ドリトル先生と京都の狐
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第六幕その三
「かなりの価値があるものじゃな」
「父が使っていたものでして」
狐は長老にも応えます。
「長い間使っていませんでしたが」
「その茶器をじゃな」
「先生に」
お礼に差し上げるというのです。
「受け取ってもらいたいのですが」
「いや、悪いです」
「悪くはありません」
やっぱりこう言う狐でした、そこには確かな意志があります。
「ですから」
「だからですか」
「狐はお礼はちゃんとします」
このことは絶対にというのです。
「無礼はあってはなりません」
「そうですか、それでは」
「どうぞ」
こうしてでした、先生にその茶器一式が渡されました。長老はその茶器を見つつ先生にお話するのでした。
「先生は茶道の経験はおありかな」
「いえ、実は」
それはとです、先生は長老の問いに素直に答えました。
「殆どありません」
「左様か」
「イギリスのお茶なら」
「ティータイムじゃな」
「そちらでしたら」
嗜みがあるというのです。
「毎日三時には飲んでいます」
「左様か。しかし日本の茶道もな」
「よいものですね」
「だから楽しんでくれ」
その茶道もというのです。
「是非な」
「そうさせてもらいます、そちらも」
「お茶はよい」
イギリスのものも日本のものもとです、長老はお茶について語りはじめました。
「わしも大好きじゃよ」
「長老さんもですか」
「そうじゃ、茶は好きじゃ」
「あっ、それではお茶を淹れます」
狐もここでこう言ってきました、お母さん狐はすっかり元気になっていてお布団を自分で畳んでしまっています。
そのうえで、です。こう言うのでした。
「玄米茶でいいですか?」
「おお、玄米茶か」
「はい、それでいいでしょうか」
「茶なら何でもよい、しかし悪いのう」
長老もこう言うのでした、謙虚な笑顔で。
「茶を出してもらうとはな」
「いえ、お気遣いは無用です」
「狐は申し出は受けるものだからじゃな」
「そうですよね」
「そうじゃ、それが狐じゃ」
長老は狐の言葉に頷きました。
「だからじゃな」
「おはぎもあります」
「おお、尚よいな」
長老はこのことにも笑顔で応えました、それでこう言うのでした。
「おはぎはよいのう」
「棟梁がお好きだと聞いていますので」
用意したというのです、そのおはぎを。
「ですから」
「有り難い、では今から皆でな」
「玄米茶におはぎを」
「丁度よい時間じゃ」
壁の時計を見るとです、本当にいい時間でした。
それで、です。その玄米茶とおはぎが出てでした。
皆でその二つを楽しみます、お母さん狐もそのおはぎをぱくぱくと食べて自分の娘に笑顔でこう言うのでした。
「やっぱりおはぎはいいねえ」
「お母さんも好きだしね」
「ええ、いいわ」
とてもだというのです。
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