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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第40話 桃黒戦争勃発!!妹は耳年増

 
前書き
今話と次話で、カトレアが大暴走します。
こんなの……カトレア違う。と思われる方も多そうです。
読む場合は、ご注意ください。 

 
 こんにちは。ギルバートです。カトレアに説かれて、公爵とカリーヌ様に情報を一部開示しました。原作からズレすぎない様にする為に、嘘を重ねる罪悪感で押し潰されそうになってしまいました。

 私はルイズとサイトに、心の中で謝罪しておきました。……それで許されるとは思いませんが。

 公爵から「ルイズを頼む」と言う手紙が来てから、父上と母上を呼び出してドリュアス家家族会議を開きました。カトレアにも出席してもらい、ルイズの系統も含め「公爵との約束で、トリステイン魔法学院に入学する時期を遅らせます」と、話をしました。

 最初は全員呆然としていましたが、父上と母上は納得した様に頷きました。

「入学の件は問題ない。公爵にこれまで受けた恩を、少しでも返せる様に努力するのだぞ」

 父上はそう言うと、母上の方を見て頷きました。

「それじゃあ、家族会議は終了ね。ディーネちゃん。アナスタシアちゃん。一緒に温泉に……」

 私は驚きました。父上と母上は、これだけの情報を持つ私を追及しないのです。思わずカトレアの方を見ると、目が合いました。その表情は驚きに包まれています。間違いなく、私も同じ表情をしているでしょう。

「待ってください!!」

 この状況に抗議の声を上げたのは、ディーネでした。マギの正体を知っている人間は、何故私が虚無に行きついたか分からないのです。そして私は、その説明をしていません。いざとなれば、原作知識の存在を話し、その内容は一切話さない心算でした。

「ディーネちゃん。ギルバートちゃんが信用出来ない?」

「そ それは……」

 母上の言葉にディーネは言い淀み、アナスタシアは不安そうに私を見て来ました。

「ギルバートちゃんが話さないと言う事は、話せないと言う事よ。私とアズロックは、ギルバートちゃんが話してくれるまで待つと決めたの」

 母上の言葉に、私は呆けてしまいました。

「だから、ディーネちゃんも……ね」

 ディーネは、渋々と言った表情で頷きます。

「しかし、アナスタシアちゃんは良かったわね♪ 大好きなお兄ちゃんと一緒に、学院に行けるわよ♪」

(母上!! その話題は止めて!!)

 私は心の中で悲鳴を上げました。アナスタシアは物凄く喜びましたが、ディーネの反応は言わずもがなです。それより恐ろしかったのは、カトレアですが……。

 この会議の後に、カトレアから「一緒に学院に行ける様にして」と、お願いされました。私は反射的に「無理」と答えておきました。そう、世間体的(年齢的)に無理なのです。20歳超えてからの入学は、オールドオスマンと公爵も流石にダメと言うでしょう。

 しかし次の日、ディーネが「一緒に入学する」と言い出し父上達が了承すると、今度は本格的に強請(ねだ)られました。まあ、この場合は強請(ゆす)るとも言いますが……。

 結果。私が出した案は、来年の3月中にカトレアの治療を済ませ、入学と卒業をしてもらう事でした。そして私達の入学に合わせ、教師として学院に行ってもらう事です。

 当然。カトレアは渋りましたが……

「ルイズの事は、カトレアにも手伝ってもらいたいのです。辛いかもしれませんが、3年間だけの我慢です。ルイズの為に耐えるカトレアを、私は愛おしく思いますよ」

 3年間一緒にいる為に、3年間我慢するという矛盾した答えですが、カトレアは頷き私に抱き付いて来ました。そして私の耳元で……

「今は騙されてあげる」

 平坦な声で呟かれました。……怖い。めっさ怖いです。本心だったのに何故? いや、本心だったからこそ、この程度で済んだのかもしれません。

 完全に硬直した私は、カトレアにされるがままにスリスリされました。



 それから数日の間を開けて、公爵からもう一通手紙が来ました。内容は“アズロックが年明けに、国王から呼び出される”と言う物でした。理由は塩の値段が、じりじりと上がって来ている事です。最新の塩の値段は、去年の倍近い値段になっていました。恐らくバカ共の買い占めが原因でしょう。呼び出された父上は、国王よりゲルマニアの塩輸出量増加を嘆願する特使に任命される予定です。

 そうなれば、父上は直ぐにでもゲルマニアに発たなければなりません。塩の在庫は十分(現状でトリステイン王国の約1年分)に溜まっているので、父上が帰って来たら塩爆弾起爆準備完了です。後に一番効果的な起爆タイミングを、父上とカロンを交えて入念に話し合っておく必要がありますね。

 塩爆弾については、来年のお楽しみと言う事で今は忘れておきます。王立魔法研究所研究員(エレオノール)様が帰還した事で、ようやくティアが大手を振って歩ける様になりました。何時までも放っておけないので、カトレアにティアを紹介する事にしました。しかし予想に反して、カトレアとティアは意気投合し仲良くなったのです。

 ……意外です。物凄く意外です。仲が良いのは歓迎ですが、この展開は予想外でした。カトレアからすれば、使い魔の1匹位どうって事無いでしょうが、ティアは騎獣(オイルーン)の件を鑑みるに絶対良い顔をしないと思っていました。

 カトレアが散歩の休憩時間に、ティアを膝の上に乗せ優しく撫でているのを偶然見かけました。深窓の貴族令嬢と黒猫の取り合わせは、見て呉れ的に合わないと思っていましたが、カトレアとティアを見る限りそうでも無かった様です。(まあ、カトレアとティアが例外なのかもしれませんが)

 私も書類仕事の時間を確りと取り、その時間は別荘に戻る様にしました。時間帯は一定しませんでしたが、カトレアも私の休憩時間に合わせ一緒に散歩をしてくれました。その間だけ、マルウェンの首輪(成長促進の祝福付きの首輪)をカトレアに装備させ協力しました。流石に不便に感じ、首輪を交代で持とうと提案しましたが、取り付く島もなく断られてしまったのです。

 まあ、原因は散歩がプチデート化していたからですが……。首輪の効果が出始めるのは、だいぶ先になると思いますが、この調子で行けば軍に入っても活躍できる位の体力はつくはずです。

 同じ首輪を交代で着け合う私達に、一部の人達がひそひそと噂をしていた様ですが、私は知りません。……と言うか、知りたくありません。お互い着けてあげる時に、カトレアが恍惚としていた様な気もしますが、これも気のせいです。

 公私共に上手く行き、私は緩んでいたのかもしれません。私は気付かなかったのです。今の状況が、薄氷の上を歩いている様な物だと言う事を……。



 最初にカトレアと散歩した時に、カトレアは戸惑う事無く腕を組んで来ると思っていました。しかし予想に反して、私の袖をつまんで来たのです。私は不思議に思い、カトレアの方を向くと……真っ赤な顔でそっぽを向かれました。

(今更、恥ずかしいのでしょうか?)

「ム……ギルは、女の子の気持ちが分かってない」

 そう言って頬を膨らませるカトレアは、個人的にかなり可愛いと思いますが、言っている事を理解出来るかは別問題です。私は首をひねってしまいました。散歩しながら女の子の気持ちを説くカトレアでしたが、私は全く理解できませんでした。

「マギの時に彼女が居なかった理由が、よく分かった気がする」

 グサッ!! その言葉は、心に突き刺さります。イタイ。

「男にとって、女心は永遠の謎と言われていて……」

「その大半は、経験が足りない人や鈍い人の言い訳だと思う」

 バッサリと切り捨てるカトレアに、私は絶句してしまいました。

「……だから、ギルはもっと私の事を知るべきだと思うの」

 その物言いに感じたのは、違和感でした。それを探る為に、私は冷静になるよう努めました。そして、カトレアの言葉をよく吟味し真意を探します。

(……!? そう言う事か)

 程なくして正解らしき物に辿り着くと、カトレアは顔を赤くしてそっぽを向いてしまいました。どうやら正解の様です。意図が理解出来ると、先のセリフがやたら可愛く感じてしまいます。

(もっと私を知ってほしい……か)

 しかし、流石に言い方が良くありません。私はちょっとした仕返しのつもりで、腕を動かし袖をつまむカトレアの手から逃れます。

 カトレアが不満そうな顔を浮かべ、袖に手を伸ばして来ますが私はその手を避けました。2度目と3度目は手を掴もうとし、4度目はシャツの胴回り部分を摘まもうとしました。しかし私は、それらの手を全て避けます。

「……ギル?」

 カトレアの口から、肌寒さを感じる声が漏れました。私の予想を、遥かに上回る勢いで怒っているようです。私が笑って誤魔化そうとした瞬間に、跳びかかられました。一瞬喰われるかと思い、本気で焦ったのは私だけの秘密です。と言っても、カトレアにはバレバレだと思いますが。



 ……まあ、この様な感じで、仕事とカトレアにほぼ全ての時間を使っていました。この状況を面白くないと感じる人が、1人居ました。

 そう。アナスタシアです。

 アナスタシアの目には、兄を取り上げられたと映っても仕方が無いのでしょう。1週間も経つと、私とカトレアの間に割って入る様になりました。そればかりか、仕事中以外は私にべったりとまとわりつく様になったのです。(風呂・睡眠時含む。流石にアナスタシアを男風呂に入れる訳には行かないので、私は家族風呂で入浴する羽目になりました。この上カトレアが突入して来たら、私は如何なっていたか……。考えるのも恐ろしいです)

 当然この状況を、カトレアが快く思うはずがありません。

 日に日に2人の仲は険悪になり、嫁・小姑戦争が何時勃発するか、全く分からない状況まで来てしまいました。(胃が痛いです)



 そして、恐れていた事がとうとう起きてしまいました。アナスタシアがいつも通り、私のベッドに突入して来ました。しかし、この時はそれで終わらなかったのです。

 コンコンと、ドアをノックする音が部屋に響きました。

 返事をすると部屋に入って来たのはカトレアでした。入室直後に、アナスタシアを見たカトレアの(まなじり)が、一瞬跳ね上がったのを私は見逃しませんでした。

 私は“如何にかしなければ”と動こうとしましたが、如何すれば良いか分からず、そのまま硬直してしまいます。固まる私を他所に、カトレアはベッドに近づいて来ました。

「ギル。一緒に寝ましょう」

 カトレアはニコニコ笑顔でしたが、僅かに笑顔が引き攣っています。原因はベッドの上に居るアナスタシアである事は間違いないでしょう。何時もなら就寝前に軽く話して、多少のスキンシップをすれば終了なのです。カトレアは、勢いとは言え何を口走っているのでしょうか?

「いや……婚前交渉やその誤解を受ける様な事は、絶対に不味いですから」

 私はやんわりと断ろうと言い繕いました。アナスタシアが隣で「ふぅ~~~~っ!!」と、猫の様にカトレアを威嚇し始めます。ティアは関わる心算が無い様で、我関せずを貫いています。

 そんな私達の様子を、全く意に介す事無くカトレアはベッドに上がり込んで来ました。そんなカトレアにアナスタシアは怒り、手が出そうな雰囲気になります。カトレアも迎撃態勢を取ったので、私は慌ててカトレアとアナスタシアの間に割って入りました。

「喧嘩するなら、自分の部屋で寝てください」

 2人揃って不満そうな顔を浮かべましたが、この場は引いてくれたようです。しかし、とても楽観出来る状況ではありません。私は常に、2人の間に入るポジションを取る事にしました。

 そしてどうにか横になった所で、問題が発生しました。左右をカトレアとアナスタシアに固められて、足の間にはティアが丸まっています。最初はカトレアの柔らかい物に、ドギマギしていましたがそれどころではなかったのです。

「……熱い。それに動けない」

 季節が冬の寒い時期とはいえ、熱くて眠れないのです。それだけならまだ良かったのですが、左右からがっちり固定されていて、身動き一つ取る事が出来ません。熱いのでのどの渇きも辛いですが……。

(トイレ行きたくなったら如何しよう)

 かなり切実な問題でした。……本当に如何すれば良いのでしょうか?



 寝る前にトイレに行く等の対策を取って、1週間ほど乗り切りました。と言うか、物凄くキツイです。

 この1週間は2人の説得に、多くの時間を費やしましたが、全く聞き入れてくれませんでした。

 アナスタシアからは「兄様は、あたしのこと嫌いなの?」の一言で、物の見事に返り討ちです。カトレアは話を聞いてくれるのですが、無言で目を合わせられただけで返り討ち(ギブアップ)に……。

 この時私は、睡眠環境の改善にばかり心血を注いでいました。しかしそんな私に、カトレアが不満を感じているのに気付く事が出来なかったのです。

 考えてみれば当然と言えるでしょう。勇気を出して同衾に踏み切ったのに、相手が自分を意識しないどころか、快適な睡眠をとる事ばかり考えているのですから。女性側から見れば、酷い侮辱と感じて当たり前です。カトレアは私の心を読めるので、私の辛さを分かってくれている様ですが、それで不満が無くなる訳ではありません。目に見えて私への挑発行為が増えて来ました。

 そして、とうとう地雷が爆発する事になったのです。誰が踏んだかは、私には分かりませんが……。



「ねぇ ギル。しない?」

 突然カトレアがそんな事を言って来ました。ティアは分かりませんが、隣ではアナスタシアが寝息を立てています。

「するって、何をするのですか?」

 私は分かっていても、しらじらしく聞き返しました。

「セックス」

 やっぱり。……と言うか、今回はストレートですね。

「駄目です。婚前交渉は厳禁です。第一、アナスタシアとティアが居るので出来ません!! 絶対に無理です」

「2人とも寝ているから大丈夫よ。それに、来年の3月中にする約束じゃない」

 カトレアの切り返しに、ぐぅの音も出ませんでした。私は齢10歳にして、なんて約束をしてしまったのでしょうか。……凹みます。

 この時カトレアは言葉による攻めだけで、実際に事に及ぼうとはしませんでした。当然と言えば当然と言えるかもしれませんが、カトレアも花も恥じらう乙女です。競う相手がいなければ、ゆっくり交際(恋愛)したいのでしょう。(競う相手が、交際相手の実の妹と言うのが問題ですが)

 一通り私をからかうと、カトレアは寝息を立て始めました。私はそれに安心して眠りにつきました。しかし、私とカトレアは気付きませんでした。この時アナスタシアが起きていた事に……。

 次の日の朝目を覚ますと、アナスタシアは既にいなくなっていました。珍しい事もある物だと不思議に思っていましたが、朝食の席でディーネに思い切り睨まれました。

 ディーネにその理由を聞いても、言い淀むばかりで教えてくれませんでしたが、原因はその日の夜に思い知らされる事になったのです。



---- SIDE アナスタシア ----

 この日あたしは兄様よりも早く目が覚めました。と言うより、殆ど眠れなかったと言って良いと思います。原因は昨日聞いた、兄様とカトレア様の会話です。

 兄様とカトレア様が、セックスと言う物をするらしい。それ自体は、あたしには良く分からけど……。問題は、あたしとティアちゃんが居たら出来ないと言う事です。

 つまり、兄様達がセックスをする時には、あたしとティアちゃんは追い出されてしまう。

 それは兄様が、あたしから離れて行ってしまうと言う事です。

 ……認めない。絶対に。

 とにかく、対策を取らなければなりません。それには、セックスがどういう物か知る必要があります。最初は本で調べようと思いましたが、それらしき記述がある本は無かったと思います。そうなると、誰かに聞くしかないのです。

(取りあえず、ディーネ姉様に聞いてみよう)

 あたしは兄様が起きる前に、自分の部屋に戻って着替えるとディーネ姉様の部屋に行きました。

「姉様。起きて」

 ディーネ姉様はまだ寝ていたので、起きてもらいました。朝の挨拶を交わし、姉様は目をこすりながら聞いて来ました。

「こんな朝早くから、如何したのですか?」

「うん。聞きたい事があって……」

「分かりました。その前に着替えて良いですか?」

 あたしは「着替えながらで良いよ」と答えておきました。すると姉様は、1回伸びをしてクローゼットの方に移動しながら聞いて来ます。

「それで聞きたい事とは何なのですか?」

「うん。……セックスってなに?」

 ゴンッ!!

 なんか、すごい音がしました。見るとディーネ姉様が、クローゼットの扉部分で思い切り鼻を打ったみたいです。鼻を抑えながら、崩れる様にうずくまりました。

「姉様!! 大丈夫!?」

 慌てて駆け付けようとしたら、手で制されました。姉様はすぐにヒーリング《癒し》を使い、鼻をハンカチで拭きとりました。どうやら鼻血を出していたみたいです。

「アナスタシア。それを何処で聞いたのですか?」

 あれ? ディーネ姉様の目が怖い。 如何して?

「えーと。 兄様とカトレア様が話してるのを聞いて……」

「ちっ あの馬鹿ップルが……」

 何故か姉様から、とても怨念のこもった声が……。そして、「慎みを……」とか「自制を……」とか、ぶつぶつと言っています。……なんか、姉様が怖い。

「あの。姉様?」

「アナスタシア!!」

「は はい!!」

 突然大きな声で呼ばれて、驚いてしまいました。

「その事は人に聞いてはいけません」

「え……でも」

「アナスタシアもいずれ知る事です。焦る必要はありません」

 姉様のこんな反応は初めてです。今まで聞いた事は、丁寧に答えてくれたのに如何して?

「特に!!」

 ビクッ

「男の人には絶対に聞いてはいけませんよ」

 ディーネ姉様が、かつて無いほど怖いです。結局その場で、セックスの事を誰にも聞かないと約束させられました。

(情報源が無くなっちゃった)

 ディーネ姉様の部屋から出たら、あたしは頭を抱えちゃいました。

「アナスタシア様 アナスタシア様」

 とても小さな声で、あたしを呼ぶ声が聞こえました。その声の方を向くと、メイドがあたしに手招きをしていました。確かディーネ姉様付きのメイドで、アリアとか言う使用人だったと思います。

(そう言えば、このアリア、アリス、アミラの3人で、ディーネ姉様が三馬鹿メイドとか言って怒っていた様な……)

 警戒心が先に立ちましたが、途方に暮れていたあたしは付いて行ってしまいました。

---- SIDE アナスタシア END ----



 今日は珍しくアナスタシアが絡んで来ませんでした。当然カトレアの機嫌も良く、久しぶりの平和な1日を満喫していました。この分なら夜も……等と淡い期待を持ってしったのは仕方が無いと思います。

 その期待が裏切られたのは、寝る前にアナスタシアが私の部屋に突入して来た時でした。

 アナスタシアは、私特製の猫さんプリントの子供パジャマでは無かったのです。いわゆるネグリジェと言うスケスケのパジャマでした。……ハッキリ言って、いつもの子供パジャマの方が可愛いです。

「お兄様。寝屋を共にいたしますわ」

「「????」」

 私とカトレアの頭の中に?が乱舞します。それと言うのも、物凄く似合ってないのです。本人は大人の女性を意識しているようですが、ハッキリ言ってダメダメです。それはもう、憐みを誘う程に……。或いはロリーな人なら喜ぶかもしれませんが。

「……アナスタシア」

「ん? なぁに」

 アナスタシアは、腰をクネッと動かしてウインクしました。その動き一つ一つが、妖艶から可愛いや微笑ましい等を通り越して残念感満載です。

「何か拾い食いでもしたのですか?」

 そんな声をかけてしまった私は、悪くないと思いたいです。隣でカトレアが、顔を手で抑え「あちゃ~」と言うポーズを取りました。

「ひ 拾い食い!! 兄様!! それ如何言う事!!」

 アナスタシアの変な動きが無くなり、顔を真っ赤にして怒り始めました。「ふぅぅ~~~~!!」猫の威嚇の様なポーズをとるアナスタシアは、先程の珍妙な動きより百万倍可愛いです。

「兄様!! 酷い!! 酷い!!」

 文句を言いながら詰め寄って来たので、私は笑って誤魔化します。隣でカトレアが笑いをこらえて、プルプル震えていました。

 アナスタシアが落ち着くのを待ってから、照明を落として横になります。寝位置はいつもと変わらなかったので、相変わらず私は熱くて眠れません。

 暫く眠れずにいると、アナスタシアが私から離れごそごそと何かやり始めました。カトレアが私の手をぎゅっと握って来たので、カトレアも眠っていないようです。

 そうしている内に、アナスタシアが私に覆いかぶさって来ました。

「ア アナスタシア?」

「あれ? 兄様起きていたの?」

 それと同時に、カトレアが物凄い力で私の手を握って来ました。ハッキリ言って痛いです。

「ねぇ~兄様」

「なんですか?」

「セックス しよう」

 私はこの瞬間。思考が完全にフリーズしました。

(我が妹は、いったい何を言っているのでしょうか?)

 それはカトレアも同様らしく、何のリアクションもありませんでした。その状況を良い事に、アナスタシアは私の顔に顔を近づけて来ます。

 フリーズ状態から復帰した私は、寸前の所でアナスタシアの凶行を防ぎました。アナスタシアの顔を押し返し、強引にアナスタシアをベッドの上に座らせます。そこでアナスタシアが全裸である事に気付き、毛布を羽織らせました。私はアナスタシアの正面に座り、立会人の様な位置にカトレアが座ります。

 ……さて、何故この様な凶行に及んだか尋問&お説教タイムです。

「アナスタシア。今自分が何をしようとしたか、分かっているのですか?」

 私は怒りを押し殺しながら、問いかけました。

「セックス」

 とてもシンプルな答えが返って来ました。

「その行為の意味を知っているのですか?」

「えっと、男の子のお股についているのを固くして、あたしのお股の穴にいれる事って聞いたよ。とっても気持ち良くて、仲の良い男女なら誰でもやっているって。女の子の処女って言うのをあげると、男の子はすっごく喜ぶって教えてもらった」

 ……ピシィ。

(人の可愛い妹に、要らん事教えたのは……ダレダ)

 私は深呼吸をして、怒りを抑えつけます。

「それは誰から聞いたのですか?」

 アナスタシアの視線が私からそれ、カトレアに止まりました。

「えっ!! 私!?」

「カ~ト~レ~ア~!!」

 今の私は殺気や怒気等、あらゆるものを撒き散らしているのでしょう。アナスタシアはガタガタと震え、カトレアは千切れんばかりに首を左右に動かします。

「違う!! 私じゃない!! 私はギルを怒らせる様な事や、ライバルを増やす様な事は絶対にしない!!」

(ん? それもそうですね)

 カトレアに向けた視線を、アナスタシアに戻します。と同時に、カトレアはこれ以上巻き込まれたくないのか、少し身を引きました。

「アナスタシア。……正直に答えないと」

 私の平坦な声が響くと同時に、アナスタシアは千切れんばかりに首を縦に振りました。

「セックスと言う言葉自体は、昨日兄様とカトレア姉様が話しているのを聞いて……」

 私がカトレアを睨みつけると、目を逸らされました。

「で、朝になってから、ディーネ姉様に聞いたの」

「ディーネが不機嫌だった原因はそれか!!」

 私は思わず声を出していました。そこでふと冷静になると、ディーネがその手の事をアナスタシアに教えるとは思えません。と言うか、それ以前に“教えられる程の知識があるか?”が疑問です。

「で、後は誰に聞いたのですか?」

「えっと、秘密にするって約束したから……」

 どうやらアナスタシアは、教えた相手を喋らない心算の様です。ここで強引に聞きだす事も出来ますが、と言うかアナスタシアが言わなくとも調べ上げて、説教した上にボコリます。それよりも「兄妹でそう言う事をしてはいけない」と、教えなければいけません。

「それよりも、親兄妹でそう言った事はしてはいけないのです」

「うん。それは教えてもらった。でも理由は教えてくれなかった。どうしてなの?」

 アナスタシアが首を傾げながら聞いて来ました。最低限の倫理的な事は、教えてあるのですね。

「セックスとは子供をつくる為の行為なのです」

「そうなの!?」

 目を輝かせるアナスタシアに、私は溜息が出てしまいました。

「出産はそれ自体が危険なのです。そして、アナスタシアみたいに女性側の体が出来ていないと、危険度は一気に跳ね上がります。私はアナスタシアに、そんな危険な事をして欲しくありません」

 私は一瞬だけカトレアを見ました。今言った事は、そのままカトレアにも当てはまります。適正年齢は16歳位からと聞いた事があるので、年齢的には問題ないかもしれませんが、カトレアには病と言う爆弾が付いています。

「何より血が近い者同士の子供は、何らかの障害が出やすいのです」

「えっ? 障害?」

 障害と言う言葉に、アナスタシアは呆然としていました。

「アナスタシアは、自分の子供に不自由させたいのですか? また、そう言った理由から親兄妹でのセックスは、社会的にもタブーとされています」

 マギが以前聞いた事がある、近親相姦をタブーとする理由の一つを披露します。と言っても、何処まで本当か分からないあやふやな物ですが、アナスタシアを納得させるには仕方がありません。まあ、後はお国柄によって、タブーとする理由や範囲が増えたりしますがこれが一般的な理由だと思います。

 アナスタシアは私が言った事を吟味し、ゆっくりと理解して行きます。

「好きな男が出来たら、遠慮なくアプローチしろって言ってたのに……。障害が大きければ大きいほど燃え上がるって……。身分や立場なんて関係ないって」

 ……ビキッ ピシピシィ。倫理の説明は確りとしているのに何故? と、思っていましたが、それを全て台無しにする様な事も吹き込んでいた訳ですね。

(ハハハハハハッ 犯人殺しちゃうかも……と言うか、犯人男なら殺す)

「これ程危険で重大な事を、中途半端に教えられたのです。もはや面白半分と言われても、仕方が無いでしょう。そんな人を庇う理由はありませんよ」

 何か……アナスタシアが青い顔をして、ガタガタと震えていますが寒いのでしょうか?

「アナスタシア。誰に教えられたのですか?」

「……でも」

 約束した以上、アナスタシアも簡単には言えないのでしょう。

「……言え(ボソッ)」

 つい言葉と共に、殺気等の黒い物が溢れ出てしまいました♪

「アリア、アリス、アミラの3人です」

 アナスタシアは口を滑られてくれました。やはり我が身は……ですね♪

「ほう。あの三馬鹿メイドか。……兄はちょっと出かける用事が出来たので、アナスタシアはカトレアと仲良くここで寝ているのですよ」

 そう言って私がベッドから降りると、アナスタシアはカトレアに抱き付きました。2人揃ってガタガタ震えているのは何故でしょう? よく見ると、ティアもカトレアの後ろに隠れています。

(おっと、杖を忘れないようにしないと……)

 私は杖を持って、部屋を出ました。

「ど どうしよう。兄様が、あの3人殺しちゃう」

 部屋を出て3歩目で、アナスタシアの声が聞こえました。

(殺し()しないから安心だよ)

「はっ アナスタシア!! ギルに聞こえているわ。これ以上怒りを煽ると本当に不味いわ」

 それっきり、部屋の中から声が聞こえなくなりました。

(取りあえず3人()、O☆HA☆NA☆SHI()()きますか……。確か三馬鹿メイドは、4人部屋で同室でしたね)



---- SIDE ディーネ ----

 昨日は朝からアナスタシアに、とんでもない事を聞かれた上に、かなり痛い目にも会いました。そして昨日の今日で、早朝に轟いた声は凄かったです。別荘が揺れたと錯覚するほどでした。

「減俸じゃぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」

 あれは間違いなくギルの声ですね。後で事情を聴かなければ……。

「ディーネ様。お茶の準備が出来ました」

 振り向くとそこにはやつれた顔のメイドが居ました。

「如何したのですか? アルメル。また三馬鹿が何かやらかしたのですか?」

 メイドの名前はアルメルと言って、件の三馬鹿メイドと同室の娘で、よく三馬鹿の巻き添えを食らっている可哀想な子です。

「はい」

「今度は何をやらかしたのですか?」

 お茶が用意してある席に移動しながら、理由を聞いておきます。あまり酷い様なら、部屋の移動も考えないと可哀想です。

「昨日の夜から今朝にかけて、ギルバート様だけは絶対に怒らせてはいけないと学びました。やはり、普段温厚な人ほど怒らせてはいけないのですね」

「はい?」

 予想外の答えに、私の口から間抜けな声が漏れました。

「……何があったのですか?」

「聞かない方が良いと思います」

「ここまで来ると、聞かない方が怖いです」

 アルメルは溜息を吐くと「分かりました」と返答をしました。

 そして、その口から飛び出した話の内容に、私は頭を抱えてしまいました。

(取りあえず、アルメルは部屋の移動をさせましょう。それから、私もギルだけは絶対に怒らせないようにしよう)

 私はそう固く誓いました。

---- SIDE ディーネ END ----



 最近使用人達が、やたらと私を怖がる様になりました。流石に半年間の減俸は、やり過ぎだったでしょうか? 情状酌量の余地(一応、親兄妹ではタブーと教えていた)があったので軽くした心算だったのですが……。実際に三馬鹿メイドは、泣いて喜んでいたので問題ないはずです。アルメルを含め、厳重に口止めしておきましたし。そしてアナスタシアの相手が、私である事もアルメル含め三馬鹿には教えていません。(アナスタシアが直前に、私にも相談しに来た事にしました)

 それとも、三馬鹿の恐怖をあおる為だけに用意した拷問道具(石抱き)が原因でしょうか? それを部屋に残して来た事かな? それとも去り際に「迂闊なあなた達なら、すぐにでも使う事になりそうなので、このまま部屋に置いておいてください」と言ったのが不味かったのでしょうか? まあ、考えても分からない事は、考えるべきではありませんね。

注 ハルケギニアの常識では、貴族を怒らせれば待っているのは死です。ドリュアス家では、そんな事が無いと分かっていても、三馬鹿メイドは死を覚悟してしまいました。(それだけギルバートの怒りは凄まじかった)そして、最後の瞬間と思った時に響いたのが、減俸の一言(咆哮?)です。この状況では、拍子抜けするか助かった事に喜ぶかのどちらかでしょう。三馬鹿は後者でした。ちなみにこの一件で、ギルバートはシスコンとして使用人達に広く認知されました。……合掌。

 あれから、本格的にアナスタシアの意識改革に乗り出し、兄が取られるのではなく姉が増えると認識させました。アナスタシアは単純だったので、(時間をかければ)割と簡単だったと言わせて頂きます。手段については黙秘しますが……。

 カトレアとアナスタシアに、互い世話させあう事により私の負担を減らす様にしました。アナスタシアも上手くカトレアに懐いてくれたので良かったです。(ベッドの中でアナスタシアを、対カトレア用の盾に出来ますね♪)

 しかし残念な事にアナスタシアは、その日の気分で私、カトレア、ディーネの3人と一緒に寝る様になったのです。私の所に来れば、後にカトレアも来て3人(+ティア)で寝る事になります。カトレアの所に行ってくれれば、私の安眠が約束されます。しかし、ディーネの所に行かれると、ベッドの上でカトレアと2人(+ティア)になってしまいます。

 そう、好きな女とベッドの上で2人になるのです。正直に言わせてもらえば、何度理性が崩壊しかけた事か……。ティアが居なければ、絶対に手を出していると断言出来ます。

 もう手を出しても……と、思わなくもありませんが、私は意地になっていました。肉体年齢はカトレアの方が上ですが、精神年齢は私の方が圧倒的に上なのです。主導権にこだわる心算はありませんが、完璧に尻に敷かれるのだけは勘弁なのです。そして手を出した途端に、カトレアに一生頭が上がらなくなると言う確信が私にはありました。

 と言う訳で、カトレアの誘惑をティアに意識を集中する事により回避します。しかしいくら有効だからと言って、多用したのが不味かったです。カトレアがティアを、ベッドの上から排除する行動に出たのです。

 最初はティア用のベットのプレゼント攻撃から始まりました。しかし効果が無く、カトレアは次々と新しい手を打ちましたが、その全てが(ことごと)く失敗に終わったのです。途中からティアも、カトレアの意図を理解したらしく、その関係はどんどん悪化して行きました。

 そしてこうなる事は、必然だったと言えるでしょう。私の目の前で、カトレアとティアが睨み合っています。(身から出た錆とは言え、この状況は辛すぎます)



---- SIDE カトレア ----

 ドリュアス家から別荘での療養を進める手紙が来た時は、天にも昇る心地になっていた。

 ギルが“ゼロの使い魔原作知識”を隠している後ろめたさから、どんなに人と親しくしていても、あと一歩を踏みこませない所があると知っていた。そしてその例外となるのが、私1人である事も理解していた。

 ……分かっている。ギルと私の関係は、互いに依存し合っているだけだと。

 それでも私は、ギルから距離を取ろうとは思わなかった。例え依存だろうと、お互いを必要としあっている事に変わりは無いのだから。

 しかしギルは、そう言う訳には行かないだろう。それは“今の私”が“原作の私”から、かけ離れた存在になってしまった事だ。ギルは少なからず、その事を気にしている。いや、気にせずにはいられないのだろう。

 それでもギルにとって私は、絶対に必要な存在だと言う自負があった。だから私は、ギルが自分と向き合い私の事に折り合いをつけるまで待つ事にしたのだ。

 そしてそれは成功したと言える。再開した時にギルが心の中でポロっと漏らした本音は、私を受け入れる物だったからだ。

 こうなれば私の思いは叶った様な物だ。後はギルの使命とも言える“この滅びゆく世界に、運命を変える一つの因子たれ”と言う大いなる意志の言葉を叶える為に、全力でサポートすれば良い。そうすればギルと私は、2人で幸せな時を過ごせると思っていた。

 ……目の前に黒猫が現れるまでは。

 この黒猫は、ギルがサモン・サーヴァントで呼び出した使い魔だ。問題となるのが、ギルがサモン・サーヴァント時に込めた念だろう。

 “私と傷を……孤独を癒し合い、共に支え、共に背負い、共に歩んで行ける者よ”

 この念により呼び出されたのが、何故私では無かったのだろうか? 私はこの時程、ギルが虚無でなかった事を悲しく思った事は無い。ギルが虚無ならば、使い魔に人間も該当するからだ。その条件ならば、呼び出されるのは私以外にありえないと自負している。

 結果は残念だったが、私は直ぐに思い直す事にした。ギルがサモン・サーヴァントに込めた念を考えれば、この黒猫と私が分かり合えないはずが無いのだから。そして如何考えても黒猫は、私と一生の付き合いになる。ならば仲良くする事にこした事は無いだろう。

 そう考えた私は、黒猫……ティアと仲良くする事にした。

 実際にティアと付き合ってみると、予想外に付き合いやすかった。これは私達の間に、住み分けの様な物がきっちり出来ているからだと思う。私は妻や恋人として、ティアは使い魔として……だ。

 そして私がティアと上手く付き合えたのは、何よりもティアの目を見たからだ。それはギルと同じ……そして少し前の私と同じ目だった。満たされているはずなのに、誰にも気づけない程の心の奥底で飢えている。ギルがコントラクタ・サーヴァントをしてくれない事に、不安を感じているからだ。

 ……そしてこの目は、孤独を知っている。

 私はこの時、ティアの在り方に安心し“ギルだけでなくティアも欲しい”と本気で思った。しかし私は同時に、大きな不安も感じていた。ギルとティアは、主従と言う上下があるにしても相互のつながりがある。私の様な一方通行では無いのだ。もしティアが、女としてギルを求め始めれば私では敵わないかもしれない。……いや、私は一方的に追い出されてしまうだろう。

 だからギルに私を理解してもらえる様に色々と無茶を言ってしまった。……今思えば、ギルが不快に思わなくて本当に良かったと言える。ギルの性格もそうだが、マギの時も含めて女性経験の少なさに救われた形だ。私の我儘はともかく、私達は危うい均衡の上で付き合っていたと思う。

 そしてその均衡が崩れる事件が起きてしまった。

 そう。アナスタシアに“男女”について、興味を持たせてしまった一件だ。それは私達に、性に対して考えさせる結果となった。そしてそれは、ティアにも人間の“男女”について意識させる事になってしまった。

 結果としてティアは……。

---- SIDE カトレア END ----

---- SIDE ティア ----

 今、気にくわない女と相対しておる。出会った当初は、主の未来の奥方と言う事で敬意を払っておったが、あろう事か吾の寝所を奪おうとしておるのじゃ。これは我にとって絶対に譲れぬ。

「二人とも喧嘩は……」

「ギルは黙っていて」「主は黙っておれ」

「はい」

 主が仲裁に入ろうとしおったが、吾もこの女に少し言ってやらねば気が済まぬ。それは、この女も同じ様じゃ。生意気にも吾を睨みつけて来おる。

「私はギルの妻になる女よ。夫婦の寝屋に邪魔者が入って来ないで」

「誰が邪魔者じゃ。第一、まだ夫婦では無かろう」

 目の前の女が眦を、一瞬だけ跳ね上げおった。

「それよりも、主が望んでおらぬのに関係を迫るのは如何かと思うのじゃが」

 フンッ。眉間に皺が寄りおったわ。

「ギルも本心では、私との関係を望んでいるわ。世間体や遠慮が邪魔して、素直になれないだけよ」

 自信たっぷりで言い返して来おったか。主も男じゃから、女が欲しいと思うのは当たり前の事じゃ。それにこの女は、主の頭の中を覗けるし、嘘がないのは吾にも分かる。主の方を一瞬だけ見たが、目を逸らしたのが事実である何よりの証拠じゃのう。

「あの、出来ればその辺で……」

 主がまた口を挟んで来おったが、一睨みして黙らせる。

「男なら女が欲しいと思って当たり前じゃ。性欲で物を語るな 色ボケ」

「……い 色ボケ!!」

 おぉ、顔を真っ赤にして怒っておるな。

「夫が大切ならば、夫の都合を考えるのも妻の役目じゃ」

 言い返せぬ様じゃ。

「夫が後先考えて我慢しておるのに、妻を名乗る者がその足を引っ張るとは何事じゃ」

 女は悔しそうに、身を震わせておる。しかし何故吾が、物の道理を説かねばならんのじゃ。

「男なら女を欲して当たり前じゃ。それが分かっていながら、手が出せない相手を生殺しにするのは、妻のやる事ではないのじゃ」

 そこまで言って、目の前の女がブツブツ何か呟いているのに気づいた。

「……猫のくせに」

「なにぃ」

「正体は韻竜のくせに!! 女としてギルの相手が出来ないからって、やっかまないでよ!!」

 激昂した女の言葉に、感じた事が無い怒りが込み上げてきたが、その言葉の真意を理解した途端に冷水を被った様に怒りが消え失せ、代わりに出て来たのは得体の知れない不安じゃった。

「どうせ貴女は、人間に変化出来ないでしょう」

 吾は口を挟む事も、反論する事も出来なくなっておった。

「猫のままなら、今まで通り抱きしめてもらえるのだから」

 吾の心が理解不能の軋みを……悲鳴を上げる。

「韻竜のくせに、ギルを男として見ているしね」

 そんな事は……。(止めてくれ……それ以上は……)

「人間に変化した途端に、私に勝てなくなるから当然よね」

「カトレア!!」

 主が女を怒鳴り付けた。じゃがもう遅い。吾の心の奥に隠れていた物は、既に抉り出された後じゃ。女は主に怒鳴られ、俯き動こうとせぬ。主は我を如何すれば良いか戸惑っている様じゃ。

「クッ……フフ、ハッハハハハハハハハハ」

 吾は笑っているのが己である事に、内心で驚きを隠せぬでいた。まるで割れてしまった心の一部が暴走している様じゃ。

(勝てぬじゃと? 吾を舐めるな)

「我をまといし風よ、我の姿を変えよ」

 吾は澱みなく変化の術を使っておった。

---- SIDE ティア END ----



 先程までティアが居た場所には、1人の人間の女性が居ました。

 漆黒の艶のある髪。

 透き通る様などこまでも白い肌。

 全体的に細いのに、出る所は出ている肢体。

 そして何より、吸い込まれそうなほど澄んだ深紅の瞳。



 正直に言わせてもらえば、私は見とれていました。

 一糸纏わぬ姿なのに、そこに淫靡さの欠片も無く、まるで完成された芸術品を見ている様な感覚。

「如何じゃ? 人の姿をした我も美しかろう」

 そこで初めて意識しました。この女性は、間違いなくティアの人間に変化した姿だと……。






「ギル!! 見ちゃ ダメーーーー!!」

 ガスッ

 再起動したカトレアに、思い切り顔面を殴られました。自分だって見とれていたくせに。 
 

 
後書き
2話連投します。 
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