| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Element Magic Trinity

作者:緋色の空
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

欲望は血に塗れる


「私達は、カトレーンからの使いの者です」

ギルドの扉付近に立つ、3つの人影。
共通するのは3人全員がフードを目深に被り、マントを着用している事。
その中で1番背の高い、中央に立つ人物の言葉に、ギルドに緊張が走った。

「カトレーンの・・・」
「簡単に言えば、敵って事か」

ルーシィが呟き、アルカが軽い舌打ちと共に言い放つ。

「お前達、お祖母様の命令を受けてきたのか」
「これはこれはクロス様。その通りですよ」

3人を睨みつけながらクロスが問う。
恭しく頭を下げる人物はフードから唯一見える口に弧を描いた。
小さく、赤い毛先が揺れる。

「リーダー、早く用件を」
「ああ、そうだね」

ナツ達側から見て右側に立つ小柄な人物が中央の人物に声を掛ける。
リーダーと呼ばれた人物は口元の弧はそのままに、優しい口調を崩す事なく告げた。



「ティア=T=カトレーン嬢をお迎えに上がりました。ティア嬢は何処へ?」



あくまでも、使いの者の声は優しい。
だが、その優しさは声の奥の奥まで染み渡っている訳ではない。
表面上は優しいが、その本質はただただ冷たかった。

「・・・悪いが、姉さんはギルドにいない。俺達も行方を捜しているんだ」

クロスは正直に答えた。
ここで嘘をついたところで真実が知られるのは時間の問題なのだから。

「ほう・・・行方不明ですか」
「・・・リーダー」
「・・・ああ」

小柄な人物に呼ばれ、リーダーは小さく頷く。

「!」

フードの下から小さく覗いた黒い瞳。
その瞳に冷酷な光が宿ったのを、アルカは見逃さなかった。





「手荒な真似はしたくなかったけど・・・仕方ないね」





その言葉の意味を、ギルドにいた全員が理解した、瞬間―――――

「パラゴーネ」
「了解」

リーダーに名を呼ばれ、小柄な人物『パラゴーネ』は右腕をナツ達へと向けた。
その手に魔法陣が展開する。




「グラビティメイク・・・槍騎兵(ランス)




淡々とした声でパラゴーネが呟く。
魔法陣が輝き、そして――――

「ごあっ!」
「ぐぎっ!」
「ナツ!グレイ!」

銀色とも灰色とも取れる色の鋭い槍が何本も空を裂いて飛び、ナツとグレイに直撃した。
ダン!と音を立てて、2人はステージ近くへと叩きつけられる。

「コイツ・・・造形魔導士か!」
「グレイ・フルバスター。私と同じ造形魔導士。氷の造形魔法を扱う。リオン・バスティアを兄弟子に持つ、ウル・ミルコビッチの弟子・・・」

自分と同じ造形魔導士の登場に、グレイは自分でも気づかないうちに顔をしかめる。
それに対し、パラゴーネは変わらず淡々と告げた。
フードから覗く淡い桃色の髪が風に乗って流れる。

「ティア=T=カトレーンを渡しなさい。そうすればこれ以上の危害は加えない」
「だから・・・姉さんは今、行方が分からなくて・・・っ!」
「その程度の嘘は通じない。“行方が解らない”なんて偽り。あなた達は彼女の行く先を知っているはず」

パラゴーネはそう言うと、再び右手を構えた。

「グラビティメイク、大槌兵(ハンマー)
「があああっ!」
「うあああああっ!」

天井からプレスされるような重力の攻撃に、アルカとルーが押し潰される。
その重力のハンマーはギルドの床を大きくへこませた。

「チッ・・・封印の剣(ルーン・セイブ)!」

それを見たクロスは魔法を切り裂く封印の剣(ルーン・セイブ)をブーメランの要領で投げる。
剣はくるくると回転しながらルーとアルカの頭上を切り裂き、それと同時に2人は重力から解放された。

「サンキュー、クロス」
「これくらい何て事はない・・・だが」

コキリと関節を鳴らして礼を言うアルカに笑みを浮かべてクロスは答えると、その顔から一瞬で表情を消した。

「何度も言わせるな、姉さんはギルドにいない」
「そう・・・なら、どんな手を使ってでも引きずり出す」
「いない人間をか?随分愚かだな・・・貴様、パラゴーネと言ったか?」
「肯定する」

クロスの言葉に、パラゴーネはこくりと頷いた。
そして―――告げる。





「私は血塗れの欲望(ブラッティデザイア)、ギルドマスター直属部隊、暗黒の蝶(ダークネスファルファーラ)の1人、天秤宮のパラゴーネ」





血塗れの欲望(ブラッティデザイア)
それは、バラム同盟の一角を担う闇ギルドの名。
ふわり、とフードを外したパラゴーネの淡い桃色の毛先が肩に乗るくらいの髪が揺れた。
紅蓮の瞳が真っ直ぐにこちらを睨んでいる。

血塗れの欲望(ブラッティデザイア)!?」
「闇ギルドが・・・どうしてお祖母様の使いを!?」

そう、この3人はカトレーンの使い。
つまり、シャロンが闇ギルドに使いを頼んだという事になる。

「パラゴーネ・・・そんな簡単に明かしてはいけないと言っただろう?」
「謝罪する、リーダー。だけど永遠に正体を秘匿可能な訳じゃない。なら早急に明かしてしまった方がいい」
「それはそうだけど・・・」

リーダーは肩を竦める。
パラゴーネは堅苦しいというか不可思議な口調で告げると、ナツ達に目を向けた。

「ティア嬢の存在が無だと言うのなら、前途を教えなさい。そうすれば・・・」

何かを言いかけ、パラゴーネの声が止まった。
正しく言うならば、遮られた。


血塗れの(ブラッティ)・・・欲望(デザイア)?」


常に明るいトーンの、男にしては高い声によって。
フラフラとした足取りで、ルーは前へと進んでいく。

「ルー?」
「オイ、どうした!?」

明らかに様子のおかしいルーにルーシィが声を掛けるが、答えはない。
続くようにナツが声を荒げるが、やはり返答はない。
今のルーの耳に、彼等の声は届いていないのだ。

血塗れの欲望(ブラッティデザイア)・・・やっと、見つけた・・・」
「ん?」

蚊の鳴くような声でルーが呟く。
パラゴーネが目線をルーへと移した。
そして、俯いていたため見えなかったルーの表情が露わになる。





「お前等かああああああああああッ!」





荒れ狂う叫び。
ギルドの床を力の限り踏みしめ蹴り、ルーはパラゴーネへと向かって行く。
それに対し、パラゴーネはゆっくりとした動作でルーに右掌を向けた。

「重力魔法、Level2」
「っくあ!」

その手に展開された、銀色とも灰色とも取れる色の魔法陣。
重力によって動きを強制的に封じられたルーは、地面にうつ伏せに倒れた。

「リーダー、この男は・・・」
「ルーレギオス・シュトラスキー君だ」
「・・・ああ、あの時の」

ぐるるる、と今にも唸り声を上げそうなルーに目を向けたパラゴーネは首を傾げる。
その問いにリーダーは変わらない調子で応え、納得した様にパラゴーネは頷いた。

「魔法を解けっ!お前等、どのツラさげて僕の前に姿現してんだ!アア!?ティアに手ェ出そうってなら本気でぶっ潰すぞコノヤロウ!」

いつものルーではなく、かといって第二の人格降臨中のルーでもない荒々しい口調に、ギルドのメンバー全員が思わず呆然とする。
だがルーはそれに構わず、叫ぶ。

「僕はお前等をこの10年探し続けた!そしてやっと見つけたんだ・・・絶対逃がしてやんねえよ!この魔法解除して、正々堂々勝負しろやァッ!」

子犬が狼を飛び越え、ライオンへと姿を変える。
今のルーを表すなら、こんな感じだ。
鋭い目つきでパラゴーネを見上げて睨むルーに、リーダーは口を開く。

「落ち着いてくれないか、ルーレギオス君」
「断るっ!大体――――――」
「ああ、君の言いたい事は解るさ」

今にも噛み付きそうな勢いで喚くルーに、リーダーは制止を促すように手を向けた。





「“僕の故郷を滅ぼしてみんなを殺した奴等の命令なんか聞かない”・・・だろ?」





驚愕が走る。
ルーの表情が怒りに歪んだ。

「どういう、事?」
「こいつ等が・・・血塗れの欲望(ブラッティデザイア)が・・・」
「シュトラスキーの故郷を滅ぼし、村人を、殺した?」

サルディアが呆然と呟き、スバルが睨み、ライアーが目を見開く。
彼等も、ルーの両親が10年前に何者かに殺された事は知っていた。
故郷が滅んだ事も、だ。
だが、村人達を殺した存在の名は知らない。
―――――今ここにいない、ティアを除いて。

「おや?他の人達は知らないようだね」
「当たり前だよ・・・ティアにしか話してないんだから」

笑みを浮かべたままのリーダーに、ルーは睨んだまま呟く。

「絶対に許さない・・・絶対に・・・」

何かの呪文のように繰り返すと、ルーは重力の中無理矢理に体を起こす。
愛らしい童顔は消え失せ、その表情は怒り以外の何物でもなかった。


「悪いけど・・・僕が牢屋送りになってでも撃ち抜くよ!」


宣言するように叫んだと同時に、ルーは素早い動きで銃を抜いた。
その銃口に魔力を集め、銃口が光を帯びる。
鋭く前を睨む姿に、リーダーは薄い笑みを浮かべた。

「撃つのかい?私を」
「本当はこんな事したくないし、ギルドを血で汚す気もないんだけどね・・・」

最低限いつもの人格を残したまま、ルーは告げる。
その目に確かな闘志と殺意を浮かべて。
その姿は、どこかティアに似ていた。



「父さんと母さん・・・村の皆の仇は僕が討つ。絶対に!」



力強く言い放つ。
そして――――――銃声が、響いた。






魔法籠手(ガントレット)剣形態(ソードモード)






だが――――その魔法弾は、リーダーには当たらなかった。
リーダーの前に現れた3人目―――――大きな籠手を装備した人物がその籠手の先端部分を剣のように変換し、銃弾を切り裂いたのだ。
見た目的には彫刻具座のカエルムが剣に変形した姿にも似ている。

「我らの統帥には一撃も喰らわせない」
「助かったよ。ありがとうキャトル」
「当然の事をしたまでです、統帥」

両手の籠手の先を剣から元の籠手の携帯へと戻しながら、『キャトル』と呼ばれた少女は答える。
先ほど銃弾を切り裂いた際にフードが外れ、焦げ茶色のボブヘアと少しの幼さを残した顔立ちが露わになった。

血塗れの欲望(ブラッティデザイア)、ギルドマスター直属部隊、暗黒の蝶(ダークネスファルファーラ)の1人、金牛宮のキャトル・・・統帥を傷つけるのは許さん」

ルーシィと同じほどの背の細身の少女が装備するには重そうな籠手を慣れたように扱い、キャトルはどこまでも真っ直ぐな闘志を向ける。
だが、目の前に誰が現れようと、ルーの怒りは止まらないし、抑えられない。

「こう言うと悪人っぽいが・・・僕の邪魔をしないでくれないかな?邪魔するなら・・・君もまとめて撃つ」

わずかに第二の人格を滲ませる。
今は人格なんて気にしていられない。
第一の人格の第二の人格・・・2つが混ざり、第三の人格が小さく姿を現していた。

「撃てるものなら撃て。統帥はやらせん」
「ルーレギオス・シュトラスキー。アマリリス村唯一の生存者。戦闘力は低いが防御力は高い。二重人格者」

キャトルが睨み、パラゴーネが呟く。
魔法籠手(ガントレット)が淡い光を帯びる。
分解するようにキャトルの腕を回り、形状を変えて装着された。

魔法籠手(ガントレット)砲撃形態(キャノンモード)

右手に装備された籠手の先が砲撃のように変形し、その砲口がルーへと向く。
一瞬怯んだように1歩下がったルーだったが、すぐに気を引き締めて銃を構え直す。

「そう・・・なら、こっちも本気でいく!」

銃口と砲口。
両方に、魔力が集束されていく。

「ちょっと、ルー!」
「ごめんねルーシィ、目を閉じてた方がいいよ・・・残酷な図になる可能性が高いからね」
「そういう事じゃなくてっ・・・!」

ルーシィが止めようとするが、ルーは止まらない。
今のルーを止められるとすれば、ただ1人。
今ここにはいない、最強の女問題児。
そして――――――放たれる!



「フレイムチャージ!」

「バーストブリット!」



銃口から放たれたのは、魔力を変換した巨大火球。
砲口から放たれたのは、精神を集中して撃ち出された一撃。
お互いが真っ直ぐにお互いへと向かい――――――――



「危ねぇモン・・・ギルドでぶっ放すんじゃねェぞコラアアアアアアアッ!」



怒声が響いた。
それと同時に向かって行く銃弾と砲撃の間に、赤い髪が揺れる。

「!」

ルーは目を見開いた。
乱入した人物は左手を銃弾に、右手を砲撃に向ける。
そして、文字通り“無茶苦茶な”行動を起こした。


「跡形もなく燃やせ!大火破壊(レオクラッシュ)!」


その両手に炎を纏った事を全員が認識した瞬間――――。
左手に触れた銃弾、右手に触れた砲撃、両方が―――()()()()()

「・・・え?」
「は?」

突然の出来事にルーもキャトルも呆然とするしかない。
乱入者はその空気をぶち壊すように口を開く。

「どいつもこいつも危ねぇモンぶっ放すな・・・またギルドが壊れんだろうが、ア?」

乱入者(アルカ)は不気味なほどに感情を抑えた声で呟く。
声に込められた感情は抑えられているが、額に立った青筋やギラギラと光る瞳がその感情を剥き出しにしている。

「アルカンジュ・イレイザー・・・!」
「オレの事知ってんのか?だったら、ミラジェーン・ストラウスの恋人って認識よろしく」

剥き出しの感情をそのままに、口調は普段と変わらない。
すると、キャトルとパラゴーネから3歩ほど下がった場所で傍観していたリーダーが口を開いた。

「・・・ルーレギオス君、君は矛盾しているね」
「何が?両親殺されて仇討とうってしてる事のどこが矛盾してるの?」
「違うよ・・・そういう事じゃない」

パラゴーネを押し退け、リーダーは前へと出る。




「君は両親を殺された時の辛さを知っているのに・・・同じ思いを同居人にさせるつもりかい?」




言葉の意味が解らなかった。
数秒言葉を繰り返し、それでも意味が解らない。
リーダーの言葉通りなら、アルカがリーダーの死に辛い思いをする、という事になる。

「生憎だけど、無関係の闇ギルドの人間の死に泣くほどオレはいい奴じゃねェぞ」
「ああ、そうだろうね・・・」

アルカとリーダーが向き合う。
そして――――同時に言い放った。






「「本当に無関係なら、の話だが」」






唐突に、全員は気づいた。
アルカとリーダー・・・この2人の声は、“よく似ている”。

「・・・知っていたのか」
「こっちにゃそれなりの情報網があるんだよ」

リーダーの問いかけに、アルカは感情を全て消し去ったような淡々とした声で答える。

「それなら話は早いな・・・アルカンジュ」

そう言うと、リーダーはフードを外した。
それと同時に――――――真っ赤な髪が、揺れる。

「!」
「え?」
「どういう事?」
「は?」
「なっ・・・」

そこに立っていた姿を見て、ギルドにいた全員が目を見開いて驚愕した。








漆黒のつり目、炎のように赤い髪、整った顔立ち――――――。








「アル、カ?」

ルーが呆然と呟いた。
呼び慣れている名前が、変な箇所で途切れる。









そこにいたのは、アルカにそっくりの男性だった。










アルカがあと20歳ほど歳を取ったらこうなるんじゃないか・・・という程に似た顔立ちの。











「久しぶりだね・・・アルカンジュ」











リーダーは、どこか嬉しそうに微笑んだ。
表情は笑顔なのに、その瞳には深い愁いを浮かべている。
それに対し――――アルカは大きく溜息をつくと、呆れた様子で返した。













「くだらねー事やってんじゃねぇよ―――――――親父」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
書いててテンション上がりまくった話ですが、いかがでしょう?
新キャラとしてはパラゴーネにキャトル、この2人はジェメリィと同じ部隊の人間です。
魔法は・・・即興に近い感じで作りました、すいません。
3人の過去の話でいっぱいいっぱいで・・・。

感想・批評、お待ちしてます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧