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DEAR FRIEND

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第一章

                DEAR FRIEND
 馴染みのバーで一緒に飲んでいる時に、私は彼に言われた。
「転勤するんだ、俺」
「そうなの」
 彼氏ではない、私達はそうした間柄じゃない。言うならば友達同士、ベッドの中には一緒に入らないけれどこうしていつも一緒に飲んでいる。 
 その彼にだ、私はこう言われたのだ。
「海外にね」
「何処に行くの?」
「シンガポールだよ」
「ああ、あそこね」
「南の方に行くことになったよ」
「また厳しい国に行くのね」
 私はマティーニを飲みながらカシスオレンジを飲む彼に言った。
「あそこは、知ってるわよね」
「ああ、規則に規則で」
「生活はいいけれどね」
「凄いよな、そこは」
「あそこは特別よ」
 とにかく規則ばかりで何かすると罰金に鞭打ちだ、ちょっと普通の国じゃない。
 そのことをだ、私は彼に忠告したのだ。
「こうして悠長に飲んでいてもね」
「少しハメを外したらっていうか酔って馬鹿をやったら」
「罰金よ」
 それが待っていると注意した。
「だから注意してね」
「それだけじゃないしね」
「鞭打ちとかもね」
 このこともだ、私は忠告した。
「とにかく日本と全然違うから」
「それ部長にも言われてるよ」
 彼の上司からもだ、注意されているというのだ。
「ポイ捨てなんてね」
「日本では顔を顰められるだけだけれどね」
 マナーはよくなくともそこで批判は終わりだ、だがシンガポールではなのだ。
「あそこは罰則が来るから」
「そこは注意しないと」
「そうしてね」
「向こうでも頑張れっていうんだよな」
「ええ、そうよ」
 くすりと笑ってだ、私は彼に答えた。
「その通りよ」
「暫く会えなくなるけれどね」
「また日本に戻ってくるでしょ」
 私はそのくすりとした笑みで彼に返した。
「そうでしょ」
「まあそれはね」
 その通りだとだ、彼も私に笑って答えてくる。
「二年だよ」
「そう、じゃあ二年経ったらね」
「日本に戻ってくるよ」
 この国にだというのだ。
「そうするよ」
「そうよね、時々でも戻ってくるでしょ」
「そのつもりだよ」
 やっぱり祖国が一番落ち着く、それでだというのだ。
「休暇になればね」
「そうするといいわ、それで一人で行くのかしら」
「まだ結婚していないからね」
 彼はこのことは残念そうに笑って答えた。
「だからね」
「もう結婚したら?」
 私は彼のその整っていると言っていい顔を見てこう言った。
「そうしたら?」
「相手がいないよ」
 彼はその残念そうな笑顔で私にまた答えた。
「それはね」
「そう、それじゃあ仕方ないわね」
「全くね」
 私は男性には興味がない、所謂レズビアンだ。だから彼にも心を動かされることはない。いい男だとは思っていても。
 彼もそのことはわかっている、だから私とこうして一緒に飲んで友人として付き合っているのだ。 
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