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DEAR FRIEND

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第四章

 二年前よりも美味しかった、それも遥かに。それで私達もこう話した。
「美味しいわね」
「マスターの腕が上がったのかな」
「それもあるけれどね」
 私はここでマスターをちらりと見た、マスターは楽しげに笑っている。 
 そのマスターから彼に目だけではなく顔を戻してそのうえでこう彼に告げた。
「私達が二年の間にね」
「どうなったっていうのかな」
「成長したからね」
「だからお酒が美味しくなった?」
「マスターが言うにはね」
 またマスターに目をやってから彼に話した。マスターは今も笑顔である。
「そうらしいのよ」
「人は成長すればなんだね」
「そう、お酒が美味しくなるのよ」
「じゃあお酒が飲めないとどうなるんだよ」
「その場合はお酒以外の飲み物がね」
 美味しくなるとだ、私は彼に答えた。
「だから私達もね」
「成長したのかな」
「シンガポールで頑張ってきたのよね」
「俺なりにな」
 彼はこのことは笑顔で答えてきた。
「そのつもりだよ」
「私もね、仕事で幾つも成果を挙げてきたつもりよ」
「そうしてきたんだな」
「仕事だけじゃなくて色々とね」
 プライベートでもだ、色々とあったつもりだ。そしてその中で。
「磨いてきたつもりよ」
「俺もな、シンガポールは厳しかっただけにな」
「紳士になれたかしら」
「そこまではいかないかも知れないけれどさ」
 それでもだと、やはり笑って答えてくる彼だった。
「それなりにそうしてきたつもりだよ」
「そうなのね」
「だからか、今飲むカシスオレンジはこんなに美味いんだな」
「マティーニもね」
「自分が成長したなんて思わないけれどな」
 彼は自分ではだと、こうも言った。
「それでもなんだな」
「そうみたいね、内面はね」
「磨かれたんだな、だから酒も美味い」
「それじゃあね」
「飲むか、今日は」
「ええ、再会を祝してね」
 二人で話す、そのうえで。
 今度は私がカシスオレンジ、彼がマティーニを頼む。それを飲んで。
 二人で楽しく飲んだ、そして二人で話した。
「こうしてまた会えたからな」
「これからも二人で飲みましょう」
「ああ、友達としてな」
「このお店でね」
 大人の静かな、けれど確かな友人関係。若い頃は考えもしかなかった関係だったけれどこうした関係もいいものだ。
 私達はその関係を楽しみながら飲んでいく、マスターがその私達を見て温かい笑顔でいてくれるのもその目で見ながら。


DEAR FRIEND   完


                               2013・8・2 
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