ストライク・ザ・ブラッド~魔界城の主~
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04:御転婆王女は腹黒い
「……あんたがお姫様だってのは本当らしいな……」
「はい」
「それに魔城兄の婚約者だってのも」
「はい、もちろんです」
「いやいやいやいや!だから違いますってば!」
古城の言葉に反応したラ・フォリアの言葉を、全力で否定する魔城。
ラ・フォリアの父親である、アルディギア王国国王、ルーカス・リハヴァイン卿は愛娘を溺愛しており、絶対に嫁には出さないと公言しているほどの親馬鹿である。「もし娘が欲しいのであればアルディギアえりすぐりの兵士たちが相手となろう。それに勝つことができるのであればかかってこいや」、だそうだ。
いくらラ・フォリアのいたずらだと言っても、こんな話をルーカス王に聞かれたら魔城の命がいくら不死でも足りたものではない。死ねないけど。
まぁ、実際のところ、魔城が本気を出せばアルディギア王国の全国民が束になってかかってきても無傷で殲滅させることが可能だろう。本来の魔城にはそれだけの力がある。だが、可能ならばそれはしたくない。魔城にとって、アルディギアは第二の故郷と言ってもいいのだ。
つまり何が言いたいかというと――――
「とりあえずその悪ふざけをやめてください。ルーカス王に怒られます。僕はアルディギアを沈めたくありません」
「あら、本気でお父様と戦う覚悟はあるのですね?」
「……」
駄目だった。無理だった。ラ・フォリア・リハヴァインを止めるのは、暁魔城には不可能であった。恐らくこの少女にかかれば、どれだけほころびを作らないように選ばれた言葉からも、容易に上げ足をとることができるのではないだろうか。まぁ、今の魔城の発言はそこまで注意した物ではなかったのだが。
「大体古城も、ラ・フォリアの悪ふざけに乗るのはやめてくれ」
「いや、だって……狼狽する魔城兄見れるの超珍しいし」
そう言ってにやにや笑う古城。なんだか弟のキャラが変わってきている気がするのだが。
「と、とにかく、これで一通り全員の身分がはっきりしましたね」
いつの間にか制服に着替え直していた雪菜が、場を取り持とうと声を上げる。それに答えて、古城が頷いた。
「ああ。まさか魔城兄がそんなに強い吸血鬼だとは思ってなかったけど……《番外真祖》、か……」
魔城はあはは、と苦笑するしかない。
そう、魔城の背負う肩書、《番外真祖》が古城にばれたのだ。まぁ、ユグドラシルを使って、一撃でオートマタを沈めたりしたら、そりゃぁぜんぜん《無害》じゃないよねぇ、と自分でも反省するしかないのだが。
因みに魔城が古城が第四真祖であることを知っている、ということもばれた。
「で?あんたのことはなんて呼べばいいんだ?殿下でいいのか?」
古城はラ・フォリアに向かって問う。
すると彼女は、どこか不機嫌そうな、少しムッとした浮かべて、答えた。
「ラ・フォリア、です。王女も妃殿下も姫様も、全部聞き飽きました。親しい人にはラ・フォリア、と呼んでほしいのです。あなたもですよ、雪菜」
「え……でも」
雪菜がびっくりしたように反論する。確か彼女は一応政府機関の一員だったはずだ。一介の臣民が王女を呼び捨てにするなどというなれなれしい距離感には抵抗があるのだろう。
だが、その対応は間違っていることを、魔城はよく知っている。
ラ・フォリアが、今度は打って変わっていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「そうですか。では、愛称なんてどうでしょう?わたくし、これでも日本の文化には詳しいのですよ。そうですね――――フォリりん、なんてどうですか?」
「さっきから聞いていれば、一体何をほざいてるんですかあなたは」
魔城は思わず、ゴスッとラ・フォリアの頭をたたく。ラ・フォリアはむっ、とした表情を、今度は魔城に向けてきた。
まぁ、仕方ないだろう。小国の、とはいえ、一国の王女であるラ・フォリアには近しい友達という者が魔城以外にいない。魔城も臣民としての態度をとるので、いつの間にか彼女にはフラストレーションがたまっていたのだろう。
「……それでは、僭越ながらご尊名を呼ばせて頂きます、ラ・フォリア」
「そうですか?分かりました」
諦めたような表情を浮かべる雪菜と、ちょっと残念そうな顔を浮かべるラ・フォリア。
「で、ラ・フォリアと魔城兄は、何でこんなところに?」
「僕は成り行きというか、なんだけど……」
「……わたくしの乗っていたアルディギアの航空船が、絃神島に向かう途中に撃墜されたのです」
「げ、撃墜!?」
ラ・フォリアはさらりと答える。驚いたのは古城達のほうである。当然だ。船が撃墜されるという異常事態もさることながら、それをあっさりと何事もなかったのように言うラ・フォリアにもびっくりだ。おそらく、その程度は日常茶飯事なのだろう。魔城兄も手を焼いてるなぁ、と、古城は内心呟いた。
「ひょっとして、それを行ったのが……?」
「そう、メイガスクラフトだ」
魔城が回答する。
「恐らくねらいは、ラ・フォリアの体――――アルディギア王家の血筋だ」
「な、何でそんなモノを……?」
「アルディギア王家の者、特に女子は、例外なく強力な霊媒の性質をもっているのです」
古城の疑問には、今度はラ・フォリア自身が回答する。
霊媒、というのは要するに巫女や神官のことだ。体内に保有する魔力の量と質は、その質が高ければ高いほど巨大に、強力になっていく。
雪菜もまた、獅子王機関から派遣されてきた巫女だ。古城の眷獣の覚醒にも一役買っている彼女の魔力が相当な質をもっているのは理解しているが、そんな彼女でも誰かから狙われたり、という事は、今のところない。つまり、ラ・フォリアの――――ひいてはアルディギア王家の霊媒の質は、ちょっと想像を絶する高さ、という事なのだろう。
「メイガスクラフトに雇われている叶瀬賢生は、かつてアルディギアの宮廷魔導士として活動していました。彼の研究していた魔術の多くは、その経歴故、多くが強力な霊媒を必要とします。それも、アルディギア王家のそれのような。だから、危険を冒してまでわたくしを攫おうとしたのでしょう」
「叶瀬賢生って……もしかして叶瀬夏音の義理の父親の?」
その名前に聞き覚えのあった古城は思わず息をのむ。
「知っているのかい?古城」
問うたのは魔城だ。古城はうなずき、
「ああ。そもそもここに来たのが、そいつを追って、だったんだが……なぁ、ラ・フォリア。あんたと叶瀬夏音とあんたは、いったいどういう関係なんだ?いくらなんでも、あんたたち似すぎだろ」
東洋人には西洋人の、西洋人には東洋人の顔の見分けがつきにくい、というが、それを差し引いてもラ・フォリアと夏音は瓜二つである、と形容できた。
それを語るのをためらっているのか、沈黙してしまったラ・フォリアの代わりに、ゆっくりと口を開いたのは魔城だった。
「古城、できれば公になるまでは触れ回ったりしないでほしいんだけど……夏音さんの父親はね、ラ・フォリアの御祖父さん、つまり先代国王なんだ」
「な……」
「祖父が十五年前、アルディギアに住んでいた日本人の女性との間につくった子供が夏音です。母親は出産直後に、祖父に迷惑をかけまいと日本に帰京したそうです。彼女のために祖父が立てたのが――――」
「あの修道院、という事なんですね……」
そうか、と、古城の中で納得がいった。
となると、夏音はあの修道院で、実の母親とともに暮らしていたのかもしれない。夏音は両親を知らない、と言っていたが、もしかしたら彼女の母親は、ずっと近くで、彼女のことを見守っていたのかもしれない――――と、心温まる感傷に浸りかけたところで、古城は事の重大さを思い出した。
「ちょっと待て!?先代国王が父親ってことは、叶瀬は――――」
「私の叔母、という事になりますね。王位継承権はありませんが、それでも王族の一員であることに代わりはありません。先日、祖父の重鎮だった大臣が他界しまして、彼の遺言で夏音の存在が明らかになりました。祖父が逃亡し、祖母は怒り狂っ……いえ、王宮は少々混乱しています。ですが、夏音をこのまま放っておくわけにもいきません」
「…………うん」
珍しく弱気なため息をつくラ・フォリアの後ろで、魔城があさっての方向を見る。どうやら今の話に、どこか心当たりがある節があったらしい。もしかしたら、その先代国王の逃亡とやらに手を貸したのかもしれない。そう言えば少し前、夜中に魔城が誰かと電話しているのを聞いた。あれだったのか……?
とにかく。
「だからあんたは、絃神島に行こうとしてたんだな……?」
「ええ。祖父の名代として、私が叶瀬夏音を迎えに行く予定でした」
思い当たる節があった。先日紗矢華から連絡があった時に、アルディギアの要人にトラブルがあった、という話をしていたのだ。
「煌坂が言ってたのはあんたのことだったんだな」
「煌坂紗矢華、ですね。第四真祖の情夫の一人の」
「は?」
その瞬間、ラ・フォリアは今までの沈痛そうな表情から、一変していたずらっぽい表情に戻った。
「……情婦?」
「彼女は第四真祖の愛人の一人、と聞きました。愛欲にまみれた卑猥な関係だと」
ぐほっ、と急き込んだのは、古城だけでなく魔城もだった。
「んなわけあるか!!」
「ラ・フォリア!そんなみだらな言葉使っちゃいけません!」
お母さんか、と心の中で突込みを入れておいて、古城はラ・フォリアへの糾弾に戻った。
「大体、そんな無責任な噂、だれがあんたに教えた!?」
「ディミトリエ・ヴァトラーです。戦王領域の貴族の」
「ああああの男はァ……っていうか何であんたがあいつと知り合いなんだよ!」
その言葉に答えたのは、ラ・フォリアではなく立ち直った魔城だった。
「……アルディギアと《戦王領域》は国交が盛んなんだ。その国境を共有しているのがディミトリエ・ヴァトラー公爵のアルデアル領、ってワケさ……アルディギアが親魔族派国家なのは、彼のおかげ、と言っても過言じゃないかもね」
あのはた迷惑な蛇遣いは、古城の知らないところで、実はなかなか良いことをしいてたらしい。一概に迷惑な奴とは言えないのかもしれない。というか、優秀でなければ一国の主などやっていけていないだろう。
「か、叶瀬賢正の魔術には、アルディギア王族の力が必要だ、とおっしゃいましたが……」
その場を取り持とうと、雪菜が声を上げる。今回はこんな役回りばっかりだ。
「五年前、夏音の住んでいた修道院で起こった事故のことは、私も聞いています。恐らく、彼女が無自覚のうちに霊媒の力を解放してしまったのでしょう。それをきっかけに、賢生は夏音の正体を知ったのだと思います」
では――――では、叶瀬賢生は。
「魔術の触媒にするために、叶瀬を引き取ったのか……」
叶瀬親子の関係については、古城の最悪の予想が当たってしまったらしい。
「古城は知っているのですか?賢生の術式を」
「ああ――――俺が最後に見た時、叶瀬は怪物のみたいな姿になって、自分の同類と殺し合ってた」
「怪物……?もしかして、歪んだ天使、みたいな風貌の奴かい?」
「あ、ああ。知ってるのか?魔城兄」
古城が問うと、魔城は重々しくうなずいた。
「うん。ラ・フォリアの乗っていた船を堕としたのは、そいつだ。僕はそいつとの交戦中に弾き飛ばされて、この島の周辺に流れ着いた」
「そう、ですか……やはり、賢生は《模造天使》を」
「《模造天使》?」
聞きなれない、しかし確実に危険だ、と分かる禍々しい単語。それを反芻した古城に、ラ・フォリアはうなずいた。
「人に霊的な進化を引き起こすことで、より上位の存在へと生まれ変わらせようとする術式です。一種の《神格化》、と言った所でしょうか」
「《神格化》?あんな化け物みたいなのが、霊的存在だって言うのかよ……!?」
少なくとも古城が見た限り、その術式に支配された夏音は、全く霊的な高次元存在、ましてや《天使》等には見えなかった。むしろ怪物、悪魔の類だと言われた方がまだ納得できる。あれが霊的な進化だなどと、いったい誰が信じようか―――――――?
「……っ!」
「!」
その時だった。
魔城と雪菜が、同時に同じ方向を向いた。
「……どうしましたか?」
「船です」
ラ・フォリアの問いに、魔城が答える。
夜目の利く吸血鬼の視力を使って、雪菜の視線をたどると、その先には見覚えのある黒い艦が見えた。
「また自動人形かよ……!?」
古城はうんざりしながら呟いた。
オートマタが何度攻め込んで来ようと、古城と魔城の眷獣(魔城のそれはあの植物状のものしか見ていないが、実際のところ他にもいるのだろう)をもってすれば一瞬で片付けられる。
面倒くさいなぁ、と思いながら、古城が眷獣を召喚しようと構えると――――
「いえ、待ってください、先輩。あれは――――」
雪菜がそれを制止した。
その視線をたどった先にあるものを見て――――古城は、軽い眩暈を覚えた。
「何やってんだ、あいつら……?」
そこにいたのは――――無骨な船の看板に立った、二人の魔族。一人は大柄な美女。もう一人は無骨な男。古城達をはめてこの島へと送り届けた、ベアトリス・バスラーとロウ・キリシマだ。
問題は、彼らの手に持っているものだった。
そこには、真っ白い旗が、掲げられていた。
後書き
お久しぶりです、切り裂き姫の守護者です。今回は魔城兄の突込みが所々に入る以外原作通りでしたね。
……というか原作十巻に相当する《九曜の帝国編》までずっと原作沿いなんですが。つまんねー。七巻八巻あたりはオリジナルの話にするかな……。
次回も気長にお待ちください。
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