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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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弄ばれた2つの心


「だあああらああああああああっ!ウゼーんだよミリオンフィーバー!」

エウリアレーの銃口から、強烈な貫通弾が連続で発射される。
ズガガガガガガッ!と激しい音を立て、デバイス・アームズを貫いた。
休む間もなく、スバルは方向を変えて構える。

「ウィンドストライク!からのっ・・・マーシーレイン!」

続けて疾風のような弾丸を連続発射、更に雨のように弾丸を降らせた。
凄まじい音を立てて銃弾は直撃し、デバイス・アームズは成すすべなく壊れていく。

「チッ・・・数多すぎだろこりゃあ!」

スバルは思わず眉をしかめた。
彼がここまで苦戦するのには訳がある。
元々スバルは敵と接近して戦うのは苦手であり、もっと言えば、遠距離から一撃放つのが得意なのだ。
だが、今回の場合は敵とそれなりに近づき、1度に連射をしなければならない状況にある。
1回1発では敵の数に間に合わないのだ。

「弱音を吐くなスバル!エラリケーションザンバー!」

淡い紫の光で構成された刃の付いたセルリヒュールを、ヒルダは容赦なく振り回す。
それで4体、続けて3体。

「シュラン!」
「了解致しました!剛腕の蛇(アームズスネーク)!」
「鉄竜槍・鬼薪!」

シュランからの援護を受けたガジルは左腕を鉄の槍へと変え、そのまま連続で突きを繰り出す。
鉄同士がぶつかり合う音を響かせて、デバイス・アームズは砕けていった。

「頼むぞクロス達・・・これでティア助けられませんでしたとかシャレになんねーからな!」

塔の方に目を向けて叫ぶと、スバルはエウリアレーから魔法弾を放った。











「ねー、ルーシィ・・・どこまで行けばいいのかなぁ?」
「解んないわよ、あたしにだって・・・」

セットと化しているルーシィとルーは、階段を上っていた。
もう軽く100段は上っているだろう。

「ていうかこの塔・・・外から見た時は1つだったのに、中に入ったらご丁寧に12コの塔が立ってるのね・・・」

呆れたようにルーシィは呟いた。
そう―――――この塔、見た目は太めな塔が1つだったのだが、中に入ってすぐのフロアには12個の入り口があり、そこから階段を上ると入口のあるフロアから12の塔がある事に気づく。
簡単に言えば、外壁だと思っていた壁は一種のカモフラージュであり、実際にはその中に中央に立つ1つの塔を含めた13の塔があったという事だ。

「ややこしいよねぇ・・・僕、この塔に1人だったら迷子になる自信あるよ」
「そういう自信はいいから。にしてもアルカのお母さん・・・シグリット、だっけ?どこにいるんだろ」
「ルーシィが好きな小説とかだと、ボスっぽいのってどういうトコにいるの?」

ルーに聞かれ、ルーシィは少し考え込む。

「そうね・・・やっぱり、定番は最上階かな。塔じゃなくて屋敷みたいなのだったら隠し扉の奥とか、地下とか」
「うーん・・・隠し扉っぽいのはないけど・・・」
「・・・あのねぇ、隠し扉なんだから見ただけで解る訳ないでしょ」

ルーシィの言葉にルーは辺りをきょろきょろと見回す。
どうやらルーは隠し扉の意味をちゃんと理解していないようだ。

「・・・ん?」

すると、ルーが足を止めた。
スッ、とその顔が真剣みを帯び、垂れた黒目に鋭い光が宿る。
突然足を止めたルーに目を向け、ルーシィも足を止めた。

「?どうしたのよルー、行くわよ?」
「待って、ルーシィ・・・何か聞こえない?」
「え?」

言われて、ルーシィも耳を澄ます。
静寂が姿を現し、小さな・・・意識してもしなくても聞き逃してしまいそうなほどに小さな声が、耳に入る。

「・・・シィ・・・ルーシィ・・・」
「!」

その声は、ルーシィを呼んでいた。
ルーかと思い目を向けるが、ルーは声を聞き逃すまいと口を閉じ、耳に全てを集中させている。
しかも、この声はルーの声ではない。
高い所はルーに似ているが、これは女性の声だ。
そして―――――――

「え・・・?」

ルーシィは、この声を知っている。
幼い頃に何度も聞いた、温かくて優しい声。

「ルーシィ、どうしたの?」
「どうしたのって・・・何が?」

思わず目を見開いたルーシィの顔を、ルーシィより3段下にいるルーが覗き込む。
心配そうな表情のルーは、いつものテンション高めな声ではなく、落ち着いた年相応の青年の声で、呟いた。





「―――――泣いてるよ?」





指摘されて、気づく。
頬に触れると、指先が濡れた。

「あたし・・・泣いてる?」
「うん」

こくり、とルーは素直に頷く。
その瞳が、不安そうに揺れた。

「僕、何かした?」
「何か・・・って、ルーは何もしてないよ!ただ・・・」
「ただ?」

小さく足音を立てて、ルーが1段上がる。
ルーシィが泣いている事に、ルーは不安を覚えているのだ。
自分が泣かせたんじゃないか、と。

「・・・今の声、聞いたでしょ?」
「うん」
「あれ・・・ママの声なの」
「!」

今度はルーが目を見開いた。
ぱちくりと瞬きを繰り返し、ようやく口を開く。

「え?でも、ルーシィのお母さんって・・・」
「・・・7年前に、死んじゃったハズなんだけど・・・」

辛そうに、寂しそうに薄い笑みを浮かべるルーシィを見て、ルーの表情が不安から心配へと塗り替えられる。
もう1段、上がった。
先ほどまで3段あった差が、1段へと短くなる。

「気のせい、だったのかな・・・うん、気のせ―――――――むぐっ」
「探そうよ」
()?」

気のせいだったかも、と言いかけたルーシィの口を左手で塞ぎ、ルーが口を開く。
間が1段となった今、ルーシィの顔を覗き込めるほど2人の背に差はない。
だが、普段なら合うはずのない2人の目が、真っ直ぐに合っている。
いつもなら、ルーシィが小さく見上げるかルーが小さく見下ろすかしなければいけないのに、今はその必要がない。

「聞こえたんでしょ?お母さんの声が。だったら、探そうよ」
ブー(ルー)?」
「確かに僕達はティアを助けに来たけどさ、もう2度と会えない人がここにいる可能性が少しでもあるなら・・・その可能性に賭けようよ」

ルーの目は、真っ直ぐだった。
どこまでも純粋で、どこまでも幼くて―――――どこまでも、真剣で。



「・・・信じようよ、ここにいるって」



自分も突然両親と村の人達を失っているから。
だから、ルーは誰よりも知っている。
突然大好きだった人が死んだ時の辛さや、あの時もっと会話していればという、どうしようもない後悔、自分の弱さに対する怒り。

「僕は賭けたいよ。もし、ここに父さんや母さんがいる可能性があるなら、少しでも会いたいよ」

皮肉にも、息子の9歳の誕生日の前日に命を落とした2人。
皮肉にも、自分の9歳の誕生日に両親の死亡を知ったルー。
話したい事がこの10年で山の様にあって、紹介したい仲間がこの10年で沢山出来て―――――全てを伝えるほどの時間を、神様がくれなかったとしても、会いたいのだ。
ルーにとっては、両親なのだから。

「ルーシィは?お母さんに、会いたくない?」

小さく首を傾げて、ルーが左手を離す。
奥まで見えそうなほどに透き通っていながら、その瞳の奥に映るものは全く見えないルーの黒い目が真っ直ぐにルーシィを見つめる。

「・・・会いたいよ」

その目の前では、嘘なんてつけない気がした。
嘘をついても、全てが見透かされそうな気がした。
だから、という訳ではないけれど、ルーシィは正直に呟く。

「あたしだって、ママに会いたいよ」
「だったら探そうよ。僕も手伝うから、ね?」
「・・・うん」

普段は自分より年下にしか見えないのに。
どう考えたって、頼りがいのたの字もないのに。
―――――ルーシィの考えている事を、ルーは全て見透かす。
そして、太陽の光のように、温かく優しく導いて、最善の策を選択させる。












「この塔・・・結構入り組んでる・・・」

見た目1、中身13の塔の1つにいるジュビアは、辺りをきょろきょろ見回し警戒しながら1歩ずつ慎重に足を進めていた。

「ああ・・・ジュビア、グレイ様と一緒に行動したかった・・・」

何やら本物の5倍はイケメンになっているグレイに手を引かれて2人で敵を倒し、(何故そうなるのかは解らないが)グレイにプロポーズされるという妄想をしながら、ジュビアはうっとりとした表情で階段を上がっていく。
ちなみにこの時、別の塔にいるグレイはくしゃみをしたとか、しなかったとか。

「・・・あら?」

階段を上り終えたジュビアは、ふと足を止める。
そこにはこの塔の雰囲気を見事なまでにぶち壊す看板があった。



【絶賛大人気!グレイ・フルバスターフィギュア!数量限定!】



・・・と、ネオンカラーのペンで書かれていた。
序でに言えば、本物より7倍はイケメンになっているグレイの絵付きで。
これは余談だが、ギルドで売っているグレイのフィギュアはある人が買い占めてレア化しているらしい。

「グレイ様の!?フィギュア!?」

そしてそれに反応するのがジュビアである。
今はそれどころではないのだが、恋は盲目。
友達も大事だがやはり優先順位第1位はグレイであり、ジュビアは吸い込まれるようにその看板の置いてある近くのドアを開けた。

「!」

そして、ジュビアは目を見開く。
その部屋の中央・・・よく顔は見えないが、背格好がグレイに似た青年が立っている。
ふわり、と揺れた髪の色は・・・黒。

「ぐ、ぐぐぐグレイ様っ!?」

思わずどもるジュビア。

(ど、どうしてっ!?グレイ様は別の塔に・・・まさかっ!ジュビアが心配で来てくれた・・・!?きゃああっ!ジュビア嬉しい!)

傍から見ると「何してんだコイツ」としか思えないのだが。
妄想に身を任せ、ジュビアはジタバタと体を震わせる。

「・・・ジュビア」
「はうっ!」

静かに呟かれた自分の名に、ジュビアはドキン!と小さく跳ね上がる。
その声はグレイの声に似ており、よくよく聞けば少し違う気もしなくもないが、絶賛妄想中のジュビアは気づかなかった。

「俺が誰か、解るか?」
「はいっ!グレイ様です!」

満面の笑み。
その言葉を具現化したような笑顔を、ジュビアは浮かべる。

「・・・お前は俺を、どう思ってる?」
「えっ!?」

思わずジュビアは言葉に詰まった。
停止したまま、脳内で言葉がぐるぐる回る。

(そ、それって・・・ジュビア、告白のチャンス!?で、でもでもっ!もしかしたら“仲間”として、なのかもしれないし・・・ううんっ!これは告白の大チャンス!そう、遂にジュビアとグレイ様は相思相愛の恋人同士に!・・・でもっ!告白の準備なんて、ジュビア全くしてない!ああ・・・ジュビアどうしたら~!?)

あああああ・・・と呟きながら頭を抱えるジュビア。
その様子を見たグレイは、ゆっくりと口を開いた。

「一応言っておくが・・・俺が聞きたいのは、仲間としての感情じゃない」
「!」
「俺を・・・男として、どう思っているかが聞きたいんだ」
「っ!」

ドキン!と、ジュビアのハートが大きく鳴り響く。

(準備はしてないけど・・・構わない!今こそグレイ様にジュビアの熱い想いを伝える時!)

ぐっと拳を握りしめ、ジュビアは1人意気込む。
数回深呼吸を繰り返し、ジュビアは口を開いた。

「ジュビア・・・グレイ様が好きなんです!大好きなんです!ずっと一緒にいたいですっ!」

溢れる思いを真っ直ぐに伝える。
そぅっと顔を上げると、グレイが照れくさそうに頬を掻いているのが見えた。
小さく目線が逸らされたのにジュビアが気づいたのと同時に、声が響く。

「ジュビア・・・」
「は、はいっ!」

気のせいか、その声には甘さが含まれている。
頬がゆっくりと赤く染まり、ジュビアの心が期待に揺れた。
そして―――――グレイは、告げる。





「俺もジュビアが好きだ。告白の直後に言うのもどうかと思うが・・・結婚、しよう」





一瞬、ジュビアは自分の耳がおかしくなったのかと思った。
だが、じわじわとその言葉の意味が耳から脳へと伝わり、ジュビアは完全に理解する。

「ジュビア?」

こてり、とグレイが首を傾げる。

(い・・・今っ!グレイ様がっ!ジュビアを好きだって!け・・・けけけ結婚しようって!ジュビア嬉しすぎて倒れそう!ティアさん!助けたら真っ先に教えますっ!)

どうやらティアの事もしっかり覚えていたようだ(当然だが)。
喜びに震えながら、ジュビアはグレイに目を向ける。
表情は解らないが、その周りの雰囲気は優しげだった。

「おいで、ジュビア・・・抱きしめても、いいか?」
「はううっ!」

妄想が現実に!
誰もいなければ飛び跳ねていただろう。
小さく両腕を広げているグレイが、今目の前にいる。
それだけでジュビアの目に映る世界は先ほどまでよりも鮮やかに色付いていく。

「はいっ!ジュビアも抱きしめられたいです!」
「そうか・・・おいで」
「はい!」

スキップするようにジュビアはグレイへと駆けていく。

「グレイ様~!」

あと少し、あと1歩。
そしてジュビアがグレイの胸に飛び込もうとした、瞬間――――――




「・・・え?」




ジュビアの体に、手が突っ込まれた。
誰の?――――――グレイの、だ。
思わず、ジュビアの顔から笑顔が消える。

「グレイ、様?」

不思議そうに首を傾げ――――気づく。
目の前に立つグレイは、確かに黒髪だった。
髪型も似ているし、声も似ているし、背格好も似ている。
だが―――――違う。








「―――――――――――――消えろ」








ジュビアを見つめる、黒い()()()()()()――――――――。

(違う・・・この人は、グレイ様じゃない!)

それに気付き、慌てて離れようとするが、時既に遅し。








ドォォォオオオンッ!!!!








ジュビアの至近距離―――否、ジュビアの水の体の中で。
激しい、爆発音が響いた。














「ママー!」
「ルーシィのお母さーん!」

別の塔では、ルーシィとルーがルーシィの母親を探していた。

「いないなぁ・・・」
「あっ!ルーシィ見て!」

どこを探しても見つからない母親の姿に思わずルーシィは肩を落とす。
すると、ルーがはしゃいだ声でルーシィを呼んだ。

「何?」
「ほらっ!ここ!」

足音を響かせてルーシィがルーの横に並ぶのを確認し、ルーは自分の前にあるそれを指さす。
そこにあるのは――――――ドアノブ。
2人は顔を見合わせる。

「これって・・・!」
「それにねっ!それにねっ!よぉく聴いて!」

満面の笑みでルーは耳を澄ませる。
釣られるようにルーシィも耳を澄ませた。
扉の奥――――――声が、響く。

「ルーシィ・・・ルーシィ・・・」
「!」

その声はまさに、母の声。
幼い頃に何度も聞いた、温かくて優しい、大好きな声・・・。
思わずルーシィは微笑む。
それを見たルーも、安心したように微笑んだ。

「行こう、ルーシィ。お母さんはこの中だよ!」
「うんっ!」

頷いたのを見て、ルーはガチャリとドアノブを捻る。
ルーシィが部屋の中に入り、続いてルーが部屋の中に入った。

「・・・何も無いね」
「無だね」

その部屋には、何もない。
強いて言うなら窓が1つあるだけだ。
他には家具も装飾品も見当たらない。
すると―――――

「ルーシィ」
「!」

声が響いた。
ルーの声ではない、女の声。
温かくて優しい、大好きな母親の声。

「ママ!」
「見てルーシィ!あそこっ!」

ルーが前を指さした。
その指の先をルーシィは追う。
そこにいたのは、金髪の女性だった。
ルーシィによく似た顔立ちで、ドレスを纏い、優しそうに微笑んでいる。

「ママっ!」

そこに佇むのはルーシィの母親―――――レイラ・ハートフィリア。
最後の時と全く変わらないその姿に、ルーシィの目から涙が溢れる。

「ルーシィ・・・」
「ママ!」

優しく微笑む母親が目の前にいる。
その事実を噛みしめながら、ルーシィは駆け出した。
レイラがそれに答えるように、右手を上げ―――――




「っ大空風流(アリエスカレント)!」





突如、ルーが風の流れを操った。

「え?」

思わずルーシィの足が止まる。
風の流れが左へ変わるのを、ルーシィは自分の髪が靡く事で確認した。
刹那。

「!」

空を切るような音が聞こえた。
それと同時に、何かが刺さるような小さな音。

「・・・え?」

嫌な予感がした。
恐る恐る、ルーシィは顔を左へと向ける。
そこには、壁があった。



「ナイフ・・・だね」



――――――ナイフが刺さった、壁が。

「あれ・・・外れちゃったか♪いや、外されちゃったか」

無邪気にそう呟くのは―――――レイラ。
母親の声で紡がれた残酷な言葉に、ルーシィの目が信じられない物を映すかのように見開かれる。
ルーシィを守るように斜め左に立ったルーは、垂れ気味の目に鋭い光を宿した。

「君は誰?・・・ルーシィのお母さんじゃないみたいだけど」

その声色が静かに変わった事に、ルー自身気づいているだろうか。
ゆっくりと、小犬が牙を剥く。

「キャハハハハッ!ようやく気付いたんだ!遅いねー・・・待ちくたびれたよ」

ニィ、と。
レイラの顔が、歪む。
その微笑みは先ほどまでの優しい物ではなく、悪人の顔。
誰かを苦しめる事が楽しくて仕方ないといった様子の、悪を煮詰めて顔に塗ったような表情。

「さーてとっ・・・この体はもう飽きたし、いいや」
「?何を・・・」

ルーが尋ねようとした瞬間、レイラの瞳からハイライトが消える。
がくっと力なくその体が倒れ―――――ふわり、と砂になって消えた。
そのレイラの体から、紫の光が飛び出る。

「何、あれ・・・」
「解んない・・・」

くるくると舞うように飛んだ光は、どこかへと飛んでいく。
その光を無意識のうちに目で追いかけた2人の目に、1人の女性が映った。

「ふー・・・やっぱ自分の体が1番落ち着くね。1番人の苦しみが伝わってくるしっ♪」

ボサボサ髪に、垂れた目。
口元は弧を描き、一見優しそうな人の印象を与える女性。
だが、実際には優しさなどとは無縁の場所にいる。

「コイツ・・・血塗れの欲望(ブラッティデザイア)!?」
「残念!アタシは村を滅ぼしちゃいないさ」
「っ・・・!」

ルーシィの言葉に、女性は肩を竦めて首を横に振る。

「正規ギルドに名乗るってあんまりいい気分じゃないんだけどねー・・・ま、いいか。冥土の土産って事で教えてあげるよ」

先ほどまでレイラがいた場所に、女性が立つ。
口角を上げ、垂れた目に残酷で冷酷な光を湛え、女性は己の名を口にした。

「アタシは災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)のマミー・マン!道化師が人に笑顔を配るなら、アタシ達は人に災厄を撒くのさ」

きらりと瞳を煌めかせ、マミーは告げる。
その表情は心底楽しそうで、何故かルーシィは寒気を覚えた。
その顔は笑顔でありながら笑顔ではなく、冷たそうでありながら冷たそうではない。
表すなら、不気味なのだ。

「・・・ルーシィ、下がってて」
「ルー?」
「ん?」

静かに呟かれたルーの言葉。
それにルーシィは首を傾げ、マミーは笑みを崩さずに小さく舌舐めずりをする。

「気に入らないんだよ・・・お母さんに会えるかもしれないって信じたルーシィの心をズタズタにされたのが・・・」

その表情は、見えない。
俯いているから、その目に何を映しているかも解らない。

「もう1度だけでも会えるかもしれないって思った人の心を弄んだのが・・・」

空気の流れが、変わる。
この場を支配しているのは、風使い。
その感情を表すかのように、空気の流れが荒れる。





「だから――――――――潰す」





ルーの顔が上がる。
だが、ルーシィはその表情を見る事が出来なかった。
見えるのは、後ろ姿だけ。

「・・・ふぅん、攻撃の魔法を苦手とするアンタがアタシと戦うっての?なかなかユニークな展開だねぇ」

マミーは嬉しそうに笑い、髪を耳にかける。

「ま、アタシ的には相手は誰でもいいんだよね。アンタだろーが後ろの金髪女だろーが、ティア嬢だろうが」

真っ直ぐにマミーを睨みつけるルー。
その表情を楽しそうに、嬉しそうに見つめ、マミーは笑った。
残酷に、冷酷に。

「辛そうに泣き喚いて、苦しそうに悶え死んでくれればそれでOKだしっ♪」













「・・・随分と単純な女だったな。あんな簡単な罠にかかるとは」

床に倒れるジュビアに目を向け、青年は呟いた。
当然だが、この青年はグレイではない。
ザイール・フォルガ―――――――災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)の魔導士だ。

「にしても、そんなに似ているのか?俺とグレイという奴は・・・」

何気なく気になった事を呟きながら、ザイールは部屋を出ていこうと足を進める。
倒れるジュビアに再び目を向け、その瞳に僅かに感情を宿し、ドアノブに手を掛け――――





「待ち・・・な、さい・・・」





ジュビアの声に、その手を止めた。
振り返り―――――目を見開く。

「グレイ様のフリをするなんて・・・ジュビアが許すとでも思ってるの・・・?」

ジュビアは、立っていた。
確かに傷は負っているが、何の問題もなく立っている。
だが、ザイールが目を見開いた理由はそこじゃない。

(な、何だ・・・この女・・・先ほどより、魔力が上がって・・・!?)

ごくり、と唾を呑み込む。
思わず1歩下がるが、既に後ろはドア。
これ以上後ろには下がれない。

「許さない・・・ジュビアはあなたを許さない・・・」

呪いの言葉を呟くように、ジュビアは足を進めながら呟き続ける。
後ろに下がれないと察したザイールは、少し表情を歪めて床を蹴った。
ザイールの足元が小さく爆発したと思えば、その爆発の力を利用してザイールはジュビアを軽々超え、ジュビアの後ろに着地する。

「チッ・・・何だ、この女は!」
「許さない・・・」

ゆっくりと、ジュビアが振り返る。
その顔はティアをも戦慄させるんじゃないかと思う程に恐ろしかった。






「ジュビアの乙女心を弄んで・・・グレイ様のフリをするなんて・・・絶対許さないッ!」






ギッ!と。
ジュビアは鋭くザイールを睨みつけた。

(女の相手も嫌だというのに・・・厄介な女の相手をする事になったな・・・)

ザイールは思わずため息をついた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ジュビアとザイールは書いてて楽しかったです。
ジュビアならきっと騙されるだろう、と思って書いたら予想以上に・・・。

感想・批評、お待ちしてます。 
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