銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百六十九話 帝国は余裕
前書き
お待たせしました。
同盟の混乱の対になるような話です。
帝国暦485年8月1日
■銀河帝国帝都オーディン ノイエ・サンスーシ ローエングラム大公爵邸
帝国政府が拉致被害者と捕虜の同盟への帰国を同盟政府が捕虜と亡命者とその家族の中で帝国への帰国を希望する者のリストアップ及び、どの様に纏めるかを休戦状態と成った惑星カプチェランカにて、急遽決まった代表者による意見の相違での喧々諤々の舌戦が繰り広げられるなか、フェザーンではルビンスキーが情報が筒抜けにもかかわらず気が付かずに新たなる行動を起こそうと考えていたのである。
そんな中、オーディンは平和であった。
ノイエ・サンスーシでは、滅多に使わないテレーゼのローエングラム大公爵邸でテレーゼの親友達が集まっていた。
クラリッサ・フォン・ケルトリング侯爵令嬢
ブリギッテ・フォン・エーレンベルク子爵令嬢
ヴィクトーリア・フォン・メクレンブルク伯爵令嬢
エルフリーデ・フォン・リヒテンラーデ侯爵令嬢
カロリーネ・フォン・グリンメルスハウゼン子爵令嬢
ズザンナ・フォン・オフレッサー令嬢
妹分のザビーネ・フォン・リッテンハイム侯爵令嬢
マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー伯爵令嬢
カーテローゼ・フォン・クロイツェル伯爵夫人
姐御のマグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人
テレーゼを含めて11人が和気藹々とお茶会を開いていた。
「GIO48は盛況のようね」
ワイン片手にマグダレーナ姐さんがにこやかに話す。
「ええ、姐さんのお陰ですわ」
テレーゼは普段と違い少々余所行きの喋り方をする。
「大したことしてないわよ」
姐さんは扇子を振りながら口元を隠す。
「憧れちゃいますわ」
「本当に、綺麗で凛々しく、惚れ惚れしますわ」
「もう40回以上通ってますし」
皆口々に“あの演劇は良かった”“あの歌は素敵”“何々伯の誰ちゃんは、誰がお気に入り”など和気藹々と雑談を行う。
そんな中、テレーゼが皆を見ながら、話しはじめる。
「所で、最近常々思うんですけど帝国歌劇団だけじゃ物足りなくなって来ませんかしら?」
「えっ?」
「十分だと思いますけど」
「演目も面白いですし、歌も素敵ですわ」
テレーゼの話が今一歩の所で掴めない皆が、頸をかしげる。
「テレーゼ姉さんは、どの様な事が足りないのですか?」
ザビーネが不思議そうな顔で尋ねる。
それに対してテレーゼが“ザビーネよく聞いたわ”と思いながら、ニコリと笑い答える。
「それは、帝国歌劇団が女性だけの劇団だと言う事ですわ」
そう言われてみれば、確かに歌劇団は女性ばかりであり、女性が男性役をしながら演目を演じている。
「けど、男性を入れるわけにも行かないのじゃない?」
マグダレーナ姐さんが、真面目な顔で指摘する。
「そうですわね」
「風紀の問題もありますわね」
皆が、姐さんの指摘に納得しているが、テレーゼがそれに関しての答えを言う。
「確かに、姐さんの仰る通りですわ。だから私は、帝国歌劇団ではなく、男性専門のチームを作ろうと思うのですわ。此が出来れば、今まで女性だけだった劇にも歌にも映画にも、大きな進歩を遂げさせる事が出来るようになりますわ」
テレーゼの話に皆が目から鱗が取れた様に驚く。
「確かに、男性劇団が出来れば、色々と幅が広がりますわね」
「格好いい劇団員とか良いですわね」
「今の状態では“女性だけでバランスが悪い”とか言う方もいますから確かに好き嫌いが有る事は確かですわ」
皆口々に面白いアイデアだと話す。
「けどテレーゼ、良いの?歌劇団だって皇帝陛下の御裁可だったのでは?」
姐さんが余り我が儘は不味いのではと心配するが、テレーゼは何処吹く風の様に演技して見せる。
「姐さん、その辺は大丈夫よ。男性劇団に関して私のポケットマネーでやるならと、父上からも国務尚書からも許可は受けてるから」
テレーゼが茶目っ気たっぷりに舌をペロリと出しながらウインクして答える。
「はぁ、既にやる気満々とは、流石テレーゼだわ」
クラリッサが溜息混じりに苦笑いをすると、皆が一斉に笑い出した。
「クラリッサは心配性だものね」
幼馴染で腐れ縁のブリギッテが茶化す。
「なによ、もう」
クラリッサがプクッとほほを膨らませて赤くなる。
「やる気が満々な訳なのね。で代表者はどうするのかしら?」
「そうですわね、またメックリンガー提督に任せるわけにはいかないでしょうね?」
姐さんの質問にテレーゼがはぐらかしながら答える。
「総合プロデューサーにまた任せるのも大変ですわ」
「髭の小父さんも本職があるものね」
「そうなると、誰か良い人はいないかしら?」
「芸術と言えば、ランズベルク伯はどうかしら?」
「えー、ダメダメ、センスが良くないよ。男連中は凄いって言うけど、あの人の詩って、古典過ぎてイマイチなんだもん」
皆が喧々諤々と話しはじめる。
「で、テレーゼには此はと思う人がいるのかしら、無論テレーゼ本人がやるとかは無理でしょ」
姐さんが、テレーゼに語りかける。
そんな姿を見ながら、テレーゼは腹の中でほくそ笑みながら、自分の考えを言う。
「其処で何ですけど、芸術に関しては誰よりも詳しい方が、丁度此処にいますわ」
そう言いながら、テレーゼがニコリと姐さんを見る。それに釣られて姐さん以外の皆が姐さんを見る。
「一寸、私?」
姐さんは、いきなりの無言の指名に慌て始める。
滅多に見られない姐さんの慌て振りを見ながら、テレーゼは無言でコクリと頷く。
「素晴らしいですわ、男爵夫人ならば、芸術に非常にお詳しいし、GIOの時も審査委員を為さっていますものね」
「ですわ、流石はテレーゼ、適材適所ね」
皆が皆、男爵夫人を褒め称えるが、本人にしてみれば“褒め殺しってこう言う事も言うのかしら”とか“この子等にしてやられた”とか考えていた。
「姐さん、いえ、マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人、是非とも男性ユニット軍団の総合プロデューサーを引き受けて頂きたく存じます」
今までおちゃらけ笑っていた、テレーゼが真面目な表情で男爵夫人に依頼する。
更に他の面々も口々に男爵夫人に懇願すると、男爵夫人も“女は度胸だわ”とやる気を出した。
「判りましたわ。わたくし、マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ、総合プロデューサーを受けますわ」
その答えに、皆が皆、歓声を上げた。
「男爵夫人、ありがとうございます」
テレーゼが神妙に礼を言う。
「やる以上は、GIOに負けないグループにするから、そのつもりでね」
「ええ、男爵夫人に全て任せますわ」
男爵夫人のやる気に喜色を見せるテレーゼだったが、この後男爵夫人が作った男性アイドルユニットV480(ヴェストパーレ480)の凄さに、やり過ぎだったかもと時々考える事に成る。しかし、この瞬間から、帝国、同盟、フェザーンを股にかける男性アイドルユニットが出来る素地と成ったのである。
GIO48、V480と立て続けに帝国芸能界に新風を吹かしたテレーゼは、この後、お笑いグループによる、笑いの殿堂などや、アニメフェスティバル、ゆるキャラブーム、さらに禁断の薄い本祭りまで開催し、帝国中にアイドルブーム、お笑いブーム、アニメブーム、ドラマブーム、マンガブーム、薄い本ブームが起こることにより、帝国全土がルドルフ大帝の頽廃文化禁止から解き放たれる切っ掛けを作る事に成る。
門閥貴族の中でも、薄い本ブームが起こり、腐女子や貴腐人なる存在が顕著になり、薄い本を馬鹿にした当主が離婚されるに至って、貴族達から規制しようという話が出たが、皇帝フリードリヒ四世御自ら薄い本を読んで、祭り開催を笑いながら許可したため、誰も文句が言えなく成り、帝国中が薄い本ブームに沸き立つことになる。
当初は、ルビンスキーも地球教も、テレーゼ皇女と皇帝の我が儘だと考え、歯牙にしていなかった。しかしこの影響で町に悲壮感が少なくなり、宗教へ逃げる者より趣味へ走る者が増えたために、地球教への入信者が帝国では激減する事に成り、慌てふためくことになるが、その時には既に手遅れと成っていた。
薄い本ブームの中で、軍務省の女性達の間で流れた薄い本の話。
「ねえねえ、聞いた、あの寵姫の弟でこの前昇進した金髪大将閣下ってさ」
「ああ、知ってる知ってる、S大将でしょう」
「そそ、あの赤毛のノッポ参謀長と出来てるって」
「あー、聞いたわよ、幼年学校入校以前からズーーーッと一緒で下宿も部屋も一緒で職場も二人きりだって」
「他の参謀達を無視して、2人だけの世界に入り込んで、司令官と参謀長だけで何時も部屋にしけ込むんだって」
「えーーー、それってやっぱり、あれだよね」
「だよね」
「だからか、兵站統括部の子に聞いたんだけど、確かどっかの貴族のお姫様が誘惑したらしいけど、歯牙にも掛けなかったっんだって」
「えーーー、そんな話有るんだ」
「やっぱ、あの薄い本の内容は本当なんだね」
「二人とも格好いいのに、まさか薔薇とはね」
「だよね、萎えるわ」
「けどさ、どっちが受けでどっちが攻めかな?」
それ以来、金髪の大将と赤毛の参謀長は軍内部や貴族のパーティーで生暖かい目で見られるように成ったとか。
帝国暦485年8月1日
■銀河帝国帝都オーディン ミッターマイヤー邸 ウォルフガング・フォン・ミッターマイヤー
親友のロイエンタールが急遽会いたいと尋ねて来た。
「ミッターマイヤー急に済まんな」
「いや構わんが、急にどうした?」
「ロイエンタールさんいらっしゃい」
「奥方夜分遅く申し訳ありません」
「いえいえ」
エヴァに挨拶するロイエンタールだが様子が何か変だ。
おかしいロイエンタールが此ほど真剣表情をする事はあまりないのだが、いったい何があったんだ?
「私は席を外しましょうか?」
エヴァ、ナイスフォローだ、ロイエンタールの深刻さが判ったらしい。
「いや、奥方にも聞いて頂きたいのですが、構いませんか?」
「はい、けど宜しいのですか?」
「是非御願いしたいのです」
おい、ロイエンタールらしくないぞ、いったい何があった。
エヴァがコーヒーを持ってくるまでロイエンタールは無言でソファーに座ったままだ。
「実は、レテーナに子供が出来た2ヶ月だそうだ」
子供子供だと、まあ確かに、ロイエンタールなら子供の一ダースぐらいいても可笑しくないが、今までそんな話を一度も聞いたことが無いが、今回はどういう風の吹き回しだ。
「まあ、それはおめでとうございます」
エヴァ!空気を読んでくれ、一概におめでとうと言えるかどうか判らないだろう。
「ロイエンタール、誰の子だ?」
「貴方!」
エヴァが俺の腕を抓る。判っている無粋な質問だと判ってはいるが、ロイエンタールが黙りこくっている以上聞かないわけには行かないだろう。
「恐らくは俺の子だろう……」
真剣そうな表情でそう呟くだけのロイエンタールお前もう少し話せよ。
「でどうするんだ、彼女はどうしたいと言っているんだ?」
「レテーナは、生みたいと言っているんだが……」
「卿は反対なのか?」
また黙りこくって、お前らしくないぞ。
「ロイエンタールさんは、ご自分の御子が必要ないと仰るのですか?」
エヴァ、そこまで言わなくても。
「いや、そう言う訳では無く……」
また黙りか、どうしたって言うんだ、まさか子供が出来たのは始めてなのか、それで困惑しているとか。
「それならば、快く赤ちゃんをお迎えすれば良いんですよ」
「実は、聞いて欲しいのですが、自分は怖いのです」
「ロイエンタールさん、何が怖いのですか?」
ロイエンタールが意を決した様にエヴァに向いた。
「奥方、自分は自分が人の親に成れるかどうかが怖くて不安なのです」
「まあ、ロイエンタールさん、みんな初めてだと、不安になりますわよ。夫も初めて私が妊娠したときは、それはそれは、家中をあっちへウロウロこっちへウロウロしながら、不安そうにしていましたから」
エヴァの言葉にも、ロイエンタールの顔は優れないな。やはり彼女とのことは遊びだからか?
「いや、奥方、そう言う不安では無いのです。私が人の親になり、我が子を慈しむ事が出来るかが不安で成らないのです」
そこから、ロイエンタールは自分の生い立ちや過ごしてきたことを語り始めた。
俺もエヴァも話を聞いて絶句した。ロイエンタールに此ほどの過去があったとは、此では女性不信で皮肉屋になる訳だ。
「ロイエンタールさん、貴方に知った風に御両親のことや過ごされてきたことをとやかく言うつもりはありませんわ。けど一言だけ言わせて下さいな。忘れないで下さい貴方を待っている人がいる事を、そして貴方にはその人を慈しむ事が出来ると」
それを聞いてロイエンタールが俯いてしまった。泣いているのかと思ったが、それを察したのか、エヴァは、ロイエンタールの頭を優しく抱きしめている。
暫くして、落ち着いたロイエンタールは、俺達に“ありがとう”と言って帰って行った。
その後、第六次イゼルローン攻防戦の後、武勲をあげたロイエンタールは中将となり正規艦隊司令官に親補された。翌年の3月にレテーナと正式に婚姻し、4月に女児が誕生した。しかしあのロイエンタールがあんな親馬鹿に成るとは誰も思っても見なかった。
後書き
張っちゃけすぎです。
ラインハルトとキルヒアイスの薄い本が即売会に並んでいます。
即売会は貴族平民の区切り無く、熱気に包まれています。
ランズベルク伯辺りは、売れない詩集を出して、在庫が余りまくっていそうですけどねw
ロイエンタールが遂に年貢を納めました。
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