万華鏡
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第六十二話 快勝その一
第六十二話 快勝
阪神とロッテの日本シリーズがはじまった、プラネッツの五人はこの日は里香の家に集まってそのうえでだった。
酒やつまみをありったけ出してだ、テレビの前に集まっている。服装はもう何時寝ても言い様にパジャマである。風呂にも入っている。
その五人にだ、里香の母が後ろから言った。
「いよいよね」
「うん、いよいよね」
里香は笑顔で自分の母親に返す、その手にはもう蓋を開けてあるカクテルの缶がある。それを手にして母に言うのだ。
「プレーボールね」
「ロッテね、相手は」
「今度こそ勝ちたいわよね」
「注意して欲しいわね」
母は娘に切実な声で言った。
「ロッテとの試合はね」
「そうよね、ロッテはね」
「変な時に強いから」
里香の母も言ったことだった。
「気をつけないと」
「前はね」
里香はまだグラウンドだけを映しているテレビ画面を見ている。そのうえでの言葉だった。
「散々だったから」
「思い出したくないわ、けれどね」
「それでもよね」
「今度は勝って欲しいわ」
母も言うことだった、しかしだった。
今度は娘にだ、こう言うのだった。
「試合が終わったらね」
「うん、そうしたらよね」
「早く寝るのよ」
このことを言うことも忘れなかった。
「夜更かしは身体によくないわよ」
「そうよね、だからね」
「そう、十二時までね」
その時までにだというのだ。
「寝なさいね」
「そうした方がいいわよね」
「学校もあるから」
だから余計にだというのである。やはり母親の言葉だ。
「勝っても負けてもその時までに寝るのよ」
「わかったわ、お母さん」
里香は素直な娘だ、だから母の言葉に真面目に頷いて答えた。
「十二時になったらね」
「寝るのよ。ただね」
「ただ?」
「お酒は飲んでもいいから」
その量は気にしなくていいというのだ。
「それはね」
「これはいいのね」
「ええ、急性アルコール中毒にならない位にはね」
飲んでもいいというのだ。
「別にね」
「そうね、それじゃあね」
「楽しんで観るのよ」
阪神とロッテの試合をだ、そしてだった。
母は娘の前から自分の部屋に向かう、プラネッツの面々はその彼女にこう言った。
「じゃあおばさんちょっと今日はお邪魔します」
「お泊まりさせてもらいます」
「楽しんでね」
五人にはこう言うのだった。
「今日もね」
「はい、そうさせてもらいます」
「それじゃあ」
多くは言わなかった、それだけ彼女達をわかっていて安心しているからだ。だから特に何も言わずにであった。
母は自分の部屋に入った、残るは五人になったがここでだった。
美優は冷奴の入った皿を里香に差し出しながらこう尋ねた。
「親父さんは今日は」
「うん、お仕事でね」
それでだというのだ。
「帰らないの」
「当直か」
「そうなの、多分何もなかったらね」
急患や不測の事態がなければというのだ。
「お父さんも試合観てると思うわ、病院でね」
「何もないといいな」
「そうよね、中々そうはいかないけれど」
患者も待ってはくれない、だからこそ医者という仕事も多忙なのだ。
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