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万華鏡

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第六十二話 快勝その九

 思いきり打った、既に一塁ランナーはスタートを切っている、ボールは凄まじい速さで右中間を飛んでいく。
 フェンスを直撃した、ロッテのライトとセンターが必死に負うが。
 ボールを取ったライトが必死にセカンドに返球する、その時には。
 ランナーは生還していた、阪神がまず先制点を取った。甲子園の割れんばかりの歓声がテレビにも聴こえてくる。
 その歓声を聴いてだ、里香はほっとしたそしてやってくれたという笑顔で四人に言った。
「やってくれたわね」
「うん、打ってくれたね」
「まずは一点だよ」
 琴乃と美優がその里香に飛びつく様にして言って来た。
「先制点ね、まずは」
「これでかいよな」
「大きいわ、緊張が一気にほぐれて」
「試合の流れも掴んだよね」
「あの一点で」
「ええ、そう出来たから」
 だからだというのだ。
「ここはよく打ってくれたわ」
「甲子園って試合の流れが阪神に傾いたらね」
 景子も言う、そうなればというのだ。
「一気にボルテージが上がってね」
「そうなのよね、阪神の後押しをしてくれるから」
「見てよ、もう」
 一塁側はおろか外野もバックネットも、三塁側にすらいるファン達がだというのだ。
「勝ったみたいよ」
「凄いわね、本当に」
 黒と黄色が動いている、里香もその光景を見て言う。
「ここで打ってくれたのは大きいわ」
「後はよね」
「ええ、この流れのままに進めば」
 そうすればというのだ。
「いけるかもね」
「まあはじまったばかりだけれどな」
 美優はまずはこう言った、油断は出来ないというのだ。
 しかしだ、それと共にこの言葉を出した。
「大きいことは事実だよな」
「シリーズの先制点はね」
「本当にリラックスしたからな」
「どうしてもね、硬いとね」 
 緊張でだ、身体だけでなく心もだ。むしろこの場合は心がそうなっている場合が問題なのである。スポーツでもそうなのだ。
「勝てないから」
「それが変わったからな」
「流れも掴めたし」
 緊張も解けてそうもなった、それでだった。
「大きいことは確かよ」
「それでこの試合に勝てば」 
 第一試合、それに勝てればだった。
「余計大きいからな」
「ええ、本当にこの一点は大きいから」
「嬉しいな、ここで入ってくれて」
「打ってくれてね」
 まさに四番の仕事だった、そしてその彼の一打が阪神を大きく動かしたのだった。ピッチャーの調子は上がり二回にヒットを許したが得点は許さなかった。
 二回三回は無得点、四回もだった。ロッテもだったが阪神もだった。所謂『スミ一』の状況が続いていた。
 その状況を見てだ、景子は皆に飲みつつ言った。
「ねえ、今の状況ってね」
「ちょっとね」
「何か息苦しくなってきた?」
 琴乃と彩夏はそれぞれ枝豆を食べつつ景子に応える。
「一対零の状況ってね」
「この状況は」
「そうね、これはね」
 景子が言うことはそれだった、このスミ一の状況がだというのだ。
「追加点が欲しいわね」
「うん、あと二点、いえ一点入ればね」
「違うわよね」
 彩夏は琴乃のその言葉に応える。
「追加点が入ると」
「そうよね」
 こう言うのだった、そしてだった。
 その状況でだ、下位打線だった。しかし阪神の今シーズンの下位打線もだ。 
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