つまらないもの
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第五章
第五章
「それじゃあね」
「僕は下らない人間なのかな」
「下らなくて小さいね」
左手を軽く振ってだ。管は言い捨てた。
「一番つまらない生き方だよ」
「そうなんだ」
「じゃあ俺は総理大臣になってこの国を動かすから」
自分の為にだというのだ。あるのはあくまで己のことだった。
「君は君のそのつまらない人生を歩いていくといいよ」
「ううん、そうなるのかな」
連は管の上からの言葉を聞いても首を傾げながらこう言うだけだった。
CDは借りることは借りたが結局一回聴いただけで管に返した。それから管とはあまり話はしなかった。成績優秀でスポーツ万能、しかも容姿端麗な管は高校の中でも目立ち続け周りには人が集まっていた。だが連は彼の考えが本当に正しいのかわからなくだ。彼とは話をしなくなった。
やがて連は京都の大学の医学部に合格し医師を目指した。そして管は東大法学部に入った。連が彼のことを聞いたのはとりあえずここまでだった。
それからはだ。全て彼から離れて聞いた話だ。
警察官僚になりある弁護士の娘を妻に迎え祖父の跡を継いだ。つまり順調に進んでいた。連もだ。医師になり親の跡を継いでいた。
それで故郷で開業医をしていた。平凡に妻を迎え家庭を築いていた。それに対して管はだ。主民党の中で若手のホープと言われていた。
しかしネットではだ。彼の評判は悪かった。
『警察官僚時代から色々な組織と関わりがあったらしいな』
『あのテロ支援国家とつながりがある?』
『拉致被害者の活動を妨害していたってな』
『過激派とパイプがあるか』
『嫁は人権派弁護士の大物の娘だしな』
『市民団体とかテロ支援国家の出先機関から献金受けてるしな』
『女性問題もあるしな』
とにかくだ。ネットでは悪い噂が絶えなかった。しかもだった。
『マスコミじゃ絶対に言われないけれどな』
『あいつはまずいぞ』
『あの政党自体が碌なものじゃないけれどな』
『掲げてる政策もな』
それもだ。問題視されていたのだ。
『外国人参政権に色々な人権弾圧法案な』
『やたら外国人の権利ばかり言うしな』
『サラ金やギャンブルを保護する法案も提唱してるし』
『自衛隊を監視する法案か。政治将校か?』
『どれもこれも無茶苦茶じゃないか』
こう書き込みが続けられる。それをネットで見てだ。
連もだ。首を傾げながら自分の妻に問うのだった。
「ところでさ。地元の管先生だけれど」
「ああ、あの人ね」
管の話が出るとだ。妻、何処にでもいるような平凡な顔立ちの彼女はすぐに嫌そうな顔になった。見合い結婚のだ。サラリーマンの家の娘だ。
「いい話聞かないわね」
「そうなんだ」
「テレビじゃ持て囃されているけれどね」
「地元じゃ違うんだ」
「あまり評判のよくない労働組合や市民団体とばかり話をしていて」
まずはそのつながりから話される。
「それと弁護士ね」
「奥さんの実家の?」
「これがまたなのよ」
どうかというのだ。その弁護士がだ。
「ほら、テロ支援国家と結託してるようなね」
「そうした弁護士と一緒にいるんだ」
「そうよ。過激派との関係も噂されてるし」
「主民党自体がそうした組織との関係を指摘されてる政党だけれど」
「あの人は特にそうみたいなのよ」
灰色どころではない。真っ黒だというのだ。
「テレビじゃ持て囃されてるけれどね」
「テレビ自体もそうした組織に好意的だしね」
そうした意味でだ。テレビは全く信用できないものになっているのだ。テレビも意図的な報道を垂れ流す、警戒しないとならないことである。
「だからだね」
「そうなの。警察官僚だった時も」
その時もだというのだ。
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