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万華鏡

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第六十話 ハロウィンの前にその八

「あったわね、二回位」
「名前は、ええと」
「誰だったかしら」
 部長も思い出せない、その巨人に奪われた選手は。
「助っ人でね」
「野村さんと揉めて辞めたのよね」
「そうそう、それで巨人に行ったけれど」
「頭にきたっていうのね」
「相当ね」 
 この場合は強奪ではない、だがそれでもだというのだ。
「去年まで阪神にいて巨人のユニフォームっていうのはね」
「頭にくるでしょ」
「強奪でないってわかっていてもね」 
 巨人に行ったということだけでなのだ、この辺りは。
「もうね」
「頭に来るでしょ」
「そういうことよね、何か巨人のユニフォームはね」
 それを見るだけでだった、まさに。
「見ていると本気で頭に来るわ」
「でしょ、こっちは江藤をやられたから」
 広島の四番だった、それをフリーエージェントで巨人に強奪されたのである。
「あの時どれだけ頭にきたか」
「あそこフリーエージェントでなくてもやるから」
 巨人のお家芸だ、球団自体に染み付いた習性である。
「小久保さんとかね」
「ああ、あれ酷かったわね」
「ホークスに何か言って無理に強奪でしょ」
「とんでもないことをするわね」
 そのとんでもないことを平気でするのが巨人だ、そしてその巨人の太鼓持ちをするマスコミが多いのが戦後日本のマスコミだ。最早どうにもならない悪病に罹り回復が不可能なまでに病んでいると言っていいであろう。
「優勝したいからってね」
「それが巨人よ」 
 部長は言い切った。
「その巨人を成敗しての優勝だから」
「最下位だったわね、今年は」
「そう、これから巨人の暗黒時代がはじまるわ」
「ずっと最下位であって欲しいわね」
 宇野先輩も言う。
「絶対にね」
「そうそう、何十年もね」
 一年や二年でなく、というのだ。
「これまで色々悪いことして優勝してきたから」
「これからはね」
「怒涛の最下位よ」
 そうあるべきだというのだ、日本そして全人類の為にも。
「来年は百二十敗ね」
「もう勝率ワーストね」
「巨人の負ける姿っていいじゃない」
「何か違うのよね、巨人の負ける姿って」
 見ているだけで気持ちがよくなる、巨人ナインが敗れ肩を落としてベンチから去る姿を、項垂れるファン達を見るのは。そして怒り狂いその寿命を縮めていくオーナーの姿を想像することは。
「気持ちいいのよね、見てると」
「それだけでね」 
 こう話すのだった、そして。
 その話をしてだった、部長はあらためて皆に言った。
「今日も張り切ってやるわよ」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
 一年生達も応える、そしてだった。 
 軽音楽部はこの日も部活を楽しんだ、ハロウィンを前にして日本シリーズもまた楽しむことになっていた。何しろ阪神のシリーズだからだ。
 軽音楽部も黒と黄色一色だった、それは男子の方も同じで。
 女子の軽音楽部の前でだ、部活をしながら楽しく話していた。
「日本一になった時代のデイリー楽しみだな」
「何て書くだろうな」
 デイリーは神戸新聞が出しているスポーツ新聞だ、まさに阪神ファンの阪神ファンによる阪神ファンの為の関西人にとっては最高の新聞だ。
「もう凄いだろうな」
「週刊ベースボールの優勝記念号もよかったしな」
「あれ面白かったよな」
「ああ、やっぱり最高だよ」
 優勝記念特集号はというのだ。 
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