| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

万華鏡

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十四話 甲子園での胴上げその十三

「次の年に優勝することはね」
「難しいのね」
「そうなのね」
「そう、権藤さんがお話してたことなのよ」
 そうだというのだ。
「だから連続日本一は難しいって」
「そう簡単に出来ないのね」
「どのチームも」
「そう、けれど阪神にはね」
 ここからは里香も切実に願っていることである、勿論琴乃達他の四人も里香と同じだけ願っていることである。
「日本一になってもね」
「来年もね」
「日本一になって欲しいのよね」
「ええ、何があっても」
 例えだ、どんなことが起こってもだというのだ。
「日本一になって欲しいわ」
「だよな、やっぱり」
 里香の切実な言葉を受けてだ、美優も言う。
「阪神はな」
「そうよね、来年もね」
「日本一になって欲しいよ」
 美優も言うのだった、このことを。
「絶対にさ」
「そうよね、本当に」
「来年のことなんて言ったら鬼が笑うけどさ」
 美優はこの言葉も出した。
「それでも気になるよな」
「今の時点でね」
「まあそれでもな」
 どうかとだ、ここで試合に気を戻すと。
 阪神は八回裏にソロアーチで追加点を入れた、これで三点差になった。その三点を観て琴乃はごくりと息を飲んでからこう言った。
「三点、後はこの三点をね」
「そう、守ればね」
「後はね」
「日本一よね」
「絶対にここはな」
 美優もだ、九回を見据えて言った。
「九回はあの人だよな」
「ええ、ストッパーのね」
「あの人の出番よね」
「九回だし」
「だよな、あの人しかいないよ」
 ストッパーの出番だというのだ、尚彼はこのリーグで防御率一点代という驚異的な成績を残してさえいる。
「最後は」
「もうトリはね」
「あの人よね」
「だよな、じゃあ」
 五人はここで固唾を飲んだ、そのうえで九回を待った。その九回表にだ、五人の予想通りに彼が出て来てだった。
 マウンドで肩ならしをする、その顔を見ると。
 打たれる気がしない、それでだった。
 五人もだ、確かな声でこう言えた。
「この回さえ抑えたら」
「三人アウトにしたら」
「それでね」
「もうよね」
「日本一」
 そのフラグをだ、手に入れられるというのだ。
「八十五年以来の」
「優勝かあ」
「日本一ね」
「いよいよ」
「早くね」
 胸の鼓動を何とか抑えてだ、琴乃は言った。
「そうなって欲しいよね」
「そうよね、あと少し」
「アウト三つ」
「あと三つアウトを取るだけ」
「それだけ」
 こう話していく、そうして。
 まずはワンアウト、ここで甲子園の観客がコールをした。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧