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万華鏡

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第六十二話 快勝その七

「そう簡単には打てないわ」
「じゃあまた来たら」
 その高速シュートがだ。
「まずいかしら」
「いえ、あの人も凄いから」
 今打席にいる彼もだというのだ。
「一球見たボールはね」
「打てるのね」
「そう、だからね」
 それでだというのだ。
「今度来たら。違うコースでも」
「打てるのね」
「打ってくれるわ」
 絶対にだというのだ。
「その時はね」
「じゃあ若しも」
 琴乃はここでこうも言った、里香の話を聞きながら。
「他のボールが来たら?スライダーとか」
「左右への揺さぶりね」
「それも基本だから」 
 シュートでのけぞらせてスライダーで泳がせる、逆なら逆で効果がある。左右の揺さぶりは投球術の基本の一つだ。
「そうしてきたら」
「それでもよ」
 大丈夫だとだ、里香はバッターを見つつ琴乃に答えた。
「今のあの人ならね」
「打ってくれるのね」
「だって。高速シュートが来たけれど」
 ここでまた一球目のそれが話される。
「それでも腰が引けてないから」
「そうね、それでもね」
「シュートはただ内角を攻めるだけじゃなくて」
 それに限らないというのだ。
「そこで相手の腰をのけぞらせて」
「怖がらせてよね」
「そう、それでね」
 そこでだというのだ。
「後の投球を有利にする役割もあるから」
「内角攻めってことね」
「誰でもボールに当たると痛いから」
 硬球が百何十キロで向かって来るのだ、当たれば怪我をするのも道理だ。
「だからシュートは効果があるのよ」
「それ左バッター相手もで?」
 琴乃は里香にこの場合についても尋ねた。今はピッチャーもバッターもどちらも右だ。つまり右対右の対決だ。
「それでもなの」
「それだと逆になるのよ」
 里香は琴乃にあっさりと答えた。
「左バッターだとスライダーを投げるのよ」
「それで内角を攻めるのね」
 あくまで右ピッチャーから見た場合だ、その場合はそうなるというのだ。
「泳がせるのはスライダーで」
「そう、そうすればいいから」
「どちらにしてもシュートは生きるのね」
「いいボールよ。ただあまり投げ過ぎるとね」
「ああ、変化球自体が肘に負担かけるんだよな」
 美優は変化球のネックについて里香に応えて言う。
「そうだよな」
「そう、それでシュートはスライダーやカーブよりも肘に負担かけるから」
「あまり投げ過ぎたらよくないんだよな」
「あまり投げ過ぎるとね」
 そうしただ、肘を身体の方に捻って投げる変化球はというのだ。
「よくないのよ」
「肘に悪いよな」
「そう、シュートはね」
 シンカーもである、右ピッチャーから見て右バッターの方に曲がる変化球の肘への負担は大きいのだ。だから多投は禁物なのだ。 
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