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ラーメン馬鹿

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第三章


第三章

「替え玉もできるかんね」
「どんどん食べていきんしゃい」
「は、はい」
「そこまで仰るのなら」
 こうしてアナウンサー以外のスタッフにもラーメンが振舞われた。皆そのラーメンを味わってみてそれぞれ驚きの声をあげるのであった。
「おい、やっぱりこれは」
「ああ。噂だけはあるな」
 顔を見合わせて言い合うのだった。
「美味いな」
「そうだな。かなりな」
 彼等が食べても美味いのだった。やはりと言うべきか。
「どうたい、うちのラーメンは」
「日本一とよ」10
「はい、これは確かに」
「これは凄いですよ」
 皆こう二人に対しても答えるのだった。
「これだけ美味しいのってやっぱり」
「ないですよ」
「はい、本当に美味しいです」
 アナウンサーも二人のラーメンを夢中で食べていた。食べながらその味を確かめていた。その味はまず温かく濃厚なそれでいて粘っこくはない豚骨スープが細い麺に適度に絡み合いその麺はコシだけでなく風味もいいものだった。その味を確かめながら言うのだった。
「スープや麺だけでなく」
「うちの麺はその二つだけじゃないばい」
「葱ももやしもチャーシューも」
「気合入れてやっとるとよ」
「日本でもトップクラスですよ」
 アナウンサーも太鼓判を押した。
「これに匹敵するって言ったら」
「何とね!?」
「匹敵!?」
 この言葉は二人にとっては失言だった。それを聞いてすぐに目の色を変えてきた。
「うちのラーメンに匹敵する相手がおるとね!?」
「それ何処の奴とよ」
「北海道の荒熊っていうお店ですけれど」
 アナウンサーはまだ自分の失言に気付いてはいなかった。
「そこももうかなり美味しくて」
「ううむ、それは許せんばい」
「うちは日本一とよ」
 二人はもう戦闘態勢に入ってしまっていた。勝手に。
「そんな奴おったら勝負ばい」
「やっつけてやるとよ」
「やっつける、ですか」
「当たり前じゃ。おいどんば薩摩隼人たい」
「うちの薩摩の女子ばい」
 完全に鹿児島弁に戻ってしまっていた。
「そんでどげんして北海道に負けるとよ」
「日本ハムには負けんとよ」
「おい、何かこれでよ」
「ああ、番組できるよな」
 失言がはじまりだったがここでスタッフ達は顔を見合わせるのだった。そうしてテレビ局の人間らしい話をはじめるのだった。
 そうして密かにアナウンサーからカメラを外して。そのうえで彼女とも話すのだった。
「ねえ里恵ちゃん」
「何ですか?」
「今の状況、使えるから」
「番組にね」
「番組にですか」
 それを聞いて彼女も真剣な目になった。この辺りは実にプロらしかった。
「そうさ。このお店と北海道の荒熊と勝負させてね」
「料理対決を報道しようよ」
「あっ、いいですねそれ」
 アナウンサーもそれを聞いて頷くのだった。
「視聴率も取れそうですね」
「そういうこと。それじゃあそれでね」
「はい、それで行きましょう」
「プロデューサーにも話してね」
 そこまで話を及ばせるのだった。こうして話を決めてしまった。だがここでは二人に話はしない。そうして日をあらためてこの日のことを隠して二人にまた話す。二人はそれを聞くとスタッフ達の予想通り全身を燃え上がらせて言うのであった。
「よし、勝負ばい!」
「決戦とよ!」
 真っ赤に燃えて叫ぶ二人であった。
「必ずおいどん達が勝つとよ!」
「北海道が何たいね!」
 屋台のラーメンの麺を捌き、スープを丼に入れながらの言葉であった。
「何があってもおいどん達は勝つとよ!」
「絶対たい!」
「実はですね」
 アナウンサーも真実を隠して二人に話す。スタッフ達はここでもラーメンを食べている。何だかんだでこのラーメンの味に病みつきになっているようである。
「向こうも乗り気で」
「勝負、受けるって言うとるとね」
「面白かよ」
 ラーメンを客の前に出しながら述べた。
「そげん勇気は認めるたい」
「じゃあ全力でやっつけてやるとね」
「よし、これで話は決まりだな」
「そうだな」
 予想以上に簡単に話が簡単に決まったので彼等も内心驚いてはいた。ラーメンを食べつつ顔を見合わせて話をするのであった。
「じゃあ後はだ」
「舞台を考えてだな」
「よし、いよいよこの時が来たとよ!」
「うちのラーメンが日本一になる時たい!」
 二人はスタッフの謀略というか考えに気付くことなくまだ炎を燃え上がらせ続けていた。
「その北海道の荒熊!」
「桜島の噴火で吹き飛ばしてやるたい!」
 屋台において叫びつつ誓う二人であった。そしてその勝負の時は来た。場所は何故か関ヶ原でありそこで二人はその北海道の荒熊と対峙するのであった。奇しくも向こうも二人であった。
 
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