ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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コラボ
~Cross world~
cross world:交雑
ALO―――アルヴヘイム・オンラインだけではなく、他のたいていのVRMMORPGではゲームの中に自分だけの家を所有する事が可能である。
その値段はもちろん、現実よりも土地が限られている事も影響し、かなり高額に設定されているのだが、ALOでは《浮き島》というものが存在していた。
浮き島とは、読んで字のごとく空中に浮遊している島の事である。無論、島というなれどその大きさは様々で、それこそちょっと大きい岩みたいなものから直径数キロの巨大な岩石まで多種多様だ。
その上に稀に、プレイヤーホームが建っている事がある。
しかし浮き島上に存在する建築物は、どれもこれも西洋の巨城のようなもので、値段以前に住まう事が億劫になりそうな場所だった。
レンが住まいとしたのは、そんな中の一つ。
英国の女王でもここまでのは持ってないだろう、とでも思うような、そんな白亜の城であった。
門を開け、その中にスライディングでもしようかというスピードで突っ込んだ紅衣の少年は、まず手中に連れの少女がしっかりいる事を確認して(意識はなかったが)、天を仰いで規定のボイスコマンドを叫ぶために口をこじ開けた。
「全閉錠!!」
ゴガン、ゴン、という多少荒っぽいが重厚な音が響き渡った。
この城に存在する、ありとあらゆる扉と窓に、システム的に厳重な施錠が掛けられた音だ。
二人の背後でも巨大な両開きの正門が轟音とともに閉じ、そこに硬質な閂が勢いよく滑り落ちた。
システム的な筋力値を遥かに逸脱した、オンナノコ一人を担いだまま全速力を出していた少年は、ぜぇぜぇと荒い息を吐き出す。
いやもうホントに。
筋力値に関してだけは、初心者土妖精の初期値にも劣ると自負している。ここまで、金属的なものは武器だけだとはいえ、大の女性プレイヤーを担いできただけでも手放しで賞賛してもらいたい。
卿みたいなイカツい『漢』と書いて『おとこ』と読むようなM型アバターではなく、身長も体重も比較的小さいF型アバターであったことも幸いしたのか。
度重なる轟音のせいか、やっと顔を青くした少女は緩慢な動きで上体を起こした。しかし、腰が抜けでもしたのか、下半身はピクリとも動かなかったが。
しばしの間、呼吸音だけが響き渡る。
そして、荒い呼気の間に思わず出たという風な言葉が弱々しく紡がれる。
「な、なんとかここまで………」
「つ、……疲…れた………」
「だい……じょぶ………?ルナ…ねーちゃん」
ぜぇぜぇ、と。
自分も充分しんどそうなのに、その状況でなお他人の事を心配するその根性は天晴れだと思うが、ぶっちゃけ言おう。
客観的に大丈夫には見えないだろうが。
「………………とりあえず」
「はい」
「休もっか」
「心意………ねぇ」
なんだか信じられないな、と。
レンが淹れてきた紅茶を飲みながらルナは言った。
「イメージを具現化するなんて、まるで魔法みたい。あ、いや、ALOでの魔法ってわけじゃないよ、もちろん」
「でも、そうとしか説明できないんだよね、僕には。小難しい事だったら、マイに訊けば教えてくれるかもしれないけどさ」
ズズ、と。
こちらは、氷の浮いたオレンジジュースを飲みながらレンは言う。
「そのマイって子が、君の捜してた人なの?」
「正確にはもう一人だけどね。ま、あの二人は大体いつも一緒にいるからワンセットで見つかるでしょ」
本人がこの場にいたら、凄み二百パーセントの笑みを向けてくるような事を少年は言った。鬼の居ぬ間に、とはよく言ったものである。
「具体的に、イメージを具現化させるってどうするの?」
「ん~。こう頭ん中で、何かしたいーとか、ドバーッて考えて考えて考えて、それをグシャーッて外に出す感じかな?」
擬音語のオンパレードだった。
最終的に、何をどうするのかさえ分からなかったし。
思わず頭を抱える着流しの少女であったが、頭の中はたった今手に入った情報から拾えるピースを的確に当てはめ、形のないジグソーパズルを構築していく。
ある時には主観的な目線で。
ある時には客観的な目線で。
ありとあらゆる角度から現在の状況を絞り尽くす。
「レン君、アレと戦った時、何か感じた事はない?」
「感じた事?う~ん、そうだなぁ」
あ、と。
紅衣の少年は思い出したように膝を叩いた。
「えーとね、結論から先に申し上げます」
いやにもったいぶった前置きを挟んで、少年は続ける。
「アレ、人間じゃないよ」
呼吸が止まった。
瞳孔が乾いた。
汗が滲み出た。
「は、はい?人間じゃないって、それじゃアレはいったい何?」
「わからない」
少女の発した問いに、即答で返ってきたものはとてもシンプルだった。
シンプルゆえに、ルナは身を震わせた。
だってそれは――――
「『ルナねーちゃんよりもある意味で多くの事を知っている僕でもわからない』ナニカだよ」
ゾグン、と得体の知れないものが背筋を這いずり回る。
固まる少女を見、少年は手の内にあるグラスをゆったりとした動作で振った。
カラン、と。
氷同士がぶつかり合う小気味良い音が軽やかに響く。
状況を整理しよ、と唐突にレンは言った。
それは実際、目の前に屹立している大きな問題を先送りにし、眼を背けるだけのものであったけれど、しかしルナは即座に首を縦に振った。
理解不能にもほどがある。
まずは判る事からコツコツと。それは解析作業の鉄則である。二段飛ばしでも三段飛ばしでも、結局一段ずつ堅実に上るほうがコケる確率は少ないのだ。
「まず一つ目」
確認するように、改めて口の中で吟味するかのように、ルナは言葉を紡ぐ。
「私達は、それぞれの待ち合わせがあった。私は捜して、君は待ってた」
こくりと少年は頷く。
二つ目、と。
少女は、立てた人差し指に中指を追加する。
「私が捜し人を見つけたと思った時」
「僕が待ち人を見つけたと思った時」
綺麗にハモった声で、二人は口を開く。
「「何かが起きた」」
ソレが、具体的に何なのかは判らない。
理解できないし、判りえない。
「ソレが起こした現象として、今のところ確認できているのは《全動的オブジェクトの完全排除》。…………私達の捜し人はソレに巻き込まれた、ってことでいいのかな?」
「たぶん……」
さすがに自信なさげに、テーブル下の足をブラブラ揺らしながら少年は言う。
判断材料が少なすぎる。
何かが起きた。それは判るのだが、目の前で明確に起きたことなので信じざるを得ないのだが、しかしその実態には踏み入る事ができないのだ。自動車が走るという事は分かるのに、じゃあその仕組みを詳しく知っているかと問われ、答えられる人はあまりいないだろう。
三つ目。
「私達は、私の捜し人――――に扮したモノに襲われた」
「そしてソレは、人間じゃなかった」
もう一度、確認するかのように少年は言った。
人間じゃない、と。
繰り返してそう言った。
「私と違って、《心意》に精通したレン君から見ても、アレは『異常』なの?」
「異常だよ」
即答だった。
どこか吐き捨てるように、少年は言った。
「《心意》の力には、大雑把に言って二つのカテゴリーに分類できるんだ。自分でやるか、操るか」
「あや……つる…………?」
そう、と紅衣の少年は近くにあった観葉植物の葉を二枚千切り取った。
「心意ってのは基本的に、イメージという命令式から作り出される副産物みたいなものだよ。そんでそのうち、自分のイメージから出力される力のみで構成されるのが一般的な心意」
ピッと指先から宙空に投げ放たれた葉っぱが、ひらひらと舞い落ちる。
それに向かってかざされた、小さな手のひら。
そこから真っ黒な煙の集合体のような腕が立ち昇り、舞う木の葉をグシャリと握り潰した。
パラパラパラ、と欠片が零れ落ちる。
「そしてもう一つが、すでに存在している事象に干渉して、そこから副次的な効果を生み出す方式。言うのはすごく簡単だけど、入力する命令式はメチャクチャ多くなるんだよね」
もう一つの葉っぱを射出し、それに向かって今度は眉をひそめながら少年が手をかざしたのは、床に落ちている木の葉の欠片だった。
もうすでに黒ずんでいるそれが、突如意思を持ったかのように浮かび上がり、さながら弾丸のように真上に撃ち出された。それらは空を舞っていた二枚目の葉を、マシンガンでもブッ放されたように穴だらけにさせる。
あんぐり口をあけている少女の目の前で、ふぅと少年は息を吐いた。相当しんどかったようで、軽く汗もかいているように見られる。
「今のは、葉っぱの欠片を直接操っただけ」
これでも、加える命令式は五百は優に超えるんだけどね、と。
のんびり笑いながら、少年は思い浮かべていた。
この、言わば操作形心意で、レンが見た中で最大のものは己の内にある《鬼》のものである。
鬼法《天墜》
空から降り注ぐ太陽光に直接干渉し、一点へ強引に終結させるという物理法則をガン無視した、その天衣無縫な技も、しかしアレの足元にも及ばなかった。
あの技でも基本的に、標的の上空数百メートルの空間を『二次元的』に支配するのだ。範囲は広いが、しかしあくまでも平面は平面。
だが、あの怪物はそれを軽々と飛び越える。
事象から推測される事はごく少ない。しかし、それでも少年はその力の正体を何となく想像していた。
アレが力を行使した瞬間、アレを中心に暴風が吹き荒れた。それだけなら、風だけを具現化した(いやそれだけでも充分凄い事なのだが)と思うが、少年が感じたのはそんなものではない。
断言するが、あの怖気はそんな生易しい次元ではない。
その他にあの事象を説明できる理屈を、紅衣の少年は一つしか思い浮かべる事ができない。
『一定空間内の気体分子の完全掌握』
その可能性に背筋をもう一度震わせてから、レンは口を開く。
「僕でも、こんだけの事がやっとなんだ。イグシティ全体に影響を及ぼす規模のものを現実に投影できる時点でバケモノだよ」
「…………………………………心意」
「え?」
ぽつり、と。
着流しをその細身に羽織る少女は、思わず漏れたという風に呟いた。
「人間じゃない。モンスターじゃない。もちろんNPCでもない。じゃあ、あのバケモノは何?」
「そりゃあ………、何だろうね?」
推測というのもおこがましい、ただの仮説なんだけど、と前置きをして彼女は語りだす。
「心意が、生体脳内で生成されるイメージで構成されてるんだったら。『そこに人がいるという確固たるイメージ』が存在したら、そこには何が起こるの?」
「………………まさか」
信じられない、とでも言う風に少年は首を横に振るう。
「第一、それだと大前提からおかしいよ。それだと、イメージした第三者がいるってことになっちゃう」
「………………………………」
唇を噛み、眉根を寄せるルナ。
しかしその瞳には、答えを求めたいという意思はなかった。
どちらかというと、自らの弾き出した答えが信じられないような、信じたくないような、そんな光がそこには宿っていた。
「一番初め。私が君と会った時、違和感を感じなかった?」
「違和感?」
「そう。たとえば、一瞬前までそこに待ち人がいたのに、気が付いたらいなくなっていた、みたいな」
息が詰まる。
それは――――
その感覚は――――
レンの表情から何を察したのか、ルナは大きく首肯した。
「私達は、私達の捜し人がナニカに巻き込まれたと考えてた」
だけど、と。
彼女は言葉を羅列する。
「私達が巻き込まれていない、なんて可能性がないなんて、どうやって決め付けられるの?」
不安が、確信に変わる。
自分達が巻き込まれた。そう彼女は言った。
意識では理解したのだが、魂がその言葉を拒否していた。
「《入れ替わり》。それが今回のナニカの正体だと私は考えるよ」
「いれ……かわ…り」
「そう。世界と世界の、入れ替わり」
入れ替わり合い、そして交わり合い。
額に手をやり、力なく少年は首を横に振る。
「ちょ、ちょっと待ってよ。世界と世界が入れ替わったって、そんな………。じゃ、じゃあ、アレの心意の源って――――」
うん、と。
頷いて。
《流水》の二つ名を持ち、現実世界では《無敗の剣姫》の異名を持つ少女は、首を縦に振ってゆっくりと口を開く。
自らの仮説の、根拠となった学説を空気の中に解き放つために。
後書き
シノンさんマジかっけぇ!(挨拶
……………………SAOⅡ放映終了までずっとこの挨拶でいこうかな。
はい、てなわけでコラボ第六話ですよ。
さぁなんだか説明会の臭いが漂ってきたぜよ?おいおいここはコラボでしょっていう読者様の声が聞こえてきそうですがしかし!
王道はぶち抜くものなり←
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