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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos20-C騎士と魔導師の戦舞踏~3rd Encounter~

 
前書き
対ランサー班VS槍騎士ランサー戦イメージBGM
CRISIS CORE -FINAL FANTASY VII「自由の代償」
https://youtu.be/0gcL1wAyMG0
 

 
†††Sideフェイト†††

日曜日を利用して本局に泊まり込みで特訓していた時、守護騎士の中でも特に戦闘能力が高い3人、槍騎士ランサー、剣騎士セイバー、鉄槌騎士バスターが現れたという知らせが入ったことで私たちは緊急出動。
三騎士が現れた世界はバラバラで、私たちは3組に分かれて捕獲に向かうことになった。バスターの居る第25管理世界レクタへはなのはが。セイバーの居る第33無人世界へはアリサとすずかが。そして・・・

「イリス・フライハイト、フェイト・テスタロッサ。・・・それに姿が見えないが周囲に十何人か居るな」

私とシャル、そしてランサーの察知している通り今は姿を隠しているけど、ランサーを逃さないための結界を張る局員が18人、私の使い魔のアルフ、それにクロノ、あと本局の別部署から助っ人としてシャルの友達がランサーを捕獲するために、ここ第28管理世界フォスカムの廃棄都市区画に赴いている。

「そうね。バレているなら隠す必要も無いよね。周りに居るのは結界魔法を得意とする局員たち。ランサー、あなたとの話し合いが失敗した時に、あなたを逃がさないための」

いま私とシャル、そしてランサーが立っているのは崩れかけのハイウェイ、その真ん中で私たちは対峙している。周囲にはいくつものビルが立ち並んでいる。ランサーの戦闘記録を見る限り、周囲にビルと言った遮蔽物があるのは嬉しい。
私たちの中で一番の射砲撃資質を有しているなのは以上の射砲撃魔法を使えて、近接戦で一番のシャル以上の腕前で、空戦機動力で一番の私、陸戦機動力で一番のシャル以上のスピードで、基本的に魔力変換資質は1つなのにシャルのように複数扱えて、さらに広域攻撃魔法も扱えるっていう、普通の魔導師や騎士とは一線を画す異常性の塊。そんなランサーと遮蔽物の無い場所での戦闘なんて考えられない。

「ランサー。これ以上の蒐集行為はやめて。あなた達の主、オーナーの命が懸かっているのは重々承知している。でも闇の書の完成は、世界の滅亡にも直結しちゃうの」

「管理局のデータベース、無限書庫で調べてみて判った。今の闇の書は、過去の主の所為で壊れているって。完成させると暴走してしまって主の魔力や、これまで溜めた魔力を使って無差別破壊を行うって」

ユーノやクロノの師匠であるリーゼ姉妹が調べくれた“闇の書”の現状を知って、私たちはすごく悲しくなった。ランサー達が“闇の書”を完成させればオーナーを救うことが出来るって信じて疑っていない、って考えると。完成させても救えず、それどころか死んじゃうことになるなんて。
それだけじゃない。完成を遅らせるために蒐集を行わないと、強制的に主の魔力を使ってページを埋めるって話もある。完成させてもさせなくてもどの道、主の命が無くなってしまう。こんな悲しい結末、どうすればいいのか私たちにも答えは出てない状況だ。

「だから管理局から提案があるわけ。あなた達の主、オーナーの身柄を管理局に預けてみない? というかあなた達も来てよ。少々拘束することになるけど、悪いようにはしないから」

シャルがランサーを迎え入れるように両手を伸ばした。オーナーを救うためには“闇の書”を破壊するのが一番。でもそれじゃ守護騎士たちは救われない。八方塞がりだけど、私たちはオーナーも守護騎士たちも救いたいって強く思っている。

「オーナーは私たち騎士にとって大切で、大事な、とても愛おしい家族だ。それはオーナーも抱いてくれている想いだ。では訊こう、管理局にオーナーを救う術が有るのか? 守護騎士を犠牲にしない――闇の書を破壊しない方法で、だ」

可愛いチーターの頭部だけど、全身から放たれる威圧感は強い。返答によっては確実に戦闘に入ることになると思う。ランサーに訊ねられた私とシャルは顔を見合わせた後、「ごめん。まだ見つかってない」ってシャルは素直にそう答えて、「でも何としても見つけるから!」私はそう返した。

「話にならないな」

ランサーがバッサリと私たちの言葉を断ち切ってきた。すると当然、「だったら、あなた達は有るって言うの!?」ってシャルが怒鳴り声を上げた。私も同意を示すために頷いて見せた。方法が有るなら教えてほしい。もしそれが協力できるようなものなら協力したい。でもそんな方法は無い。それがユーノ達の答えだった。

「もちろん。だから私はリンカーコアの蒐集を始め、そして守護騎士たちに蒐集を手伝わせた。そう、此度の騒動は、全て私が始まりだ」

「「っ!」」

ランサーから告げられた話は、管理局側にとってはかなり重要な内容だった。蒐集を真っ先に始めたのはランサー。ランサーは(以前から考えられていたけど)守護騎士じゃない。何より「闇の書を破壊することなく救える、ですって?」シャルが驚くその内容だ。無限書庫の資料を漁っても出て来なかった最高の解決策。ランサーはそれを知っている?

「ランサー。本当に有るの? 世界を危険に晒すことなく、誰も犠牲にならない方法が・・・?」

「ああ。有る。だからこそ蒐集行為をやめる必要性は感じられない。邪魔をしないでもらおうか」

私の問いに答えてくれたランサーが踵を返して私たちに背を向けた。私は『どうするの、シャル、クロノ?』隣に居るシャルと、離れたところでモニターしている対ランサー作戦の指揮を任されているクロノに念話を通す。

『その方法が確かなのかも判らない今、野放しにしておくのは危険だ。やはり捕獲しよう!』

クロノから戦闘に入るように指示された。本当に悪い人たちじゃなく、ただ家族を救いたいってだけの優しい人たちなのに。“闇の書”のことを知れば知る程、ランサー達のことを止めたい、助けたい、救いたい、って強く思えたんだ。

「ランサー。悪いけど、任意同行って形でわたし達に付いて来てもらう」

「任意、ね。もちろん断ることも出来るのだろう?」

「わたしは優しさからそう言ってるんだけど? 本当なら今すぐにでも力づくで捕まえてもいいんだよ? あなた達はすでにいくつか罪を犯してる。それを理由にしてさ」

シャルの指環が“キルシュブリューテ”へと変化した。シャルから、『ほら、フェイトも』そんな念話が来たから私も“バルディッシュ”を戦斧のアサルトフォームで起動させて、「ちなみに後者の状況になった場合、反撃も逃走も公務執行妨害になるから」とランサーに警告。お願いだからそれで踏み止まってほしい。

「そうか。この場合、罪になるのは私ひとりだけになるのか?」

「それは・・・そうね」

「ならいい。公務執行妨害でもなんでもどうぞ。私は帰らせてもらう」

――風牙真空刃――

シャルが“キルシュブリューテ”を鋭く振り降ろしたことで発生した真空の刃をランサーの足元に打ち込んだ。砕けた道路の欠片がランサーを襲う。それでランサーは足を止めて、「君たちに決闘を申し込む」そう言って振り返った。

「決闘・・・?」

「そう。この決闘は私闘となる。つまりは戦闘による怪我も、デバイス損傷も、そして敗北も自己責任ということになる。勝てたならば私を捕まえるといい。悪あがきはしない。しかし君らが負けたなら何一つとして文句は言わず、私の離脱を大人しく見逃せ」

「管理局員相手にそんな勝手が通るとでも?」

ランサーから出された決闘の提案に対してシャルがバッサリと断ると、「それもそうか。じゃあどうする、戦るか?」ランサーがそう言ってとても綺麗な蒼色の魔力を足元から放出した。その強烈な魔力量と衝撃波に、「きゃ・・・!」腰を落として踏ん張らないと吹き飛ばされそうになった。

「コホン。・・・公務執行妨害になってしまうがしょうがない。私としてもいま捕まるわけにはいかないからな。というわけで、私は逃げる」

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

魔力放出をやめたランサーの背中から蒼い魔力で形作られた剣が12本、翼のように展開された。

――多層封獄結界(パーガトリー・アークケイジ)――

――広域強装結界――

桃色の半球状結界が張られた後、その上から水色の半球状結界が張られた。桃色の結界は、シャルの友達で、私たちと同い年でありながらすでに最高位の結界魔導師と謳われているセラティナ・ロードスターのもの。水色の結界は局員たちのものだ。
ランサーは頭上をぐるりと仰ぎ見た後、剣の翼を解除して「エヴェストルム」デバイスの名前を告げる。そして左手に2本の剣の柄頭を連結させたような槍を携えた。この前は“バルディッシュ”の柄を一刀のもとに両断されてしまったけど、強化された今ならきっと・・・。

「結界、か。あくまで逃がさないと。・・・ならば来るといい。そして見事私に勝って見せろ。イリス・フライハイト、フェイト・テスタロッサ」

VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は全てを知り歴史を思い描く者・槍騎士ランサー
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS

「フェイト!」

――閃駆――

「え、あ・・・うんっ!」

≪Sonic Move≫

こうなってしまったらもはや戦うしか道は無い。迷いは捨てろ、フェイト。私も覚悟を決めて、高速移動歩法(魔法じゃなくて技術だから驚きだ)で接近するシャルに続いてブリッツアクションの強化型魔法ソニックムーブでランサーへと突進する。私はランサーの左側、シャルは右側で急停止して、「はっ!」同時に“バルディッシュ”と“キルシュブリューテ”を横薙ぎに振るう。奇襲としては申し分ない速さだと思ったけど。

――暴力防ぎし(コード)汝の鉄壁(ピュルキエル)――

ランサーの両側に展開された蒼い魔力で創られた円いシールドが私たちの一撃を防いだ。やっぱりただの打撃と斬撃じゃ貫けない、か。シャルと無言で頷き合って、ランサーから一度距離を取る。ランサーは余裕を気取るつもりなのか「速度は申し分ない」ってシールドを解除、数mと離れて横に並び立つ私たちを見る。

『フェイト。コンビネーションで押し切るよ!』

『うんっ!』

個人魔法だけでなく、コンビネーション魔法も創り出した私たち。ランサーのような強力なオールラウンダーに単独で挑んでも勝てる、なんて甘い考えを持っているような管理局員はいない。

「それだけで私を墜とせると思っているのなら、ふざけるな、と言わせてもらうぞ?」

僅かな呆れを見せるランサーに向かって、「じゃあこれならどう?」シャルが駆け出しながら“キルシュブリューテ”のカートリッジを1発とロードした。長い刀身に付加されるのは雷撃だ。

――雷牙月閃刃――

シャルの突進と雷撃付加。それは私とシャルのコンビネーション魔法の1つの基点だ。

≪Plasma Barret≫

「ファイア!!」

周囲に8基と展開した帯電した魔力球(プラズマスフィア)をランサーに向けて一斉発射。雷撃弾プラズマバレットはシャルのすぐ側を通り過ぎて行ってランサーに殺到。ランサーはやっぱり防御力に自信が有るようで回避行動に移ることなく・・・

――護り給え(コード)汝の万盾(ケムエル)――

新たに防御魔法を展開した。小さな円い盾を無数に重ね合せることで出来た大きな円い盾。私のバレットはランサーのその盾に防がれた。プラズマバレットは着弾時に放電しながら炸裂することでダメージ効果範囲が広くなる誘導射撃魔法だ。
まぁ今回はランサーの防御魔法の強度の所為で発揮されないけど、でもそれでいい。いま必要なのは周囲に散った帯電している魔力素だから。バレットだった魔力がシャルの帯電している“キルシュブリューテ”の刀身に集束される。

「せぇぇーーいッ!」

ランサーの前面に展開されている障壁を跳び越えるようにシャルは跳んで、ランサーの頭上へ。そしてシャルは、シャル自身と私の雷撃の魔力が集束されたことで強化された“キルシュブリューテ”を振り降ろした。

「コンビネーションか。同じ戦場に味方が居るからこそ可能な魔法だ。大事にするといい」

――暴力防ぎし(コード)汝の鉄壁(ピュルキエル)――

最初に展開したシールドを再度展開。おそらくいま展開している単一の円いシールドが対物で、いま解除された小さなシールドを重ね合せたのが対魔力のシールドなんだ。ちゃんと使い分けがある。良い情報を得ることが出来た。
シャルの一撃がランサーのシールドに妨げられて、「キルシュブリューテ!」シャルはさらにカートリッジをロード。その間にも私は準備を進める。ランサーへと左手を翳して前面に魔法陣を展開。“バルディッシュ”のカートリッジを2発とロード。

――拘束の連鎖――

「捕らえたよ、ランサー!!」

シャルが零距離で発動させた鎖型のバインド魔法によってランサーの両足が地面に拘束される。それを確認した私は間髪入れずに・・・

――トライデントスマッシャー――

「「雷覇・砲剣衝!!」」

魔法陣の放射面から砲撃トライデントスマッシャーを放った。魔法陣の中心から1本、その1本を中心として上下に枝分かれするように2本の砲撃を発射させて、着弾時にその3本を結合させて反応を起こすことで、単発着弾よりさらに威力を増加させる砲撃だ。

「砕けぇぇぇーーーーッ!!」

「うぐっ・・・!」

着弾寸前、シャルの一撃がランサーのシールドを砕いて、その一撃をランサーに浴びせた。そのすぐ後にトライデントスマッシャーがランサーに到着、着弾寸前に3本の砲撃は結合して反応。シールドを張ったようには見えなかったランサーへの着弾と同時に雷撃を爆発的に発生させた。
これこそが私とシャルのコンビネーション魔法の1つ、雷覇・砲剣衝(命名は大体シャル)。プラズマバレットで相手の足止め+シャルが利用する帯電魔力素散布。シャルの強化された雷牙月閃刃とバインド魔法でさらに足止め。トドメに私のトライデントスマッシャー。シャルは着弾寸前で離脱。容赦なく相手を撃つことが出来る。

「よっとと。実戦でこうも上手く当てられるなんて、ツイてるかもねわたし達♪」

「シャル・・・!」

私の隣に降り立ったシャルと一緒にランサーの様子を伺う。正直、これで決まっていればいい、と思う。でも「やっぱそうよね~」シャルの言う通りランサーはまだ墜ちていなかった。全身からバチバチと放電しながらも佇んでいるランサーが煙の中から姿を現した。それに、ランサーをよく見れば全身を覆うように蒼い魔力が薄ら。

「けほっ、けほっ。・・・やるじゃないか。私に一撃を与えたのは君らが初めてだ」

「わたしの月閃刃にフェイトのトライデントを受けて、たったそれだけのダメージしか与えられていないなんて・・・一体・・・!?」

「(・・・あっ! もしかして・・・)治癒魔法・・・?」

破けた右袖から覗くランサーの素肌に付いていた傷が治っていくのを見逃さなかった。すると「良い目をしているな、テスタロッサ。ダメージを負った側から治癒魔法で回復させ続けたんだ」ってランサーは答えた。
開いた口が塞がらない。それが本当なら、一撃でランサーの意識を刈り取らないといけないことになる。それか治癒魔法の効果が追いつかないほどのダメージを与えるか。どちらにしても普通の攻撃魔法じゃランサーは墜とせないということだ。

「だったら・・・回復が間に合わないだけのダメージを与えるまで!!」

≪Explosion≫

シャルはカートリッジを1発ロード。刀身に炎を噴き上がらせて、“キルシュブリューテ”を頭上に掲げた。そして「炎牙崩爆刃!」振り下ろしたことで放たれる火炎の斬撃。対するランサーは“エヴェストルム”をバトンのように片手でクルクル回して、迫って来ていたシャルの崩爆刃を迎撃。“エヴェストルム”と崩爆刃がぶつかり合った瞬間、私たちまで巻き込みかねない程の爆発が起きた。

『フェイト! 双月、いくよ!』

「『あ、うんっ!』バルディッシュ!」

≪Haken Form≫

爆炎から逃れるために一足飛びで後退した私とシャルは念話で打ち合わせ。“バルディッシュ”を戦斧のアサルトフォームから大鎌のハーケンフォームへと変形させる。

「ハーケン・・・セイバァァーーーッ!」

“バルディッシュ”を振るって放つのは魔力刃。以前のアークセイバーより速度はさほど変わってはいないけど、その威力は格段に上がっている。切断力はもちろん、魔力刃自体の硬度も上がっているため、早々に破壊されることはない。

「雷牙飛月刃!」

シャルも“キルシュブリューテ”を振るって、刀身に纏わせていた雷撃を私のハーケンと同じように三日月状にして飛ばした。2つの雷撃の刃は黒煙を裂いてランサーの元へ。と同時に、私とシャルもランサーへ駆けだして接近。

「何度でも試せばいい、付き合おう。そのうち思い知る。私を倒すことなど、君ら2人だけでは無理だということが」

黒煙を“エヴェストルム”で裂いて晴らすことでその姿を完全に表したランサーは、“エヴェストルム”を振るってハーケンと飛月刃を余裕で弾き飛ばした。その一瞬を狙って、

――ハーケンスラッシュ――

≪Explosion≫

――光牙裂境刃――

「「双月・破盾一閃!」」

バリア貫通効果と魔力刃の威力強化のハーケンスラッシュと、障壁・結界破壊効果を持つ光牙裂境刃による挟撃を行う。最初は高速移動の魔法と歩法で接近。左右から打ち込んで、間髪入れずに切り返して前後から打ち込む、一瞬のうちに4連撃を叩き込むコンビネーション魔法。戦闘開始直後の奇襲とはわけが違う。本気の全力での攻撃だ。特にシャルは完全にランサーを討つ気でいる。

――どんな事情があっても、秩序を乱す奴には目覚まし代わりの鉄剣制裁よっ! ま、わたしだって連中を救いたいよ。だけど、私情に振り回されて結局すべてがアウト、なんていうのも嫌だから。だからこそ、わたしは敵対する奴は倒すよ。管理下に置いてからじっくり助けようってね――

シャルだってランサー達のことを助けたいって思っている。でもそれを私情としている。救うのは、助けるのはあくまで管理局下に入れてから。それが局員としての立場だってシャルは考えている。だから本気で、容赦なくランサー達を倒すことが出来る。

――護り給え(コード)汝の万盾(ケムエル)――

ランサーを覆うように展開された球体上のバリア――ううん、あの小さな円い盾で創られているからシールドだ。こんな風にバリアにもなるんだ、汎用性が高いな。でも、それすらも私たちの斬撃で絶ち斬って見せる。
最初の一閃でランサーのバリアを寸断。少し抵抗を感じたけど、なんとか斬り裂くことが出来た。小さく「これほどとは」ランサーが驚きの声を上げたのが薄らと耳に届いた。もうランサーの護りは無い。シールド再発動より早く最後の一閃を打ち込める自身がある。

≪Zwillingen Schwert form≫

「「え・・・!?」」

とその時。私とシャルの一閃が防がれた。防御魔法じゃなく、ランサーのアームドデバイス、“エヴェストルム”に。“エヴェストルム”の柄の半ばが分裂して二剣一対となっていた。ランサーは最初の体勢から体を横に向けて、右手に持つ“エヴェストルム”で“バルディッシュ”の刃を止めて、左手に持つ“エヴェストルム”で“キルシュブリューテ”の刃を止めた。

「魔法は裂けてもデバイスは斬れなかったようだな。ま、斬られてデバイスが無くなったところで私にはなんら問題ない・・・が!」

「「きゃっ・・・!」」

ランサーが腕の力を急に緩めたことで、力を籠め続けていた私は勢い余ってよろめいてしまう。しかもランサーはそのすぐに“エヴェストルム”を振るって斬撃を繰り出して来たから、回避することも防御魔法を発動することも出来なかった。

(それなら・・・!)

咄嗟に構えた“バルディッシュ”を盾にすることは出来たけど、ランサーの一撃はとても重く、私は大きく弾き飛ばされてしまう。そんな中で「遊びは終わりだ」ランサーの厳かな声が聞こえてきた。宙で体勢を整えて道路に着地する。

『シャルは大丈夫!?』

『問題なし! それよりも・・・。やっぱりランサーのデバイスにも変形機構があったわけね~』

『うん・・・』

シャルも私のように弾き飛ばされていて、ランサーから大きく離れてしまっていた。お互いの無事を確認して、一対の剣となった“エヴェストルム”を携えて道路に佇むランサーを見詰める。

≪Explosion≫

――集い纏え(コード)汝の雷撃槍(フルグルゼルエル)――

2本の“エヴェストルム”が同時にカートリッジを1発ずつロードして、両方の刃に雷撃を纏わせた。そして「プラズマバレット」って周囲に蒼いプラズマスフィアを18基と展開した。私の魔法をそのまま発動するランサーに、「え?」としか言えない。

「ファイア!」

――プラズマバレット――

私に9発、シャルに9発と放たれたバレット。その速度は私のものとは比べられない程のものだったけど、なんとかラウンドシールドを発動、着弾前に防御することが出来た。だけどそれで終わりなんかじゃなかった。

――知らしめよ(コード)汝の忠誠(アブディエル)・バージョンドンナー――

“エヴェストルム”を覆っている帯電した魔力が大きく伸びた。それは私のフルドライブ、ザンバーフォームの“バルディッシュ”のよう。ランサーはその大きく伸びた魔力の刃を私とシャルに向かって振り降ろしてきた。
回避しようにも、さっき放たれたバレットが私たちを逃がさないように周囲を超高速で回っているから出来ない。私たちの中で一番誘導制御に優れたなのは以上の制御能力に、改めてランサーの異常さを思い知らされる。

「バルディッシュ!」

≪Load cartridge. Defenser Plus≫

カートリッジ2発をロードして発動するのはディフェンサー・プラス。ディフェンサーの性能を強化したバリア魔法で、受け止めるより逸らすためのものだけど、いま私が有している防御魔法で一番強度のあるのがコレだ。さらにラウンドシールドをディフェンサー+の上から展開。防御に集中することにした。

「っ・・・!」

ランサーの魔力刃がラウンドシールドに衝突。その衝撃が私の元まで届いた。見ればシャルの方にも同じように魔力刃を加えている。シャルもまたカートリッジをロード、防御魔法のパンツァーシルト3つを三角形状に重ねて組んだ、対魔力完全防御のシュヴェーラー・パンツァーを発動して魔力刃を防御していた。

――拘束の連鎖――

両脚に違和感が生まれから足元に目をやると、蒼いチェーンバインドが足首に絡みついていて、その先端は道路に繋がっていた。これってまさか・・「わたしの拘束の連鎖!? うそでしょ!?」シャルが、さっきの私と同じ驚きを見せていた。それと同時。私とシャルを護っていたバリアとシールドがランサーの魔力刃によって破壊されてしまった。

(この構図・・・!)

バッとランサーを見ると、魔力刃が消失している“エヴェストルム”の穂先が私に向いていて、その前方にベルカ魔法陣が展開されていた。やっぱりそうだ。ランサーのこの一連の動作は全部、私とシャルの・・・。

「先ほどの礼だ、受け取ってくれ。・・・雷覇・砲剣衝!」

――轟き響け(コード)汝の雷光(バラキエル)――

蒼い雷撃砲がその魔法陣から放たれた。バインドはまだ破壊できてなく、バレットの包囲もまた止んでいない。あの砲撃を防げるだけの魔力をひねり出すためのカートリッジをロードしている余裕も・・・!

「イリス!」「フェイト!」

――ラウンドシールド――

――サークルプロテクション――

そんな時、私とシャルの前に姿を現したのはクロノとアルフ。クロノはシャルを庇うようにラウンドシールドを発動、アルフは自身と私を包む半球状のバリアを発動した。そしてランサーの砲撃は「え・・・?」私たちの脇ギリギリを通り過ぎて行った。気が付けばバレットの包囲も消えていて。

「外れた・・・?」

私とシャルを拘束していたバインドも解除された。アルフが「どういうことだい?」首を傾げながらバリアを解除。クロノもシールドを解除して、シャル共々ランサーを警戒している。

「伏兵はたった2人、か。随分と甘く見られたものだな」

「くっ。僕とアルフを誘き出すために・・・!」

「そうとも。下手にフライハイトやテスタロッサの懐に踏み込んで君ら伏兵の捕縛や攻撃魔法を受けたくないからな。上手く行って良かったよ。えっと・・・」

「・・・時空管理局、執務官、クロノ・ハラオウンだ」

「フェイト・テスタロッサが使い魔、アルフ」

「ハラオウンにアルフ、だな。さぁ。今度は4人がかりで来るといい。それでも負けた場合は、大人しく私を見逃してもらおう」

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

――屈服させよ(コード)汝の恐怖(イロウエル)――

「「「「な・・・っ!!?」」」」

また12枚の剣の翼を背中に展開したランサーの頭上数mほど上、直径10数mほどの円環の中から白銀に輝く巨大な右腕が出て来て、私たちの立つ道路をチョップで砕いた。私たちは慌てて空へと飛んだ。ハイウェイを粉砕した巨腕は一瞬にして消失した。

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

ランサーの戦闘記録で観た、色々な変換資質で創られた魔力の槍が空いっぱいに展開される魔法だ。ランサーは「私の側に来られるのなら来るといい。ジャッジメント!」指を鳴らして、その槍群を一斉に撃ち放ってきた。私とアルフは散開してそれぞれの飛行で回避。
クロノも飛行で回避。でもシャルだけはベルカ魔法陣の上に佇んだまま、“キルシュブリューテ”を振り続けて迎撃。そして槍の雨が止んだところでシャルが「どうして・・こんなに胸が、心が苦しいのよぉぉーーーーッ!」泣き叫びながらランサーの元へ跳んだ。

(前世の記憶のフラッシュバック!? ランサーを相手に!?)

『フェイト、アルフ! イリスが暴走気味だ! ランサーは僕が引き受け――』

――第二波装填(セカンドバレル・セット)――

さっき以上の槍が展開されて、「ジャッジメント!」ランサーがまた指を鳴らして号令を下した。再発射される槍群。跳び続けていたシャルはシールドや“キルシュブリューテ”で弾き飛ばしているけど、その物量はあまりにも圧倒的すぎて・・・。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「シャル!」「イリス!」

ついに墜とされてしまった。私とクロノは降り注ぐ槍群の中を飛んで、墜落して行くシャルの元へ。私は「クロノ、シャルをお願い! バルディッシュ!」のカートリッジをロード。

――マルチディフェンサー――

シャルに槍群が当たらないようにするために私が防御を担当。ラウンドシールドを多層展開。以前、なのはとの決闘の時、スターライトブレイカーで粉砕されたこともあるけど、あの時は疲弊しきっていたから。でも今は違う。ほぼ万全の状態である今、突破されることはない。って、そう思っていた。だけど・・・「そんな!」1枚、2枚、3枚目のシールドが突破された。

『フェイト! もう大丈夫だ、君も避難しろ!』

背後へ振り向いて、クロノがシャルを抱き止めて槍群の効果範囲から離脱していくのを視認。私も続いて離脱を開始しようとした時、槍群が一斉に消失した。その代わりに・・・。

「ディバインシューター。フローズンバレット。プラズマバレット。ジャッジメント・・・!」

なのはとすずか、そしてまた私の魔力弾がそれぞれ5発、計15発と一斉発射された。私へはシューターが、アルフにはプラズマバレットが、クロノとシャルにはフローズンバレットがそれぞれ迫って来た。

――ラウンドシールド――

私は振り返りつつシールドを発動。シューターが続々と着弾しては弾かれていく。そして弾かれたシューターは消えることなく、「っ!」シールドを回り込むように私へと向かって来た。防御はダメ。それなら迎撃するしかない。
飛行を再開して、50階建くらいのビルを回り込んで急停止。振り返りつつ「ハーケンセイバー!!」“バルディッシュ”を振るって魔力刃を飛ばす。私を追って来ていたシューターがビルの角を曲がって来て、そしてハーケンと正面衝突。全弾斬り裂かれて消失した。

『フェイト! 今すぐそこから逃げて!!』

――轟き響け(コード)汝の雷光(バラキエル)――

「『アルフ・・・?』えっ・・・!?」

分厚いビルを貫通して来たのは一筋の蒼い雷の砲撃だった。

†††Sideフェイト⇒シャル†††

ランサーとの戦闘の最中、起こりえないはずの記憶のフラッシュバックが連続で起きた。発端はランサーが“エヴェストルム”を携えた時。

――お前が、××××・・・――

今のランサーのように漆黒の衣服を纏った誰か。名前もかすれて聞こえず、顔も陰で隠れていて見えない。この時胸に渦巻いたのは嫌悪。そして今度は剣の翼を展開した時と障壁を張った時。

――大丈夫だ。私と君が組めば、どんな災厄にだって負けることはない――

それはとても優しく、そして頼りになる勇ましい声。この時に胸に渦巻いたのは確かなる恋慕。次はフェイトの魔法をコピーした時。

――あなたって卑怯者ね。自分の魔道を使わず、他人の物を使うなんて――

誰かに向かって糾弾しているわたし? 相手の顔は――というより全身も見えない。胸に渦巻くのは嫌忌。トドメは何百と魔力の槍を展開した時。

――いくぞっ! 私たちで奴を討ち斃す!!――

もう一度回ってくる狂おしい程の恋慕――ううん、それ以上の愛慕。嫌悪→恋慕→嫌忌→愛慕とぐるぐる回ったからもうグチャグチャ。記録で観ていた時にも変な胸騒ぎは起こっていた。でもこうして直に見て、頭の中がグチャグチャになっちゃうような懐かしさが溢れて、壊れちゃうんじゃないかって思えるほどに心が震えた。でもどうしてかそれと同じように憎く思えて・・・。

「しっかりしろ、イリス! もしダメなら君は先に退け!」

わたしを抱えて飛ぶクロノからそう強く言われてしまった。すぐ「問題ない。やれる!」って答えて、「離して。ランサーの魔力弾を迎撃する」お腹に回されているクロノの腕をペシペシ叩く。

「判った。いくぞ」

クロノは一切反論せずにわたしを離してくれた。落下中に“キルシュブリューテ”のカートリッジを1発ロード、刀身に炎を纏わせる。そしてランサーの放ったフローズンバレットに向かって「炎牙崩爆刃!」炎の斬撃を飛ばして、全弾を蒸発させてやった。

「フェイト! 今すぐそこから逃げて!!」

と、そんな時。アルフの叫び声が聞こえた。ベルカ魔法陣を足場とする魔法、シュヴェーベン・マギークライスを発動して、そこに降り立つ。ランサーは二剣の柄頭を連結した元の“エヴェストルム”の穂先をあるビルへと向けていて、穂先から蒼く輝く雷撃砲をぶっ放した。

「やっぱりランサーって騎士じゃなくて魔導師じゃないの!?」

ディバインバスタークラスの砲撃をチャージ無しで発射したランサー。そうツッコみたくもなるほどの理不尽さには呆れ果てる。

≪Explosion≫

5発目のカートリッジをロード。刀身の峰側の付け根にあるコッキングカバーを上にスライドさせて、5連式リボルバーを露わにさせる。消費しきった空のカートリッジを排出して新しいカートリッジを装弾。魔法陣を空中回廊のように連続展開。空に浮くランサーの元へと接近しつつ、『フェイト! 無事!?』姿の見えないフェイトに念話を通すと、『ギリギリ避けれた! 今ランサーの開けた穴を通って接近中!』って応じてくれた。

『クロノ、アルフ! 予定通り2人は捕縛に集中して!』

『ああ!』『おう!』

『フェイト、莫逆之友(ばくぎゃくのとも)・・・行くよ』

『・・・うんっ!』

“キルシュブリューテ”のカートリッジを1発ロード。わたしとフェイトの接近に気付いているらしいランサーはまた“エヴェストルム”を二剣形態にして、それぞれ穂先を私たちに向けて来た。

――燃え焼け(コード)汝の火拳(セラティエル)――

――轟き響け(コード)汝の雷光(バラキエル)――

そして発射される炎熱と雷撃の砲撃。私には雷撃、フェイトには炎熱だ。わたしは跳躍して回避。ま、魔法陣の空中回廊が粉砕されちゃったけど。砲撃を発射した体勢のままのランサーへ、

――チェーンバインド――

クロノとアルフが発動した捕縛魔法が迫る。それに合わせてわたしと、ビルの穴から飛び出して来たフェイトが挟撃を行う。ランサーの両腕・両足が拘束されたのを視認してから・・・・

「光牙・・・」

「プラズマ・・・」

「烈閃刃!」「スマッシャァァァーーーーッッ!」

刀身に付加した純粋魔力を砲撃として発射。フェイトの雷撃砲との挟撃。ランサーは尚もチェーンバインドに拘束されたまま。防御魔法を発動する前に、「はい、直撃」2つの砲撃がランサーに着弾、大爆発を起こした。

『全員、油断はするな。ランサーの防御力は正しく――』

――舞い降るは(コード)汝の無矛(パディエル)――

濛々と立ち込める塵煙から飛び出して来たのは、蒼い閃光で形作られた魔力の槍。わたしとフェイトに3本、クロノとアルフには4本。高速だけど直線的。僅かに体を傾けるだけで回避できた。フェイトもバレルロールで回避。クロノとアルフも回避したのを視認。

「キルシュブリューテ!」

≪ヤヴォール! カートリッジをロード。法陣結界を展開!≫

わたしとフェイト、そしてランサーを閉じ込めるようにして32枚のベルカ魔法陣を展開。するとランサーが「ほう、これは・・・!」自分が置かれた状況を察したようだ。

「全方位からの高速にして連続の襲撃、耐えられる!?」

――閃駆――

――ソニックムーブ――

わたしは閃駆で、フェイトはソニックムーブで魔法陣を蹴って、法陣結界内を縦横無尽に駆け回る。そんな中で、結界の中央に居るランサーへと斬撃を繰り出していく。前から、後ろから、右から、左から、上から、下から、ありとあらゆる方向からフェイトと一緒に攻撃を加えているのに・・・

(ランサーの防御を崩せない・・・!)

移動速度やデバイスを振る速度に緩急を付けるなどのフェイント交えでの襲撃なのに、ランサーは二剣状態の“エヴェストルム”で的確に防御してくる。背中にも足裏にも目が有るみたい。

(というか、初見でここまで完璧に防御するなんてありえないんですけど!?)

わたしの真下からの斬撃を左の“エヴェストルム”で弾き返し、フェイトの右からの刺突を右の“エヴェストルム”で弾き逸らす。それでもランサーからは攻撃を仕掛けて来ない。さっきまでは射砲撃をバンバン撃って来ていたのに。もしかして、わたしの魔力切れを狙ってる?って思った瞬間、

≪Explosion≫

――集い纏え(コード)汝の火炎槍(フロガゼルエル)――

火炎を纏わせた“エヴェストルム”で反撃してきた。咄嗟に“キルシュブリューテ”を構えて防御したけど、その一撃はあまりに重くて弾き飛ばされてしまう。でも「まだまだ!」弾き飛ばされた先の魔法陣を蹴って、すぐさま攻撃に参加。何度でも、何度でも、何度でも、攻撃を繰り返す。

――ハーケンスラッシュ――

――炎牙月閃刃――

「「せぇぇぇーーーいッッ!!」」

フェイトと同時に左右から攻める。それを余裕で“エヴェストルム”で受け止めるランサー。表情が判らないから苦戦させているのかどうかさえも判らない。だけどさっきまでのように弾き返されたり、受け流されたりしないってところを見ると、もしかしたらって思える。今まで以上の火花が散る中、

「獲ったりぃぃーーーッ!」

「やった・・・!」

「っ・・・!」

ついにランサーの両手から“エヴェストルム”を弾き飛ばしてやった。この好機を逃すわけにはいかない。フェイトとなんの合図も交わすことなくその場でくるっと1回転して再襲撃。

(獲った!)

――舞い振るは(コード)汝の獄火(サラヒエル)――

「「っ!!」」

ランサーの両手に現れたのは蒼炎の槍で、わたしとフェイトの勝利を確信した一撃が簡単に防がれた。そしてランサーは「はい、残念。言ったろう? デバイスが無くとも私には関係ない、と」そう言って、両手に握っていた蒼炎の槍を爆破した。
目の前が蒼一色に染まる。次いでこの身に襲い掛かって来るのは強烈な熱波と衝撃。悲鳴を上げているのに、自分の声が耳に届かない。感覚が告げて来る。今のわたしは大きく吹き飛ばされて錐もみ状態だって事が。

≪マイスター、気をしっかり!≫

“キルシュブリューテ”のAIの声が耳に届く。閉じているのか開けているのか自分でも判らない目に力を入れる。くるくると回る景色。曇り空に、廃棄された建物、灰色の地面。手は? 動く。足は? 動く。魔力は? まだ十分残ってる。戦う意志は? もちろん消えてない。

――シュヴェーベン・マギークライス――

魔法陣を展開して足場とする。というか「フェイトは!?」わたしと同じように吹き飛ばされたはずのフェイトの姿を探す・・・必要も無かった。フェイトはランサーと戦っていた。ビルとビルの狭間に移動していたランサー。フェイト、そしてアルフがビルの側面を足場にしてランサーへと突進を繰り返していた。

「ったく。局員の先輩のクセしてわたしは一体なにをやってんの、って話よね!!」

自分の不甲斐無さに呆れていたら「イリス!」頭上からクロノの声が。

「大丈夫か!?」

「大丈夫じゃない」

「っ! どこかダメージを――」

「ええ、心に大ダメージを負ったよ。情けなくて、悔しくて、どうにかなりそう・・・!」

意識が薄らいでいる最中でも“キルシュブリューテ”を離さなかったことについては褒めてあげたい。けど、フェイトを独りで、捕縛担当だったアルフを参戦させたそのミスには大声で説教をかましてやりたい。

「イリス。・・・保険として待機させておいた彼女を呼んだ」

「っ!・・・どうしてクロノ!?」

わたしの展開している魔法陣に降り立ったクロノに掴みかかる。わたしは、わたし達はまだ戦えるのに。クロノは「ランサーはまだ遊んでいる状態だ。半端に追い詰めて全力を出されるのは控えたい」ってわたしから視線を逸らしてそう答えた。解ってる。ランサーは未だに本気も全力も出してないってことくらい。

「だからと言って、このまま大人しく引き下がるわけにはいかないって話よ!」

「イリス!?」

魔法陣の空中回廊を作り出して、フェイト達の元へと駆け出す。背後から「待つんだ、イリス!」クロノが制止してくるけど聞こえな~い。そのまま直進しているところで、雷のようなものがフェイト達の側に建つビルの屋上に落ちた。

†††Sideシャル⇒ルシリオン†††

「なんだ・・・?」

フェイトとアルフの挟撃を適当にあしらっていると、すぐ側のビルの屋上に落雷のような稲光が降って来た。それを合図にしたかのように激烈だったフェイトとアルフの攻撃が急に緩み、2人が俺から距離を開けていく。一体何が来たんだ?と思い、頭上を見上げる。

「聖王教会・銀薔薇騎士隊(ズィルバーン・ローゼ)所属・フォアストパラディン及び時空管理局本局・第1991航空た――じゃない、異動したんだった。本局・特別技能捜査課所属、アルテルミナス・マルスヴァローグ空曹長、推参!」

「!!!!!!!!!!!!」

ビルの屋上より飛び降りて来た1人の少女。ローズピンクの長髪にエメラルドグリーンの瞳。そして「クスクス。これよりランサーの撃墜を執行します!」特徴的な笑い声。それにアル“テルミナス”。アイツと同じ称号を名前に含んでいるあの娘は間違いなく・・・。

(先代テルミナスの転生体だと!!?)

――懲罰せよ(コード)汝の憤怒(マキエル)――

彼女の存在に緊張と恐怖を感じ、俺は結構本気な光・雷・炎の三龍マキエルを発動。一斉に向かわせる。

――ツェアレーゲンシュラーク――

彼女の両拳がマキエルの鼻っ面に1発ずつ拳打を打ち込んだ。たったそれだけで「なに!?」マキエルが粉砕された。

――燃え焼け(コード)汝の火拳(セラティエル)――

火炎砲撃3発を三方向から同時発射。彼女の両拳はなお青緑色の魔力を纏い、セラティエルに拳打を打ち込むとやはり粉砕された。

――暴力防ぎし(コード)汝の鉄壁(ピュルキエル)――

対物理障壁を発動。彼女は「痛かったらごめんなさい!」そう謝り、ピュルキエルに掌底1発。一瞬で粉砕された。背に展開している飛行魔術、剣翼アンピエルの効果によってその場から急速離脱。彼女はシャルとは違って飛行魔法を修得済みのようで、「逃がしません!」俺を追って飛んで来た。

(神秘の無い魔法ではダメか・・・?)

魔術を使えば勝てそうな気もするが、ここで魔法から魔術へ切り替えるのもなんか癪だ。

――君は魔導師じゃない。魔術師だ。3rd・テスタメント・シャルロッテ・フライハイト。使えるものは使わなければ意味がない。デバイスと魔法で勝てないと判明したならば、即座に神器と魔術を使用するべきだった。君は何処まで行こうとも魔術師だ。魔導師じゃないんだ。その一線は忘れない方が良い――

かつて、シャルにそのようなことを言っていたクセに、な。迫り来る彼女をどう対処して追い返すか考え始めたところで、『ランサー! ヒーラーです!』シャマルから遠距離念話が届いた。その切羽詰まった様子は、ベルカ時代を思い出させる。

『どうした?』

『オーナーとマスターが倒れたの! いま私とガーダーでセイバーとバスターを迎えに行っているわ! ランサー、急いで帰って来て!』

『っ! 了解した、すぐに帰還する!』

はやてとシュリエルが倒れた。先の“闇の書”事件を思い返す。かつてのはやても倒れ、そのまま入院。今回もそうなってしまうのか? クリスマス――25日まであと2日である今日23日までなんの異常も無かった。だから先の事件とは違うんだと思っていた。ああ、リーゼ姉妹が介入していないのだから先の事件のような悲劇は起きえないはずなんだ。

「(とにかく今は・・・)事情が変わった、時空管理局員諸君。私はこれにて失礼させてもらおう」

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

念話が切れると同時に俺は剣翼12枚を背より離し細長いひし形の翼10枚を展開、空戦形態ヘルモーズへ移行。飛行速度を一気に上げる。

「「「「速い!?」」」」

フェイト、アルフ、アルテルミナス、そして接近していたシャルから驚愕の声が届いた。彼女らに目をやる事なく、ひたすら頭上を見上げる。このまま結界を突破してくれる。

――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――

「がはっ・・・!(な、に・・が・・・!?)」

「逃がしません♪」

右脇腹に突き刺さるアルテルミナスの右拳。信じられなかった。ヘルモーズの速度について来られる魔導師や騎士が現代に居るなど。飛行は中断され、俺は激しく咽る。振り被られる左拳。狙いは完全に俺の顔面。もし彼女の使っている魔法の効果が想像通りだとすれば、受けるのは非常にまずい。

拳打強化(フェアシュテルケン)!・・・うおおお! ファルコンメン・ツェアシュティーレン!!」

障壁ですら容易く拳打。そこに青緑色の魔力が付加された。威力はおそらく先ほどの拳打以上。ならばデバイスでの防御だ。“エヴェストルム”を構え、彼女の一撃に備えた。そして衝突。少女が繰り出せるような拳打とは思えないほどに重いその一撃に、「おい。冗談キツイぞ?」“エヴェストルム”からビシビシ、バキバキ、とひび割れる音が発せられた。
そして「馬鹿な・・・!」ついに“エヴェストルム”の片穂がへし折られた。その衝撃で俺は墜落。地面に激突する寸前で体勢を整えることに成功。“エヴェストルム”を待機形態の指環に戻し頭上を見上げ、彼女の追撃を最大警戒した直後・・・

「クロスバインド!」

「チェーンバインド!」

俺の四肢を環状魔法陣が拘束して磔の姿勢にし、続けて鎖が全身を取り巻くように締め付けて来た。クロノとアルフのバインドだ。

「すぐに砕いて――」

遅れて、「せぇぇーーーい!!」閃駆で突進して来たシャルが握る“キルシュブリューテ”の柄頭が「うぐっ!」俺の鳩尾に打ち込まれた。

「がはっ、容赦・・ぐふっ、げほっ、げほっ、ないじゃないか・・・!」

「ごめんなさい、ランサー・・・! サンダーブレイド・・・!」

頭上から聞こえてきたフェイトの謝罪と術式名。俺の側に突き立って行くのは雷光の魔力剣6本。そして「ブレイク!」フェイトの号令の下に雷光剣は爆破、放電する。俺の全身に浴びせられる雷撃。本当に容赦ないな、アルテルミナスが現れてから。

「捕獲完了、ね」

アルテルミナスの声が背後から聞こえてきた。そうしてフェイトたち全員が俺の目の前へとやって来た。まさかここまでやってくれるとは。実力差を思い知らせて撤退させるつもりだったのだが。こんな隠し玉が居たとは。長引かせたのが失敗だったな。

「さぁ、ランサー。そのチーターの下に隠れているあなたの素顔、見せてもらうから。ルミナ。お願い」

「うん、イリス。さーてさて。どんな顔が拝めるのかな~? 次元世界を席巻したランサーのす・が・お♪」

俺の頭部に伸ばされてくるアルテルミナスの両手。約束の25日――クリスマスまでは正体を暴かれるのは避けたい。ならば。

「すまないな。少々手加減が利かないかもしれない」

魔力炉(システム)稼働率アップ。魔力に神秘を付加。魔導式を魔道式へ昇華。

「何かする気だ! 意識を飛ば――いや、逃げ――」

――浄化せよ(コード)汝の聖炎(メタトロン)――

足元から蒼炎を四方八方へと這わせ、即座に「浄炎粛清(ジャッジメント)!」号令を下し爆破させる。目の前のフェイト達が蒼炎に呑み込まれてその姿を消した。ギリギリで離脱していたのを見たから、直撃は受けていないはずだ。

「(バインドは解けたな)いま帰るよ、オーナー!」

結界の頂上へ向けて急上昇。

――破り開け(コード)汝の破紋(メファシエル)――

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

上級閃光系砲撃ゲルセミに障壁・結界破壊効果のメファシエルを付加したうえで発射。ゲルセミは天を衝き、結界を粉砕して大穴を開けた。俺は穴を通り結界より脱出。そして追手がかかる前に転移を行った。


 
 

 
後書き
グーテン・モルゲン。グーテン・ターク。グーテン・アーベント。

「長っっっっ!!」

ルビ付きの術式名が多いルシルの事ですから文字数は半端ないだろうな、と思っていましたがやはり増えた増えた。1万8千文字オーバーです。
まぁ、何はともあれ三騎士戦も無事に終わり、いよいよ闇の書事件も終盤です。事件終了後は、何気に本作のラストエピソードの根幹に関わる+αエピソードをお送りして、そしてSTRIKERS編であるエピソードⅣへの繋ぎとしてオリジナルのエピソードⅢへと入っていきます。

 
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