戦国異伝
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第百六十話 四人の男達その十
「紀伊一国は手に入りますが」
「では聞くがな」
大谷の言葉を受けてだった、森は彼に問い返した。
「ここで紀伊を放っておいて石山を攻めればどうなるか」
「申し上げるまでもないと思いますが」
その場合はだとだ、大谷はその場合は森もわかっていると見て返した。
「その時は」
「後ろからじゃな」
「はい、攻めてきます」
「当然の様にそうしてくるな」
「ですから」
それでだというのだ。
「ここは石山よりも」
「紀伊を攻めるべきじゃな」
「その時は」
敵が紀伊に逃げた時はだというのだ。
「無論そうされない様にしなければなりませんが」
「紀伊への逃げ道を塞いでか」
「殿にこのこともお伝えするべきかと」
「わかった、ではな」
それではと応えてだった、森はすぐにまた使者を信長のところに送った、そしてそのうえでだった。
彼も自ら槍を手に戦う、攻め寄せる本願寺の者達を次々と退ける。それは加藤や福島達もだ。とりわけその中でも。
島の戦いぶりは相当だった、まさに阿修羅の如く。
本願寺の闇の衣の者達を倒していく、それを見て。
黒田長政は戦いながらも眉を顰めさせてだ、細川忠興にこう言った。
「あれはまさに鬼じゃな」
「うむ、鬼じゃな」
忠興もこう長政に返す。
「とてもな」
「そうじゃな、あれはな」
「鬼じゃ」
それに他ならないというのだ。
「強い、強過ぎるわ」
「何という顔じゃ」
島のその戦う顔も見ての言葉だ。
「恐ろしい顔じゃ」
「ううむ、敵よりもな」
「あ奴の方が恐ろしい」
その戦ぶりもだった、彼は石川の軍勢が攻めてくるがその彼等に鉄砲の一斉射撃を浴びせ続けて突っ込む、そして退きまた鉄砲を撃たせて突っ込むという攻撃を果敢に繰り返し彼等を寄せ付けていない。それも相まってだった。
その彼の戦ぶりも見てだ、長政は言うのだった。
「若し敵であれば」
「恐ろしかったな」
「織田家にいて何よりじゃ」
同じ織田家にいてだというのだ。
「よかったわ」
「全くじゃ」
「敵であれば恐ろしかった」
「味方でも恐ろしいがな」
それでもだというのだ。
「それと共に頼もしい」
「味方であるが故にな」
「だからな」
それでだというのだ。
「ここはな」
「左近も頼りにさせてもらうか」
「そうさせてもらう」
こう言ってだった、二人もまた。
島と共に戦う、彼等はこの日本願寺の大軍と果敢に戦い続けた。それで夕暮れになろうとしていたがここでだった。
森は加藤達にだ、こう言った。
「わかっておるな」
「はい、門徒共はですな」
「この状況でもですな」
「夜になっても来る」
そうしてくるというのだ。
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