万華鏡
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第六十二話 快勝その八
「よくないのよ」
「シュートは効果があるだけにか」
「そう、あまり投げることは怖いって言われてるのよ」
それでだ、里香はここでこうも話した。
「だからシュートだけの人ってそういないのよ」
「他の変化球も投げてよね」
彩夏がこう言ってきた。
「あとストレートも」
「そう、それだけだとボールを狙われるし何よりも肘によくないから」
「じゃあ今も」
「シュートを投げてるけれど」
それでもだというのだ。
「あまり多くは投げない筈よ」
「そういうことなのね」
「トータルで見てストレートが多い筈よ」
里香は冷静に分析する目で述べた。
「それはね」
「ストレートなのね」
「そう、どのピッチャーでもそうだけれどやっぱり一番多く投げるボールはストレートよ」
変化球ではなく、というのだ。
「一番コントロールをきかせやすいし肘への負担も少ないから」
「だからなのね」
「ストレートが一番いい人も多いし」
所謂速球派だ、代表的なピッチャーとしては東映の怪童尾崎行雄であろうか。
「あの人もストレートがいいから」
「じゃあストレートを狙い打てば」
「どうかしら。若しくは」
「若しくは?」
「ストレートをあえてファールさせて。シュートはもう投げたから」
「他のボールをなの」
「狙ってるかも知れないわね」
こう彩夏に話すのだった。
「そうかも知れないわ」
「何か読みね」
「ええ、野球もね」
読み、それが大事だというのだ。
「だからあの人もひょっとしたら」
「その狙ってるボールをあえて打たせて」
「その可能性があるわ」
こう話すのだった、そしてだった。
またボールが放たれる、すると。
ストレートだった、だがバッターはそれをファールした。明らかなカットでボールは後ろに綺麗に飛んだ。それを見て景子が言った。
「タイミングは完全に掴んでるわね」
「ええ、ボールが真後ろに飛んだから」
そのファールはボールのタイミングが合っている、その証拠だ。
「だからね」
「またストレートを投げたら」
「打ってくれるわ」
里香は阪神側の視点から述べた、飲む手も止めてじっと試合を観ている。他の四人もそれは同じになっている。
「絶対にね」
「そうしてくれるね」
「そう、だから」
それでだというのである。
「あの人もストレートはね」
「今度はよね」
「投げないわ」
少なくともだ、次のボールではというのだ。
「それでシュートもね」
「投げないってことは」
「投げるボールは限られてくるわ」
シュート、そしてストレートはない。それなら投げる球種が限られてくるのは当然だ。
試合自体にも緊張が走る、今はツーストライクだ。あと一球ストライクを取ればそれでこのイニングは終わる。それ以上に。
試合の重要ポイントであるのは明らかだ、緊張が走るのも当然だ。その中で。
ピッチャーは険しい顔で一旦帽子を取り右手で額の汗を拭った、そうして。
セットポジションから投げた、そのボールは。
フォークだった、そのフォークを。
バッターは打った、まさに狙いを定めていた。そしてフォークを下からすくい上げ。
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