万華鏡
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第六十三話 第三試合その三
「着てるのよ、冬は。というかね」
「というか?」
「というかといいますと」
「見えないところで武装するのよ」
ちょっと聞くと物騒に聞こえる言葉だった。
「女の子はね」
「ううん、ババシャツもそれですか」
「そういうものですね」
「言うならスパッツと同じよ」
それとだというのだ、冬にスカートの下に穿く。
「それとね」
「半ズボンとかともですか」
「一緒なんですね」
「肝心なことは身体を冷やさないこと」
それが第一だというのだ。
「女の子はね」
「身体ですか」
「そこですね」
「身体を冷やしたらよくないからね」
とにかくだ、それに尽きるからだというのである。
「ババシャツ、セーター、スパッツにタイツってね」
「あと厚靴下ですね」
「それもですね」
「靴も厚いものよ」
夏とは違ってだというのだ。
「神戸は寒いからね」
「ですよね、大阪とかよりも」
「ずっとですね、そこは」
「寒いですよね」
「女の子は身体を冷やさない」
とにかくこのことを言う部長だった。
「いいわね」
「ババシャツだからといって臆することなく」
「そうしてですね」
五人は部長の言葉からババシャツを恐れなくなった、見えないところで武装することの大事さについて。そして。
部長は足を左右に伸ばしつつだ、五人に笑顔でこうも言った。
「じゃあ今からね」
「はい、今からですね」
「準備体操をして」
「まずはそれからですよね」
「身体を動かすには」
「そう、さもないと身体が冷えたままでしかも硬いから」
だからだというのだ。
「準備体操は必ずね」
「しないと駄目ですよね」
「怪我をしない為にも」
「落合さんも言ってるでしょ、中日の人っていうのが少し癪だけれれど」
それでもだというのだ、阪神の選手ではないが。
「まずは一年動けることよ」
「スポーツでも音楽でもですね」
「怪我や病気をしないことですね」
「私が言うのはこのこと位でしょ」
病気や怪我に気をつけろ、確かに部長はこうしたことにはよく言う、しかしその他のことはそれぞれの部員の自主性に任せているのだ。
だからだ、五人にもだ。
「いいわね」
「はい、私達も」
「今は」
「音楽も準備体操からよ」
こう話してだ、そしてだった。
五人も準備体操をじっくりとするのだった、ここで他の部員達も来た。皆既に二日酔いは解消していて楽しく部活が出来た。
クラスに行くと昨日の試合のことで持ちきりだった、誰もが阪神の勝利を喜んでいた、しかし皆こうも言うのだった。
「問題はねえ」
「そうそう、今日だよな」
「今日阪神が勝てるか」
「それだよな」
「どうなるかだよ」
今日の夜行われる第二試合のことが話される、その中で。
彼等はだ、それぞれ喜びの中に不安も感じて話すのだった。
「今日勝てば大きいけれど」
「今日負けたらね」
「第二試合が肝心っていうから」
「ここで落としたら」
かなりまずいというのだ。
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