春から秋に
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第四章
第四章
次の日は晴れだった。それでだ。
お爺さんは鎌に草刈り機で武装してだ。笑顔で草を刈った。お婆さんもそれを手伝いだ。次の雨の日に梅を漬けて梅酒を造ることを考えていた。
梅雨はそうした感じだった。そして夏になると。
晩御飯を食べながらテレビを観てだ。お爺さんは顔を顰めさせてお婆さんに言った。
「おいおい、こっちに来るか」
「来ますね、これは」
「しかも大きいな」
テレビの天気予報を観ながらの話だ。二人共茶碗と箸を持って白い御飯を食べながらだ。そのうえで話をするのだった。
「高気圧は何をしているんだ」
「今日本にいないですから」
「だから来るんだな」
「はい、台風が」
まさにだ。その台風がだ。日本に来ようとしていたのだ。当然ながら農業には不倶戴天の敵である。
「どうやら」
「来なくていいのにな」
お爺さんはうんざりした顔で本音を口にした。
「あんなのは」
「それ毎年言ってませんか?」
「言うさ。苗が不安だよ」
「それにビニールハウスも」
「あれも全部外してな」
それでビニールハウスを飛ばさないようにするというのだ。
「そうしないと飛ぶからな」
「あと畑も」
「そうそう。ちゃんとしとかないとな」
「何かと大変ですね」
「そうだよ。それじゃあな」
「はい。台風が来たら」
その時はどうするかをだ。二人で話して備えるのだった。
そしてだった。遂にだった。台風は呼んでもいないのに来た。
「直撃だそうですね」
「全く。本当に来るなんてな」
お爺さんはお婆さんの話に忌々しげに応える。そうしながらだ。
それぞれカッパを来てだ。雨と風が強まっていく中にだ。
外に出てだ。すぐにだった。
ビニールハウスのビニールを全て外したのだった。二人で。
それを急いでしてだ。その中でだ。
お爺さんはお婆さんにだ。こう尋ねた。
「入れるものは全部納屋に入れたよな」
「はい、もう」
「そうか。それならいいんだ」
それを聞いてだ。お爺さんは言った。雨と風の中なので声はあえて大きくさせている。
そしてそのうえでだ。彼は言うのだった。
「じゃあ家に戻るか」
「ええ。けれど」
「けれど。やっぱり忘れものあったのか」
「それはないんですけれど」
「じゃあ何がどうしたんだ?」
「屋根大丈夫でしょうか」
それを言うお婆さんだった。
「この嵐だと」
「ああ、屋根か」
お爺さんも言われてだ。そのことにはっとした。
それでだ。家の上を見た。その屋根をだ。
それで考える顔になってからだ。お婆さんに言った。
「今から補強するか?」
「屋根にあがってですか」
「ああ。さもないと瓦が吹き飛んだりするだろ」
それを心配しての言葉だった。瓦が飛べばそれだけでかなり危ない。しかもそこから水が入ってしまう危険もある。だから言うのだ。
「だから今のうちに」
「けど」
そのお爺さんにだ。お婆さんは心配する顔で言った。
「危ないですよ」
「この嵐じゃ危ないか?」
「危ないですよ。ですから」
だからだというお婆さんだった。
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