ミッドナイトシャッフル
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第六章
第六章
尚且つだった。先輩は呆れた顔で俺に言ってきた。
「で、買ったことが嬉しくてな。新宿の居酒屋で宴会やってな」
「飲み過ぎてですか」
「ああなっちまったんだよ」
「馬鹿な話ですね」
俺はここまで聞いて思わず言った。
「そういえばよく見たらあまり柄の悪い連中じゃないですね」
「ただのいきがってるガキ共だな」
おもちゃのナイフやモデルガンを買ってそうなっている。本当に他愛のない奴等だ。
それでだ。そのガキ共がどうなるかというと。先輩はこのことも俺に話してきた。
「まあおもちゃだしな。所詮は」
「モデルガンは危ないですよ」
「それもな。本物じゃなかったからな」
「特に何もなくですか」
「ああ、特に御咎めはなしだ」
「ただの酔っ払いで終わりですか」
「手柄はそのままだけれどな」
暴漢を取り押さえ市民を守った手柄はだというのだ。
だがそれでもだ。酔っ払いの連中はだ。
「暫くトラ箱に放り込んでな」
「お説教と書類送検で終わりですか」
「ああ、それで終わりだ」
「何かあっさりとした結末ですね」
「大事にならなくてよかったがな。まあとにかくな」
事件はこれで全部終わった。後で聞いた話だと暴れた馬鹿共はこのことからそれぞれバイト先を首になって大学も無期停になったらしい。まあ自業自得だ。
そんな話があった。そして俺は夜勤明けで家に帰りだ。
妹と一緒に朝飯を食った。御飯に納豆、それに昨日の残りの豆腐の味噌汁だ。
納豆をかけた飯を食いながらだ。俺は妹に言った。
「なあ」
「どうしたの?」
俺と同じ様に飯に納豆をかけて食いながら。妹も応えてきた。
「今日はお休みよね」
「そうだよ。それでな」
「お休みなら御飯食べて寝るだけよね」
「違うよ。今働いてる場所だけれどな」
「続けるわよ」
きっぱりとして俺に言ってきた。
「言うけれどね」
「そういうことじゃなくてな。いいからな」
「いいって?」
「その店で働けよ」
昨日妹が話していたことからだ。俺は言った。
「いいからな」
「いいって?」
「ああ、そこで働いていいからな」
俺はまた言ってやった。
「好きなだけ思う存分やれよ」
「何なのよ、また」
俺にそう言われてだ。妹はきょとんとした顔になった。
それでだ。俺にこう言って
「どういう風の吹き回しよ。昨日まであんなに反対してたのに」
「気が変わったんだよ」
昨日の夜のことは言わずに。俺は応えた。
「それでなんだよ」
「気が変わったの」
「ああ、好きなだけ働けよ」
「そう言うのならね」
「そういうことだからな」
俺は納豆を食った。飯と一緒に。
そうしつつだ。俺はまた述べた。
「俺はもう反対しないからな」
「嘘じゃないのよね」
「俺は警官だぞ」
警官が嘘を言うか、こうも言ってやった。
「だからな」
「じゃあ信じさせてもらうわね」
「背中のことは気にするな」
また隠して言った。昨日あったことは。
「じゃあそういうことでな」
「ええ、働くから」
妹も微笑んで応えた。俺はそれからは妹が新宿で働くことについて何も言わなかった。そしてだ。
俺も新宿で警官を続けていった。妹がいるその場所を守る為に。今もそうしている。
ミッドナイトシャッフル 完
2012・1・4
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