仮面ライダーディザード ~女子高生は竜の魔法使い~
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Epic13 仰天!?先生もアームズチェンジ!!?
調査隊がエーテルに戻ったその日の夕方、報告を受けた理事長のサヤカはエリカや片桐の活躍に目を細め、片桐には連れ帰ってきたバーナーベクターから情報を聞き出すべく事情聴取をする様指示し、また丹沢もサヤカの指示の元、片桐や丹沢が仕留め鹵獲した三体のベクターノイドを調査機関と開発機関に回し修理やパーツの調査開発を開始していた。
そして五日後の木曜日、午前10時25分…エリカは美術室で胸像の素描をしていた。
エリカとセシリアが快調に鉛筆を走らせる中、すでにヘルヘイムの森の事が世間一般に知れ渡ったのだろう…クラスの同級生がエリカに土曜日の件で話しかける。
「エリカちゃん、土曜日はエーテルの人達と調査に行ったとかで大変だったらしいね。」
「そうですね…まぁ確かに大変と言えば大変でしたが、それなりに成果はありましたね。」
「じゃあ、向こうにエリカちゃんのイマジネーションに合った画題とかはあったの?」
「えぇ、不思議な植物とか驚く様な風景とかあって、変化に富んでました。まさに異世界とはこの事なのかも知れませんね。」
同級生の質問に、エリカは鉛筆を動かしながらにこやかに答える。
同級生には語っていなかったが…今思えば、あの日程不思議な出来事が数多く起こった事はないだろう。
ヘルヘイムの森に入ってゆくところから始まり、森の力により全員の魔力が大幅に向上した事実、リングの破壊と再生を経て強化されたディザードリング、そしてきわめつけがロックシードと二つのリングにより手に入れた新しい力、トリニティ・アームズ…。
ヘルヘイムでの戦いの後、西条邸に戻ったエリカは中庭で夕暮れの空を仰ぎながら一人思う。ロックシードはともかく、ヘルヘイムの森は私や魔導士達の手で何とかするべきではないのか、と。
そう、ただでさえ大量の魔力を絶え間なく放出するヘルヘイムの森をホムンクルスやベクターノイド達が狙わない訳がなく、人間側でも心ない魔導士が己自身の野望のために森の力を悪用する危険性もある…それを考えると、やはり油断はできない。
もっと気を引き締めてかからねば…あの時、エリカは三つのリングとロックシードを手に、心の中で固く誓っていたのであった。
閑話休題、エリカは相変わらずのタッチの良さと柔らかな筆感で胸像の素描をサラリと仕上げ、セシリアもエリカの後に続いて素描を描き終え担任に提出した。
しかし、今ここにいる担任はいつもの小林先生ではなく…副担任の初瀬 満先生なのである。
ちなみに彼女の容姿は、焦げ茶のロングヘアーに細いマスク、穏やかな赤い瞳ににこやかな笑顔、それに顔に見合った細身のスタイルを持つ学園一の美人さんだ。
「先生、出来上がりました。」
「はい、確かに…それにしてもエリカさんは本当に丁寧な仕事ですね。」
「あ、ありがとうございます。ところで先生、小林先生は見つかりました?」
「えぇ、それが…まだ見つからなくて。」
初瀬先生はエリカの絵を高く評価した反面、小林先生の話になると複雑な表情をして戸惑っていた。
では、肝心の小林先生は一体どこへ行ってしまったのか?…実は、彼は今現在行方不明なのである。
他の先生の話によると、四日前に小林先生は教師達の会合に参加し、居酒屋で午前3時まで飲んでいたと言う。
そして小林先生が「では、私はここで」と言って店を出て以降、翌日から誰も彼を見ていないのだ。
もちろん初瀬先生も他の先生と共に小林先生の自宅を訪ねたが、チャイムを押しても出る気配が全くなく、庭に回っても誰もいない。
それ以来、芸術科の生徒達や初瀬先生は小林先生が無事に帰ってくる事を祈り、ひたすら待っていたのである。
が、実は行方不明で困っているのは芸術科だけではなかった。
その日の放課後、エリカとセシリアが帰宅しようとしていた時に一人の教師がエリカに声をかけてきた。
「おーい天王寺、探してたぞー。」
「え?わ、私ですか?」
「そりゃそうだ、この学校で天王寺と言ったらお前しかいないじゃないか!」
「え…えっと…あの…。」
「頼む、天王寺!大事な話なんだ!!…ん?どうした。先生の顔をそんなににらみつけて。」
「佐藤先生、アップで迫るの…やめてもらえますか?エリカちゃんが完全に引いてますが。」
「え?…あ、ごめんごめん。」
エリカ達に声をかけた教師…佐藤 鎧は自分が興奮して迫っているのに気づかず、セシリアから言われてようやく気づいた。
ちなみに佐藤先生は癖の強いパンチパーマにごついマスクと細い目つき、頑丈な体つきに圧倒的なオーラを放つ、城北学園普通科の野球部監督である。
そう、普通科の野球部でもマネージャーの一人である遠藤 智美が行方不明になっており、彼も顔に似合わず心配そうな顔でマネージャーの帰りを待っていたのである。
行方不明になったのは、丁度ディザードがデスザードと初めて激突した日であり、この日彼女は野球部が練習しているグラウンドとは別に、部室で部費の工面に悩んでいたのである。
この学園の野球部は、実力はあるものの部費に恵まれていない上にやたらと出費が多く、遠征の費用や備品の調達、更には負傷した部員の治療費、その他etc…これらをマネージャーの遠藤が少ない部費をやりくりして何とか持たせていたのである。
それを考えている時に彼女は消えたらしく、
部員が練習を終え部室に戻ったところ、机の上にノートとペンを残して姿をくらましていたのだ。
そのため、やはり野球部員達も芸術科同様遠藤が無事に帰ってくる事を祈り、ひたすら待っていたのである。
では何故、初瀬先生と佐藤先生は『最初からエリカに頼まなかった』のか?
実は二人共エリカに頼んで探してもらってはいた…だがしかし、エリカの懸命の捜査にもかかわらず二人に関する手がかりが全くない上に証拠も見つからず、先生達も知恵を出してエリカと共に八方手を尽くしたものの、結局空振りに終わったのである。
しかしエリカや皆もいまだにあきらめておらず、二人の安否を気づかいながら現在も探していたのだが。
「で、先生…私に用とは?」
「あぁ、そうだったな。実は、小林先生が裏山から見つかったんだ!!」
「「∑先生が裏山に!!?」」
何と言う事だろう、あれほどエリカが探しても見つからなかった小林先生が、いとも簡単に見つかってしまうとは。
しかも佐藤先生の話によると、帰宅しようとしていた女子生徒達が裏山を使って近道しようとしたところ、上空に長さ3m程の謎の亀裂が光を放ちながら発生して、そこから小林先生が真っ逆さまに落下し、犬○家状態で地面にめり込んだと言う。
先生が?何故裏山に…しかも亀裂から!?
エリカとセシリアは嫌な予感を覚えつつ、すぐに佐藤先生と共に学校の裏山へと急行した。
三人が裏山に着くと、すでに薬箱を持って現場に来た保健の佐々木 章子先生と先生を発見した女子生徒達が小林先生の治療に当たっており、しかも普段なら魔法使いか超能力者以外には見えるはずのない亀裂まで、はっきりと…しかも目の前に堂々と現れていたのである。
「先生、大丈夫ですか!?」
「おぉ、エリカ君か!…私ならご覧の通り大丈夫だ。いやそれよりも、エリカ君。私はものすごい体験をしたのだが…。」
「ものすごい体験?」
「エリカさん、話は後です。まずは先生を手当てして保健室に運ばなくては。」
「え、あ、はい。…先生、話はまた後で聞きます。」
エリカとセシリアは佐々木先生と共に手当てを手伝い、改めて小林先生を黙視で調べ始めた。
全身がズタボロで、すり傷やら打撲やらが目立つ先生の手をふと見ると…何と、ロックシードと紺碧色をした謎の箱が握られているではないか!
ロックシード自体は以前エリカが丹沢からもらったのと同じ果実が描かれており、しかも箱にはコア・ユニットと同じ形のくぼみが中央に設けられ、左側に小型ながらもしっかりとした造りの黄金に輝くサーベルまでついていた。
これは一体どう言う事なのか?…エリカは小林先生に更に話を聞こうとしたが、小林先生の具合を考えて今は聞くのをやめ、小林先生の治療を手早く済ませると叔母のサヤカに伝えるべくスマホを取り出し連絡を入れた。
実はサヤカも、今回小林先生がいなくなった件について何かありそうだと感じており、エリカには先生を見つけ次第その様子を報告してくれと頼んでいたのである。
「もしもし、おばあちゃんですか?エリカです。」
『おぉ、エリカか。一体どうしたのじゃ。』
「実は行方不明だった小林先生が学校の裏山から見つかったのですが。」
『おぉ、見つかったのか!で、どうだった?』
「実は町の北にある亀裂と同じ亀裂が裏山の上空から現れて、そこから落下して戻って来たのです…しかもロックシードと紺碧色の箱まで手にしてました。」
『な、何じゃと?!あの亀裂が学校の裏山に!?しかもロックシードまで持っておるのか!!』
「はい、それに亀裂は私とセシリアちゃん以外の人にも見えていたのです。おばあちゃんの感は当たりましたね。」
『魔力や超能力がない人にも見えたじゃと?…むぅ、やはりわしの予感は的中したか。しかし、あの亀裂は本当に摩訶不思議じゃのう。』
話を聞いたサヤカは、最初は驚きを隠せず席を立って絶叫しかけたが、すぐに冷静さを取り戻しコホンとせき払いをすると、今後は先生や裏山の亀裂にも注意して様子を見てくれとエリカに頼み、エリカも快く了解し連絡を終えた。
少しして、小林先生は佐々木先生と女子生徒の肩を借り保健室へと直行し、現場に残ったエリカとセシリアは上空にまだ残っている亀裂を丹念に調べた。
亀裂は上空3mから発生しており、そこからは以前エリカや片桐達にも力を与えていた魔力が、まるで夏にそよぐ風の様にそよそよと流れていた。
「それにしても、何故先生が裏山から現れたのでしょうか?しかも手にしていたロックシードは私が持っているロックシードに似ていましたし…。」
「…エリカちゃん、それにあの亀裂から流れている力…何だかすごいね。ほんの少し受けただけで、力がわいてくるよ。」
「えぇ、以前調査中に現れたベクターノイドを圧倒する事ができたのも、この森から流れた魔力のおかげですから、まぁ…ありがたいと言えばありがたいのですが。」
「うん、エリカちゃんの気持ち…よくわかるよ。この力、絶対悪い人達には渡したくないね。」
「そうですね。…後は先生の回復を待って、ヘルヘイムの森の事やロックシードの事とか聞ければ、話は進むのですが。」
セシリアはエリカの気持ちを汲み取りこれ以上言うをやめ、エリカはと言えば…やはりロックシードの事が気になるのか自分が持っているロックシードを手にし、亀裂を見上げていた。
確かに考えてみれば、ヘルヘイムの森に通じている亀裂は魔導士や超能力者でしか見る事は出来ない上に、小林先生は魔導士でもなければ超能力者でもない。
それに、エリカ達調査隊がいた間に見つからなかったロックシードまで先生は手にしており、ついでにエーテルやエリカも知らない紺碧色の箱まで持っていた。
何が一体どうなっているのか…エリカはヘルヘイムの森の不思議さに首をかしげ、またしても現れた謎に戸惑っていた。
その頃、城東町にある廃墟の内に、一人の女子生徒が闇の中で一人…まるで幽霊の様にたたずんでいた。
肩まであるショートヘアーにやや幼さを残す顔つきと赤い瞳、そして年相応の体型を待つこちらの女子生徒。
そう…彼女こそ、もう一人の行方不明者である野球部マネージャーの遠藤 智美なのだが。
何故行方不明の彼女がここにいるのか?…実は彼女こそ、あのディザードと互角の勝負を繰り広げた、デスザードの変身者なのだ…否、無理やり変身者にさせられた、と言うべきだろうか。
では、何故彼女がデスザードの変身者にさせられたのか?
そう、それはディザードとの戦いが始まる数時間前…ゼロことカラミティドラゴンは、城北学園の野球部部室で一人部費について苦悩していた遠藤に近づいていたのである。
どうしても竜の魔法使いを倒し過去の雪辱を晴らしたいゼロは、魔導士でなくとも魔力が高い一般人を探し憑依した後肉体を完全支配、自らが作り上げたリングの力を使って竜の魔法使いを打倒、そして再び地上を混乱に導こうと考えていた。
うまくすれば憑依した相手を人質にし、それを盾に世界を混乱に導けるのだから、効率的には割に合うはずだ。
「…やはり来週の試合は、止めさせた方がいいのかも。このままじゃ完全に赤字で廃部になりかねないわ!」
(ふむ…この女の魔力、一般人とは言えかなり高いレベルだ。よし、彼女の体を借りて俺の作ったリングの力を試すとしよう。)
佐藤先生に頼んで試合を中止させないと、部費が持たなくなってくる…遠藤がノートを閉じ、部費の事で話し合おうとして椅子から立ち上がった矢先。
どこからか『女、体を借りるぞ』と言う声がしたかと思うや、急に彼女の視界は暗くなり、更に猛烈な眠気に襲われ…ついに彼女は肉体をゼロに乗っ取られてしまい、その後パワードタイガー達の前に現れディザードと戦ったのだ。
そしてデスザードは死してなお彼を守ったパワードタイガーに助けられ、戦場から離脱し一旦洞窟へと戻り、数日間鋭気を養いつつ次の一手をどうするか考えていたのである。
『思ったよりやる様だな…現在の竜の魔法使いは。さて、次回はどう料理してやろうか。』
ゼロはあれこれと思案を巡らせ、悩み考え抜いた末あるプランを練り上げ、実行に移すべく行動を開始しようとしていた。
今度こそ竜の魔法使いを仕留める、その思いを胸に秘め…。
それから更に数日たった土曜日の午前中、エリカはセシリアと一緒に、野球部の練習をしている学校のグラウンドに来ていた。
何故、野球部と関係ない二人がここにいるのか?実は、初瀬先生から「肉体の動きを素描で表現して下さい」と言う課題を受け、佐藤先生に頼み肉体描写のモチーフを探しに来ていたのである。
当然ながら、彼女達の目的はそれだけではない…遠藤の捜索や裏山の亀裂に関する調査等やるべき事がたくさんあるからだ。
エリカはピッチャーが投球練習しているところを鷹の目で捉えスラスラと素描を始め、セシリアは素振りをしているキャプテンの動きを的確に捉え、やはりスラスラと描き始める。
練習が一段落ついた頃には二人の素描は終わり、選手達が彼女達の素描を見たいと集まってきたので二人は描き上がった素描を部員に見せた。
いずれも躍動感あふれる仕上りになっており、今にも動き出しそうな描写に選手全員やキャプテンも納得のいく表情で彼女達をほめた。
「へぇー…すごいな君達は、特に腕の書き込みが実にリアルだ!」
「本当にキャプテンや先輩達がうらやましいッスよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「エリカちゃん、すごいモテモテぶりだね。いいなー、私なんてみんなからモテた事なんて全くないから。」
「セシリアちゃん、あまり茶化さないで下さい///」
エリカのモテぶりに少しやきもちを焼くセシリアに、エリカはほおを赤らめ照れていた。
午前12時を回った頃、一通りの課題を終えた二人が道具を片付け始め、選手達も休憩のためベンチに入った、その時。
急にエリカが頭上に違和感を感じ、ふと見上げると…今まで感じた事のない濃密な負の力がグラウンド上空に渦巻いているのがわかり、二人は息を飲んだ。
「ん?この妖気は…。」
「エリカちゃん、あれ!」
そして、次の瞬間。
ヒュオォォォォォ…と一陣の魔風がグラウンドに吹き、上空から魔法陣が現れるや、一人の少女が魔法陣から現れグラウンドに降りてきた。
その見知った顔に選手達もどよめき、エリカとセシリアも身構える。
そう、遠藤…否、カラミティドラゴンが現れたのである。
「ま、マネージャーじゃないッスか!!今までどこに行ってたんスか。」
「まさか、マネージャーまで魔導士になって帰ってくるとは思わなかった…。」
選手達が遠藤の事を口にする中、エリカはディスクを引き出しドライバーオンリングを右手に装備しゆっくりとした足取りで歩み寄った。
『ドライバーオン・プリーズ!!』
「…エリカちゃん?」
「皆さん、下がってください。あの人は遠藤さんではありません。」
「「「え?」」」
選手達はエリカが何を言っているのかわからずキョトンとしていたが、今までの温和な表情とは違う緊迫した彼女を見て黙らざるを得ず、当然セシリアも彼女を見た途端表情が一気に引き締まり、同じ人物とは思えぬくらいのオーラをかもし出していた。
セシリアは念力で右手から光の鎖を生み出し、エリカはディザードリングを左手に装備し更に歩みを早める。
「あなたは遠藤さんではありませんね?」
「あなたは一体何者?」
「……。」
「答えて下さい!あなたは何者ですか!!」
「ちょっと待ってエリカちゃん、何だか様子がおかしいよ。」
しかし、遠藤は二人の問いに全く答えずニヤリと笑みを浮かべると、無言でドライバーを引き出し左手に装備したデスザードリングをドライバーにふれ、変身した。
『チェンジ!…ふっふっふっ。』
「…ま、まさかあなたは!!」
「あれが、前にエリカちゃんが言ってたデスザード…。」
『…そうだ、俺がデスザードだ。』
そして、カラミティドラゴンが自ら正体を明かすとあざける様な変身音と共に漆黒に近い色の魔法陣が足元に現れ、それが真上に上昇し遠藤の身体を通過、デスザードに姿を変えた。
デスザード並の魔力の持ち主ともなると、ドライバーオンリングを使わなくともドライバーを引き出す事など簡単なのである。
そしてデスザードは手形を右に操作し、右手にすでに装備済みのコネクトリングを手形にふれさせ空間に魔法陣を展開、ティルウィングを取り出しエリカに斬りかかっていった。
『喰らえ!』
「…はっ!」
エリカはティルウィングの太刀筋を読み左に軽くかわし、デスザードの腹部に左からの魔力を込めたミドルキックを喰らわせ間合いを離す。
するとデスザードはバックジャンプしながら空いた左手に魔力を集中させ、投げナイフを生成するやエリカ目がけて数発投げつけた。
エリカは右に左に投げナイフをかわし、左へと跳びながらドライバーを操作した後左手を手形にふれ、即座にディザードに変身した。
「遠藤さんは返させていただきます、デスザード!…変身!」
『…させるか!!』
『ディザード・プリーズ!ディーディー、ディーディーディー!!』
ボワンッ、ボワンッ、ボワンッ!!…ドウゥゥゥゥンッ!!
その間にもデスザードは数発魔力弾をエリカに向けて放ったが、全て防御結界に阻まれ…チッと舌打ちして更にバックしていった。
そして魔法陣がエリカの左側に現れ、それがエリカを通過して現れたのは…なんと『通常の』ディザード。
実はヘルヘイムの森の調査後、事情をエリカから聞いたサヤカはサラに新たな魔法石を託し、ディザードリングを新調してもらったのである。
そして今回は、新しいディザードリングの力を試すためにあえて通常のディザードに変身したのだ。
「イッツ…ショータイム!」
『むっ、現れたな…ディザード!!』
「…私は、あなたみたいな卑怯者を許す訳にはいきません!」
『こしゃくな!ディザード、今日こそ貴様の息の根を止めてくれる!』
「…望むところです。」
いつものポーズを決めたディザードに対し、デスザードはティルウィングの柄を固く握りしめ思い切り振りかざすと、猛ダッシュでディザードに迫り、怒りを込めて斬りかかっていった。
ディザードもあわてる事なくディザードライバーのレバーを操作し、右手のリングをコネクトリングに変更しドライバーの手形にふれ魔法陣を発動、そこからブレイブハートを取り出し弓を引き絞る。
『コネクト・プリーズ!!』
ガッ…ギリギリギリ…。
『新型の武器か、面白い!受けて立つ!!』
「……。」
デスザードが加速をつけて迫る中、ディザードは弓を引き絞ったまま無言で正面を見据え、魔力を矢に集中させる。
がしかし、ディザードが矢を放つ気配はなく動きも全くないのを見て、デスザードはティルウィングの柄から更に魔力を刀身に注ぎ込み、出力を上げて斬りかかっていく。
「エリカちゃん、大丈夫かな…。」
「一体どうなるのだろう?」
「…エリカちゃん。」
野球部員達とセシリアが見守る中、ついにディザードはデスザードを至近距離からとらえ、引き絞った矢を放った。
だがデスザードは至近距離から命中するのを覚悟で突撃し、矢が当たるギリギリを見極め右に回避…矢はデスザードのマスク右側面をかすめながら一直線に飛んでいってしまった。
ヒュンッ!!
「「「わあぁぁぁぁぁ、外したぁ!!?」」」
「…エリカちゃん!」
『ふっ、間抜けめ!どこを狙っている!!』
その一撃が外れた事にデスザードは千載一遇のチャンスを得た思いでティルウィングを構え、見ていた部員達は揃って天に届かんばかりに大絶叫し、セシリアもディザードを援護するため光の鎖を構えてデスザードに立ち向かおうとするが。
「…よし!」
『!?』
ディザードはまるで外したのを計算したかの様に左手のブレイブハートを右上に構え、そのまま振りかぶって左斜めに斬撃を繰り出したのだ。
あまりの唐突な動きにデスザードは反応できず、胸部アーマーに命中してしまい右に吹き飛び、地面に数回バウンドして止まった。
そう、彼女の放った最初の一撃はデスザードの接近や回避を予測してのフェイクであり、ギリギリまで引きつけてから『本当の』一撃を喰らわせたのである。
デスザードはティルウィングを杖に、よろけながら何とか立ち上がりディザードの方を見ると、仮面の下で怒りに顔を歪ませながら拳を握りしめ、先程の一撃がフェイクだと知った。
『…くっ、何て奴だ。まさかこんなフェイント技まで使うとは!ディザードめ…!!』
「どうやらあなたは、フェイントのたぐいには弱いみたいですね。」
『カラミティドラゴン、今最高に魔力が乗っているエリカちゃんに…果たして勝てるかな?』
『うぅむ、さすが竜の魔法使いだな。…しかし勝つのは俺だ!!』
ディザードのフェイント技に野球部員は全く見抜けずあ然とし、セシリアもポカーンとした表情でディザードを見つめていたが、すぐに両手で頬をパンパンと二度叩いて気を引き締め、光の鎖を振り回しながらディザードの援護に向かっていった。
『エリカちゃん、フェイントが成功したとは言え油断しないで!』
「大丈夫、わかっています。」
「エリカちゃん、援護するよ!」
「ありがとう、セシリアちゃん。では、行きます!!」
『ディザードよ、行くぞ!うおぉぉぉぉっ!!』
再び体制を立て直しティルウィングを構えたデスザードは、怒りにも似た咆哮をグラウンドに響かせディザード目がけて走り出し、ディザードもまたブレイブハートを構え、セシリアと共に矢を連射しながら迫ってゆく。
バチィッ、バチィッ!!…ヒュンッ、グワァンッ!!
矢はデスザードに数発命中するが、さすがに装甲の硬さもあってダメージを与えるまでには至らず、後方からセシリアが放った光の鎖もティルウィングに阻まれ命中していない。
ディザードはさらにデスザードとの間合いを詰め、ブレイブハートを右手に握り直し右斜め上から斬撃を繰り出し、デスザードとつばぜり合いをするが…やはりライジング化していない事もあってかデスザードに押され、やむなく斬り合いにもつれ込んだ。
ディザードの左下からの斬撃にデスザードはティルウィングを盾にして防御し、デスザードの真上からの斬撃にディザードはカウンターで左ミドルキックを浴びせ、デスザードを牽制。
さらに怯んだデスザードに向けて右から水平に斬撃を繰り出すディザードに対し、デスザードも左手に魔力を込め防御魔法を発動、双方からバチバチと火花が飛び散り弾き飛ばされる。
「…思ったより固いですね!」
「あの黒い魔法使い、見た目に反してなかなかやるよ。」
『ほぉ、あの超能力者…見る目はある様だな。しかし、誉めても何も出ないぞ!』
「じゃあ、誉めたついでにこの技も見ていってよ!お代はいらないから!!」
『…何?』
ジャラジャラジャラッ!…ガキィッ!!
セシリアはデスザードに自信満々に言い放つと、右手につながっている光の鎖を…何故か自身の影に向かって投げつけ、続いて左手からも光の鎖を生成し、やはり自分の影に投げた。
何をやっている?…デスザードが半分呆れた顔で首をかしげていると、デスザードの影から数本の光の鎖が踊る様に現れ、それらは一気に左手首と両足に絡みつき、そしてデスザードを天高く持ち上げ勢いよく地面に叩きつけた。
「これが私の技、シャドウ・チェーンだよ♪」
『な…うおぉぉぉぉっ!!』
この技に、野球部員達も「おぉーっ」とざわめき、ディザードに至ってはパチパチと拍手してほめていた。
面白くないのはデスザードの方である。完全にバカにされたと思った彼は拳を地面に叩きつけ体でくやしさを表現するが、何を思ったのか仮面の下で不気味に笑うと、ゆったりとした動きで体を起こす。
『ふっふっふっ…あーはっはっはっ!』
「?何がおかしいのです、そんなに笑って。」
「ついに壊れたんじゃないの?」
『いや、これは失礼。マギカドラゴンよ、お前の主と彼女の仲間は確かに強い。だがしかし、それもここまでだ。…出でよ、我が仲間よ!!』
デスザードは右腕を上げ、何やらブツブツとつぶやくと自身の体に魔法陣を発動させ…何と自らをゲートとしてホムンクルスを呼びだしたのだ!
おそらく1対2では不利だと悟ったのか、あるいはこれも彼の計算の内なのか…それは本人のみ知るところだが、とにかくデスザードはディザード達の前でホムンクルスを召喚した。
ムウゥゥゥゥ…ン、ムウゥゥゥゥ…ン。
魔法陣を通過し現れたのは…あまりに規模の大きいホムンクルス。全長15m、幅30m。海洋生物のマンタに似たそれは、左右のひれにガーゴイルを黒く塗った感じの爆弾を抱えており、それが1ダース分ズラッと並んでいる。
しかも胴体部には中型のハッチも設けられてあり、まるで爆撃機の様である。
『どうよ、ディザード。これが俺の切り札…ボンバーマンタだ!!』
「こ、これは…!」
「大きい、大きすぎるよ!」
「「「うーわ、デカっ!!」」」
一同がその巨体に圧倒され言葉を失う中、ボンバーマンタはゆったりとした動きで旋回しデスザードの上空で静止した。
『今までのは、ほんの小手調べ。本番はこれからだ!』
「そのホムンクルスで一体何を…はっ!?」
『ようやく気がついたな。そうだ、ディザード…貴様をボンバーマンタの爆撃で仕留め、ついでにこの町を火の海にするのだ!』
「町を火の海にって…ちょっと…!」
『問答無用!さぁ行けボンバーマンタ、お前の力を見せてやれ!!』
デスザードはティルウィングを高々と掲げ、ボンバーマンタに攻撃の合図を送る。
すると、ボンバーマンタは目の前にいるディザード達目がけてガーゴイル爆弾を投下してきたではないか!
「エリカちゃん、爆弾が!」
「大丈夫よセシリアちゃん、あわてないで。私が爆弾を撃ち落とします!」
ディザードはブレイブハートを上空に構え、落下してくるガーゴイル爆弾を片っ端から連射して撃ち抜いていき、セシリアもエリカをバックアップするため光のバリアで爆弾破壊の援護をした。
一発ずつ正確に狙いを定め矢を引き絞り撃ち落とし、その連鎖で残ったガーゴイル爆弾が誘爆する…それを繰り返し、ガーゴイル爆弾は全て撃ち落とされていき、セシリアも光のバリアで爆風からエリカを守ってゆく。
が、ボンバーマンタはすでに次弾を装填して第二波を投下、絶え間なく攻めてきていた。
「このままだときりがないよ、エリカちゃん!」
「確かにそうですね、あと一人助っ人がいてくれれば心強いのですが…!」
「じゃ、私があの魔法使いと戦うよ。指揮官を攻撃して攻める手を止めさせれば、何とかなれるかも!」
「えぇ、それもそうですね…ではお願いします!」
ディザードはセシリアの提案を受け入れブレイブハートでガーゴイル爆弾を喰い止める一方、セシリアは一旦バリアを解除してデスザードに向けて光の鎖を放ち攻め立ていった。
『いくよ、真っ黒い魔法使いさん!…はあぁぁぁぁぁ!!』
『かかってこい、死に急ぎの超能力者よ!』
セシリアは手始めに左手で錬成した光の鎖を放ち、時間差で右手からも光の鎖を繰り出してガンガンと攻め立て、デスザードもティルウィングで光の鎖を受け流しセシリアに肉薄する。
だがしかし、やはりセシリアとデスザードとの力の差は圧倒的で、セシリアは苦戦を強いられていた。
やむを得ずセシリアは接近戦に持ち込み回し蹴りでデスザードの胴体を蹴りつけたが…当然ながらビクともせず、逆にカウンターで右からのボディーブローを受け吹き飛ばされる始末。
『ボディーがガラ空きだ!くらえ!』
「…ぐぅっ!!」
何とか空中で受け身をとりながら着地したセシリアではあったが、やはり光の鎖だけでは勝負にならず、決定打に欠ける事に地団駄を踏むしかなかった。
丁度その頃、小林先生は自宅のベッドで…いびきをかきながら眠っていた。
謎の亀裂から帰還した小林先生は、翌日園長先生に休暇届けを出し、大事をとって5日程休みをもらっていた。
だいぶ酒も入っているのか部屋の中は酒の空き缶とウィスキーの瓶が散乱しており、彼の体つきがガリガリであるにも関わらず、かなりの酒豪だった事がうかがえる。
んがあぁぁぁぁ…ギリギリギリギリ…。
歯ぎしりを立てて眠り続けている小林先生ではあったが、まだ彼は知らない…卓上にあるロックシードが、あたかも意思があるかの様に動き出した事を。
ロックシードはスウッと空中に浮かぶと、紺碧色の箱を伴い小林先生の周りをクルクルと回り始め、小林先生の真下に亀裂を作り上げ落下させた。
当然ながらロックシードと箱も小林先生の後を追う形で亀裂の中に消え、そして彼は自由落下よろしくとある場所へと落ちていった…。
あれから数分が経過した。セシリアの体に無数の傷ができ、ディザードもガーゴイル爆弾の量の多さに閉口し息を切らし始めている。
ディザードの魔力がいくら高いとは言え、無限ではない。いつかは底も見えてくる。
がしかし、ディザードとセシリアは何とか気力で立ち上がり、変わらず反撃を続けようとしていた。
『ディザードよ、いい加減あきらめろ。ガーゴイル爆弾の犠牲になれば幾分か楽になるぞ!』
「お言葉はありがたいのですが、あいにく私はあきらめが悪い方ですので。」
ディザードはよろけながらデスザードに答えてはいたが、やはり疲労の色は隠しきれず、ハァハァと息をしながら立っているのがやっとの状態である。
そろそろここら辺りで始末してくれるわ…デスザードがティルウィングを握りしめ余裕を見せながら斬りかかろうとした、その時。
ヒュルヒュルヒュルヒュル…ゴガアァァァァァン!!
上空から光の球が現れ円を描いて空間を切りぬくや、その穴から小林先生が逆さまに落下し、ボンバーマンタに命中したのだ!!
「…ふがっ!?」
『ギヤアァァァァァッス!!?』
「「∑小林先生!!?」」
ボンバーマンタは真っ逆さまに落下し、小林先生はまたしても犬○家状態でボンバーマンタにめり込んでいた。
ここまで来れば、すでにとんでもない程の運の悪さである。にも関わらず、小林先生も小林先生で…ボンバーマンタに頭をめり込ませたまま平気で眠っているのはどうかと思うのだが、まぁそれはともかく。
いきなり現れた小林先生にディザードとセシリアはびっくりし、デスザードに至っては目くじらを立てて『そこのボロ雑巾、何やってんだ!!』
と怒鳴り立てる始末。
それから数分間戦闘は中断され、ようやく目を覚ましボンバーマンタから自力で体を引っこ抜いて起き上がった小林先生は、目の前にいたディザードとデスザードを見てやっと事の重大さに気がついた。
「ふぁ~、よく寝た…ん?ここは?まさか、そこにいるのは、セシリア君と…あの青い魔法使いはエリカ君か?」
「え、あ、はい、そうです。」
「ちょっと、小林先生!まだ寝ていたのですか!?パジャマがヨレヨレですよ。」
「ほっとけ!…じゃあ、向かいにいる黒いのがエリカ君の敵か?」
『あぁ、その通りだ、ボロ雑巾!』
「だ、誰がボロ雑巾だ!失礼な!!」
その貧相な体つきからデスザードにボロ雑巾と呼ばれた小林先生は地団太を踏んでくやしがり、デスザードをにらみつけた…貧相な分迫力は全くないが。
「そこの黒いの、今ボロ雑巾と呼んだ事を後悔させてやる!」
『ふん…ボロ雑巾がダメなら、つまようじはどうかな?もっとも、それだとつまようじが気の毒だがな。』
「言わせておけば…!!」
すると小林先生は、空中から飛んで来たロックシードを右手に握りしめ、これも同時に飛んで来た紺碧色の箱…ロックシードライバーを左手でつかみ腰に当てベルトを展開、装着した後ロックシードのスイッチを押し錠前を開けた。
「変身!」
『ベオウルフ!』
音声と共にまた光の球が現れ、円を描いて空間を開けると、真上から古代の虎…サーベルタイガーの毛皮をかぶった凛々しい口ひげの男の頭部が降下してきて、小林先生の真上で止まった。
「「「∑また変なのが空から現れたあぁぁぁぁぁ!!?」」」
「先生、それってまさか…。」
「セシリアちゃん、ひょっとしたら…ひょっとするかも知れませんね。」
一同が驚く中、小林先生は続いてロックシードをロックシードライバーにあるくぼみにセットして錠前をかけ、『ロックオン!』の音声を鳴らす。
エレキギターに似た待機音がグラウンドに響き渡り、そして右横にある小型の黄金のサーベル…ゴルドカッターを押す感じで動かし、ロックシードをカット。
ガォン、ガォン、ガォォン!!
『ベオウルフ・アームズ!英・雄・降・臨!!』
カットされたパーツが開き、本体にサーベルタイガーの横顔が、パーツには骨を組み合わせて作られた大刀のイラストが現れ、そして小林先生の頭にパーツがかぶさった。
すると小林先生の体を焦げ茶色のライドウェアが包み込み、貧相な体つきが一転して細マッチョな体型に早変わり。
さらにアームズ内で先生の顔にマスクが装備され、ヘルメットパーツが上から降りてきて装着後、アームズが4つに分割して展開した。
後頭部は二重スライドして背面パーツとなり、側面のパーツは耳が外を向き肩に装着される事により肩パーツに、そして顔はスライドしたサーベルタイガーの中に隠れる様に収納され二重スライド式で胸部パーツになり、変身は完了した。
マスクは野獣を思わせるクラッシャー部につり上がった赤い複眼を持ち、そしてヘルメットはサーベルタイガーの頭部が兜の様にかぶっていた物となっており、ロックシード・アームズ・ヘルメット共に統一感がある。
胸部のパーツはサーベルタイガーの顔が前方ににらみを利かせ、肩パーツの耳が外を向いている事により左右の敵音や動きにに対応した…まさに獣戦士と呼ぶにふさわしい姿をしていた。
そして右手には柄に全長50cmの太くて頑強な獣の骨を用い、鍔は全長30cmのサーベルタイガーの頭骨が、それを貫く様に伸びる刀身は全長2mの片刃にノコギリ状の歯が峰に埋め込まれた、まさに野趣あふれる大刀「魔骨獣剣フランティング」が握られている。
仮面ライダーベオウルフ・ベオウルフアームズ。
野生を具現化した、圧倒的な威圧感のあるディザードの世界のアーマード・ライダー。
「せ、先生まで…。」
「魔法使いに、なっちゃった…。」
「「「小林先生、すげぇ…。」」」
あまりの衝撃にディザードとセシリアはその場で立ち尽くしてしまい、野球部員もまた息をのみ…デスザードに至っては『また魔導士が増えたか!』と拳を振り回しながら憤り、改めてティルウィングを怒りを込めて握り直し進軍した。
ベオウルフは目の前にいるデスザードに向かい無言でザッザッと足取り重く歩み寄ると、そのままダッシュをかけフランティングを両手に握りながらデスザードに斬りかかろうとしていた。
ブゥンッ、ガキィッ!!
デスザードもティルウィングで受け止めるが、フランティングのあまりのパワーにデスザードの足元がピシピシとひび割れ、体が少しめり込んでしまった。
何とか体勢を立て直そうとするが、フランティングにかかっている重力がデスザードを捉え、身動き一つ取れない。
ベオウルフがこのまま一気に押し通そうとした、その時…エリカとセシリアがベオウルフに声をかけた。
「先生、そこにいるデスザードは行方不明の遠藤さんですよ!」
「このままだと遠藤さんまで巻き込んじゃうよ!」
エリカの言葉に一瞬フランティングの握る手がゆるむ。このを瞬間見逃さなかったデスザードは、力任せにつばぜり合いをし左のニーキックでベオウルフの腹部を突いて間を離した後、再びベオウルフに斬りかかっていった。
右からの斬撃にベオウルフはフランティングの峰で受け止め、デスザードもティルウィングに魔力を乗せて一気に押していこうとするが…まるで岩に刃を突き刺したかの様に動こうとせず、逆にベオウルフから押してゆきパァンと弾かれてしまい、後方に吹き飛ばされた。
今度は左手に魔力を込めてナイフを生成し投げつけたが、ナイフはベオウルフに命中したものの簡単に弾かれ、地面に次々と突き刺さってゆく。
『ちいっ、何という装甲だ!ナイフの刃も刺さらないとは…!!』
そしてベオウルフはフランティングを地面に突き立てるや猛ダッシュをかけ、デスザードに右ニーキックを腹に決めるや左フックと右フックを交互に決め、締めに軽いジャンプからの右エルボーを脳天に落とし、デスザードを地面にはいつくばらせた。
『…がはぅっ!!?』
「…すごい、先生がこんなに強かったなんて思わなかった。」
「私が思うに、先生が使っているアームズの力…それがデスザードの力を上回っているのではないのでしょうか。」
どちらにせよ、私達に心強い仲間が増えました…ベオウルフの性能の高さをまざまざと見せつけられたディザードは、今まで頼りないと思われていた小林先生とロックシードの絶妙な組み合わせに新たな未来を感じていた。
一方デスザードはベオウルフの登場による計算の狂いに一層怒りを感じ、地面に拳を叩きつけて怒り狂った様に負のオーラを立ち上らせた。
…ふざけるな、あんなボロ雑巾ごときに俺が押されているだと?もはや許せぬ!!
しかし、短期は損気。怒りにまかせては何もならないと悟ったデスザードは深呼吸して息を軽く整え、空中にいたボンバーマンタに命令した。
『こうなったら予定変更だ、ボンバーマンタよ…あの三人を超強化爆弾で吹き飛ばせ!』
『オオォォォォォ…ン!』
超強化爆弾…それはベルフェゴールがボンバーマンタに実験的に装備させた試作型特殊爆弾の一種で、これを用いれば数発で小規模施設を簡単に消滅させる威力がある。
当然ながら使用するのは今回が初めてなのだが、もしそれが大量生産され世界各地で使用されたら…おそらく地球は完全に焦熱地獄と化すだろう。
デスザードの命により再び動き出したボンバーマンタに、エリカもブレイブハートを構えて迎撃しようとし、ベオウルフもディザードの近くに陣取り迎撃体制を整えるが、デスザードが右手から放つ魔力のナイフが飛んできたため迎撃に間に合わず、結局ボンバーマンタの爆撃を許す形になってしまった。
「…させません!」
「邪魔するな、ディザード!!」
「きゃっ!…はっ、しまった!!」
「エリカちゃん!!」
「…!」
ドゥンッ、ドゥンッ、ドゥンッ!!
ボンバーマンタから放たれた超強化爆弾の威力はすさまじく…グラウンドに高さ20m程の火柱が上がり、ディザード達付近の地面も吹き飛び、激しい爆風でもはや三人の姿すら全く見えない。
「皆さん、早く退避して下さい!ここは危険です!!」
「わかった!みんな、早く退避を…」
「「きゃあぁぁぁぁぁ!!」」
「「「エリカちゃん!!セシリアちゃん!!」」」
「みんな急いで、ここはエリカちゃんを…竜の魔法使いの力を信じよう!」
「「「おう!!」」」
ディザードの指示に従い野球部員達がキャプテンと共に退避する中、ボンバーマンタの爆撃はさらに続き…グラウンドは焦熱地獄と化した。
ついには爆風が逃げ遅れた野球部員数名にも及んでしまい、その身を焼かれようとしていた。
「「「しまっ…うわあぁぁぁぁぁ!!?」」」
『ふはは、踊れ踊れ!そして貴様らの恐怖から生み出された負の力を、俺に捧げるのだァ!!』
容赦ないボンバーマンタの攻撃に、逃げ遅れた野球部員達の体から負の力が生み出され、それらはボンバーマンタやデスザードに吸収され、力を増してゆく。
『ふっ…もういいだろう、ボンバーマンタ。その辺で爆撃を中止するんだ。』
デスザードの中止命令によりボンバーマンタは爆撃を中断し、立ち上がる土煙を上空からじっくりと見つめる。
果たして…ディザードは変身解除こそまぬがれたものの、右手を差し出した状態で片膝をついてうなだれていた。
セシリアや逃げ遅れた野球部員達も何とか無傷ですんだのだが、エリカの状態を見てオドオドするばかり。
しかしそれでも、デスザードは仮面の下で納得いかない顔をして辺りを見回し、そして腕を組む。
そう、一緒にいたはずのベオウルフの姿が見えないのである。
あの爆風や火柱が起こった状態で、無傷でいられる訳がない…しかしそこにはベオウルフが倒れた形跡はなく、しかも先程の爆撃の時にあった生体反応も途中からパッタリと消えていた。
どうも妙だ…とデスザードが思った瞬間。
ヒュルルルルル…グサッ!
『ギャアァァァァァッ!!』
空中から『何か』が降ってきてボンバーマンタの背部に命中、そのまま地面に落下してもがき苦しみ始めた。
何だ、何があったとデスザードが近寄ると、ボンバーマンタの背中に…フランティングが深々と突きささっていた。
そしてデスザードが上空を見上げると、真上からベオウルフが急降下で突入しライダーキックの体制に入っているではないか!
しかも、魔力を足に込めているのか右足が赤く燃え上がっており、一直線にボンバーマンタをねらっていた。
あのキック…危険すぎる!ディザードは自らの直感で左へと回避し、そしてベオウルフのライダーキックは身動きがとれないボンバーマンタに深々と命中した。
『ギャアァァァァァッ!!』
『ボンバーマンタァァァァァ!!』
ボンバーマンタはライダーキックの直撃を受け爆発し消滅、その爆風で舞い上がっていたフランティングもキリキリと回転しながらベオウルフの右手に収まった。
しかし、何故ベオウルフだけ無傷でいられたのだろうか?
実は超強化爆弾がグラウンドに炸裂した時、爆風で向こうから見えないのを利用して、デスザードに悟られない様にセシリアと逃げ遅れた野球部員達にマジックバリアを幾重にも展開し爆風対策をとる一方で、ボンバーマンタ攻略の策を練っていたのである。
「セシリアちゃん、みなさん!…はあぁぁぁぁぁ!!」
「エリカちゃん、この力は…。」
「「「た、助かった…。」」」
マジックバリア…それはエリカが幼い頃『リングに頼らなくても魔法が使える様にならないと一人前じゃない』と、エリカの両親が彼女に教えた対魔法用特殊防御魔法である。
これは通常の魔法だけでなく、何と実弾まで幅広くはじき返す素晴らしい性能なのだが。
実は耐久時間が非常に短く、その時間は…何とたったの1分。
そのため、長期戦に持ち込まれた時は重ねがけをして耐久度を上げなければならず、かつ結構魔力消費も激しい魔法なのだ。
エリカはセシリアと野球部員達を守りながら、上空にいるボンバーマンタの位置とデスザードの位置を把握し、さらにベオウルフとの位置関係を割り出し策を練っていく。
ディザードの魔力が徐々に落ちてゆき、マジックバリアの耐久度も爆風の影響で弱くなってゆく中、ついに打開策を見出したのかディザードはパチンと指をはじいた。
「…見えました、ボンバーマンタの攻略法が!」
「倒す方法がわかったのね、エリカちゃん!」
セシリアの言葉に力強くうなずいたディザードは右手のリングをドラゴライズリングに変更、レバーを動かして魔法を発動させたのである。
その憑依先は…何と、ブレイブハート。
真上にブレイブハートを投げマギカドラゴンを召喚したエリカは、彼に一つの提案を持ちかけた。
『ドラゴラーイズ・プリーズ!』
『エリカちゃん、僕を呼び出して一体何を?』
「マック、先生を乗せて上空へと上がり、そこから奇襲をかけて下さい。今ならデスザードもこちらに気がついていませんから、ボンバーマンタだけでも倒せるはずです!少し危険な賭けではありますが…。」
『エリカちゃん、確かにこれはちょっと危ない賭けだけど…やってみる価値はありそうだね。』
「お願いします、マック…私の方は大丈夫ですから。」
『…わかった、後は僕にまかせて。でも、無茶はしないでね!』
「…はい!」
エリカの提案にマギカドラゴンは快く了解し、そして近くでフランティングを振り回して爆風を捌いていたベオウルフに『僕に乗って!』と声をかけ、ベオウルフも状況を飲んだのか無言でうなずき背中に乗り込んだ。
そしてマギカドラゴンはステルス能力を発動、そのまま上空へと舞い上がっていった。
そして上空300mまで来るや『ではいきますよ!』と再びベオウルフに声をかけ急降下の体制に入り、ベオウルフも無言でうなずいてゴルドカッターでロックシードを一回カットし、必殺技発動体制に入った。
『ベオウルフ・スカッシュ!!』
そしてベオウルフは鷹の目で背部が隙だらけのボンバーマンタを捉え、それに向かってフランティングを槍投げの要領で投げつけ、マギカドラゴンの首をカタパルトにした超高度からのライダーキック…『ジャイアント・スレイヤー』を時間差で繰り出し、ボンバーマンタを仕留めたのである。
(…まさか、マギカドラゴンを使って上空から奇襲をかけるとは。この女、なかなかの切れ者だな。)
今更ながらディザードの頭の回転に気がついたデスザードは、過去に戦った初代竜の魔法使い…ゴダードを思い出していた。
彼も巧みに地形を使って陽動作戦を展開し、一時はカラミティドラゴンが有利だった状況を、あっという間にくつがえしてしまった。
彼女の頭の切れ…まさに、あの時の再来ではないか!
これ以上この場にいても敗北は目に見えている…デスザードはティルウィングを魔法陣にしまうと、セシリアとベオウルフに背を向け右手のリングをテレポートリングに変更し魔法を使用、その場を去っていった。
『…まぁいい、今回はここで下がるとしよう。だが、これですむと思うな。戦いはこれからだ!』
『テレポート!…ふっふっふっ。』
「あっ、待ちなさい!」
セシリアは逃げるデスザードを追いかけようとしたが、そこはベオウルフが左腕でさえぎり『これ以上追う必要はない』と意志表示した。
これだけ派手に爆撃しておいて何を…とセシリアはベオウルフに訴えたが、ベオウルフはロックシードのカバーを閉じ変身解除、元の小林先生に戻るとセシリアの肩をポンと叩いた。
「セシリア君、まず周りの状況を見なさい。あの魔法使いとは、いずれまた戦う事になるから放っておいても大丈夫でしょう。」
「あ…そうだった、エリカちゃんの事を忘れるところだった。エリカちゃーん!」
デスザードとの戦いは終わり、辺りを見ると…もはや午後からの練習は完全に不可能であった。グラウンドは穴だらけの上、あちこちから黒煙がまだ立ち上っており立ち入る事すらできない。
魔力を全力で出し戦ったディザードも、デスザードが退却した数十秒後に変身が自動解除されそのまま地面に倒れ込み気絶してしまったが、その後マギカドラゴンが回復魔法を発動させ事なきを得た。
「佐藤先生、本当にごめんなさい…。」
「いや、いいんだよ、セシリア君。エリカ君だって遠藤君や、みんなのために全力で戦ってくれたから。むしろセシリア君も、よくがんばってくれた方だよ。」
「…ありがとうございます、佐藤先生!」
また、私用で遅れてきた佐藤先生にもセシリアが状況を説明、最初はマネージャーの遠藤がデスザードだった事に衝撃を受けた佐藤先生であったが、その遠藤を取り返すため懸命に戦ったエリカやセシリアをほめ、逆にセシリアが励まされた。
そして小林先生も、家が学園から近いところにあるためそのまま歩いて帰っていき、野球部員やキャプテンもグラウンドが冷えたのを見て整地を開始、練習はできなかったものの行方不明の遠藤に会えただけでも良しとし、この日は練習を打ち切った。
丁度その頃、異世界ではディザードとの戦いから戻ったデスザードは変身を解除し目の前にいるボンバーマンタ『軍団』に対面していた。
そう、ボンバーマンタは先程の一体だけではなかったのだ。
総勢100体のボンバーマンタで行われる、ゼロの次なる厄災…それは。
『ボンバーマンタ軍団よ、十分鋭気を養っておくんだ。次なる作戦…『東京爆撃作戦』のために!!』
さらに同じ頃、ヘルヘイムの森の奥にある石碑も異変を感じ取ったのか輝きを増し、そこで祈りを捧げていた何者かも石碑の異変を察知するや急に立ち上がり、宙に浮かび上がるとエリカのいる世界を目指して飛び去っていった。
まるで何かを急ぐ様に…。
『早くロックシードを持つ者達に伝えないと…全てが手遅れになる前に!!』
後書き
次回、最終決戦4部作!! Epic14「決戦!東京爆撃作戦!!」
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