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万華鏡

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第六十五話 ハロウィンに向けてその七

「何もないでしょ」
「どっかの百貨店が安売りになる訳でもなし」
「銀行も潰れないしね」
 何処ぞの将軍様そのままのオーナーの発言である。
「むしろ景気が悪くなるって」
「巨人なんかが優勝してもね」
「そうそう、いつも優勝しててね」
「逆に景気が悪くなるのよね、巨人が優勝しても」
「何故かそうなのね」
 巨人が優勝しないと景気が悪くなるというのはノストラダムスの予言を誤訳したものであろうか、そんなことは経済的にも絶対に有り得ないことだ。そんなことで日本の景気がよくなれば誰も苦労なぞしない。妄言と言うべきである。
「V9の時もね」
「最後石油ショックだったし」
「高度成長の時だったし、それまでは」
「バブルの時は西武だったし」
「本当に関係ないからね、巨人の優勝と日本の景気は」
「むしろ観たくないわよ」
 兎の胴上げなぞだ、そもそも巨人が兎を掲げるなぞ兎という動物に失礼なことだ。実に可愛い動物だというのに。
「巨人は最下位でいいのよ」
「負けているとね」
「そうよね、観ていて気分がよくて」
「御飯も美味しいわ」
 逆に元気が出るのだ、巨人が弱いと。
「それに対して阪神はね」
「勝つとフィーバーだからね」
「日本一になったらそれこそ」
「八十五年もだったし」
「星野さん、岡田さんの時だったね」
 まさにだ、その優勝の時からだった。日本の失われた十年は終わったのだ。その後で左翼政権が何故か二十年と吹聴しだしたが。
「優勝してね」
「あの時もフィーバーだったけれどね」
「今回は日本一だからね」
「しかも甲子園での胴上げ」
「盛り上がらない筈がないですね」
「食堂でも」
「そういうことだよ」
 まさにそれでだというのだ、おばちゃんも。それで今は食堂も大出血サービスなのだった。阪神の日本一はそれでの効果がある。
 それでだ、学園のあらゆる場所がフィーバーで。
 部活に行くとだ、部長が阪神帽を被ってもういた。そのうえでこう琴乃達に言うのだった。
「じゃあ今からね」
「はい、ハロウィンのですね」
「ライブのことですね」
「もう手続きとは準備は進んでるからね」
 だからだというのだ。
「後はね」
「はい、後はですね」
「ライブだけですね」
「楽器はその日にそれぞれの持ち場に持って行くから」
 後はそれだけだった、まさに。
「今日は練習よ」
「それですね」
「今日やることは」
「そう、まずはね」
 練習、それがあってこそだというのだ。
「まさか下手な演奏とか歌を聴かせたい訳じゃないでしょ、あんた達も」
「やっぱりそれは」
「演奏するからには」
「それなりのものでありたいですよね」
「どうしても」
 琴乃も含めた一年の面々がこう部長に答える、二年生達も同じ意見だ。
 それでだ、部長も彼女達の言葉を受けてこう言った。
「じゃあいいわね」
「はい、練習ですね」
「今日は」
「練習に制限はないからね」
 部長は微笑んでこうも言った。
「幾らでも。したいだけすればいいのよ」
「だから今日はですね」
「練習ですね」
「そういうことよ、気合入れて練習するわよ」
 ハロウィンライブに向けてだ、こう話してだった。
 軽音楽部の面々はライブに向けて練習を重ねることになった、そのライブはもう間もなくだった。そうして。
 琴乃もだ、練習の中で四人に問うた。
「ねえ、私どうかな」
「琴乃ちゃんのギターね」
「それね」
「うん、いいかしら」
 今一つ自信のない顔での問いだった、表情に出ていた。
「これで」
「ぶっちゃけ言うとさ」
 美優がだ、この前置きから琴乃に答えた。 
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