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戦国異伝

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第百五十九話 巨寺その九

「ここは」
「わしが守りそうしてか」
「それがしが機を見て砦から出て攻めます」
「わしが楯、そして御主が矛か」
「そうして戦うべきかと」
「よいか、強いぞ」
「強いのは承知のうえです」
 長可は楽しげな笑顔で中川に返した。
「しかしそれがしもまた」
「そうじゃな、御主は強い」
「しかもです」
 ここで長可は己の右を見た、そこには原田もいる。原田は長可と共に中川の副将としてここに来ているのだ。
「九郎殿もおられますので」
「そうじゃな、九郎殿もおるしな」
「二人で攻めます」
「ではな」
 原田も確かな笑みで中川に言う。
「お主は楯となりな」
「うむ、御主達は矛になってじゃな」
「雑賀衆を攻める」
 まさにだ、そうするというのだ。
「そうして与三殿達が来られるまで待とうぞ」
「そういうことじゃな。三人おればな」
「やられるということはない」
 一人ではわからないが、だ。
「雑賀孫市相手にもな」
「そうじゃな。しかしあ奴の鉄砲は百発百中」
 中川は櫓からその雑賀孫市を見つつ言う。そのやたらと大きな鉄砲を見ながらそのうえで二人に言った。
「あれに当たればな」
「生きてはおられませんな」
「とてもな」
「だから気をつけよ。無論わしも気をつける」
 信長の命を守り死なない為にというのだ。
「兵達にもそう伝えようぞ」
「命を粗末にするなと」
「例え攻めようとも」
「攻めは御主達に任せる」
 長可と原田にだというのだ。
「しかし死ぬなよ」
「はい、それでは」
「機を見て」
 こう話してだった、彼等は。
 今は砦に篭もりそのうえで守りを固めるのだった、雑賀孫市はその砦を見て鋭い顔になる、そのうえで己が率いる者達に言った。
「よいか、おそらくあれは先陣じゃ」
「織田軍のですな」
「そうですな」
「そうじゃ、おそらく大軍が来る」
 雑賀はもう既に読んでいた、見れば目も鋭い。
「今のうちに陥とさねばな」
「ですな、では」
「今より」
「攻めるとしよう」
 言いながらだった、雑賀はその左肩に担いでいる鉄砲を両手で持った、そのうえで配下の者達にこう言った。
「鉄砲を前に出せ」
「それで撃ち」
「そうして」
「うむ、壁の上の敵を討て」
 城や砦を攻める常道だ、それをせよというのだ。
「そして敵の数が減ったところでじゃ」
「いつも通りですな」
「攻めますか」
「御主達の技を見せてやるのじゃ」
 雑賀衆もまた忍びだ、それでなのだ。
 その術を使いだ、砦を攻め落とせというのだ。 
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