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万華鏡

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第六十二話 快勝その六

「よかったのよね」
「だからシリーズでもな」
 無論この一戦でもだというのだ。
「是非な」
「そうね、チャンスを作って」
「そのチャンスを活かしてくれたら」
「今だってね」
「勝ってくれるよ」
 他の三人も周囲の言葉で頷く、そしてだった。
 試合を観ていく、すると。
 三番バッターは四球で歩いた、曲がりなりにもこのシリーズではじめてのランナーだ。このランナーをどうするかだった。
 四番が入る、ここで景子がこう言った。
「若しもね」
「ホームラン出たらよね」
「そう、そうしたらね」
 希望をだ、ここで言い琴乃も言う。
「二点、大きいわよ」
「今シーズンの阪神だと二点あったらね」
「結構勝ててるわ」
 そうなってきた、だからだというのだ。
「今の先発だってね」
「防御率いいからね」
 それでだというのだ、二点入ればだ。
「大きいわよ」
「その二点で勝てるわよね」
「一点で勝てなくても」
 それでもだというのだ。
「二点あればね」
「大きいわよ」
 彩夏は確かな声で言いつつ試合を観ている。主砲がバッターボックスに入ると観客席のボルテージが一気に上がる。
 そのボルテージはテレビからも伝わる、それでだった。
 彩夏は固唾を飲んだ、そのうえでまた言った。
「打って欲しいわね」
「そうよね」
「二点入れば」
「この試合の流れを掴めて」
「シリーズ自体もね」
 シリーズ全体に関わることだというのだ。
「阪神に傾くから」
「二点入れば」
 琴乃だけではない、彩夏もだ。無論他の三人も今ここで二点入れば試合もシリーズも流れは大きく阪神に傾くとわかっていた、それだけにだった。
 今の打席を観る、そして。
 一球目はシュートだった、だがそのシュートは。
 打たなかった、あっさりと見送りストライクになった。
 そのシュートを観てだ、里香が言った。
「いいシュートね」
「速いわね」
 彩夏も頷いた、そのシュートを観て。
「高速シュートっていうのよね」
「そうね、あのシュートはね」
「高速スライダーも凄いボールだけれど」
 鉄腕と呼ばれた稲尾和久が投げていた、他には伊藤智久が有名である。文字通り普通のスライダーよりも速い。キレもいいと言われている。
「高速シュートもね」
「違うから」
 だからだというのだ。
「打ちにくいわよ」
「左バッターの胸元に刺さるみたいね」
「そうね、本当に」
 そこまでの威力があったというのだ。
「あれはね」
「そうね、あれを打つことは」
「難しいわ」
 こう言うのだった。 
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