鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α
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勝手に25巻(にあたる部分) 第一話
前書き
書きたいと思っていた第六話の続きです。タイトルは6.5話、若しくは七話でも良かったのですが途中に別のが挟まっているのでこうしてみました。
25巻で出たあの後日談は全く納得がいくものじゃなかった。
「なら、自分で書くしかないじゃない」 (CV.水橋かおり)
ということで勝手に24巻、第六話の途中から始まります。当たり前ですが読んでいること前提です。
当然原作24、25巻の内容は基本的に無視されます。
更にやっぱりレイフォンは端役です。
主人公ニーナ、相棒クララな感じで進みます。 注・あくまで友人であり百合な方向とは一切関係ありません。
話し方が変だと感じられる場合があると思います、ので脳内変換してください。
以上の事を踏まえてオッケーな方は御覧下さい。
「まあ急がなくても今日明日にどうこうなるって事はないわよ。五年から十年位ならもつでしょうね。ただ崩れる時は一気にいくと思うわ」
「何でだ、普通ゆっくりとガタがくるもんじゃないのか」
「理由は簡単よ。サヤ自体緊急避難程度のものだもの、元々しっかりした造りじゃないのよ」
そう、サヤとはあるアルケミストが造り出したオーロラフィールド内に大地を形成する装置『楽土』、亜空間が崩壊した際に落ちた人間を救うため一時的な場所を確保するために造られたものだ。
そのため本来の姿などというものはなく現在の姿はオーロラフィールド内で出会ったアイレインの願望が反映されているだけにすぎない。
閑話休題、あくまでも一時的であり他の場所へ移ることを前提としているため、恒久的な使用に耐えることはできない。そもそも亜空間自体壊れないとされていたものだったのだからそれよりも簡易な造りであるサヤがそれほど保つ筈がない。
「それに実際の所もう寿命を迎えているのよ、この世界は」
ならばなぜ今世界があるのか、皆が疑問を浮かべる。
「それはアインのおかげね、サヤを護るっていう能力が壊れたところを月の姿で直してたのよ」
「だったら今のままでも問題ないんじゃないの」
「何を聞いていたの、世界全体にその力が及んでいたのは月として俯瞰していたからよ。個人に戻った今、全体をカバー出来る訳ないわ。あ、別にサヤ自体がどうこうなる訳じゃないからアインは心配しなくてもいいのよ、ただこの世界が維持できなくなるだけだしサヤの周辺だけなら十分に可能だから」
「だったら急いで代理を立てないと駄目なんじゃ」
皆の視線がニーナに向く。だがそれを止める声もあった。
「今そんなことをしたら大変よ、電子精霊がいなくなるってことを考えてみなさいな」
電子精霊とはレギオスの核というべき存在で都市の環境や移動といったものを一手に引き受けている。それがいなくなるということは……。
「私達って汚染物質で丸焼け?」
「まあ、濃度も下がってきているからこんがりとはいかないでしょうね。外だけの生焼けってとこかしら、死ぬレベルであることは変わらないわね。それにレギオスを無くしてどうやって生活する気、まさか荒れ果てた大地で明日から食べ物が採れるとは思ってないでしょうね」
その場にいたのは戦闘に特化した者ばかりであるがエルミの言葉を理解できないようは者はいない。その深刻さに一部の者は頭を抱えるが解決策など出てこない。ちなみに残りの者は始めから自分の範疇ではないと考えるつもりもない。
「残りの汚染物質にしても段々濃度は下がるだろうから、あんたたちであとはなんとかしなさい」
そう言うと黒猫はニャオ、と一声鳴くと何処かへ去ろうとする。
「待ってくれ、あなたは協力してくれないのか」
「するわけないでしょ、私は科学者よ。興味のないことはどうでもいいことで何かをする気なんて起きやしないわよ」
そう言い捨てると何処かへと消えていった。
次に動いたのはアイレインとサヤだ。二人とも半壊したグレンダンに向かって歩き始める。
「ねぇ、あんたらには何か考えはないわけ?」
「ありません」
「無いな、俺たちにできるのは少しでも長くこの世界を保っことだけだ。とは言ってもエルミがいうにはサヤが維持できるのはあと少ししかないようだがな」
「そう、それじゃあの娘はどうなのかしら」
辺りに並ぶ顔を見回すが探している顔はない。
「えーっと、あんた……」
「ニーナです、ニーナ・アントーク」
出ない名前を横からエルスマウが補足する。
「そうそうニーナだったわね。あんたが話してたあの女の子は何か知らないかしら」
「あんなかわいこちゃんを俺が見逃すなんて」
いつの間にか姿を消したニルフィリア。それも当然で、彼女がその他大勢と思っている者達と群れることなどあり得ない。
また、トロイアットが残念がっているが相手にする者はいない。
「ニルフィリアですか、私も詳しくは知りませんが恐らく手は出さないと思います。少なくともこの件には」
「だろうな、それにニルは自分にしか従わない。何かさせようとしても無理だぞ」
アイレインからも同じ内容が差し出される。
「随分詳しいみたいだけどあんたら知り合いなの?」
「そりゃそうさ。ニルは俺の妹だからな」
静かな驚愕がその場を支配する。いかつい男と絶世の美少女が兄妹だなんて。
「アイン」
「ん、ああそうか。もうじきサヤの力も消えるからさっさと自分達の都市に戻った方がいいんじゃないか」
「何故なんです、まだ大丈夫だとさっき言っていたではありませんか」
「あー、いや違う。今汚染物質……だったか、それを遠ざけているサヤの領域が解けるだけだ。眠るからな」
「そう、じゃあ引き上げるわよ。クララあんたはどうする、帰ってきてもいいのよ」
何かを期待する光がアルシェイラの瞳に灯る。
「いえ、せっかくですからツェルニを卒業してから帰りますので」
悪い予感がしたのか額に若干汗を滲ませながらの答えるがそれは正しかったようで少し残念そうなアルシェイラ。
「レイフォン、あんたは」
「僕は皆が心配なので一度グレンダンに、ツェルニにはその後戻ります」
「そっそれじゃ今の話、大事なことだけでいいから周りの都市に伝えといてよ。細かい事はどうでもいいわ」
「わかっております、陛下」
そんなグレンダン出身者の横でニーナも一つの動きをしていた。
「メルニスク、アーマドゥーン、ジシャーレ、テントリウム、ファライソダム」
呼ぶ声に応えて五体の電子精霊が姿を現す。
「お前たちはどうする、とりあえずの危機は去った。いずれ私と共になるかもしれないが、もう私に力を貸さねばならない理由もない。自由にして構わないのだ。これまで私の力になってくれた事に礼をいう」
最初に動いたのは雄々しき角を持つ雄山羊の姿をした廃貴族、メルニスクだった。この中でニーナと最も長い間共にいる電子精霊でもある。
『我は汝を主と誓った。それを破棄させることは何人たりとも、主といえども出来ぬ。我が誓い終わる時あらばそれは我か汝かが滅する時のみ、だが汝が滅せし時は我もまた滅する時ぞ』
重々しく述べるとニーナの前に頭が地につくほど深く下げる。
頭を上げるとニーナと眼を合わせ、不意に消え去る。ニーナの中に戻ったのだ。
「有り難う。これからも頼むぞ、メルニスク」
それに応えるようにニーナの中でメルニスクが一つ大きく脈打つ。
続いたのは の姿をしたアーマドゥーン。大祖父から受け継いだ四体のなかでリーダー格だと思われる個体だ。
『私たちはあの人からあなたに受け継がれました。今、貴女を主とすることに異存などありせん。私たちはあなたの道が終わる時まで共にありましょう』
小さく礼をとるとそのまま消える。他の三体もそれぞれに礼をとると消える。皆、ニーナの中に入っていったのだ。
「それじゃニーナ、私たちも戻りますよ。陛下たちはもう戻って後は私たちだけです」
それに辺りを見回すと言葉通りいるのは自分とクララだけでグレンダンに戻る者は遥か遠くにいる。
「ん、あの二人もグレンダンに行くのか。それにしてもレイフォンの奴、一言くらいあってもいいだろうに」
「あの二人はグレンダンの奥の院、サヤさんがいたところに入るそうですよ。それとレイフォンは仕方ないでしょう」
「何故だ?」
「あれだけ重々しい雰囲気で話をしてるのに横から口を挟めるもんですか。でなけりゃちゃんと一言あったと思いますよ。ってだから早く戻りますよ、途中で切れて汚染物質に焼かれるのなんて私は御免ですから」
グレンダンよりツェルニのほうが遠い、二人とも剄で強化して道を急ぐ。
周囲に集まってきていた都市群もそれぞれもといた場所へ戻ろうと動き出している。ツェルニも当然同様の動きをとっており次第に遠ざかっていく。ちなみに動いていないのはもとからこの場所にいて、なおかつ都市の壊れっぷりが尋常でないため動けないグレンダンだけである。
ニーナもクララも並を遥かに超えた武芸者であり、都市の移動速度を超えた速度を実現出来るのですぐに追い付くことができた。
二人がツェルニの外縁部に着地するとそれを待っていたかのように背後に存在していたサヤの領域が解けるのを感じた。
「ふー、間一髪ってところですか。まあ実際はなんとか待っていてくれたんでしょうけど」
「だろうな」
クララの漏らした感想にニーナも同意する。何だかんだと言って彼らは待ってくれそうな気がしたのだ。実際にはサヤの眠りは自分でコントロール出来ないので本当にギリギリだったのだが。
「さて、私は家に戻って一眠りしますけどニーナはどうします?」
「私は一度ツェルニに会いに行ってくる、それからだな」
「そうですか、ではここで別れるとしますけど覚悟しておいた方がいいですよ」
「ん、なにをだ?」
「武芸長への事情説明ですよ」
「それならクララ、お前も一緒だろう」
「ふふふ、私が誰で武芸長が誰だと思っているんですか」
「あなるほど、ってずるいだろうそれは」
グレンダンが三王家の一つ、ロンスマイア家の次期当主であり天剣授受者でもあるクララに対し、ゴルネオが強く出られない可能性は容易に想像がついた。
「まあこれも一種の役得ってやつですよ。でもきっとグレンダンの、女王陛下の決定だとでも言えば簡単にすむと思いますよ」
釈然としないながらもクララと別れある意味通いなれた機関部へ、そしてその中枢へと歩を進める。
中心部に他の学生の影がないことは予想通りだったが予想外の事もあった。
童女の姿をした電子精霊・ツェルニの他に夜色の少女、ニルフィリアの姿があった。
「なぜお前がここにいる」
別に敵意の類いを抱くわけではないが、何を考えているのかわからない、そしてその周囲を引きずり込む魔性の魅力といえるものには警戒をせざるを得ない。
「言わなかったかしら、私にとってこの世界で価値があるのはツェルニだけだって。ツェルニにはなにもしやしないわ」
ニーナが警戒しているのを見抜いているようにで嘲笑うかのように告げる。
ただツェルニに手出ししないというのは本当でもそれは電子精霊としてのツェルニであって都市としてのツェルニではない。
「そういえばあなた、あいつと縁があったわよね」
「先輩のことか」
「そうよ、これでもあげるわ」
二人の間に共通の話題になる事と言えばツェルニかディックの事ぐらいだ。逆にディックの事を話してわかるのもこの二人とアイレインくらいのものだが。
そういって投げて寄越したものを反射的に受けとめる。何かと思うとそれは待機状態の錬金鋼だった。訳のわからないニーナに衝撃的な言葉が降りかかる。
「あいつが使っていたのと同じ物、形見みたいなものよ」
「何故先輩の錬金鋼を貴様が持っている」
「私が与えたからよ、あなただってツェルニに貰ったでしょう。あなたはツェルニの好意で、あいつは私が犬として拾った程度の違いでしかないわ」
グレンダンでツェルニからメルニスクの剄にも耐えられる錬金鋼を与えられたニーナ、かつてメルニスクでニルフィリアによって牙と鎖を与えられたディクセリオ。
この一致と不一致は、そしてメルニスクが介在するということは何かの偶然か、それとも必然だったのか。
真実どちらであるかは分からないが、人はそれを運命とも呼ぶものである。
「それじゃツェルニ、また来るかもしれないわ」
ニルフィリアに闇が纏わりつき次第にその色を濃くし、その姿を埋没させていく。
「待て、これからお前はどうする気だ」
「それはあなたには関係無いことよ。それはあなたにあげたから使うなり捨てるなり好きにすればいいわ」
それを最後にニルフィリアが消える。
「ツェルニ、彼女は放っておいて大丈夫なのか」
耳からでなく頭の中に直接ツェルニの声が響いてきた。
『彼女は自分に正直な人、誰も彼女を制することはできません。ですが大丈夫、私は彼女を信じています』
そう常のように春の日差しのような暖かな微笑みを浮かべるのだった。
「そうか、ならば私はなにも言うまい。それよりもあれでよかったのか」
ツェルニのニルフィリアに対する考えを疑ってもしょうがないことである。そんなことよりこの結末にたいしてツェルニがどう思っているかの方が気になる。
『私はニーナ達が自分の思いのままに出来たのならそれでいいの』
大事なのはツェルニに住む者達がそれぞれの意思を全うできるかだという。
人を育てる学園都市の電子精霊にふさわしい言葉である。
「それならば問題は無いが……」
「見つけましたよ隊長」
「フェリか、どうした?」
いつもの花弁状の形をした念威端子が頭上に浮かんでいた。
「呼び出しです、生徒会長室まで来てください」
「やれやれ、仕方ない。また来る」
ツェルニの笑顔に送られて機関部を出たニーナが生徒会長室につくと会長であるサラミヤ・ミルケに加えて副会長のレウ・マーシュ、武芸長であるゴルネオ・ルッケンスのみならずクララまでがいた。
「それでなんの為に私を呼んだのでしょうか?」
「そんなもの決まっている。さっきの戦いの顛末を聞くためだ」
「だぁかぁらぁ、エルスマウさんから話がきている筈ですよね」
「確かにキュアンティス卿からの情報もあるが、だからといって実際に出ていたお前達の話を聞かんわけにはいかないだろう」
「ならいいじゃないですか。それとも陛下や私の言っていることが信じられないとでも」
チラッと天剣を見せる。グレンダンの女王と三王家の一つロンスマイア家の跡取りにして天剣授受者である自分の言葉に疑いがあるのか、と。
口調こそ軽いがグレンダンの人間にとっては殆ど立派な脅迫である。
だが。
「確かにグレンダンであればそれでよいのですがクラリーベル様、ここはツェルニです。それでは誰も納得出来ません。私も学生とはいえ武芸長としてこの都市に対する責任があります。はい、分かりましたとは申せません」
目論見を真っ向からねじ伏せるゴルネオの正論にぐうの音も出ないクララ。
「分かりましたよ、それでエルスマウさんからはどんな風に聞いてるんです」
ゴルネオが主として、レウが時々補足しながら聞いたことを伝えていく。
「それで全部ですよ。そのうちレギオスが動きを止めて代わりに外の汚染物質も無くなる。だからそれに備えましょうって事です。理由ですか、そんなもの知りませんよ、私が何かするんじゃないんで」
結局のところ伝えられていた以上の事はクララ達にも分からない事だったのでゴルネオらにしても目新しい事はなかった。
「では会長、武芸科はこれまで通り汚染獣に備えるとして他の科はこれからの問題に対しての解決を図る、という事でいいな」
「え、えぇっ」
いきなり話を振られ狼狽えるサラミヤが横にいるレウに助けを求めるように降りあおぐ。
「う、うん。じゃそういう事でいきましょう」
小さく頷かれると勢い込んで答える。若干不安に思ったニーナがレウに視線を送ると諦めを含んではいるが頷かれたので安心して視線を戻す。
それで解散かと思われたがそうではなかった。
「一ついいか」
帰ろうとソファーから立ち上がりかけたニーナとクララをゴルネオが呼び止める。
「私事で済まないが兄さん、サヴァリス・ルッケンスはどうしたのですか?」
「先程の戦い、見ていたのでしょう。ならわかるはずですよね」
「ですが怪我をしていてということも」
暗に言うクララに信じたくないのか言葉を継ぐゴルネオ。
「ならはっきりと言いましょう。亡くなりましたよ、サヴァリス様は。サヴァリス様だけでなくあなたの知っている天剣であの場にいなかった方、全員がですけどね」
それを聞いた瞬間、ゴルネオの顔から血の気がすべて失せた。
それも当然だとクララは思う。グレンダンの者であれば天剣の絶対性を信じているし、身近に天剣がいる武芸者であればその力が強力無比であることを理解しているからだ。
ゴルネオもサヴァリスという兄によってその辺りの事をよく理解している。なればこそ自分の兄が、多くの天剣が死亡したことが信じられないし信じたくもないのだ。だが現実が変わる筈もなくまたゴルネオも呆けている事を許されない立場に居たせいか戻るのも早かった。
「そうか、兄さんは最期どうだったのか知っているか」
「何がよかったのか私には解りませんけどとても愉しそうでしたよ。あの戦いの間中ずっと」
「教えてくれたこと、感謝する」
そう言うと速足に部屋を出ていった。それを見送った後、ニーナ達も帰路についた。
「全くなんで私が全部説明する羽目になっちゃうんですか」
途中クララがニーナに愚痴る。自分の立場を利用して楽に済ませようとしていたのに、である。
「同じ都市出身の方が通じやすいしクララには立派な地位もあるからな、というか逆に立場を強調したせいじゃないのか」
「あー、やっぱりそう思います? 予想してなかったと言えば嘘になりますけど、楽に済ませるにはそれが一番だと思ったんですよ」
「いや、それよりも私に押し付ければよかったんじゃないのか。一応私が先輩なんだからな」
ハッとしたように固まるクララ、完全に考えの範囲外だったようだ。そのまま進むニーナに我にかえったクララが悔しそうにしながら追い付く。
そしてそれを愚痴るクララと宥めるニーナは共に寮への道を歩んでいった。
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