万華鏡
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第六十二話 快勝その五
「今の阪神はダイナマイト打線だから絶対に」
「ちょっときっかけがあればね」
「打ってくれるわ」
例年と違いだ、そうしてくれるというのだ。
「ほんの少しでもいいから」
「フォアボールでもな」
美優も言う、飲みながらも画面から目を離さずに。
「出て欲しいよな」
「そう、四球一つでもね」
まさにそれでもだとだ、里香は美優にも話した。
「野球の流れって変わったりするでしょ」
「ああ、ちょっとのことでもな」
「だからね、今はね」
「誰か出てくれたらな」
「この人が出てくれたら」
今打席に立っている三番バッターを見ての言葉だ。
「それだけで緊張がほぐれるから」
「本当に最初だよな」
「今は緊張し過ぎよ」
今年は打ってくれたダイナマイト打線でもだというのだ、尚ダイナマイト打線は阪神の看板だが巨人にはこうした看板はない。何でも自称『史上最強』打線とかいう何処かの世襲制の共産主義国家の誇大宣伝の様な滑稽かつ荒唐無稽な打線名を吹聴していた時期があったらしいが。
「これじゃあね」
「よくないよな」
「誰か」
本当にだ、切実な言葉だった。
「ランナーの一人、それでね」
「一点だよな」
「そう、一点が入れば」
その一点がだというのだ。
「流れを作ってくれるわ」
「先制点だと余計によね」
琴乃も言う。
「そうなるわよね」
「うん、一点が」
大きいというのだ。
「今はね」
「どうかしら、この人」
琴乃は三番バッターを見つつ心配そうに言った。
「出てくれるかしら」
「ツーボールね」
ワンストライクでだった。
「今は」
「そうね、いいカウントだけれど」
「ここで下手に手を出したら」
変なボールにだ。
「それで終わりだからね」
「凡打でね」
「それだけはね」
して欲しくないというのだ。
「去年までの展開は」
「本当に去年まではなあ」
美優も苦笑いで言うことだった、このことは。
「チャンスになるとな」
「チャンスにするまでも大変なのに」
阪神の場合はそうであるから余計に辛いと言える、中々ランナーが出ないのだ。そして得点圏にランナーを進めることもだ。
「それでもやっとのことが」
「あっさりだったからな」
凡打で終わりだったというのだ。
「ツーアウトだと三振でな」
「そうそう」
そうなるというのだ、琴乃は美優に応えて言う。
「そうなってたから」
「けれど今年はな」
「全体的につながりよかったからね」
阪神にとっては奇跡的にだ。
「フォアボールで出てもね」
「そこから確実に得点圏までランナーを進めてな」
「堅実に打ってくれて」
得点を重ねていたというのだ。
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