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噛ませ犬

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第五章


第五章

「今日も悪役が相手ですか」
「ああ、前田鹿之助だ」 
 髪を金色に染め口髭を生やしている。凶器として竹刀を使うことで有名だ。
「あいつが今日の御前の相手だ。それでだ」
「それで?」
「今日は乱入もある予定だ」
 猪場はあくまでだ。プロレスの見せ場を考えてだ。そうしたものも用意するのだ。
「スパム=ヘンチントンだ」
「あのテキサス=ラリアットの」
「あいつが前田の助っ人に来る」
「俺が前田と戦っている時にですね」
「それで御前は二対一で一方的にやられるんだ」
 猪場は楽しげな笑みで言った。
「そうなるがそれでいいな」
「わかりました。それならです」
「今日も派手にやられてくれるか」
「そうします。じゃあそれで」
「ああ、頼んだぞ」
 こうしてだ。この日の試合ではだ。
 新条は悪役レスラー二人にこれでもかとやられてだ。無様に負けた。
 そしてそこに猪場ともう一人のメインイベンター、この真日本プロレスが誇る外人レスラーの一人、ハルク=ナンバーワンが登場してだ。悪役二人を華麗に破った。
 この演出に観客達のボルテージは最高潮になった。プロレス雑誌でも好評だった。
 そして雑誌やスポーツ新聞にだ。惨めに負けてリング外に転がる新条の姿が紙面の片隅にあった。
 その新条の到底格好いいとは言えない写真を見てだ。兆州は言うのだった。
「あの、断ったそうですね」
「ああ、メインイベンターだな」
「はい、そうされたんですね」
「そうしたよ」
 その通りだとだ。新条は答える。彼等はだ。
 今はマクドナルドにいる。そこでハンバーガーをうず高く積んでそれを貪りながら話をしている。
 その中でだ。兆州は新条に対して言うのだった。
「あの、勿体ないですよ」
「御前もそう思うんだな」
「そうですよ。折角の社長からの御誘いだったのに」
「まあな。メインイベンターっていえばな」
「レスラーの憧れですよ」
「だよな。本当にな」
「なのにどうして」
「いや、確かにメインイベンターも悪役も大事さ」
 悪役にしてもプロレスでは華だ。こちらはこちらで人気があるのだ。
「けれどそれでもな」
「それでもですか」
「前座も必要だろ?だからな」
「前の試合もですか」
「ああ、そしてこれからもな」
 前座を務めるとだ。新条はそのスポーツ新聞の一面を開いたうえでハンバーガーを食いつつ自分の前にいる兆州に対して答えたのである。
 
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