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万華鏡

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第六十八話 秋深しその三

「それを読んでるの」
「それ昔アニメであったわよね」
「そうよ、アニメの方はDVDで観て面白かったから」
 だからだというのだ。
「今原作読んでるの」
「成程ね」
「私は小公子よ」
「私はトム=ソーヤーの冒険よ」
 景子と彩夏もそれぞれ読んでいる本を言ってきた。
「面白いわよ」
「それもかなりね」
「何かな、足長おじさんってな」
 美優はこの作品を読んでいた、読みながら琴乃に言うのだった。
「いいよな、読んでると病み付きになるよ」
「皆外国の作品ね」
「別にいいんじゃない?面白かったら」
 景子はその小公子を読みつつ琴乃に言葉を返す。
「それならね」
「そうね、じゃあ」
「アーサー王にするの?それともワーグナー?」
「ちょっとどっちも持って来てね」
 そのうえでだとだ、琴乃は里香の問いに返す。
「ちょっと見て決めるわ」
「そうなのね」
「それじゃあ」
「ええ、じゃあね」
 琴乃は四人に応えてだった、まずは太宰や芥川の本を全て元の場所に返した。そのうえでアーサー王やワーグナーの本を持って来てだった。
 ちらっと読んだ、そのうえでこう里香に言った。
「ああ、どれもいいわね」
「面白いでしょ」
「特にね。私好みみたいなのは」
「どの作品なの?」
「トリスタンとイゾルデかしら」
 この作品かというのだ。
「ワーグナーのね」
「あっ、その作品ね」
「何か二人の恋愛ものだけれど」
「独特なのよ、その作品って」
 里香ははっきりとした顔で琴乃にこう話した、トリスタンとイゾルデという作品のことを。
「死が救済っていうね」
「死んで終わりじゃないのね」
「死によって成就される愛なのよ」
「死んでなの」
「そうなの、トリスタンとイゾルデがね」
「心中じゃないわよね」
「心中ものじゃないわ」
 里香はこのことははっきりと否定した。
「詳しいことは読んでみればわかるわ」
「わかったわ、じゃあトリスタンとイゾルデにするわね」
「ええ、ただ意外ね」
「意外って?」
「琴乃ちゃんがトリスタンとイゾルデを選んだことよ」
 このことがだというのだ。
「そのことがね」
「どうして意外なの?そのことが」
「だってそのお話確かに騎士が主人公だけれど」
 トリスタンが主人公の一人だ、アーサー王の物語にも出て来る寡黙で剣の腕が立つ円卓の騎士の一人である。
「そのお話恋愛ものよ」
「私恋愛ものも好きだから」
「あっ、そうなの」
「意外だった?」
「ええ、琴乃ちゃん恋愛ものも好きなのね」
「そうよ、純愛ものとかね」
 琴乃はここでこの嗜好も話したのだった。
「好きよ。ハーレーロマンスとかもね」
「そうなのね、それじゃあね」
「トリスタンとイゾルデ読んでもいいわよね」
「そもそもどんな本読んでも悪くないから」
 この時点でだった。 
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