東方攻勢録
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第六話
「いらっしゃい。久しぶりね……俊司」
俊司達が中に入ってくるなり羽をはやした少女はそう言った。
彼女こそがこの紅魔館の主である吸血鬼『レミリア・スカーレット』である。そこらへんの人間とは違うカリスマ性の高いオーラが、彼女の品の高さを映し出している。そして彼女の隣にいたのが『パチュリー・ノーレッジ』という魔法使いだ。彼女とレミリアは親友であり、共に名前を短くして呼び合うほど仲がいい。
そんな二人はエントランスの二階からこっちを見ていた。死んだはずだった俊司がやってきたにもかかわらず、驚いた様子のかけらもない。まるで俊司達がやってくることが分かっていたみたいだ。まあレミリアの能力である『運命を操る程度の能力』を使えば、予知することなど簡単なのだろうが。
「お久しぶりです。レミリアさん、パチュリーさん」
「あなたも相当奇妙な運命よね」
レミリアはそう言いながらくすくすと笑っていた。
「お嬢様……やはり気付いていらっしゃったのですね」
「当たり前よ咲夜。さて俊司、あなたに渡しておくものがあるわ」
「渡しておくもの?」
レミリアは二階から下りてくると、俊司にある一冊の本を手渡した。本には異変集と書かれており、どうやらいままで幻想郷で起こった異変を書き残している本らしい。
「最近の異変の内容が書かれているわ。その本の百三十五ページ……そこを見てみなさい」
俊司は疑問を抱きながらもレミリアに言われるがままそのページを開いてみる。そこに書かれていたのは約三年ほど前の異変で、簡単な内容説明と異変を解決した人達の名前が記されていた。
この異変は幻想郷のとある場所にある洞窟の内部で起こったもので、ある奇妙な団体がこの洞窟に人を連れて来ては、内部であることを行っていたという。言うまでもなく連れ去られた人間は帰ってはこなかった。
異変を解決したのは霊夢・魔理沙・紫の三人と、それ以外に二人の男女の名前が記されていた。東方の世界では出てきたことのない名前で、ほとんどの人が知っているわけでもなさそうだ。
しかしその名前を見た少年は、目を丸くしたまま何も話そうとはしなかった。
「その様子だと……図星の様ね?」
俊司の反応を見た咲夜と妖夢も本の内容を確認してみるが、どれを見ても引っかかる点などない。しかし彼の顔は明らかに青ざめており、なにかとんでもない事実を知ってしまったようだ。
すると俊司の口からある言葉が漏れた。
「……どうして……なんで……父さんと母さんが?」
「えっ……?」
妖夢はもう一度本の内容を確認してみる。異変を解決したものの欄に書かれていた名前は『里中修一』と『里中涼子』。両者とも俊司の名字と同じものだった。
俊司は確実にこの二人の名前に反応している。それに間違いなくこの二人は俊司の親に違いない。そうでなければ父さんと母さんなんて口にしないだろうし、ましてや親の名前を間違えるなんて考えられない。
「どういうことですか……教えてください!!」
「私はそれ以外知らないわ。その本の事を教えてくれたのはパチェよ」
パチュリーの方に視線を向けると、彼女は何も言わずに首を横に振った。なぜ彼らがこの本に名前を残し、さらに幻想郷に来たという証拠があるのか、ここにいる彼らには分からないことだ。
俊司は何もしゃべることなく本に書かれた名前をじっと見つめる。だが本が真実を語ってくれることもなく、ただ時間だけが過ぎて行く。そんな彼を見ていたレミリアは静かに鼻で笑ていた。
「そんなに気になるのなら聞いてみればいいじゃない?」
「えっ……あっ」
異変を解決した人物達の中には紫達三人もいる。彼女達なら親の事を知っているだろう。それに気づいた俊司はすぐさま永遠亭に帰ろうとする。
だがパチュリーはなぜか彼を引き留めていた。
「待って。別に変える必要なんてないわ」
「……どういうことですか?」
「大図書館に魔理沙がいるわ。ついてきて」
俊司達はパチュリーに言われるがまま大図書館に向かうのだった。
紅魔館の地下は大量の本が所狭しと並べられた大図書館となっている。ここには存在するほとんどの本が陳列されているらしく、ここを訪れる者も結構いるらしい。
そんな図書館の中央付近では二人の少女が話をしていた。一人はロングヘアーの少女でで魔法使いのような容姿をしており、もう一人はショートヘアーの少女で付近を人形が漂っていた。
「……暇だぜ」
「そうね。休憩中にパチュリーもどこか行っちゃったし、今から何を調べたらいいのやら……」
どうやら二人はやるべきことが見当たらず暇を持て余しているようだ。そんな二人の背後からさっきまでエントランスにいた一同の姿が見え始める。二人もそれに気付いたようだったが、こっちを見たとたん何もしゃべらなくなってしまった。
「あら二人ともどうしたの?」
「おいおいパチュリー……どうしたって……その後ろにいるの……」
「俊司……なの?」
俊司は彼女達の前に出るとこれまでの経緯を簡潔に説明する。まあ大方の予想通り二人が理解するまでだいぶ時間がかかったが、最終的に二人は笑いながら彼の復帰を歓迎していた。
「しっかし奇妙な事もあるもんだな。どうやったらそんな運命を引き当てられるか聞いてみたいぜ」
「我ながらそう思うよ。ところで魔理沙……聞きたいことがあるんだ」
そう言うと俊司はロングヘアーの少女に例の質問をしてみた。
「里中修一……里中涼子。この二人を知ってるか?」
それを聞いた魔理沙はなぜか何も言うことなく目をつむっていた。
「そうか……やっぱりそうなのか」
「えっ……」
「どことなくそういう気がしていたんだ。俊司とあいつら二人が同じ名字だと知ってから……」
その後魔理沙はすべてを悟ったのか、あの異変の事について話し始めた。
異変の正体はとある宗教団体が崇拝していた魔物の召喚だったらしい。当時異変の噂をかぎつけてきた霊夢と魔理沙は、洞窟付近で同じく危険を感じてやってきた紫と共に洞窟内を探索していた。道中宗教団体の崇拝者たちが群れをなして攻撃してきたが、別に危機に陥るわけでもなく探索を続けていた。
しかしある場所で三人は予想外の出来事を目の当たりにしてしまう。それが俊司の親である『里中修一』と『里中涼子』と出会った瞬間だった。二人を見た瞬間服装の違いからすぐに外来人だと気付いたらしい。それに修一と涼子は外来人だというのに洞窟内で戦っていたのだとか。
話を聞いたところによると、二人は人が困っていたから助けに来たと答えたらしい。どうやら人里でこの異変に関する情報を聞いたらしく、そこで剣と弓をそろえた二人は躊躇することなくここへやって来ていたのだ。説得しても戻ろうともしない二人に、紫達は無理をしないことと危なくなったら逃げることを条件として同行を許可した。
その後数時間は戦闘を入れつつも進撃していたが、外来人二人の強さには驚いたという。修一は剣の使いに長けて涼子は弓の扱いに長けていたうえ、二人とも何かしらの能力を所持していた。コンビネーションも霊夢と魔理沙に引けを取らないくらいで、戦闘はかなり楽に進めていたらしい。
その後最深部まで到達した五人だったが、そこで行われていたのを見た瞬間言葉を失ったと魔理沙は顔をしかめながら言った。そこには何十体もの人間の死体が転がっており、その中央には今まで見たことのなかった魔物が異様な雰囲気を放って立っていたらしい。魔理沙はその魔物を見た瞬間、初めて体中の力が奪われていく感覚にみまわれたと言う。
その後言うまでもなく襲いかかってきた魔物と応戦を始めたわけだが、相手の膨大な魔力に苦戦を強いられていた。もちろん修一と涼子も無理はせず戦闘に参加していたわけだが、あまりの力の差に思いきった行動ができずにいたらしい。
戦闘は長びくかと思われていたのだが、開始から約三十分で戦況は一気に変貌を遂げる。魔物が一気に暴れたせいで戦闘を行っていた空洞の一部が崩落してしまい、不幸にもその場に魔物と修一・涼子の二人が取り残されてしまった。さらには落ちてきた岩に吹き飛ばされた紫は意識を失い、二人を助け出すこともできなくなってしまう。
その後なんとかして瓦礫をどかした霊夢と魔理沙だったが、その後の光景を見てさらに驚いたという。その場に残っていたのは修一と涼子の二人で、魔物の姿はどこにもいなかったらしい。だが二人も大量に出血しており、もう助かる見込みがなかった。
それからすぐ紫も目を覚まし二人のそばに寄ったのだが、二人は紫達に自分達の子供のことを頼んで息を引き取ったという……。
「これが……この異変の真相だ」
「……」
魔理沙の話を聞いていた俊司は、何も言うことなく静かに涙を流していた。
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