不殺の侍と聖杯戦争
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本戦
一回戦~残り128人
四日目
前書き
御剣流登場しますよ~
校舎の中を歩いていると、NPC――賑やかしの生徒たちに混じって、マスターたちとすれ違う。外見でそれとわかるわけではない。けれど、どこか雰囲気が違う。意志のない人形と、人間の差か。戦いに臨む、彼らの張り詰めた気持ちが、グラフとして読み取れる。
そんなマスターたちの中に、ひときわ異彩を放つ人物がいた。
「おや、あなたは……やはり、あなたも本戦に来たんですね。
言ったでしょう、あなたにはまた会えるって。」
レオ。レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。あどけない少年は、その外見だけでも十二分に目立つけれど、何よりも圧倒的なのは、その“存在証明”の濃さだ。予選の学校では、過剰すぎて獅子が鶏小屋にいるような違和感があったが、この緊張した空気の中では、むしろ自分が場違いだ。
……そして、異彩を放っているのは少年だけではない。彼の後ろ、影のように一人の青年が立っている。甲冑を着込み、帯剣しているその姿。隠しもせず漏れ出る、人の域を超越した力。明らかにサーヴァント――!
「……ガウェインですか?ああ、僕としたことが失念していました。
ガウェイン。挨拶を。」
「従者のガウェインと申します。以後、お見知りおきを。どうか、我が主の良き好敵手であらん事を。」
甲冑の青年は涼やかな笑顔とともに頭を下げた。生真面目だが重苦しく構えたところのない、純真潔白な騎士を連想させる。この少年によく似合ったサーヴァントだ。
……ガウェイン卿といえば、アーサー王伝説の円卓の騎士としてあまりに有名だ。伝承によれば、その力は主君であるアーサー王をしのぎ、手にした聖剣は、王の聖剣と同格の威力を持つとされるが―――
クラスはどう見てもセイバー。書物などから、この英雄の事を調べるのは、さほど苦労しないだろう。弱点だって分かるかもしれない。
レオがそれを分かっていない、とは思えない。これはレオの自信の表れだ。気負っての事ではなく、ごくしぜんに、少年は戦術の機微に頓着していない。
明かすものは全て明かす。その上で勝利する事が、生まれた時から彼に定められた日常なのだとしたら―――
「それでは、失礼しますね。再会を祈っています。どうか、悔いのない戦いを。」
丁寧にお辞儀をして、少年と騎士は去っていく。その背中を呆然と見つめていると。凛が隣にやって来た。
「レオ……!ハーウェイが来るのは想定してたけど、あんな大物なんて――」
小さな、押し殺したような呟き。凛が少年に放つ視線は、殺意に等しい鋭さだった。
「万能の願望機、聖杯……西欧財団の連中がセラフを危険視してるって話は本当だったか。にしても、御自らご出陣とはね。……いいじゃない。地上での借り、天上で返してあげる。
楽しくなってきたわ。魔術師としての腕前なら、こっちに一日の長がある……!」
レオの前では、もう自分など目に入っていないのか。遠坂凛は挨拶もなく、よし、と自らに気合いを れて、勇ましい足取りで去っていった。
――さて、では自分は、彼のサーヴァント、ガウェインについて調べるため、夕方、図書室へ行ってみる事にしよう。
夕方、廊下に出ると、遠坂凛がいた。
「あら、ごきげんよう。その後調子はいかがかしら?
逃げ回ってばかりじゃ、勝てる見込みはないわよ。
けれど、相手の情報を得ないまま戦いを挑むなんてのは愚の骨頂。この聖杯戦争はいわば情報戦なんだから。
相手を倒したかったら、向うのクラス、技、関連情報、とにかく出来るかぎいりの情報を集めなさい。
そうすれば、対策が取れるし、相手の戦い方も、読めてくるというものだわ。
とりあえず、図書室にでも行ってみれば?あそこは、何げに情報の宝庫よ。」
彼女はなぜ、敵であるはずの自分にそのようなことを教えてくれるのだろうか。
「別に。ただ、あなたの方が勝ちやすい気がするだけよ。
ああ見えて、間桐くんはゲームチャンプ。彼が勝ち上がるより、あなたと当ったほうがやりやすそうだもの。
ま、せいぜい頑張りなさい。あ、あとひとつ。教会には行ってみた?行ってないなら早めに行っておいた方がいいわよ。」
教会……そういえばそんなものがあった気がする。後で行ってみよう。
それより、慎二のサーヴァントの事、レオのサーヴァントの事、何か分かることがあるかもしれない。
とにかく、彼女の助言通り、図書室へ行ってみるのがよさそうだ。
図書室に、慎二がいた。
「あれ?こんなところで会うなんて奇遇だね。
なんてね。ウソに決まってるじゃないか。
情報収集といえば図書室で決まりだよ。僕も、君の情報はしっかりと集めているから、くれぐれも手を抜かないでくれよ。
ところで、めぼしい本が見つからないみたいだね。
残念ながら、すでに対策済みさ。あの海賊女に関連する本は、既に隠ぺい済みだよ!
少しでも君が楽しめるようにと思ってね、アリーナに隠しておいてあげたよ。
最弱マスターの君に見つけられるかな?
ちなみに、君のサーヴァントは働くのに何を要求するんだい?やっぱり、お金?そうだよねえ!
まあ、せいぜいあがいておくといいさ。あははははははっ
じゃあね。せいぜい頑張ってくれよ。
次にアリーナで会ったときに一太刀くらい浴びせてくれないと、僕も退屈だからね。もっとこのゲームを楽しませてくれよ!」
そう言い残して、慎二は図書室を去る。図書室の中にはレオがいた。
「岸波白野さん。改めて、本戦出場おめでとうございます。
一回戦はマトウシンジさんですか。彼は強力なサーヴァントを持っているようです。お気をつけてください。
おや、もしかして、まだ仮初の学園生活がどういうものだったか、理解されてないんですか?
……そうですね。あなたとは縁もある。僕でよろしければ、少しばかり説明してあげられますけど、どうでしょう?」
一応聞いておくことにする。
「では、早速。固有結界というものはご存知ですか?
強力な魔術を以って、術者の周りの空間を、全く別の空間に作り変える秘術です。
サーヴァントの中にも、この固有結界を持ち合わせる者がいます。
固有結界の維持には大変な熱量を要し、サーヴァントの強力な魔力を以ってしても、維持するのは長くて数分が限度です。
そして、予選で我々が過ごした学園は、聖杯がその所有者を決めるために作り出した、固有結界なのです。
予選の学校と同様に、本戦の学園、アリーナ、そして、マスター同士が雌雄を決する決戦場。
これらも全て、聖杯がその桁外れな魔力を元に作り出した、個別の固有結界なのです。
あれだけの規模の固有結界を長期間、しかも複数同時に維持し続ける事は、現代の最新鋭のスパコンでも不可能です。
聖杯の魔力の規模がどれだけすさまじいか、ご理解いただけるかと思います。
聖杯戦争に参加したすべてのマスターは、一度記憶を完全に削除されます。
そしてまったく別の人物として、聖杯が作り出した固有結界の中で、偽りの学園生活をさせられていたのです。
聖杯は学園生活に時間制限を設けました。四日間。その間に、自分が与えられた役割を演じさせられていることに気づけるかどうか。
それが、聖杯戦争参加の条件だったのです。
……ふふ。もっとも、トオサカさんの場合、すぐに役割を抜け出していたようですので、演じていたという部分は当てはまりませんね。
ちなみにフジムラ先生やイッセイリュードーはマスターではなく、役割を与えられたNPCです。
予選で役割に気づくことが出来なかったマスターたちは、そのまま精神の死、という形で結末を迎えました。
悲劇的ですが、弱い者には生きる余地さえ与えられない。それが聖杯戦争です。
この戦いで生き残るには、可能なかぎりの情報を集めることです。それが、やがてあなたの力となるでしょう。」
レオから一通りの説明を受けた後、ガウェインについての資料を探す。
それは簡単に見つかった。
『ガウェインについて』
『アーサー王伝説』に登場する円卓の騎士の一人。アーサー王の甥でもある。
アーサー王の片腕と称されたランスロット卿に並ぶ騎士だったが、兄弟をランスロットに殺されたことをどうしても忘れられず、彼とは相容れなかった。
高潔な人格、理想の若武者であったが故に、肉親への情も人一倍だったのだろう。
しかし、その怨恨がガウェイン卿の騎士としての株を落とすばかりか、最後には王の没落にまで繋がってしまう。ガウェイン卿は、アーサー王最後の戦いであるカムランの丘にて、ランスロット卿に受けた古傷を打たれ死亡したとされる。
その後、慎二のサーヴァントについての情報も探したが、見つからなかった。どうやら本当にアリーナに隠したとみていいだろう。アリーナへ向かうことにした。
一階の廊下で言峰に会う。ちょうどいい、教会のことについて少し聞いてみよう。
「暗号鍵を既に得たのか……優秀だな。この調子で第二暗号鍵を入手すれば、決戦場の扉は開かれる。
第二暗号鍵は、次の迷宮で生成される。
アリーナの扉に行けば、新たな迷宮に入れるだろう。
ああ、それと……教会にはもう、足を運んだかね?あれはシステムの管轄外だが――サーヴァントの強化ができるはずだ。有効だと思うなら、利用するがいい。
さあ、伝えるべきことはすべて伝えた。存分に殺し合うがいい――。」
教会―――サーヴァントの強化ができるなら、行ってみるのもいいかもしれない。
重い扉を押し開き、教会に入ると、そこは薄暗く、外の喧騒から遮断されていた。
………まるでこの場所だけ、世界から切り離されているかのような印象を受ける。
並んだ長椅子には誰も座っていない。しかし、正面に目をやると、鮮やかな赤と青の色が目に飛び込んできた。
赤髪の女性と、青髪の女性。見た感じシスターではなさそうだが、なぜこんなところにいるのだろうか。
その一人、赤髪の女性が口を開いた。
「はあい、ようこそ教会へ。君も魂の改竄をしにきたのかな?」
「ん、お前は確か………なんだったかな。……ふむ。私が物忘れとは、珍しい。
ま、細かいコトはいいだろう。被験者が多い分には問題ない。
ようこそ楽園の死角へ。魂の改竄にきたのだろう?」
魂の改竄?聴きなれない言葉だ。
返答に詰まっていると、相手から声をかけてきた。
「あら、魂の改竄を知らないできたんだ。ってことは貴方、本当に素人の中の素人ってこと?」
「魂の改竄とは、簡単に説明するとだな………。
君の魂とサーヴァントの魂を連結させることだ。マスターの魂の階位に応じて、連結させられる強さも決まる。どう連結させるか決めて、魂にハッキングをかけるのさ。」
「ま、大体姉貴の言ったとおりね。私はその改竄を行う役についてるの。いろいろあって、ね。」
姉貴……ということは姉妹なのだろうか。
聞いてみようとも思ったが、二人の間にはそれをさせまいとする、無言の圧力が存在していた。
「そういうことだから、改竄をしたいときはわたしのところに来てね。
そこの女はこれっぽっちのやくにもたたないから。」
「よくいうものだな、青子。おまえの腕では私の十分の一以下のレベルの改竄しかできんくせに。またサーヴァントをロストさせてムーンセルから苦情が来るぞ?」
「ぐっ…………」
それにしても、十分の一はひどくないだろうか。
「ひどくなどないさ。事実だからな。」
「そうなのよ……。橙子の言うとおりだから言い返せないのよ……。」
それならば、なぜ姉の橙子がやらないのだろうか。
「私は人探しのためにここに来ていてね。君たちの世話を焼いてやれるほど暇ではないのだよ。だから今は妹の監督役をしているってわけだ。」
「そんなことはいいから、早速改竄を試してみない?」
「忠告しておくが、こいつの技量に高望みはするな。せいぜい失われた霊格を取り戻す程度にしておくんだな。」
早速改竄を試す。
「おお、ほんの少しではあるが、力が戻ったでござる。このぶんなら、ライダーに遅れは取らんでござる。
さあ、アリーナへ参ろう。」
教会を出た花壇のところで、慎二が老人とトラブルを起こしているようだ。
どうやら、女子生徒を連れて、教会で騒いでいた慎二が、あの老人の怒りを買って外に追い出されたらしい。
「教会では静かにするものだ。君の神がどのようなものかは知らんが、神父からそう教わらなかったかね?」
「悪いね!あいにくと、僕は無神論者なんだよ。」
「ふむ、日本人は礼儀正しい、と聞いていたが、それも人それぞれと言うことか。
去るがいい、小僧。主を信じぬ人間に、父の家の門は開かれん。
兵士としての技術を学ぶ前に、礼儀作法から出直すのだな。」
そう言って、老人は教会に入っていく。
「はん、やだねぇロートルは、口ばっか偉そうでさ!
まあ、いずれ戦う事になったら、たっぷりと思い知らせてやるよ。」
アリーナ第二層へと入る。
ここはどうやら、深海を模した作りになっているようだ。
「どうやら、彼らが潜んでいるようでござる。ここは、警戒しながらライダーの情報の書かれた本を探すでござるよ。」
本は見えない通路を通った先にあった。
「ちっ、岸波のくせにもう見つけたのか!?」
どうやら、慎二に見つかったようだ。
「向こうは仕掛けて来る気でござる。ここは返り討ちにして、情報の重要性について教えてやるでござるよ」
慎二と遭遇する。
「こんなところまで探すなんて、ずいぶんと必死じゃないか。けど残念だったね。せっかくだけど、その本は返してもらうよ。」
「そう簡単には返さんでござる。マスター、今こそ情報の重要性を見せる時でござる!」
先に仕掛けてきたのはライダー。
「くらいな!カルバリン砲、砲撃用意!」
「甘いでござる!飛天御剣流、龍槌閃!」
ライダーの砲撃を飛んで躱し、そのままの勢いで斬りかかる。
「く……ならこれならどうだい?」
ライダーの二丁拳銃の乱射。しかし剣心は、
「その程度では拙者は止まらん!飛天御剣流、龍巻閃!」
銃撃を難なく躱し、ライダーの背後に回り、斬りつける。と、ここでセラフからの強制終了が入った。
「チッ……。この僕に傷を負わせるとはね、でも、本番ではこうはいかないぜ?」
そう言い残し、慎二は強制退出した。
「わかったであろう、マスター。相手に手の内が知られる、というのはかなり不利になるでござる。それに今回の戦いで、相手の情報がさらにわかったでござる。
あの本は航海日誌、さらにはあの砲撃、あのライダーは海賊、もしくは海軍に関する人物であることが分かったでござるよ。
さて、この後は訓練をするなり、トリガーを取ってしまうなり、帰って休むなりといろいろ選択肢はあるが、どうするでござるか?」
とりあえず、トリガーの取得と訓練はしておくべきだろう。
第二暗号鍵も無事に取得し、アリーナでの鍛錬を行う。今回はかなり戦った。
明日は速めにアリーナを出てきてもいいだろう。今日の訓練は二日分くらいの濃さがあったし。
そうして、アリーナを後にした。
しかし、剣心の使っていた剣術……飛天御剣流といったか。明日図書室で調べてみよう。
そして自室へと戻り、休むことにした。
後書き
蒼崎姉妹登場回でした~
次回は少し短めかもです。
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