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万華鏡

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第六十四話 甲子園での胴上げその八

「今度はね」
「チャンスか」
「ええ、ピンチの後はチャンスありよ」
 そうなるとだ、里香は微笑んで美優だけでなく四人に話した。
「この裏ね」
「阪神の攻撃ね」
「その時に」
「打ってくれると思うわ」
 まさにだ、その時がチャンスだというのだ。
「ここはね」
「よし、それじゃあ」
「この裏は期待ね」
「ピンチの後はチャンスあり」
「それならだよな」
 四人も里香の言葉に確かな笑顔になる、そしてだった。
 五人で試合を観ていく、すると。
 里香の言った通りだった、阪神はロッテを攻ワンアウト満塁となった、そして打席に入ったそのバッターを観てだった。
 景子もだった、固唾を飲んで言った。
「若しもよ」
「うん、若しもだけれど」
「ここで、よね」
「ホームランが出たら」
 まさにだ、それが出たらというのだ。
「もう試合決まりよね」
「シリーズもね」
「ほぼそれでね」
「決まるわよね」
「そこでな」
「八十五年は」
 ここでもあの日本一の時のことが話される。
「第六戦で長崎さんが満塁ホームラン打って決まったのよね」
「あっ、西武球場でね」
 ここでも話す里香だった。
「そうしてくれたから」
「阪神の日本一が決まったのよね」
「そうだったの、元々満塁ホームランはね」
「それ自体がよね」
「出たらシリーズの流れが決まる場合が多いの」
「それだけのものっていうのね」
「二〇〇五年もそうだったじゃない」
 このシーズンのシリーズのことはだ、里香はどうしても暗い顔になった。今行われているシリーズがその雪辱となっているだけに。
「福浦さんが打ったでしょ」
「甲子園の第三試合ね」
「あの時よね」
「そうあの時だってそうだったじゃない」
 阪神は一戦、二戦共惨敗し完全に流れがロッテに傾いていた、そのうえで甲子園で第三戦になったがそこでだった。
 福浦に満塁ホームランを打たれた、これでこの日本シリーズは完全に決まってしまった。ロッテの日本一に。
 シリーズでの満塁ホームランはそれだけの価値がある、それで今ここでそれが出ればだというのだ。
「若しもよ」
「ここで満塁ホームランが出たら」
「それで」
「シリーズの流れが決まる」
「そうなるのね」
「そうなの、だから本当に」
 里香は切実な顔で言うのだった、ここは。
「打って欲しいわ」
「そうよね、ホームランだと最高よね」
 琴乃もこう言う、期待している顔で。
「四点よ、もうそれだけでね」
「勝てるわね」
「その四点で」
「ええ、後ピッチャーが相当崩れないと」
 今シーズンの阪神投手陣ならばだというのだ。 
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