はあえて声に出し、精霊達に肉体の操作権を渡します。

「本来の魂が戻って来たのだ。ここで我等が居座ったのでは、肉体に余計な負担をかける。よって吾等は分霊を解き去る事にする。……韻竜よ世話になったな。興味深い時を過ごさせてもらった。次もよろしく頼む」

 精霊がそう言葉を発すると、私の中から力が霧散するのを感じました。その事にホッとしていると、突然ティアが私の両肩をガシッ掴んで来ました。

「断固拒否するのじゃ」

 なんか……ティアの口から怨念のこもった声が漏れました。(い いつものティアじゃない)

 そして次の日、全速力で家に帰らせていただきました。絡まれ防止の為に、ティアには猫になってもらいヴィンドボナを脱出。全速力で近くの森へ移動し、風竜に《変化》してもらいドリュアス領まで不休で飛んでくれました。

 急いでくれるのは助かるのですが、そこまで急ぐ事は無いのではないでしょうか? そう思い聞いてみると……。「カトレアと早く再会したくないのか?」と、逆に聞かれてしまいました。しかしその時ティアが、僅かに目をそらしたのに気付きました。……レンを通してカトレアから何か言われたのでしょうか? まあ、気にしても仕方が無いですね。

 別荘に到着すると、出迎えのカトレアに無言で抱きつかれました。

「如何したのですか?」

「もうオッサンにはならないで」

 心配して声をかけると、なんかとんでもないお願いをされました。残念ながら30年……いや20年もすれば、どう足掻いてもオッサンの仲間入りです。私はこの事実に苦笑いしか出来ませんでしたが、カトレアは私の態度を誤解して受け取った様です。突然泣き出し「ギルの馬鹿!!」と、叫びながら元気に走って行ってしまいました。と言うか、私の心を読めなかったという事は、相当テンパッていた様ですね。

 しかしこの事実だけ見ると、私がカトレアを泣かせたみたいです。(いや、実際そうなんだけど)出迎えに来たディーネやアナスタシアに使用人達は、私に対して非難の視線を向けてきます。ティアに見捨てられましたが、この場に父上と母上が居ない事を神に感謝したいくらいです。もし母上がこの場に居たら、絶対にエア・ハンマー《風槌》で吹っ飛ばされています。

 この後誤解を解くのに、多大な労力を割く羽目になりました。また、ティアとレンがやたらと纏わりついて来るので、誤解を解く労力が倍増したと付け加えておきます。



 そして、ファビオを呼び出して話を聞けるようになったのは、帰還してから3日もの時間が経過していました。(勘弁してほしいです)

「ファビオ。少し話を聞かせてもらいたいのですが……」

「ロマリアンマフィアの件ですね。王家に提出する報告書の原案を持ってきました」

 はい。私の欲しい情報が即出て来ました。渡された資料をパラパラとめくって目を通していきます。

「神官とマフィアに貴族派の繋がりを示す証拠が結構出ているみたいですね」

「はい。しかし一部の神官との繋がりを示す物ばかりで、ロマリア自体を追い詰める様な物は残念ながら……」

 ファビオが顔を悔しそうに歪める。仕方が無いとは言え、ファビオのロマリア嫌いも筋金入りですね。こっちとしては、あまり事を荒立てたくないのですが。

「いえ。トリステインの治安が確保されただけで十分です。陛下が魔法衛士隊を効果的に使ってくれたおかげで、神官はともかくマフィアの捕縛は順調なのでしょう?」

「はい。そちらは問題ありません。ただ……」

「? ただ?」

 言い辛そうにするファビオに、嫌な予感が止まりません。

「トリスタニアではスキンヘッドの大柄ムキムキ男が、ヒーロー扱いと言うか……都市伝説と言うか……」

 吐血するかと思いました。それの正体が肉体だけとは言え、自分である事は絶対に墓の中に持って行きます。それを知るティアとカトレアは、オッサンがトラウマになっている様なので、そこから漏れる心配はありません。ファビオ達は正体が精霊であることしか知らないので、感づかれない事を祈るしかありません。

「……そ それより、アルブレヒト3世と面会したそうですが何故ですか?」

 明らかに話題をそらす私に、ファビオは黙って応じてくれました。

「今回のオペレーション・ソルトボムで、ドリュアス家とマギ商会は多方面から恨みを買っています。当然その中には怒らせたくない相手も居ます。その筆頭がアルブレヒト3世です。……ここまでは良いですか?」

 今回の一件に巻き込まれた者の中で、一番怒らせたくないのは確かにアルブレヒト3世です。納得した私は頷きました。

「ゲルマニアは始祖の血統ではない事で、他国に軽視される傾向があります。それに拍車をかけているのが、始祖至上主義を(うた)うロマリアの威光です。よって潜在的にゲルマニアは、反ロマリアの傾向があります。そんな国にロマリア神官の悪事の証拠を、手土産にしたらどうなると思いますか?」

 そう言われて私は、もう一度資料に目を落としました。確かにゲルマニアどころか、ハルケギニア中で不正を行う神官の証拠もありますし、その神官と繋がっている貴族の名前も分かっています。資料によれば、ゲルマニアにも少なくない被害を出していますが……。

「しかしこの程度の手土産で、アルブレヒト3世が納得してくれるとは思えませんが……」

「私も最初は恨みを軽減するのが精々と考えていました。アズロック様も恨みを解消する為の取っ掛かり程度に考えていた様です。しかし今回奪取した証拠資料の中に、この状況を覆す物があったのです」

 そこでいったん切って、笑顔を見せるファビオに私は眉を顰めました。

「ゲルマニアの塩取引を牛耳っていたのは、貴族派の筆頭だったのです」

 しかし私は、まだ納得出来ませんでした。敵の敵は味方と言いますが、それが当てはまるとは思えません。特に今回は見ようによっては、獲物を横取りしたように見えるかもしれません。現に塩の利益を吹き飛ばしている訳ですし。

「貴族派は塩の市場を破壊した責任で、塩鉱を召し上げられる理由を作ってしまいました。ここまでなら回避のしようもありましたが、塩取引にまで手を出して散財してしまったのです。こうなると塩鉱どころではありません。アルブレヒト3世は、苦もなく塩鉱を召し上げる事に成功したのです。これにより塩の値段を、格段に下げる事に成功しました。更に貴族派はかなりの額の横領をしていたので、国内のみ見れば国の収入は増えています」

 私はファビオの言に頷く。横領も発覚したと言う事は、かかわった貴族派は領地も召し上げた上に極刑ですね。

「問題の国家間の塩取引についてですが、現状を踏まえてアズロック様はトリステイン市場からゲルマニアの岩塩を追い出すのを避ける心算の様です。岩塩の価格が下がっているので、価格で海水塩は岩塩に勝つ事は出来ません。そこで海水塩は平民でも手の届く高級塩として、市場に流す事にした様です」

 ここで塩の輸入を禁止しないと言う事は、ゲルマニアだけが得をしてしまいます。ご機嫌取りにしてはやりすぎです。何か裏がありますね。

「その見返りとして、この証拠を大々的に公表するのを引き受けてもらいました♪」

「はぁ?」

 ファビオが凄く良い笑顔で言ってくれました。フリーズし掛けた頭に鞭打って、その理由を分析します。

「えっと……、ドリュアス家がロマリアに目をつけられない為の処置ですね。それにトリステインも一国では、ロマリアに目をつけられる様な事は避けたいと言う事ですか?」

 もっと言わせてもらえば、ゲルマニアが中心になって、ガリア・アルビオンも巻き込んで反ロマリア感情を煽ってもらおうと言う事です。これでロマリアの威光を失墜させ、ハルケギニアで孤立させてしまおうと言う腹ですね。

「はい♪ 正解です♪」

 容赦ない……と言うか、えげつないですね。物凄く上機嫌なファビオを見て、絶対コイツの発案だなと思ったのは秘密です。



 ファビオとの話も終わって、この件に関してはノータッチで行こうと決めました。巻き込まれたくないですし。それよりも私には、片づけなければならない事があるのです。ディル=リフィーナから持ち帰った物を……ではなく、カトレアの事です。

 ……一応、性魔術も習得して来ましたし。

 リタ達に性魔術を教えてくれと言ったら、タコ殴りにされたのは良い思い出です。何でだろう……、思い出したら目から汗が出てきましたよ。その後理由を説明したら、一応納得してくれましたが暫く白い目で見られました。

 しかもリタに「理論は教えてあげられるけど、習得は相手がいなければ不可能よ」と言われた時の絶望感は、かつて経験した事が無い物でした。如何にもならないと思っていたら、レンが「吾ならカトレアも納得するぞ」と言って来たので、何故?と聞くとカトレアとある協定を結んだそうです。その言葉を信じて唇のみで練習しました。(……カトレアの嫉妬が怖いし)

 当然ですがティアと同じで、レンも物凄い美人なのです。見た目12歳と言うのを差し引いても、理性がガリガリ削られます。最初は性魔術を指導する人が居たので、問題なく耐える事が出来ましたが、居なくなった後が大変でした。「私はロリコンじゃない」「カトレア怖い」を心の合言葉にして、何とか堪え切りました。いったい何度レンを、押し倒すかベッドに引きずりこむ誘惑に駆られ事か……。しかも1年しないうちに、レンから色々とおねだりして来るようになったのです。次第におねだりの手も込んできて、終いには周りの女性陣を味方につけられました。「いい加減抱いてあげたら」とか言われても、本気でカトレア怖いんだもん。

 それを6年も耐えた私を褒めて欲しいです。(と言っても、性魔術の熟練度上昇と共に性欲や性感をコントロール出来るようになっていなければ、とうにレンで筆おろし済みですが……)

 カトレアの状況ですが、拗ねられました。オッサンの誤解はすぐに解けたのですが、毎日レンと唇を交わしていた事が原因です。苦労して聞き出したのですが、相手がレンだった事自体は怒っていない様です。と言うか、精気の無い目で私を見ながら「他の人だったり、それ以上していたら……」と言われた時は、背筋が凍るかと思いました。

 で、結局何が気に入らなかったかと言うと、私とカトレアはまだ一度も唇を重ねていなかった事です。本来なら少しの文句と我儘で済む話らしいのですが、私とレンが唇を交わしていたのは性魔術の練習。……つまりカトレアを助ける為の行動だったので、気持ちの持って行き場を無くしてしまったのが原因です。それでも最初は流すつもりだったそうですが、一度拗ねて引っ込みがつかなくなったみたいですね。

 更に、拗ねたカトレアが可愛くて構ってしまった私もダメですし、構ってくれるので3日も拗ねっ放しになってしまったカトレアもダメダメです。物凄いダメップルぶりを発揮してしまいました。その光景にティアが「傍から見てると砂糖吐きそうじゃ」と言って居ました。ごめんなさい。



 そして、いよいよカトレアを治療する時が来ました。

 カトレアの強い要望で、最初は普通にして2回目に治療を行う事にしました。カトレアの体の事を考えるなら、最初の1回で治療してしまうのがベストなのですが、初めてが治療行為ではあまりにも悲しすぎると言う事で私も同意しました。

「カトレア。準備は良いですか?」

 私がそう聞くと、カトレアの体が跳ねて「えっ えーと、体は入念に洗ったし……下着は……」と、独り言を言うようにブツブツと確認しています。結構テンパッているみたいですね。

「ウン ダイジョウブ」

 全然大丈夫じゃなさそうです。本当にこんな状態のカトレアとしてしまって良いのでしょうか?

 私はガチガチになっているカトレアを、ベッドの上に座らせます。

「はい。先ずは深呼吸しましょう」

 深く3回深呼吸させると、カトレアの状態は多少マシになりました。続けて正面から抱きしめて、背中を優しく撫でます。暫くそうしていると、カトレアも私を抱きしめ返して来ました。私は一度ギュっと抱きしめると、体を放しカトレアと正面から見つめ合います。

 まだ硬さが取り切れないカトレアに、私はつい吹いてしまいました。

「な 何が可笑しいのよ!!」

 怒るカトレアに、私は笑いながら言い返します。

「少し前のカトレアなら、押し倒されていたなと思いまして……」

 カトレアは大いに不満の表情を浮かべましたが、言い返してくる事はありませんでした。そしてカトレアの頬に手を伸ばすと、軽く撫でます。極度の緊張や恐怖感が無い事を確認すると、私はカトレアと唇を重ねました。唇と唇が触れるだけのキスです。

 唇を放すと、先程怒りにより霧散した硬さがカトレアに戻っていました。私は構わず同様のキスを何回か繰り返します。するとなれて来たのか、カトレアの体から余計な力が抜け硬さが取れてきました。次第にキスの時間を長くして行き、頃合いを見てカトレアの唇を軽く舐めます。カトレアの体が驚きでビクッと跳ねましたが、拒絶する事無く私の唇を舐め返してきました。やがて互いの舌が触れ絡める様になると、私達は互いの背中や首に手をまわし(むさぼ)り合う様に互いの唇を求めました。

 暫くそうしていると、6年間の修行の成果があまり良くない形で出てしまいました。無意識にカトレアの病状を読み取ってしまったのです。正直無粋な事をしてしまったと思いましたが、やってしまったものは仕方がありません。幸いカトレアはキスに夢中で、心を読む力も発動していない様です。

 ここは気付かれる前に集中した方が良いと判断し、行為に没頭しようとした所でふと気付いてしまいました。カトレアの治療は最後までしなくとも、キスによる性魔術だけで十分に完治可能であると分かってしまったのです。

 この事実に私の中に迷いが生まれました。婚前交渉は本来不味い事ですし、なによりセックスそれ自体が体力を激しく消耗するのです。不慣れなら尚更ですし、まして私達はお互いこれが初めてなのです。体力の消耗を考えれば、本来なら病気のカトレアとは絶対にしてはいけない事なのです。

「ん……チュッ クチュッ……チュッ」

 キスに夢中なカトレアには悪いですが、私はこのまま治療を強行する事にしました。

 カトレアの背中と首にまわした手を引っ込め、キスを止めるとカトレアの口から「あぁ」と、名残惜しそうな声が漏れました。私はそのままベッドにカトレアを押し倒すと、期待と不安の目を無視しカトレアの頬に両手を添えてもう一度キスをします。しかし今回のキスは、愛情を表現するキスではなくあくまで治療です。抵抗出来ない様にカトレアの体に覆いかぶさり、頬に添えた両手はそのまま頭を固定します。

 そして互いの口を通して、私の魔力をカトレアの中に叩きこみました。それと同時に、私の体を跳ね上げようとするカトレアを無理やり押さえつけます。

「むぐっ!! むうっ!! んん……んくっ!!」

 カトレアは私を押し退けようと手に力を込めますが、性魔術の快感で碌に力が入らないのでどんなに必死になっても無駄です。

「んんんっ!! んぐぅ……んくぅ!! んっ……むぐぅ!!」

 やがてカトレアの抵抗も、私の胸をドンッドンッと叩いたのを最後に止みました。腕はくてっと放り出されて、カトレアの喉がコクンッと音を立てたのが分かりました。

「んーーーーっ!!」

 カトレアの全身から完全に力が抜けました。どうやら気絶した様です。それとほぼ同時に治療の方も完了しました。それとカトレアから取り出した病巣が、私の口の中で結晶化した様です。

「ぺっ!!」

 吐き出すと、それは長さ4サント位の青い楕円体のクリスタルの様な物でした。

「これで完治祝いに何か作ってあげるか」

 そう言いながらカトレアの方を向くと……。

「あっ!! ……これはちょっと不味いかも」

 そこには、詳しく描写すると「18歳未満は禁止です」と、言われてしまう様な惨状のカトレアが居ました。未だ気絶したままですが、目を覚ましたら如何なるのでしょうか? 完治を喜ぶ? それとも、私の行った事に怒る? 後者だった場合は、地獄を見る事になります。忘れがちですが、カトレアはあの《烈風》の娘でありルイズの姉なのです。

 私が如何しようか迷っている内に、カトレアは目を覚まし起き上がります。私はこの時、攻撃されたり泣かれたりする事まで想定していました。

 しかし目を覚ましたカトレアは、黙って身だしなみを整え始めたのです。

「あの、カトレア……」

「お願い。今は放っておいて」

 複雑な表情を見せるカトレアに、私はただ頷く事しか出来ませんでした。






 学院の事もあるので、公爵達にカトレアの完治を手紙で知らせました。

 驚いた事に手紙を出して2日で、ヴァリエール家全員が別荘に揃いました。これは驚異的な事です。梟便(フクロウビン)(伝書梟を飛ばす事)で送ったので、距離を考えると手紙が届くのに1日~1日半かかります。手紙を受け取って直ぐに出発しないと、ここまで早く集まれません。まさかとは思いますが、仕事ほっぽり出して来た訳ではありませんよね。

 学院入学の話をしたら、入学の準備をすると言ってカトレアはカリーヌ様に連れ去られました。物凄く良い笑顔でした。カトレアと買い物に行けるのが、よほど嬉しかったのでしょう。

 ヴァリエール家の対応の速さに、カトレアと仲直りをする機会を逸してしまいました。 
 

 
後書き
連投その2 
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