鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α
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第二話
前書き
ニーナがツェルニを卒業するまで、時間内に小隊戦や武芸大会がありますが戦闘シーンの描写はありません。
あっさり進みます。特に六年時は始まった瞬間にツェルニを卒業します。
あくる日、全校集会が開かれ一般の学生にも新たな状況の説明が行われた。反応は様々なものだったが汚染獣の脅威が減少するだろう予想が伝えられると一様に喜びの声が上がった。
その後、第十七小隊は錬武館の小隊スペースに集まっていた。グレンダンに残ったレイフォンを除く四人とハーレイである。
集まったとはいえ重要な話があるわけでもなくすぐに解散しようという流れになったがそれにストップをかける者がいた。フェリだった。
「隊長、私今年で小隊辞めるのでそのつもりでいてください」
「小隊に何が不満でもあるのか?」
「いえ、一般教養科に移るつもりなので」
一同に激震が走る。そのなかで真っ先に動いたのはダルシェナだ。
「お前は……」
武芸者の誇りを何だと思っている、とでも続いたのかもしれないがニーナによって遮られる。
「何故なのか理由を聞いてもいいか」
烈火の如く激昂するかと思われたニーナだったが皆の予想に反してその声は穏やかだった。
「私は元々一般教養科で入学してあの兄に武芸科に転科させられました。目的はツェルニの鉱山不足の解消でそれは去年達成しました。今年も武芸者を続けていたのはデルボネさんに託されたものがあったからです。ですがそれも終わって続ける理由も無いですし、元の目的に戻ろうと思います」
「今から転科すると再び武芸科に戻るのは不可能だがそれでもいいんだな」
既に認めるような念押しをするニーナに周囲は呆気にとられる。
「ええ、構いません」
「わかった、武芸長には私から伝えておく」
「ちょっと待てよニーナ、フェリちゃん無しでこの小隊はどうすんだよ。念威繰者無しじゃやってけねえだろ」
シャーニッドが異議を唱える。小隊の事を考えると尤もである。
「それはわかっているが、だからといって止めてどうなるというものではないだろう。学園都市なのだから自分のしたいようにすることも大切だからな。念威繰者は誰か探すしかあるまい」
一番反対すると思われていた人物であり、尚且つ隊長であるニーナが賛成にまわったことで反対論も立ち消えになり、武芸長が幾らか難色を示したもののニーナの説得もあり無事フェリは一般教養科に転科することができた。
それから幾らかの日が経ったある日、生徒会棟の一室で二人の女生徒が顔を合わせていた。
会長のサラミヤ・ミルケと副会長のレウ・マーシュである。
「またこの季節がやってきたわね」
「え、何で? 私が勝つでしょ」
面倒臭そうな顔を隠しもしないレウとは異なり、あっけらかんとサラミヤが勝利宣言をする。
何の事かと言えば生徒会長選挙についてである。楽天的なサラミヤの言葉にもレウの表情が晴れることはない。
「そりゃ確かに大きな失敗はしてないわね」
でしょ、でしょ と騒ぐサラミヤを冷たく見やり、
「でもこれといった功績も無いのよね」
ぎゃふんと机に潰れるのを無視して続ける。
「まあ、今のところ立候補すると思われてる中に強力なライバルになりそうなのは居ないからサミが勝つのは難しくないでしょうけどね。問題もあるのよ」
「えっ、何かあったっけ?」
「人事よ、役員の人事」
「そんなの今の人達でいいじゃない」
「お馬鹿さん」
「何よぉ」
「ゴルネオ先輩とか卒業する人が居るでしょ。代わりの候補者を見つけないと駄目でしょうが」
何人かいなくなる中で最も重要なのはやはり武芸長だ。世界全体の傾向がどうであれ現在必要とされている現実と長い間に出来た武芸長重視の序列はそう簡単に変わるものではない。
「じゃあレウは誰がいいと思うのよ」
自分で考えもせずノータイムで聞き返してくるサラミヤに頭を押さえながら答える。
「はっきり言って候補は一人だけ、第十七小隊のニーナ・アントークよ」
ゴルネオだけでなく第十四小隊のシン・カイハーンや第三小隊のウィンス・カラルドも共に卒業を迎え他の小隊長にめぼしい人物が居なくなるからだ。
「でもでも、他にも有名どころはいるでしょ」
「無理、ニーナに勝てる程じゃない。対抗できるとすればレイフォン・アルセイフかクラリーベル・ロンスマイアでしょうね。知名度や実力は十分でも彼はまだツェルニに戻って来てないし彼女は来年二年生、若すぎるし一般生徒受けはいいでしょうけど武芸科からの反発は大きい筈よ。それを考えると実力とかからいってもニーナ以外あり得ないわ」
それに落ち着きも増したしね、とは心の中でだけで続ける。前回は猪突キャラは二人も要らないと候補から外したが、何があったかこの一年で随分と落ち着きと貫禄が備わってきた。
変わってないサミとは大違いね、とも思う。
「そう、わかったわ」
「えっ」
「というわけで武芸長になってくれない」
「はいっ?」
思い立ったが吉日、というか善は急げ、というか思考と行動が直結しているサラミヤに引き連れられニーナの教室(レウの教室でもあるが)に来ていた。
開口一番前振り無しでのことにニーナも眼をしばたたかせている。このままでは仕方がないので代わってレウが説明をする。
「ほらそろそろ選挙じゃない。それでゴルネオ先輩も卒業でしょ、だからよ」
「ああ、そういうことか。しかし早いな、まだ先の事だろうに」
理解が追いついたニーナ、ただニーナが言ったことももっともである。毎年のことで皆分かりきっているがまだ日程が発表されてもいないのだ。
「仕方ないじゃない、他に適任者が居なさそうなんだから早目に押さえておくべきでしょ」
同一人物が複数の候補者陣営の予定リストに載っていてもなんの問題も無いが、先に押さえられている、ということは一種のプレッシャーにはなる。
「解りました、お引き受けします」
やった、と喜ぶサラミヤを横目に見遣るレウに続きがくる。
「ただ、他の方から依頼が来た場合も受けますがそれでも構いませんね」
「なんでよっ」
叫ぶサラミヤを他所にレウは冷静だった。
「ま、そういうとは思ってたけど一応説明してやってくれる?」
「私がツェルニの為になる、というのであればこそお引き受けするのであって会長の選挙の為ではありません。私が会長としての方針に足りると思った方で私を必要とされるのであればお引き受けします」
「でしょうね、分かったサミ、ニーナを独占して有利になろうなんて無理だってこと」
「……うん」
すごすごと引き下がるしかないサラミヤであり、レウからしてみれば当然の結果である。
ツェルニの為をモットーとしているニーナが個人の為に目的を失いはしないだろうということを。それこそ前会長であったカリアンであれば周囲に圧力をかけ他の候補者達にニーナを諦めさせるという手段を取ったかもしれないが、彼にだってニーナの考えを変えさせるのは無理だろうと思う。
まあここはニーナの同意を得られただけで十分としてサラミヤの首根っこを掴んで生徒会室へと戻る。必要な人事案はそれだけではないし、日常の業務だって待っているのだ。
それに何よりこの気紛れ気分屋な会長の手綱を取らなくてはならない。副会長レウ・マーシュの仕事は本当に多岐に渡るのだ。
そして行われた生徒会長選挙において二連覇を達成したサラミヤによりレウは副会長に留任、ニーナが新しい武芸長に就任した。
「武芸長就任おめでとうございます、ニーナ。新しい椅子の座り心地はどうです」
生徒会棟にある武芸長室でお祝いを述べたのはクララだ。
この武芸長室、存在はしてもあまり使われる事はないため使用感というか生活感というものは稀薄であるが。
「どうせだから座ってみるか? お前なら間違いなく私の後この席に座る事になるだろうけどな」
「まあそれが自然の成り行きでしょうね」
既にニーナの後の武芸長がクララだと微塵も疑いもしていない会話をする二人。
ただ誰が聞いていたとしてもそれを傲慢だと批難することは出来ないだろう。それだけの実力があることに疑いを持つ者はいない。
「ま、それは来年以降の事ですけれどね。それよりニーナこそ念威繰者は当てがあるんですか、武芸長の隊が念威繰者が居ないから負けたなんて笑い話にもなりませんよ」
「それなら問題無い。ゴルネオ先輩の隊は卒業する者が多いから解散することになってな。移籍してくれる事になった。取り敢えず来年の心配はいらない」
フェリの抜けた穴を埋める算段はついたと告げる。もっともチームワーク等の差を埋めるのは容易な事ではない、が念威繰者が居るのと居ないのとでは雲泥の差があるのも確かだ。
「それはよかったです、ニーナの所が弱いと楽しくありませんから。これでレイフォンも戻って来てくれれば最高ですよ」
「そういえばクララも隊長になるんだったな、二年生でというのは記録じゃないのか。しかしあいつもなかなか帰って来ないからな、また何かに巻き込まれてでもいるのか」
「そんなことはない……と思いたいですけど、ねえ」
レイフォンの性格を考えると否定しようにもしきれず二人の口からは乾いた笑いが漏れてしまっていた。
そして新しい学年が始まり入学式が終了した後、ニーナとクララは武芸長室で顔をつき合わせていた。
「いたか」
「いませんね……レイフォン」
言いきった瞬間ニーナの頭がガクッと傾く。
「確かにいなかったが新入生の中にあいつがいたらおかしいだろう。私が言いたいのは」
「小隊にスカウトしようかと思える相手でしょう。通常有望なのはなかなか都市外には出ないものですけどね」
「一年から入れるほどの相手ではなく将来性に期待したい奴、だがな。それほど今のレベルが低くても困るからな」
通常三年生、四年生となってから小隊入りするものであり二人が言っていることももっともな事だ。が世の中には青田買いという言葉もあれば唾をつけるという言葉もある。
但し、二人とも一年の時から小隊入りしニーナは三年、クララは二年の時に小隊長になっているのだが。
「だがなんといっても生徒数が減ったからな。元の応募者が例年に比べて少ない上、入学辞退した者も随分出たからな」
「今、まだ汚染獣に襲われる危険を冒さなくてもそのうち安全になるって云われてますからねぇ。外に出たいならもう少し待てば良いだけですし」
「つまり減少傾向は続くだろうし小隊も合併していくことになるだろう。数会わせで隊員を入れるわけにはいかないからな」
「残念ですね。あ、でもつまらない所が多いよりはいいかもしれません」
クララが漏らした個人の嗜好が全開の感想に僅かに顔をしかめるもその事については何も言わない。方向性は違えど小隊の形だけを残しても意味がないと思うのは同じだからだ。
「それはそうだが……まあいい、私は小隊の連中を集めているから行くぞ。お前も隊長らしくしろよ」
「わかってますよ。ニーナの所とやるのを楽しみにしてますから応えて下さいよ」
練武館の旧第十七小隊、現第一小隊のスペースで編入してきた前第一小隊の念威繰者と一応の顔合わせを行う。一応というのは結局の所小隊員同士顔見知りであるためだ。
簡単な予定を伝えた後解散となりダルシェナとその念威繰者・ゲイリーはこの場を去り、ニーナはハーレイとシャーニッドが何かの相談のために残っているのを横目に見ながら床に腰を下ろし錬金鋼の整備を始める。
ニーナが所持している錬金鋼は五つ。ツェルニに授けられたものが二つ、大祖父のものが二つ、そしてニルフィリアから渡されたものだ。
その全てが外見上は黒鋼錬金鋼で構成された鉄鞭であるが実際はそうではない。前の二つは電子精霊の、後者はニルフィリアの力の結晶であり普通の錬金鋼とは異なり天剣と同じくあらゆる特性を兼ね備えた錬金鋼であり他の武芸者から見れば垂涎の的である。が真の意味で必要な者、通常の錬金鋼の許容量を超えるだけの剄量を持つ者はまず居らず、そんな者は大抵既に天剣を手にしている。
錬金鋼を復元したニーナの所に一人の少女が訪ねてきた。
「小隊に入れて下さい」
床に座り込んで錬金鋼の手入れをしていたニーナがきょとんと声の主を見上げた後、小さく噴き出す。
「勿論隊長にあたしを使おうって気があればですけど……って何か変なこと言いました?」
「あ、いやそうではなくてだな。前もこんなことがあったなと思ってな」
気色ばむ少女、ナルキ・ゲルニに釈明すると思い当たったのか少し赤くなる。
「歓迎するが何故なのか聞いてもいいか。都市警察の方に専念するのではなかったのか?」
「ええ、それはそうなんですけど……」
歯切れの悪いナルキに首を傾げるニーナ、そこに横から声が飛んでくる。
「そりゃあれだ、憧れの先輩が卒業しちまったからな。あっちだけに引っ付いてる必要も無くなったって訳だ」
「シャーニッド先輩!」
ナルキが即座に怒鳴り返すも顔が赤くなっていては迫力も何もあったものではない。成る程と頷くニーナに視線をもどす。
「大体の事情はまあ分かった、それでいいんだな」
はいと返事をするナルキにニーナは腰の剣帯から二個の錬金鋼を抜き出す。
「ならばついでにテストもしよう。これもあの時と同じだな、実力の調査という意味では必要ないが」
それに応えてナルキも構える。都市警察製の黒鋼錬金鋼でできた打棒と先端に紅い紅玉錬金鋼が取り付けられ青石錬金鋼が混ぜられた黒鋼錬金鋼の鎖を復元する。
化錬剄を使用する際に鎖の先端だけでなく全体に変化を起こすのを効率よく伝導させるために幾らか手を加えたものだ。
対するニーナは左手にツェルニから受け取ったものを、右手にニルフィリアから貰ったディックが使っていた巨大なものを構える。
シャーニッドとハーレイが壁際に退避したのを確認しナルキが踏み込む。突き出した打棒は抜く手も見せずに出された鉄鞭によってあっさりと弾かれる。
左手の錬金鋼で外に払い態勢が崩れたところに右手の鉄鞭が振り上げられる。だがそれをナルキは打撃を払われた勢いを利用して半回転し打棒の柄頭でもって防ぎ、その反動を利用して飛び下がる。
「どう思う」
「ニーナの勝ちは動かねえよ。けどんなこと二人ともわかりきっている事だ。だから」
「だから……?」
「果たしてどれだけニーナを崩せるかって事だな」
そんな二人の批評を無視し距離を取って睨み合うが再びナルキが攻勢に出、ニーナがそれを止めて弾き返す、ということが繰り返される。
実力差は圧倒的であるがニーナが防御のみにを行っていたため対峙はすぐには終わらなかった。
ニーナが攻撃に出た途端ナルキが一気に守勢に追い込まれる。
取り縄を使用するだけの間を許されず打棒一本での防御を強要される、がそれでしのぐことをが出来るほど甘くはない。
キンッ、という甲高い音をたててナルキの手から打棒が弾け飛ぶ。
対峙する二人は勿論の事、横で見ていた二人も眼を逸らさない。明後日の方向に飛んでいったのでハーレイに当たる心配もない。
部屋を囲むパーティションにあたる鈍い音がすると誰もが思っていた。が予想もしない音が返ってきた。
「うわっ」
するはずがない人の声に皆がそちらの方を振り向く。
飛んできた打棒を受け止めながら扉を入ってきたのは思いもよらない人物だった。
「あ……、どうもお久しぶりです」
「お前……」
「レイフォン」
常のように気の抜けた調子で挨拶してきたのはレイフォンだった。
「何でここに……、いや何でこんなに遅くなったんだ?」
「まあ色々ありまして……、隊長を探すならここかなと思って」
「ん、何だ。言ってみろ」
「はい、実は……」
その晩、皆が住んでいる寮でレイフォンお帰りパーティーが催され、料理はメイシェンとレイフォン(主役の筈なのに)が担当した。
そんな場の一角でクララがニーナに物凄い勢いで詰め寄っていた。
「どうしてレイフォンが一般教養科の制服を着てるんですか? 本人に聞いてもはっきりとはしないですし」
「ああ、それはだな……」
「一般教養科に転科したいんですがどうしたらいいですか」
「「「「はぁ!?」」」」
図らずも全員の声が揃った。
「いきなり何を言ってるんだお前は」
「そうだぞ、レイフォン」
「武芸以外の道を探したいんです。もともとそれが目的だったわけですし」
「やれやれお前もかよ」
「わかった、手続きはこちらでしておく。錬金鋼は預からせてもらうが、いいな」
シャーニッドの言葉に疑問符を浮かべるレイフォンだが続けられたニーナの言葉に頷く。
「それでお前もって何がですか?」
「フェリちゃんもおんなじ事言って辞めてったからな。今じゃ一般教養科の人間だぜ」
「そうなんですか。でもそれだと小隊は大丈夫なんですか、それに会長や武芸長の人がよく許可を出しましたね」
レイフォンが感心した様に言うのに皆脱力する。
「あのなレイフォン、俺達のバッジをよく見てみろよ」
そこで初めて以前と異なっていることに気付く。
「あれ、僕達って十七小隊でしたよね。なんで「一」なんですか?」
「ニーナが武芸長になったからだよ。武芸長の小隊は第一小隊と決まっているからね」
「そうなんですか、おめでとうございます」
呆れたシャーニッドに続いたハーレイからの説明を聞くことによってようやく理解したレイフォン。
「まあ私自身の事はともかくお前はいいんだな」
「はい、お願いします」
「……というわけだ。フェリは良くてレイフォンは駄目だというのもおかしな話だろう」
「それはそうですけど、もうレイフォンとは戦えないんですか」
「まあ、少なくともツェルニ在学中は無理だろうな」
ニーナが告げた内容にクララがガクッと膝を落とす。
「おい、大丈夫か」
あまりの落ち込みようにおもわずニーナがクララの肩に手を置く。小刻みに震える肩に慰めをかけようとするが結果として不発に終わった。
「ふっふっふっ、そうですか。そうなりますか」
「クララ、戻ってこい」
不気味な笑みを浮かべたヤバそうな雰囲気に連れ戻そうとするがニーナに構わず自分の世界に篭ってしまっていた。
ニーナにとって最後の武芸大会、それに伴う小隊対抗戦が行われたがレイフォンとフェリがいないにも関わらず不敗のまま終えることができた。
対抗戦は第一小隊が全勝でトップを獲得し、クララの率いる十四小隊は一敗で二位という結果を残した。
武芸大会に至っては攻のクララ、守のニーナを中心に他の武芸者を配置し危なげなく勝利を積み重ねた。
そして再びこの時がまわってきた。
生徒会長選挙である。今年で二期勤めたサラミヤが卒業するため次は誰がなるのか話題になっていた。
ニーナの所にも武芸長就任要請をする立候補予定者が次々と訪れていた。彼女が訪ねてきたのはそんな中だった。
「ニーナ、居る?」
そうして教室を覗いたのは知る人ぞ知る生徒会の裏番、レウ・マーシュだった。
二期連続で副会長を務めた彼女が立候補すれば勝利は確実だとみられていたが本人にその気はなく、早々に出馬しない旨を広言していた。もっともそれが候補乱立の要因の一つともなっているが本人はそんなことに責任など取れない、という態度である。
「なんだ」
「ちょっと来てくれる」
「構わないがどうしたんだ」
「まあ来ればわかるわよ」
はっきりと用件を言わないレウに疑問を覚えるが来ればわかるとの言葉通り話すつもりが無いようなので後についていく。その先の部屋にいたのはクララだった。
「どうしたんだわざわざこんなところに呼び出して」
「ニーナ、武芸長になりません?」
開口一番にクララが告げたのはそれだった。そしてそれを聞いたニーナの抱いた感想はいきなり何を言いだすんだ、というものだった。
「私、会長に立候補するんでその根回しですよ。ちなみにレウさんには副会長をやってもらうつもりです」
「お前来年で三年生だろう、早過ぎるんじゃないのか」
いきなり告げられた計画にニーナとしては呆れるほかない。だがクララの思惑はその程度ではなかった。
「私来年は六年生やりますので、ニーナと同級になりますね」
「なんだそれは。どうしてそんなことになるんだ?」
横目でレウを見ると事前に聞かされていたようで驚く様子を見せてはいない。
「大体ニーナが卒業してレイフォンが武芸科から居なくなったら退屈過ぎます。学ぶことはそもそもないんですから。一応卒業はしておこうと思って少し飛び級するだけですよ」
あまりの言い様に唖然とするほかない、たとえそれが事実だとしてもだ。
「最初は私が武芸長も兼ねようとしたんですがレウさんに止められたんですよ。権力が集中しすぎてよくないって。別に悪いとは思わないんですけどねぇ」
グレンダンでは王に全てが集まるため不思議に思えるかもしれないが常に入れ替わりを強要される学園都市と普通の都市を比べることに無理がある。万が一の時を考えると、少なくとも学園都市では暴走を防ぐのではなく起こらないような仕組みが必要なのだ。
「まあそれでニーナを武芸長に迎えようってわけです。あ、ちなみに私が会長やろうとしてるのは取り敢えず都市を動かすのを体験しておこうと思ったからです。解ってもらえました?」
「まあ言いたいことはわかった。いいんじゃないのかやってみても」
「さっすがニーナ、話がわかります」
横でレウがため息をついているところを見るともしかしたら止めて欲しかったのかもしれない。
「それじゃ選挙の話は終わりにして聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ」
「ニーナの小隊、来年どうする気なんですか? 武芸長が小隊無しじゃ恰好がつきませんよ」
現在の隊員は五人、だが今年シャーニッドにダルシェナ、さらには今年から入った念威繰者のゲイリーも卒業するのだ。残るのはニーナの他にナルキ、それとメカニックのハーレイだけとなる。ただでさえ小隊員クラスの力の持ち主が減ってきており、昨年は十六あった小隊(名前は十七までだが十が欠番)も今年は十三になっていた(名前は十四までだが十が欠番)。
「そのことだがクララ、お前の所も『漆黒の三鬼神』が卒業して人数が割り込むだろう。うちと合併しないか?」
「嫌です」
あっさりとはね付けられるニーナの提案。その理由は。
「そうしたら私たちの所が勝つのが分かるから面白くないじゃないですか。今でも私かニーナの所との戦いは盛り上がりもないんですから」
クララの言う通り今年の対抗戦、始まる前から一位と二位をどこが占めるかは話題にすらならnかった。ニーナとクララがぶつかって勝った方が一位という認識で事実その通りとなった。
「それに同じ隊になったらニーナと戦えないじゃないですか」
「対抗試合でだって全力で戦える筈がないだろう。同じ隊かどうかは関係ないと思うが」
「それもそうですね。なら合併しましょう、ただし個人訓練に付き合ってもらいますよ」
「それは私も望むところだ」
一般生徒からの受けがいいクララ、武芸科からの支持があるニーナ、二人が揃い会長選挙は圧勝という結果に終わった。
そしてだれもがそうなることを疑わなかったように対抗戦は圧勝し、一位という結果に終わった。
そしてあっという間に月日が過ぎ卒業の時を迎える。
「私はグレンダンに戻りますけどニーナも来ませんか、まだ汚染獣と戦っているようですし楽しいと思いますよ」
「私はシュナイバルに戻る。大祖父様のことも家に報告しなければならんからな」
「そうですか」
断られたことに残念さをにじませるクララ。だがそれでは終わらない。
「でしたらその後でいいですから私の家を訪ねてください、歓迎しますから」
「わかった。グレンダンに行く機会があったら寄らせてもらう」
「機会があったらでなく必ず来てください、絶対ですよ」
「わかった、わかった。約束する」
勢い込むクララに押し流されるように約束を強要されるニーナ。
だがそんな一時にも終わりの時が近付いていた。それぞれが乗る放浪バス、その出発時刻がやってきたのだ。
「それじゃニーナ、また」
「ああクララ、また会おう」
そして二人の姿はそれぞれのバスへと吸い込まれていった。
後書き
六年次が何もないのは書こうと思うことが無いからです。圧勝する対抗試合を書く気はないし、汚染獣に襲わせる気もなかったんで。
これからは卒業後、ニーナが世界を回る話になります。が、更新が何ヶ月と空きます。待って下さる方、ご了承ください。
原作の空気を壊さないようにしているつもりですが皆さんはどう思われますか。感想・ご意見いただけるとありがたいです。
同時に誤字・脱字の類も指摘していただけると助かります。
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