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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第六十二話

「・・・なぁ、なんで翠蓮がここにいるんだ?」
「鷹児からいくつかの連絡を受けたからです。そして、先達であるわたくしに対しては敬意を示しなさいと何度言えばわかるのですか?」
「呼び方についてなら、変えるつもりはない。忘れたのか?翠蓮は俺に負けてるってこと」

 林姉のバイクで海まで来てみれば、そこには翠蓮がいた。
 今回は日光の方に行ってるだろうから関わらずにすむと思ったのに・・・

「忘れるはずもありません。確かにあの仕合、わたくしの負けでした」
「そこを認められるのは、一つの美点だよな・・・で?ここには何をしに?」

 本人の中でその記憶が消えていないことを確認してから、話を別のものに変える。
 さっきの話をあのまま続けたところで、何の意味もない。不毛すぎる。

「少し気になっただけです。それに、手負いであれば生け捕りにすることも可能でしょうから」
「ああ・・・神祖だけで満足してないのか」

 そこで俺は納得した。
 なるほど、それでここにきたってことは・・・

「つまり、海の中に蛇の神がいるのか?」
「ええ。それも、手負いではない万全の状態です」

 そう言いながら、翠蓮は背を向けて歩き出した。

「その蛇はあなたに譲りましょう、神代王(かみしろのおう)。あなたに蛇と二度戦った後であの英雄と戦うなど、不可能でしょうから」
「そいつはどうも。遠慮なくこの神様は俺が貰うよ」
「それと、一つだけ助言を授けましょう。感謝なさい。・・・その蛇は、この国の神です」

 神様について知る重要な手がかりをくれてから、翠蓮は立ち去った。
 すぐ隣にいる林姉に対して何も言わなかったのは、契約のこともあるのだろう。手を出したら死ぬし。

「さて・・・とりあえずどうしよう、林姉?」
「そうだね~・・・冷たいよね?」
「時期としては微妙なところ・・・いや、もう十二分に冷たいか」

 こんな時期に海に飛び込むとか、結構危ない気はする。
 かといって、このまま待つわけにも行かないし・・・となると、自分から行くしかないんだよなぁ・・・
 それに、この格好のまま潜るのもそれはそれで危ないし・・・水着は寒いし・・・

「・・・林姉、どこかでウェットスーツとか借りれないかな?」
「う~ん・・・この辺りのことを私に聞かれてもわかんないよ~」
「あ、うん、そうだね。林姉に頼った俺が馬鹿だった」
「ちょっとそれどういう意味!?」

 頬を膨らませて怒り出した林姉に背を向けて、俺は携帯を取り出し、何とか出来そうな知り合いに電話をする。

『はい、もしもし。馨です。どうなさいました、武双さん?』

 ようするに、正史編纂委員会の東京支部のトップに。



◇◆◇◆◇



 電話をしてからしばらくたつと、見知った顔ぶれが荷物を運んできた。

「はい、どうぞ。とりあえずもぐるのに必要そうなものは一通り集めてみました」
「ありがとうございます、梅先輩。それに(りん)(まち)先輩も。せっかくの休日でしたのに」

 そう、城楠学園生徒会のこちら側の関係者、朝倉梅先輩に音鳴(おとなり)鈴、幅海(はばうみ)町先輩だ。
 ホント、休日出勤をさせてしまって申し訳ない・・・

「き、気にしないでください!鈴は、お役に立てたのならそれで満足ですので!」
「私のほうも、気にしなくていい。どうせ家にいたらあーだこーだとうるさく言われていただけだからな」

 そう言ってもらえると助かる。
 そう思いながら中身を見てみると、ウェットスーツだけじゃなくて酸素ボンベとか、他にも本格的そうなものが一通り揃っていた。
 まあ、その辺りについてはいいんだけど・・・

「・・・ねえ、ムー君。モリって何に使うの?」
「一般的には、素潜りとかした時に魚をつくのに使うんじゃない?」
「・・・神様、これで倒すの?」
「無理に決まってるでしょ」

 そう言いながら鈴を見ると、困惑した表情になってから、

「えっと・・・馨さんが、どうせならこれもそれも、と詰め込んでいって・・・ごめんなさい!」
「いや、鈴が謝ることじゃないから。悪いのは全部馨だから・・・」

 とりあえず、今度あったときに文句の一つでも言ってやろう。
 そう考えながら合うサイズのウェットスーツを取り、蚩尤の権能で即席の更衣室を作ってそこで着替える。
 なんだかんだで便利だよな、この権能。使い方を間違えると一気に危険になる権能だけど、そこを気をつければ中々に便利。壊れたフライパンとか直せるし。

「よし・・・っと。なんか変な感じだな」
「だねぇ・・・」

 林姉も着替え終わったようで、俺はそのまま海に向かう。

「武双君、酸素ボンベなどはいらないのですか?」
「まず間違いなく戦うときに邪魔になりますから。それに、この体なら呼吸くらいは続くでしょう」
「ムー君は大丈夫そうだよね~。私は頂戴♪」

 林姉だけは酸素ボンベを受け取り、さらに何本か送還の術でいつでも召喚できるようにした。
 まあ、そうしないと呼吸が続くはずもないしな。

「さて、と。後は水圧に耐えるための防御の術だけかけて・・・」
「一体どこまで潜る気なんですか・・・」
「どこまででも?」
「どこまででも」
「・・・」

 あ、ついに鈴が絶句した。
 とまあそんな事を考えながら海に入っていく。

「あ、最後に一つ。いいですか?」
「なんでしょう?」
「この周囲一体の人は避難しましたので、津波などはそこまで気にしなくてもいいです」
「それはたすかります」
「ですが、海の中にも生態系が存在することを忘れないでください。さすがに、海の生態系が大きく崩れるなんてことになったら・・・」

 ああ・・・人類絶滅の可能性もあるなぁ・・・

「分かりました。海の中では全なる終王(ゼウス・エクス・マキナ)は使いません」
「よろしくお願いします」

 海水は簡単に電気を通す。
 そんなところに高圧の電気・・・雷なんて出しちゃったら、もうその周辺の生物は全滅だろう。
 よりにもよって権能で生み出す雷だから、その威力がどこまでの範囲に広がるかを考えると・・・うん、絶対に使えないな。これは冗談抜きで。今すぐ破壊者(デストロイヤー)でぶち壊しておいた方がいいと思えるくらいには。

「では、行ってきます」

 俺はそう決心してから、海の中を泳ぎ始めた。
 さすがにまだ浅いところには何もいない。それでも念のために確認しつつ進み・・・気がつけば、結構深いところまできていた。
 周りを見回してみても、いるのは深海魚ばかり。深海魚ってどれくらいからいるんだっけ・・・そんな事を考えながら、どんどん潜っていく。
 余談なのだが、俺は結局終なる全王(ゼウス・エクス・マキナ)を使っている。口の中、という限られた空間で、だが。

 まず、口の中に海水を取り込む。まずくて吐き出したくなるが、まあそこは我慢して、だ。
 次に、口の中で雷を流して水を電気分解。
 『2H₂O→2H₂+O₂』の反応を起こして、口の中にあった海水の水の部分を完全に二つの物質に分けて、酸素だけを取り込んで水素は残った不純物と一緒に吐き出す。
 正極と負極を口の中で分ければ酸素と水素は勝手に分かれて集まるので、意外とやりやすい。・・・まあ、やりすぎるわけにも行かないんだけど・・・人一人分なら大丈夫でしょ、と勝手に考えていくことにした。
 ついでに言うと酸素単体だと結構な毒のはずだけど・・・・まあ、特に体調に変化はないから気にしない。

『見つからないね~。蛇の神様、どこにいるんだろう?』
『さあ・・・まあなんにしても、このまま捜すしかないでしょ』

 俺と林姉はそう筆談で会話を交わして、さらに底へと向かう。
 途中、サメみたいなのが来たりはするが、そのたびに槍で追い払う。殺す時間ももったいないからそのまま逃がすが、たまに逃げないやつは殺すしかないのが面倒だ。

 ・・・で、もう完全に海底・・・というか、調査機を出して調べるレベルのところまで来たんだが・・・

『どう、ムー君?いる?』
『いや、見つからない。・・・けど、間違いなくこのあたりにいるはずなんだ・・・』

 そう、ようやく体が戦闘準備を始めた。
 こんな深海に来てようやく、だ。もうこのあたりにいるのは間違いないだろう。
 なのに、それらしいヤツは見当たらない。海底の方を見ても、ゴツゴツした岩が連なってるくらい。にしても長いな、この岩・・・終わりが見えん。

 それに・・・どこにいるのやら、例の神は・・・
 日本の神格で地震、海に関係のある龍蛇の類、か・・・結構いそうなんだよなぁ・・・
 
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