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DEAR FRIEND

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第二章

 その彼がだ、こう私に言ってきた。
「だから一人で行くよ」
「異郷で一人ね」
「そう言えば格好いいね」
「じゃあ格好よく行ってね」
 そしてだとだ、私は彼にこうも話した。
「それで格好よく仕事をしてね」
「そうしろっていうんだね」
「そうよ、そしてね」 
 私は彼にさらに言った、その言葉はというと。
「格好よく帰ってきてね」
「何でも格好よくか」
「そうしたらいいじゃない、どうせ行って仕事をして働くのならね」
「厳しい条件だね」
「格好だけでもそうすればいいじゃない」
「格好よくねえ」
「毅然として胸を張っていればいいのよ」
 具体的にどんな格好よさかもだ、私は彼に話した。
「そうしていればね」
「俺の柄じゃないんじゃないかな」
「それは貴方が決めるんじゃないわ」
 私はマティーニをもう一杯頼んでから彼にまた話した。
「周りよ」
「主観じゃないんだ」
「ええ、私から見てもね」
 レズビアンで男には興味のない私から見てもだと、彼に言葉の外にこうした言葉を入れたうえで話した。
「だからね」
「格好よくね」
「キザでダンディに」
 次に彼に告げた言葉はこの二つだった。
「いいわね」
「君がそう言うんならね」
 彼も私に微笑んで答えた、カシスを飲みながら。
「そうさせてもらうよ」
「それで二年後はね」
「二年後だね」
 彼が正式に日本に帰って来たその時にだと、私達は約束した。
「このバーで会いましょう」
「それでまた飲むんだね」
「そうしましょう、そしてその時にね」
 私は彼のその顔を見て告げた。
「貴方を見させてもらうわ」
「その二年で俺がどうなったのかを」
「どれだけさらに格好よくなったのかをね」
 それを見たいとだ、彼自身に話した。
「そうさせてもらうわね」
「言うね、じゃあね」
「ええ、それじゃあね」
 私は彼に応えた、こうして暫しの別れの挨拶を交えさせた。
 彼は見送らなかった、私は彼がシンガポールに発ったその日もそのバーにいた。そうしてだった。
 一人飲む、その私にカウンターのマスターがカクテルを作りながら私にこう尋ねてきた。
「いいんですか?今日は」
「見送りに行かなかったことね」
「はい、それはいいんですか?」
「いいのよ」
 私は微笑んでだ、マスターに答えた。
「私達の場合はね」
「見送りに行くよりもですか」
「そうなのよ」
 心でそうした、だからなのだ。
 それでだ、私はマスターからカクテルを受け取った。それは彼がよく飲んでいたカシスオレンジ、それだった。
 そのカクテルを飲んでからだ、私はまた言った。
「これでいいのよ」
「あの人が飲んでいたものでしたね」
「そのうちの一つね」
「如何ですか、カシスオレンジは」
「美味しいわ、けれどね」
 飲みつつだ、私は笑みをさらに強くさせて答えた。
「二年後はどうかしら」
「二年後の味ですか」
「ええ、これはどうなってるかしら」
「さらに美味しくなっていますよ」
 マスターは笑顔でこう言って来た。 
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