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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百七十話 テレーゼと薔薇の騎士

 
前書き
お待たせしました。ローゼンリッターの話です。 

 
帝国暦485年9月1日

■銀河帝国 帝都オーディン 捕虜収容施設

この所、色々と画策し忙しかったテレーゼが久しぶりにローゼンリッター副連隊長ワルター・フォン・シェーンコップに面会にやってきた。

シェーンコップにしても、なんだかんだ言いながらも、この皇女との掛け合いを面白がっていたので、久々の話をリンツ共々面白そうに聞こうとしていた。

「シェーンコップ中佐、リンツ大尉、久しぶりね」
テレーゼはケスラー大将、オフレッサー装甲擲弾兵総監を引き連れながらニコリと挨拶してくる。

「皇女殿下にはご機嫌麗しく感嘆の極みとでも言えばいいですかな」
シェーンコップは薄笑いをしながら挨拶し返す。
挨拶を聞いた、ケスラー、オフレッサーは怒ることもせずに苦笑いする。

「今日来たのは他でもないわ、良い話と悪い話が有るのだけど」
其処で一瞬止めてから胸を張って話を続ける。
「良い話からするわね」

横紙破りのセリフにシェーンコップが苦笑いしながら話す。
「普通其処は“良い話と悪い話が有るけど、どちらから聞く”と言うのがスタイルだと思うんだが」

テレーゼはシェーンコップの話をバッサリと切り捨てる。
「えーー、それじゃパターン過ぎるでしょう、私は我が道を行くのよ」
テレーゼの話に、ケスラー、オフレッサーは含み笑いをし、リンツは驚きを隠さず、シェーンコップはしょうがないかと苦笑いする。

「で、悪い話とは?」
一応、シェーンコップも反撃するが、テレーゼは完全に知らぬ振りで話しはじめる。

「捕虜交換が正式に決まるわ」
テレーゼの話にシェーンコップは“確かに良い話だ”と頷く。

(捕虜交換と拉致被害者送還については同盟も帝国も驚くほどアッサリと同意できたのであるが、同盟側が最後まで渋っていたローゼンリッター関係者の帝国への逆亡命に関しては、特使に任命された国事犯ヘルクスハイマー元伯爵が丁々発止の駆け引きをしたが、埒があかないと判ると、クリストフ・フォン・ケーフェンヒラー大将が調べ上げ、テレーゼが肉付けした同盟の英雄ブルース・アッシュビーが帝国からの亡命者マルティン・オットー・フォン・ジークマイスター大将の作った反帝国組織の帝国側残留代表者クリストフ・フォン・ミヒャールゼン中将からの情報を得て功績を立てていた事を資料を含めて暴露する可能性を指摘した。
この情報に同盟側は大いに狼狽し、事実確認に数日の休止を得るほどであり、結果的に公式議事録には、その様な資料の存在自体が記録されなかったが、人道的観点から逆亡命が同意されたのである。但し同盟政府もスケープゴートとしての、ワルター・フォン・シェーンコップ中佐を必要としたために、万が一帰国した場合は裏切り者として逮捕し、裁判後に密かに帝国へ引き渡すとの裏取引が為された)
(ヘルクスハイマー元伯爵は交渉に成功すれば、テレーゼ暗殺未遂の件で流刑中で有ったが、一応なりにも蟄居謹慎に変更されるため命がけで交渉していた)


シェーンコップとリンツの明るい表情を見ながら、テレーゼは残念そうに話す。
「悪い話だけど、ワルター・フォン・シェーンコップ、貴方に逮捕状が出てるわ」
「逮捕状って、副連隊長がどんな罪で!」
リンツが立ち上がって大声を上げる。

「リンツ落ち着け、殿下、小官は生まれてこのかた逮捕させれる様な事をした覚えが無いのですが」
リンツを落ち着かせた、シェーンコップが冷静な表情で質問してくる。
「同盟政府と軍は、貴方が、帝国に情報を漏らしていたスパイだと断定したわ」

「中佐がスパイな訳が無いでしょう!そんな事、皆が知っている事だ!」
リンツが落ち着かずに早口でまくし上げる。
「リンツ!落ち着け、お前がスパイだと言われているわけではないんだからな」

あくまで冷静なシェーンコップにリンツも落ち着きを取り戻す。
「申し訳ありません」
「で、小官がスパイだと言う根拠は?」

「調べた限りだけど、同盟政府と軍首脳部が責任逃れにローゼンリッターが情報を漏らしたからヴァンフリート星域に後方基地があるのがばれたと言っているようね」

「ハハハ、俺も随分と大物にされたもんだ」
「中佐、笑ってる場合ですか、連中責任逃れに中佐をスケープゴートにする気です」
苦笑いするシェーンコップをリンツが真剣な表情で心配する。

「其れだけじゃ無くて、更に悪い話だけど、貴方のスパイ活動に関して、貴方の愛人達も拘束と逮捕命令が出てるわ」
「な……」

さしものシェーンコップもその話には絶句する。
「貴方が、軍内部に張り巡らした愛人ネットワークで情報を収集してそれを帝国へ流していたと断定したそうよ。此方としては、ローゼンリッターからは情報を得ていないと説明したのだけど、同盟市民への支持率の維持のために、自由自治自尊の崇高な精神を標榜する同盟政府が断定したのよ」

テレーゼの同盟に関する皮肉を聞きながらも、シェーンコップもリンツも黙ったまま声も出ない。
「其処で、此方は、貴方の身柄とローゼンリッターと関係者、無論亡命を希望する愛人もその家族もだけどを引き渡す代わりに、200万の拉致被害者と100万の捕虜にプラスしてヴァンフリート星域会戦で捕虜にしたセレブレッゼ中将以下のスタッフを帰還させる事にしたわ」

「俺が中将閣下と同じ価値だと」
やっとシェーンコップが話しはじめるが、声の小ささが彼の心の動揺を感じさせた。
「いいえ、中将以上の価値よ、ワルター・フォン・シェーンコップ、貴方ほどの人材は銀河広と言えども、中々お目にかかれないわ、と言ってもオフレッサーやケスラーがいる前で言うと説得力が無いけどね」

茶目っ気たっぷりに二人を見ながら笑うテレーゼにオフレッサーはニヤリと笑い、ケスラーは軽く頭を下げる。その姿を見て、シェーンコップもリンツも多少は心が晴れる。その後ケスラーが用意した同盟政府の交渉内容やその際の映像を見てほとほと呆れる。

「俺達ローゼンリッターをどうするつもりです」
シェーンコップも未だ彼らしい話し方が出来ないが、自分より部下のことを考えて質問する。

シェーンコップの質問にテレーゼはニコリとしながら答える。
「安心して良いわよ。貴方以下、ローゼンリッターと家族、それに貴方の愛人から、その家族に、貴方の隠し子一個師団まで全て引っくるめて臣民として学業や生活に不住がないように銀河帝国皇女である私が保証するわ」

「プッハハハ」
「グハハハハ」
「ハハハハ、中佐、ばれてますぜ」

テレーゼの話に、その場にいた全員が笑い始めた。
「一個師団は言い過ぎですがね」
シェーンコップも笑い始める。

場が和むと早速テレーゼは、ローゼンリッターに関して話しはじめる。
「帝国としては、何処ぞの自由を求める軍隊のように最前戦へ送って嘗ての同僚達と血で血を洗う状態にして全滅させるようなゲスな事はしないからね」

「ほう、それでは我々を飼い殺しにでもするのですかな?」
やっと、シェーンコップらしい皮肉を入れた喋りが復活する。

シェーンコップの質問にテレーゼが真剣な表情をして話しはじめる。

「今から言う事は、帝国内でも極々一部の人間しか知らない超極秘な話よ。此を聞いたら二度と同盟には戻れないし私達と一蓮托生な関係になる事だけは覚悟して欲しいわ。その覚悟が無いなら帰って良いわよ」

テレーゼの表情の変化に、ケスラー、オフレッサーも真剣な表情になり、その表情からただ事ではないと判ったシェーンコップはリンツに告げる。
「リンツ、お前は帰れ」
「中佐……」

「良いか、俺は何の因果か、戦犯として指名手配の身だが、お前は違う、同盟に帰って、俺に全てをおっ被して誤解を解く事が出来る筈だ」
シェーンコップはそう言いながらも、自分を悪者にしてリンツ達を助けるという苦渋の決断をする。

「中佐、そうは行きませんよ。中佐一人を悪者にしてノウノウと帰るほど俺たちゃ落ちぶれてませんぜ」
「リンツ……」

「殿下、小官にも話を聞かせて頂きたい」
リンツも先ほどの話で、同盟政府のやりように嫌気がさしていたために帝国へ戻ろうと意を決した真剣な眼差しで訴える。

「判ったわ、ワルター・フォン・シェーンコップ、カスパー・リンツ、此から話す事は他言無用、漏れた場合は、帝国どころか、全人類の存亡に係わる事に成るからそのつもりで聞きなさい」
余りの大事に、シェーンコップ、リンツとも身構える。

「貴方たち、地球教って知ってるかしら」
「地球教、聞いた気はするが」
「近年、活動を活発化させている宗教団体ですか?」

「ええ、リンツの言う通りよ」
「その地球教が人類生存にどんな関係があるんですかな?」
シェーンコップは半信半疑で質問してくる。

「サイオキシン麻薬って知ってるわよね」
「ああ」

「地球教は、地球でサイオキシン麻薬を密造しているのよね」
「なっ!」

「そんな馬鹿な、宗教団体がサイオキシン密造……」
「事実よ。物証もあるし」
「物証とは?」

「先だって我が軍の巡検艦隊が偶然にも地球から巡礼の帰路シリウス近傍で宇宙海賊に襲撃された巡礼船を救助したんだけどねー」
「偶然ですか」

シェーンコップもテレーゼの話し方から、意図に気が付いたらしく、ニヤリと笑う。

「そっ偶然よ偶然、だってあの辺りは、黒旗軍の地球総攻撃以来1000年近く再開発もせずに放置したまんまだったから、今までなら獲物もなくて宇宙海賊は出没しない筈だったんだけどねー、近年各星系に巡検艦隊を派遣するようになった関係で、居づらくなった場末の海賊がどうやらシマを変えたみたいでね。其処へ偶然にも不幸な巡礼船が通りかかったわけなのよ。それを巡検艦隊が救助して偶然にも同伴していた病院船で被害者の治療したら、巡礼者の殆ど全てからサイオキシン麻薬の陽性反応が出たと言う訳」

(テレーゼはあくまで偶然だと言い張るが、そんな訳はなく、全てテレーゼ達が仕組んだことであった。テレーゼの原作知識から、地球教が総本部で食事は疎か水にまでサイオキシン麻薬を添加し巡礼信徒を洗脳している事を知っていたからこそ、宇宙海賊に扮した特殊部隊が襲撃して巡検艦隊が助けるという図式が完成したのである。更に数隻が行方不明という拉致を行い徹底的に調べ上げられていた。)

「なるほど、宗教と麻薬は切っても切れない存在とか言いましたな」
「そう言う事よ、けど信徒を薬中にするだけなら、大したことないんだけど、あの連中は最悪なのよね」
「それは、どれ程なのですか?」

「昔々の大昔、11世紀頃の地球ペルシャ地域に暗殺教団と言うイスラム教の一流派があったのよ。その連中は信者をマリファナで洗脳して、敵対者達を暗殺させていたのよね」

「地球教が同じだと言う訳ですな」
「しかしそれだけ証拠があるのなら一宗教団体なら如何様にも出来るのではないですか?」
「その通りよシェーンコップ。リンツ確かに一宗教団体ならどうにでも出来るんだけど、地球教は更に厄介な事に、フェザーン自治領という隠れ蓑も持っているからね」

「なっ、そんな事が」
「冷静に考えてみれば判る事なんだけど、フェザーンの行動がおかしすぎないかしら?」
「どの様にですかな?」

「フェザーンは、帝国同盟を啀みあわせながら中間で繁栄を狙っているように見えるけど、戦争で帝国同盟が疲弊すれば疲弊するだけ、人死によりマーケットは縮小の一歩だわ、それに増税増税で購買力も落ちている、フェザーンが幾ら物を作っても何れは売れなくなるのは目に見えているわ」

「しかしそれだけでは憶測になりませんか?」
「その点だけど、数年前に有るライブラリーから暗殺されたフェザーン第4代自治領主ワレンコフの記録が発見されたのよね。それには、地球教って言ってるけど、元々は旧地球統一政府の残党共が地球の復権を遂げるために作った組織だと言う事や、フェザーン自治領主は地球教の僕にしか過ぎないこと、帝国と同盟をお互いに啀みあわせて共倒れさせ、その後に混乱した世界を宗教により統一するという、阿呆な話が残っていたのよ」

そう言いながら、ケスラーが用意した資料をジックリ見るシェーンコップとリンツ。
「成るほど、此ほどの物が有るとは」
「驚きです」

「でしょ。あの連中は、帝国と同盟が殺し合うのを高見から見ながらほくそ笑んでいるのよ、両国が和平の兆しを見せる度に、関係者の暗殺、クーデター、主戦派を利用した運動などをしながらね」
「主戦派と言っても、それほどの力が地球教にあるのですか?」

「確かにリンツの疑問は普通の神経の人間ならその通りなんだけど、奴等は、同盟にも手を深く入れているわ」
「それは、ただ事ではないですな」
シェーンコップが眉間に皺を見せながら頷く。

「ええ、国防委員長トリューニヒトの手先に憂国騎士団がいるけど、あの構成員の多くが地球教の信徒なのよね」
「殿下、トリューニヒトは国防副委員長ですが」

ケスラーがテレーゼの間違いに修正を入れる。
「えっ、あの男って悪目立ちだから国防委員長だと思っていたんだけど……」
赤い顔で恥ずかしがる姿に、シェーンコップもニヤリと笑い、オフレッサーは大笑いし始める。

「ガッハハハ、殿下でもお間違え為さる事が有るとは、安心しましたぞ」
笑いながらも決して、馬鹿にした風でもなく、父親が娘が失敗した時のように優しい笑顔で見てる。
「うもう、私だって勘違いぐらいするわよ」
真っ赤になって頬をふくらませる姿に更に笑いが起こった。

「まあ良いわ、で憂国騎士団とトリューニヒトは完全に繋がっているから、危険なのよね」
「まさか、国防委員会の副委員長が……俺達は何のために戦ってきたんだ」
ガックリするリンツ。

「で、殿下は、俺達にどうしろと言うのでしょうかな」
いつの間にか、殿下と敬称を冗談ではなく付けるようになっていたシェーンコップ。
「数年前から、軍官宮廷など全ての箇所で、地球教信徒とサイオキシン中毒患者を炙り出しているんだけど、此がまたお笑いで、有る基地では基地指令ヴィンクラー准将が薬中で、それを仕込んだのが軍医だったんだから、下手すれば判らない事になるところだったけど、此方が潜入させた者達による一斉検査の結果それが判って、現在では一掃されたんだけどね」

「成るほど、でそれがローゼンリッターにどんな影響が?」
「だからこそ、言っちゃ悪けど、帝国軍を動かせない状態で、地球教とフェザーン対策の為に、ローゼンリッターを私の私兵として引き受けるつもりなのよ。憎むべき裏切り者ローゼンリッターをオフレッサー旗下の装甲擲弾兵へ編入したとしたら軋轢だらけに成りかねないわ、無論装甲擲弾兵にそんな馬鹿はいないけど、貴族の馬鹿が必ず動くから」

テレーゼの話に、オフレッサーが無言で頷く。
「其処で、銀河帝国皇女が、我が儘でローゼンリッターを引き取ると言えば、馬鹿貴族共なんか何も言えなく成るわよ。それに私の我が儘は帝国では有名だからね」

テレーゼがウインクしながらニヤニヤと笑う。それを見ているケスラーは苦い顔、オフレッサーは相変わらずの大笑いであった。

「ガハハハ、確かに殿下の奇抜な行動は有名ですからな。GIO48に男性アイドルユニット、貴艦の下賜にノイエ・サンスーシへ戦艦での突撃までおやりになりましたからな」
呆気に取られるシェーンコップとリンツ。

それを見ながら、テレーゼが話す。
「嘗ての地球には、世界征服を企む悪の組織が存在していたのよ。彼等は人間を洗脳し、サイボーグ技術を応用した、怪人という改造人間を使って世界征服をしようとしたけど、悉く人類側の組織に破れたわ。人類側の戦士達は何々ライダー、秘密戦隊、科学忍者隊、宇宙刑事とかと言われていたのよ」

「つまり、俺達は地球教から人類を護る役目をしろと言う訳ですな」
「そうよ、ワルター・フォン・シェーンコップ、貴方なら出来るわよ」

そう言い笑い始めるテレーゼ、それに釣られて皆が笑い始める。
この会談の後、ローゼンリッター連隊全員にシェーンコップから同盟で起こっている事が映像資料と共に提示された結果、殆ど全ての隊員が帝国への逆亡命と、家族係累の帝国への帰還を選択したが、極々一部の人材と、ヴァーンシャッフェ連隊長は同盟への強制送還が決まっていた。

 
 

 
後書き
ヘルクスハイマー元伯爵は恩赦で自宅謹慎になりました。貴族にしてみれば、流刑=全てが終わりですからね。自宅謹慎なら、未だ家は残りますから、必死に頑張るはずですし、エリザベート・フォン・ブランシュバイクの遺伝子失陥を調査できたぐらいですし、色々悪巧みもしていたみたいですから、同盟側との交渉に命かけると思いました。

それに、マルガレータを可愛がっているテレーゼにしてみれば、親をそろそろ許して上げるかって感じでしたし。もう二度と馬鹿なことしないでしょうからね。 
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