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つまらないもの

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第四章


第四章

 その彼の話を出してだ。それでなのだった。
「だから俺は東大法学部から警察官僚になって」
「御爺さんの跡を継いで」
「政治家になるさ。そしてね」
「そして?」
「総理大臣になるんだ」 
 そこまでだ。野心を拡げて話すのだった。
「この国の。総理大臣になるんだ」
「凄いね、それは」
「凄くないさ。俺だったら当然のことだよ」
「当然って」
「何も凄くないさ。俺はそういう人間だから」
「総理大臣になる人間なんだね」
「そうだよ。それで君はどうなんだい?」
 自分のことを話し終えてだ。上から連に問うてきた。
「君はどうするんだい?将来はどうするんだい?」
「家が医者だから」
「それじゃあ家を継いでだね」
「うん、この町の小さな開業医でね」
 よくある話だ。そうした医者も多い。
「それで家を継いで」
「小さいね」
「小さいって?」
「もっと夢を大きく持たないのかい?君は」
「夢って言われても」
「下らないね」
 こうまで言うのだった。言い捨てるものだった。
「君はね。小さいね」
「小さいかな」
「そうだよ。こんな町の開業医で終っていいのかい?」
「僕の家がそうだから」
 連にしては小さいと言われたことは意外だった。彼にしてはそうした考えは全くない。それで面と向かって言われてはだ。そうなるのも当然だった。
 しかし管はだ。その連にまた話すのだった。
「だからさ。その家を大きくしようとかいう気はないのかな」
「町にお医者さんは必要だし」
「じゃあそれでいいんだね。町の開業医のままで」
「うん、別に」
 こうだ。連は自分の考えをありのまま話した。
 しかしそれでもだ。管はその彼の話をだ。嘲笑する様に話し続ける。
「駄目だね。俺はそんな考えは軽蔑するね」
「軽蔑って」
「世の中は結局あれなんだよ。権力なんだよ」
「権力?」
「権力さえあればお金も集って」
 そのだ。見事なオーディオルームの中でデスメタル、見れば壁そのものになっている棚に整然と詰め込まれているCDケースにも囲まれてだ。彼は連に話すのだった。
「それでやりたいことをやれるんじゃないか」
「やりたいことを」
「権力はその為にあるんだよ。やりたいことをやる為にね」
「だから政治家になるんだ」
「東大法学部から警察に入ってね」
 そのことを話すのも忘れない管だった。
「そういうことだよ」
「ううん、何か僕には」
「それがわからないかい?」
「権力とかそういうのは」
 戸惑いながらだ。連は話すのだった。
「実感が湧かないし。お金だって必要なだけあれば」
「お金もまた力だよ」
「好きなものが買えるからだね」
「いい服が買えて車も乗れて美味しい食べ物もあって女の子だって選び放題だよ」
 それが世の中だとだ。話すのだ。
「それでも必要ないっていうのかな」
「ううん、必要なだけあればね」
 必要というだ。その言葉の意味が違っていた。
 連も管もそのことは実感していた。だが歩み寄りはなくだ。管は完全に否定して話すのだった。
「本当に下らないね。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「君は君で。小市民として生きるといいよ」
「小市民なんだね」
「そうだよ。下らない小市民としてね」
 そうして生きろとだ。管は連に告げる。
 
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