戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百五十九話 巨寺その七
「お任せ下さい」
「この場は」
「頼んだぞ、ではな」
「はい、それでは」
「兄上は」
「他の者達を率いてじゃ」
そしてだというのだ。
「雑賀孫市を破るぞ」
「殿、それがしあの者と一度戦いましたが」
ここで元親が信長に言ってきた。
「あの者、使う得物は鉄砲なれど」
「それでもか」
「その腕八幡太郎公や為朝公にも匹敵するかと」
「百発百中か」
「まさに」
そこまでの腕だというのだ。
「そしてその戦ぶりはまさに鬼神、異朝の覇王か温候の如くです」
「そこまで強いか」
「まさに」
覇王、即ち項羽だ、温候は呂布だ。共に彼の地において鬼神の如き戦いぶりで恐れられた者達である。
「ですからこちらが幾ら多くとも」
「油断は出来ぬな」
「それがしも防ぐだけで手が一杯でした」
勇猛で知られる元親も彼の手勢もだというのだ。
「恐ろしいまでの強さでした」
「わかった、ではな」
「はい、お気をつけを」
「ではやはり兵は多く持って行きじゃ」
そうしてだというのだ。
「油断せずに戦おう」
「それがよいかと」
こう話してだった、信長が岐阜から率いてきた者達に徳川、そして四国の軍勢も率いてだ。
天王寺に向かう、その先陣は中川が務めることになった。
その中川にだ、信長はこう言った。
「よいか、決してじゃ」
「決してとは」
「無謀は慎め」
それはするなというのだ。
「よいな、決してな」
「では最後孫市が攻めてきても」
「攻めずともよい」
それは構わないというのだ、攻めずともだ。
「特にな」
「それでは雑賀衆と対しても」
「守れ、命は粗末にするな」
中川の目を見て強く言う信長だった。
「わかったな、八郎」
「はい」
中川も信長に己の名を言われ頷く、そうしてであった。
信長に対して深々と頭を下げてだ、こう言った。
「ではこの度の先陣は」
「どうするか」
「天王寺砦に入りそのうえで」
「守るな」
「砦を守り抜きます」
そうしてだというのだ。
「本陣が来るのを待ちます」
「頼むぞ。第二陣は与三じゃ」
森、彼に命じるというのだ。
「与三が来るまで持ち堪えよ」
「わかりました」
「与三もそれでよいな」
信長はその森に顔を向けて告げた。
「そして先陣にはじゃ」
「先陣には」
「勝三もつける」
彼も先陣に向かわせるというのだ。
「よいな」
「それがしもですか」
「御主は八郎の副将となれ」
つまりその役で中川を助けろというのである。
ページ上へ戻る