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ゴミの合法投棄場。

作者:Ardito
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姫君の従者。

 
前書き
BL注意 

 
 僕はイケメンだ。

 美しき艶やかな濃紺の髪に陶器のように白く滑らかな艶肌。 そして薄紫色の瞳は春の曙。
 まるで神の奇跡のような美しさを持つ僕をイケメンと言わなければ、世界中の全ての人々はブサメンになってしまう。
 だから、僕は仕方なく言うのだ。

 僕は世界遺産登録レベルのイケメンであると。

 生まれた土地は美しき神秘の王国スフォルツェンドの辺境、魔の森に面した緑豊かな小さな農村。
 平たく言えばド田舎だ。
 周囲の人間はどいつもこいつもイモ臭い不細工ばっかり。 掃き溜めに鶴とはまさにこのこと。

 因みに僕は、容姿だけでなく性格もずば抜けて良い。 雪が積もれば身体の悪い村人の分まで雪かきするし、手先が器用だから魔物が柵や屋根や壁を壊した時は修理のお願いラッシュで引っ張りだこだ。 もちろん僕は爽やかに笑ってこう言う。 『よろこんで!』
 最近引っ越してきた若夫婦の一人娘、ココア(7歳)がおしゃれな服に憧れていれば白い布地を買い込み花柄の細かい刺繍を施して綺麗なワンピースも作ってやったし、頻繁に入り込んでくる魔物のうんこ掃除だって、誰もしらないけど僕がやってるんだ。 美しい僕が住む村がうんこ臭かったら嫌だろう?

 ついでに僕は剣の腕も良い。
 ま、村で一番強いかな。 可愛い子が魔物に襲われていた時に助けられなかったら格好悪いだろう? いついかなるどんな時でもかっこ良いイケメンの僕が弱いなんてあり得ない。

 さて、そんな僕も18歳になった。 18と言えば村長から村を出る許可を貰える歳だ。
 当然、この肥溜め臭いド田舎とは即バイバイ。
 村人は当然だけど滝のような涙を流しながら僕を引き止めたよ。
 でも、僕が不細工共の涙で心変わりするはず無いだろう? ま、性格が良い僕だから、偽りの涙でもって応じてあげたけどね。

 ◆

「ピエール……本当に行ってしまうのかい?」
「村長……申し訳ありません。 しかし、僕はどうしても『世界』とはどういった物なのか、直接この目で見て、この耳で聞いて、この肌で感じたいのです。 我が愛すべき故郷のことは決して忘れません。 十分に世界を知ることができた時には必ず戻ります。 ですから――」
「そうか……18になったお前がそこまで言うのならば、儂に止める術は無い。 ――しかし、何か辛いことがあった時にはこの村の事を思い出すのじゃよ。 この村の者はみんなお前の味方じゃ」

 僕の大嘘に村長は目頭を押さえて俯いた。 あちらこちらから泣き声が上がる中、一人の幼女が僕の元に駆け寄ってきた。

「ピエールお兄ちゃんっ! いかないでよぅ……お兄ちゃんがいないと、いないと――」
「ココア……ごめんよ。 でも、僕はどうしても外の世界の事が知りたいんだ。 いつかかならず帰るから――」
「うっ……ぐすっ……ピエールお兄ちゃん……うわーんっ」

 悪いが幼女に興味なし。

 ◆

 そんなわけで僕は故郷を捨てた。 目指すは首都《アルティナ》。
 ちょっとばかり遠いけど外国行くとなるとパスポートつくらなくちゃいけないから面倒だしね。
 何より世界一美しいと謳われる都は僕が暮らすのに相応しい。 その他諸々の理由から、目指すならアルティナしかないと思ったね!

 そうして到着したアルティナはやはり素晴らしい所だった!
 七つの白亜の塔、ゴミひとつない真っ白な石で舗装された街道! そして何より日の光で七色に輝く王城クリスタルパレス! 純白の都に色を添える多種多様な花々! ああ、まさに僕が夢見ていた通りだ!

 アルティナについた僕はしばらく冒険者で生活費稼ぎながら宿屋暮らしに甘んじていたけれど。 すぐにスフォルツェンド騎士団の入団試験に申し込んだ。
 僕は強いし、騎士団に入団すればクリスタルパレスの近くで暮らせる。 僕なら昇進間違いなしだし、近衛兵になればクリスタルパレスの中で暮らせるようになる!
 入団試験は面接と実技しか無くて、もちろん合格したよ!

 ◆

「851番、ピエールです。 先週18になりました。 出身は魔の森の手前にある農村です。 平民なので家名はありません。 剣の腕は村で一番でした。 手芸から日曜大工まで何でもこなします!」
「ふーん。 書類の職業に冒険者ってあるけど、ランクは?」

 面接官は騎士団の制服を着た赤毛の男だった。 非常に気だるげで早く帰りたいという空気を前面に押し出している。 僕に対して何て酷い態度だ。 審美眼が無いらしい。

「ランクはDです!」
「ぷ。 Dか、Dね」
「……冒険者登録したのが三日前なので――」
「あ?」
「ですから、冒険者登録したのが三日前なので、昇級試験が間に合わなくて」
「三日前……? てめぇ――馬鹿にしてんのか? 三日でFからDに上がれるわけねーだろ。 調べりゃ分かるような嘘ついてんじゃねーぞ。 ああ?」

 面接官が何やら殺気を放ってきたが、村にしょっちゅう出入りしていた魔物共で鍛えられた僕からすればそよ風のような物だね。

「村からアルティナへ至る道中に魔物に襲われていた馬車を助けたら登録時点でDランクにしてもらえました」
「はあー?」
「――そういえば……」

 赤毛の隣にいた地味な茶髪の男が赤毛に何やらごにょごにょ囁く。

「ああ、あれ、マジだったのか――なるほど、魔の森付近の農村、ね。 オッケーオッケー、お前、もう行っていーぜ。 次は実技試験だから。 名前呼ばれるまで控室で待ってろ」
「はい! では、失礼します!」

 実技試験は現団員との模擬戦だったが圧勝だった。 ふっ、名も知らぬ騎士よ。 君は決して弱くは無かった。 ただ僕が強すぎたのだ――

 ◆

 そうして見事騎士となった僕だけど、騎士専用の宿舎は同性愛者の巣窟だった。 女人禁制なんて聞いてないぞ……!? そして僕にそっちの気は無い! やめろ! いくら僕が美しいからってそんな目で僕を見るな!

 日常的に繰り返されるセクハラと精神的苦痛が酷かったため、隊長――赤毛の隣に居た地味な茶髪の男だった――に被害を訴えると、隊長は「そういうことならちょうど良い!」と朗らかに笑った。

 ◆

「実はな、女王陛下からの勅令だから拒否不可なんだが……お前にとっても良い話になりそうでよかった」
「じょ、女王陛下からの勅令……!? 僕にですか?」
「ああ、実は――姫様の従者が不在で、騎士団に丁度良い者は居ないかと探していたんだが、お前がビジュアル的にも実力的にも……その他様々な条件を考慮しても丁度良いということになってな」
「姫様の従者――!?」

 この美しい都の王城に住む姫君の、従者――!
 僕は胸が高鳴った。 お会いしたことすらないけど、流石女王様だ! この僕の価値を、有能さを分かってらっしゃる!

「姫様の従者になれば住居はクリスタルパレス内になるから、ここでセクハラに怯えることはもう無くなるぞ」
「クリスタルパレスで暮らせるんですか!?」
「もちろん、王族の従者だからな」
「そ、その話――謹んでお受けいたします!! 全身全霊を持って姫様をお守りすると誓います!!」
「ああ、そう言ってくれてよかったよ。 まあ、いずれにせよ拒否権は無いけどな」

 ◆

 そして今日、僕はいよいよ正式に姫様の従者となった。 目の前には姫様の私室に通じる扉がある。 僕は男だから普通控室までしか入ってはいけないと思うんだけど、姫様の従者に限っては『特別』に私室まで入って良いことになっているらしい。 それって一体……!

 姫様は畏れ多くも僕と同い年で、それはもうお美しい方だそうだ。 何だかんだ同年代の人間との交流は今まで無かったから、いろんな意味で緊張する……! いやでも、僕なら大丈夫! だって僕は強くて美しいから!

「さ、この奥に姫様がいらっしゃる。 姫様は物静かな方だから、ノックをして三秒待ったら返事を待たずに中に入って良い。 俺は従者じゃないから此処までしか入れない。 ここから先はお前一人で行くんだぞ」
「はい、隊長……今までありがとうございました……!」

 僕はドキドキする胸を押さえてドアをノックする。 返事は無いが、たっぷり三秒待った後ゆっくりと扉を開けた。

 品の良い、豪奢な家具が揃えられた贅沢な部屋。 優美な風景の絵画が飾られ、大きな窓からは城下町が一望できる。 ベッドは乙女らしくフリルがふんだんにあしらわれた天蓋付のキングサイズ。

 ――その部屋の中央にゴリラがいた。

 僕は扉を閉めた。

「おい、何閉めてるんだ! 失礼だろうが!」
「え……え?」

 僕はアホみたいに口を開けてただ隊長を凝視するしか出来なかった。

「今のお方が我が国の姫様だ!」
「あ……え……だ、だって、今の、ゴリ――」
「っそれ以上言えば、不敬罪で極刑に処されるぞ」
「――っ」

 隊長から放たれる本気の殺気に、僕は凍り付いた。 なぜならその殺気には一抹の同情心が含まれていたからだ。

「――姫様はお美しい。 なあ、そうだろう……?」
「――は、い……」
「さあ、扉を開けるんだ」

 僕は従うしかなかった。

 扉をゆっくりと開けると、ドアを埋め尽くす一面の茶色い壁、否、ゴリ――姫様が居た。

「っっっ!?」
「うぇ!?」

『ふごぉ……ふごぉ……』

 こちらを見下ろす姫様の視線は、かつて騎士団宿舎で一部の奴に散々向けられた情欲が込められ、ふと違和感を感じて視点を下げると、姫様の股間に巨大なイチモツがそそり勃っていた。

「ひ、姫様が、興奮してらっしゃるっ! よよよ良かったな、お前は気に入られたようだぞ!?」
「ちょっと待ってくださいよ!? 姫様って、姫って、コレ――」
「それが聖剣エクスカリバーだ!! 勇者が現れるまで代々姫様が守護することになっているんだ!! じゃあ俺は行くからな! いいか、姫様の機嫌を損ねるんじゃないぞ! 過去の従者と同じ結末を迎えたくなかったらな!!」
「か、過去のって!? 聞いてな――ま、待って下さいよっ隊長ぉおおお!?」

 姫様は僕の服を一瞬にして引き裂き、そのままベッドに引きずり込んだ。

 ――僕は処女を失った。

【Q.《姫君の従者。》を合法投棄場へ投棄しますか? →Yes/No】 
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