駄目親父としっかり娘の珍道中
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第57話 お話の黒幕ってのは大概冒頭で死んだ奴だったりする
前書き
前回のあらすじ
銀時 対 フェイト。銀時の勝ち!
それだけです。
辺りでは既に日が沈み、白い満月が江戸を照らす時刻になっていた。銀時達は先に向ったと思われる新八を追い、源外の待つ工房へと訪れていた。
だが、一同の予想とは裏腹に工房にはからくりを弄くる源外の姿しか居らず、其処に新八とたまの姿は見られなかった。
「新八? 来とらんぞ。今日は新八どころか人っ子一人来ちゃおらん」
「そんな筈ぁねぇ」
銀時が声を荒立てた。
「確かに新八は此処に向った筈なんだ」
「そうは言うがなぁ……本当に今日は誰も来とらんぞぉ。それよりもだ」
話題を変えるかの様に、源外は言葉を切り出した。
「お前等、大層やばい代物を拾ってきたそうじゃねぇか。何でも人を殺したカラクリだとかなぁ」
神経を逆撫でするかの様に源外は述べる。その言葉に銀時は否定はしなかった。真相は分からないが現状ではそうとしか言い様がないのだ。
「さっきからニュースでその話題で持ちきりだ。例のからくり、とっ捕まったらしいぜ」
「なにっ!!」
源外の言葉を受け、銀時、神楽の二名は驚く。捕まったとすれば恐らくそれは奉行所の連中だ。そして、先の襲撃から察するに今回の黒幕は奉行所内に居ると読んで間違いない。
その奉行所の連中にたまが捕まったとなれば、恐らく新八もまた―――
「銀ちゃん……」
「ちっ、先手を打たれたか―――」
心配そうな声を出す神楽の横で銀時は悔しそうに歯噛みした。まるで神経を逆撫でされた気分だった。
「源外さん、そのニュースって見られます?」
銀時と神楽の隣に立っていたフェイトが尋ねる。それに対し源外は少し向いただけでそのままからくりを弄り続けた。
「ちょっと待ってろ」
ぶっきらぼうにそう答え、再びからくりを弄りだす。それから数秒と経たない内にセットを終えた源外が退くと、其処にあったのはへんちくりんなカラクリが取り付けられたブラウン管型のテレビだった。
そのテレビには、例の林博士殺害事件並びに江戸内で起こったからくりメイド暴走事件に関する記者会見が行われていた。
フラッシュと共に記者達の止め処ない質問を受け流すかの様に淡々と答えているのは恰幅の良い男性だった。
侍特有のちょんまげを結っており口の回りには黒い髭が蓄えられている。
服装からしてかなり上の階級と見える。
「暴走したからくりを全部回収して、処分するってのか?」
「ふん、奴等の考えそうな事だ。やばい事は全部死人に押し付けて、美味しい部分だけ自分達でいただこうってんだからよぉ」
源外もニュースで語っている男性の言い分が気に入らなかったのだろう。その言葉には何処か苛立ちにも似た感情が感じられた。
「ま、どの道俺達にゃ関係のねぇこったな。下手人も捕まったし、暴れん坊のメイド達も今夜中にゃスクラップだ。これにて万々歳だな」
まるで他人事かの様に源外は呟いた。彼にとっては他人事で間違いないのだろう。
だが………
「泣いてたぜ。その下手人がよ」
「なんだと?」
「理由は分からねぇが、そのからくり。ボロボロと泣いてやがったぜ。心を持たないからくりだってのによぉ」
銀時は語った。例えからくりの目から流れた物だとしてもそれは間違いなく涙だったのだ。
その涙の意味を銀時は知る筈がない。只、ただ涙を流していたそのシーンが頭の中に焼きついていた。
「からくりが涙を……流山め、まだそんな物を作ってやがったのか」
「じいさん、あんた知り合いだったのか?」
「あぁ、昔な。だが仲が良いって訳じゃねぇ。言ってみりゃ腐れ縁って奴だよ」
そう言うなり源外はまたテレビを弄り始めた。弄りながらも源外は語っていく。
「見ての通り、俺のからくりはごつくてやぼったい代物だろうが、野郎の作るからくりはまるで生きた女の様な姿をしてるのが殆どだった。ボディではなく頭脳に大半の技術を費やす事で、まるで人間の様なからくりを作ったんだよ」
「けっ、何が人間の様なからくりだぁ。人間を作りたいんだったら嫁さんこしらえて毎晩腰振ってりゃポンポン出来んじゃねぇか」
耳を穿りながら呟く銀時。そんな銀時の後頭部に閃光の刃が突き刺さった。
「んでっ!」
「下品な話に振らないでくれない? 耳が腐ったらどうするつもりよ!」
後頭部を抑えて蹲る銀時の後ろで、とても冷めた目線でそれを睨むフェイトの姿があった。
まぁ、耳が腐るのとかどうのとかはどうでも良く、単に攻撃したかっただけなのだろう。
「てんめぇ、何すんだ! 痣とか出来たらどうすんだよ!」
「ならいっその事痣だらけにしようか? それとも風穴開けて欲しい?」
再度睨み会う両者。この二人が近くに居るとそれだけで喧嘩モードに入ってしまうようだ。
とりあえずフェイトの方がアルフが抑え込み、銀時は神楽の鉄拳でその場を収めるに至った。
「ま、世の中全部が俺やお前みたいに乾いた連中だけじゃねぇってこったなぁ」
「どう言うこったぁ?」
「野郎が変わっちまったのは一人娘が死んじまってからだ。奴は人間の感情をデータ化する技術を完成させてな、その実験台に用いたのが事もあろうに自分の娘だったって訳だよ」
信じられない話だとばかりにフェイトとアルフの両名は目を見開かせていたが、銀時はさして驚いてる様子はなかった。
「実の娘を実験台にって、そんな―――」
「お前さん所じゃ珍しいかも知れねぇがな、此処江戸じゃぁさほど驚く事じゃねぇんだよ。人によっちゃぁ子が親を殺す事だってざらになくあるんだしよぉ」
源外のそれを聞いた途端フェイトの顔が青ざめてしまった。まだ幼い少女にその手の話はきつかったのだろう。
「ま、元々病弱な身だったらしくてな。どの道長くなかったのさ。そして実験の負荷が祟ってそのまま逝っちまったのさ」
「じいさん、その娘の名前は?」
「……芙蓉だ」
芙蓉。その名を聞き、脳裏に電撃が走る思いがした。例のからくり家政婦達のプロジェクト名は確か【芙蓉】。そして、死んだ林博士の娘もまた芙蓉。
何故、プロジェクトに自分の娘の名前が入っているのか?
「お前等が持ってきたからくりの中にはなぁ、種子と呼ばれる人格データが組み込まれていたのさ。言うなればその芙蓉の人格データだ。流山の奴ぁ芙蓉の人格データをコピーして、それをからくりに移植させようと考えたのさ」
「まさか、林博士の目的って……死んだ芙蓉さんを―――」
「察しが良いな、嬢ちゃん。その通りだ、流山の目的はただ一つ、死んだ芙蓉を蘇らせる事だったのさ」
今回の事件の大きな糸口が見えた。芙蓉プロジェクトの真の目的は林博士の一人娘でもある芙蓉の人格データをコピーし、新たに蘇らせる事だったのだ。
「そうかい、どっかで見た話だと思ったが、そう言う事かよ」
「なんだ銀の字。おめぇ心当たりでもあるのか?」
「まぁな、前にも同じような事をしようとした女を知ってるだけさ」
銀時が淡々と語る。彼が言う女。それは紛れも無い、プレシア・テスタロッサの事だ。
彼女もまた、幼くして死なせたアリシアを蘇らせようとプロジェクトFATEに手を染めた。だが、結果は失敗に終わり、生まれたのはフェイトだった。プレシアは尚も諦められずに幾多の研究を重ね、遂にはロストロギアとも呼ばれるジュエルシードに手を伸ばした。
だが、結局彼女の望みは叶う事はなかった。
「ま、人が人を作るなんざぁ正しく神の領域だ。そんな事に手を出そうとする奴ぁ決まって禄な死に方などせんじゃろうて」
「そうでもないぜ。確かにその女は禄でもない女だったけど、死ぬ時は安らかに逝ったぜ」
「そうか、死ぬ時に笑って逝けたらそりゃ良い人生だっただろうよ。俺も死ぬ時ぁ笑って死にたいねぇ」
「全くだ」
ふと、銀時は横目でフェイトを見た。フェイトは黙り込んでいた。
思い出していたのだ。厳しかった母の仕打ち。その母が狂って行く様。そして、安らかに死んで行く母の最期の笑顔。
それら全てが彼女の中で何度も何度も映し出されていたのだ。
「フェイト……」
「大丈夫だよ、アルフ。母さんはお姉ちゃんに会えて凄く嬉しかったと思う。それに、きっと二人共空の上で私達を見守ってくれてるんだと思うよ」
じっと天井を見つめながらフェイトは言う。それを聞いていた源外が頭を掻き毟りながら申し訳なさそうな顔をしていた。
「そうかい、その女ってなぁお前さんのお袋さんだったのか。まだ若ぇのに相当苦労してたんだなぁお前さん」
「私一人だったら、今頃悲しみで心が押し潰されてたかも知れない。でも、大切な友達が私の心を支えてくれたんだ」
そう言い、フェイトは振り返る。後ろに居るであろう自分の運命を変えてくれた大事な友達の姿を。
「ふんぬおぉぉぉぉ! 出ろ出ろ出ろぉぉぉぉ! さっきみたいなビームが出ろぉぉぉぉ!」
悲壮感漂う話をしている工房の外では、ひたすらなのはが両手を突き出して念じるかの様に唸っていた。
どうやら先の様に両手から閃光を出そうとしているのだろうが、一向に出ない。
はっきり言ってその光景は余りにも滑稽に映っていた。
「な、なのは……」
「あぁ、あいつ将来嫁の貰い手大丈夫なのかよ」
余りに場違いな事をしているなのはに呆れ果てるフェイトと顔を手で覆い項垂れる銀時。二人がそんな風になる程までに今のなのはは余りにも場違いな事をしていたのだ。
「ま、こんな大それた事をしでかしたんだ。ハイエナが集るのに時間は掛からねぇさ……ん?」
ふと、先ほどのテレビにまた別の映像が映し出された。それは何処かのラボのようだった。そして、其処に映っていたのは血溜りの上に倒れる林流山博士と、それを見つめる例の恰幅の良い男だった。
「こ、これは一体!」
「どうやら、流山が殺された時の映像だろう」
「って、何でそれが?」
疑問が尽きないながらも一同は映像に釘付けになった。ふと、男がこちらを振り返る。
ギョッとした表情でこちらを見て驚いていた。
【き、貴様! 零號。何故此処に居る? えぇい、誰か、誰か居ないか! 零號が暴走しているぞぉ!】
大声で喚き散らしながら男は逃げ去ってしまった。あの野郎、てめぇで林博士を殺しておきながら濡れ衣着せてたって訳かよ。
舌打ちする銀時。だが、その刹那だった。
死んだ筈の林博士が突如起き上がりだしたのだ。
「なっ!」
誰もが驚いていた。そんな中、映像は続いていく。
【な、何をしているんだ……芙蓉……早く逃げるんだ……後で向かえに行くから……だから……】
徐々に近づきながら弱弱しく声を挙げる。その直後だった。突如として林博士の体を稲妻が走り、彼の体を変質させて行った。
次の瞬間には其処に林博士の姿はなく。変わりに伍丸弐號の姿が其処にあった。
【今は逃げろ!】
その光景は余りにも衝撃的だった。それを見せられた一同には話す言葉は一言もなかったのだ。
「流山は、生きている。あの伍丸弐號の中に……そして、奴は芙蓉プロジェクトを完成させようとしているんだ」
「そ、それじゃ……横取りした奉行所の人達は?」
「恐らくは、もう……」
***
自分が何をされたのか全く理解出来なかった。気がつけば自分が大地に倒れ伏しその目の前には右手を鮮血に染め上げた伍丸弐號が立っていた。
「ご、伍丸弐號……貴様、からくりが創造主に逆らうのか?」
「あの時、貴様は言ったな。あの世で歯噛みしているだろう……と」
蔑むような目線で伍丸弐號は冷淡に語る。必死にそれを見上げつつ男は聞いていた。
そして、見上げた事を後悔した。
其処に映っていたのは氷の様に冷たい伍丸弐號の顔だった。機械の冷たさではない。其処には邪悪な悪魔を模した冷たさが感じられた。
「どうやら、歯噛みするのはお前の方だったようだな」
「な、何故だ……何故、こんな馬鹿な真似を!」
「貴様に殺される事など既にお見通しだ。私のプロジェクトを乗っ取ったつもりだろうが。結局貴様は私の手の平の上で踊っていたに過ぎんのだよ」
「ま、まさか……お、お前は……」
男の目の前で信じられない現象が起こった。突如として、伍丸弐號の顔半分が変質しだしたのだ。変質した顔、それこそ正しく、男が殺したであろう林流山博士その人であった。
「あの世で先に待っているが良い。直に賑やかになる。そして、そのまま見届けるが良い。私の作り出す新たな世界を」
そう言い残すと、伍丸弐號は男など無視して計器の操作に取り掛かった。
大掛かりな装置の上には頭に無数のコードなどが取り付けられたたまと、伍丸弐號が先ほどまで座っていたであろう台座があった。
「これは……やられましたな」
感情が篭ってはいないが、明らかにしてやられたという感じの声をあげる。
「中枢電脳管が抜き取られている。これでは、此処にあるのは只の抜け殻でしかない。私に捕まる前に電脳管だけを抜き取り仲間の元へ渡したと言う訳か」
伍丸弐號が簡潔に語り、振り返ると其処には鉄パイプ管に両手を縛られて拘束された新八の姿があった。
あちこちが傷だらけなのを見る限り抵抗したのだろうが空しく捕まってしまったのだろう。
「侍は……一旦守ると決めた物は死んでも守り通す!」
「その為に自分の命も投げ出すと? 哀れな事だ」
「機械のお前には分からないだろうけど、たまさんには心があったんだ! からくりの体でも、僕達と何ら大差ない心が出来ていたんだ!」
「それだ、それこそ正に私が求めていた物だ。だからこうして持ってきたと言うのに、肝心のその中身がないのでは意味がない。どうやら、その穴埋めを君にして貰わねばならないようだな」
目を見開き新八を睨む。その視線は余りにも冷たく、そして狂気に満ちていたと言える。
***
「今頃、奉行所の連中は皆、伍丸弐號とその手の奴等に皆殺しにされてるだろうよ」
工房内にて源外は結論を語った。林博士は最初からこの事件に加担していたのだ。いや、この事件の黒幕こそが林博士その人だったと言える。
「銀ちゃん。確か例のからくりメイドって一箇所に集められて処分されるって言ってた筈アル」
「ちっ、散り散りになった戦力を処分の名目で集めたって事か。飛んだ策士だな。先祖は諸葛孔明とかか?」
頭を掻き毟りながら銀時は愚痴る。
「って、それって相当やばいんじゃないの?」
「あぁ、奴等は只のメイドじゃない。お前等の世界の技術を使える強化型メイドだ。もし奴等が軍団で押し寄せてきたら相当やばいぞ。お前、この世界でまともに戦えるのか?」
銀時は問い掛けてみたが、それに対しフェイトはかぶりを振った。
「あっちの世界みたいに高速での戦闘は出来ない。空も飛べないし、それに収束魔砲も出来ない」
「魔砲って、あの時俺に撃った奴だよな。でも何でだ?」
「収束しようとしてもこの世界の力が作用して拡散してしまうみたいなの。つまり、幾らチャージしても魔力は集まらない」
結論から言えば、この世界に居る限り魔導師は飛行魔法、並びに収束魔砲が封じられた状態になる。決め手を封じられたとなればかなりキツイ戦いになるのは目に見えている。
「それだけじゃないよ。この世界じゃあっちに比べて魔力の消費量が半端じゃなく多くなっちゃうんだ。だから、この世界じゃバリアジャケットも長くは纏っていられない」
「時間からしてどれ位だ?」
「長く見積もっても30分が良い所だね」
更に時間制限つきと来たもんだ。これはもうお手上げといいたくなる心境だろう。
片やペナルティ付きで、相手はチート性能の軍団と来た。明るい材料が見当たらない。
「そうアル! アースラの皆に応援を呼ぶってのはどうアルか?」
「流石だぜ神楽! クロノだったらすっ飛んで駆けつけてくれるだろうよ」
いや、まだ光明はあった。あちら側の世界で世話になったアースラ隊のメンバーに救援を頼み込むのだ。幾らペナルティが掛けられていたとしてもクロノならばそれなりの戦力になる。
それに手勢が増えるのは有り難い事だ。となれば善は急げだった。
「うし、フェイトはとっととアースラに戻ってこの事を伝えろ!」
「分かった。源外さん、すぐに転移装置を起動させて!」
意気揚々と頼み込むフェイト。だが、人生はそんなに甘くはなかった。
「残念だが、無理だ。お前等が無理やり転移したせいで、今の転移装置はこの様だよ」
源外が指指す先には、黒煙を巻き上げながら火花を撒き散らすボロボロの状態の転移装置が其処にあった。
どうやら此処に来る際に無理やり転移して来たフェイト達のせいで転移装置に負荷が掛かり過ぎてしまいそのまま破損してしまったようだ。
これでは起動させる事は確実に無理と言える。
「じ、じいさん……これ、直るか?」
「無理だな。完全に復旧させるのに最低でも1ヶ月は掛かるぞ」
正に明るい材料が何一つない現状であった。
つづく
後書き
次回予告(嘘)
ジュエル星人の放ったキチガイ音波の影響で江戸市民達が皆らりぱっぱ状態になってしまった。江戸市民達を救う為、眼鏡マンは立ち上がる。戦え! 眼鏡マン。江戸の平和を守れるのは君だけだ!
次回、眼鏡マン新八
【よくも、こんなキチガイ音波を! ジュエル星人許さないぞ!】
お楽しみに!
新八
「何これ? チャ○ジマンのパクリ?」
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