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海の恐怖

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第一章

              海の恐怖
 カリブ海は鮫が多いと言われている、だが。
 マイアミに住んでいるホセ=カンターロは明るく笑ってこう仲間達に言うのだった。
「鮫が怖くてな」
「マイアミにいられるか」
「そうだよな」
「ああ、そうだよ」
 こう仲間達に言っていた。
「要するに鮫がいない場所にいればいいしな」
「釣りに出てもな」
「でかい船だといいよな」
「ああ、いいんだよ」
 だからだ、鮫は怖くないというのだ。尚カンターロの家は釣り船を持っていてそれで客を取って釣りをさせて暮らしている。漁師もしている。
 だから海のことは知っている、彼が言うには。
「怖いのはハリケーンだよ」
「それだよな」
「そっちの方が怖いよな」
「そうだよ、あと海に落ちないことだよ」
 決して海を馬鹿にしてはいなかった、無論自然もだ。
 それで彼はいつもだ、鮫は知識さえあれば怖がることはないと周りに言っていた。二十だがそこはよく弁えていた。キューバ系で細い黒髪をパーマにしている。黒い肌に彫のある顔をしている。
 しかしだ、友人であるロベルト=コインブラがこう彼に言ってきた。
「なあ、よく聞くけれど海には」
「何だよ、人魚でもいるのかよ」
「いやいや、大蛸とかシーサーペントとかな」
 コインブラが話に出すのはそちらだった。茶色の髪をドレッドにしている薄褐色の肌の若者だ。カンタターロと同じキューバ系である。
「いるだろ」
「そういう話は俺も知ってるさ」
 聞いたことがあるとだ、こう答えたカンターロだった。
「海にいるとな」
「どうしても聞くよな」
「ああ、それでもな」
「その目で見たことはないんだな」
「ああ、ないよ」
 だからだというのだ。
「一度もな」
「そうか、そうなんだな」
「ああ、鮫ならあるけれどな」
 カンターロは笑ってコインブラに返した。
「そんなのはないさ」
「まあ普通はそうだよな」
「いたら見てみたいな」
「そういえば昔な」
 ここでだ、コインブラはこんなことを話した。
「この海に恐竜が出たってな」
「五十年位前の話だよな」
「ああ、四人でボートに乗って海に出たらな」
 そこで恐竜が出て来たというのだ。
「それで襲われて四人のうち三人が恐竜に食われたってな」
「その話なら俺も知ってるぜ」
 カンターロは軽い笑顔でコインブラに応える、だがそれでも信じていないという感じである。
「けれどな」
「嘘だろうっていうんだな」
「そんな事件あったら洒落にならないだろ」
「まあな、鮫が出たところじゃないからな」
 絶滅した筈の恐竜が出たからだ。
「相当な騒ぎになるよな」
「そうだよ、そんないるかどうかわからないのよりな」
「ハリケーンの方が怖いか」
「荒波とな。そっちの方がずっと怖いさ」
 海の男の率直な言葉だった。
「俺にとってはな」
「そういうものなんだな」
「そうだよ、とにかくな」
「ああ、とにかくだよな」
「明日また仕事だよ」
「仕事か」
「船にコロラドから来た人達を乗せてな」
 所謂観光客だ、彼等を乗せてというのだ。 
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