Element Magic Trinity
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変わらず笑っていられる事を祈って
ティアとクロスの祖母、シャロンがギルドに現れた次の日。
「ティア、大丈夫かなー・・・」
「どうだろ・・・」
ギルドのテーブルに、ルーシィとルーはいた。
ルーシィの前にはケーキが置いてあり、ルーははむはむとドーナツを頬張っている。
昨日のティアは明らかに様子がおかしく、今日ギルドに顔を出すかどうか解らない。
それに今日はシャロンの使いがギルドに来るようだ。
「なー、ナツー・・・お前何か聞いてねーの?」
「は?何でオレが」
ルーの隣でザッハトルテをフォークで小さく切り、突き刺したアルカはそれを口に運びながらナツに訊ねる。
聞かれたナツ本人は頭に?を浮かべているが、アルカがナツに聞いたのには訳があった。
1つは、弟のクロスや同居人であるライアー達、相棒のヴィーテルシアがまだギルドに顔を出していないから。
もう1つは、クロス達を抜き、自分とルーを抜いた時1番ティアを知るのがナツだったからだ。
「にしても、ティアのばーさんはタチ悪ィな」
「ああ・・・血の繋がった孫をあそこまで罵倒するとは」
「もう悪党にしか見えないよう」
珍しく服を着たグレイの言葉にショートケーキを食べるエルザが答え、ルーが口をもぐもぐさせながら呟く。
因みに先ほどから食べているものが全て甘いのは、アルカ曰く「ミラが新作でいろいろ作ったからその試食」だそうだ。
ショートケーキやドーナツといった定番モノは前からあったが、それを少し変化させたらしい。
「シャルルー、オイラの魚いる?」
「いらないわよ!」
「まぁまぁシャルルちゃん、ハッピーちゃんからのプレゼントだし・・・1度くらい受け取ったら?」
その近くのテーブルではハッピーがリボンを巻いた魚をシャルルに差し出していた。
それをシャルルはプイッと顔を背けて拒否する。
ココロが困ったような笑みを浮かべるが、状況は変わらない。
「あれ?そういえば・・・アラン君は?」
「アラン君なら外にいると思うよ」
「ウェンディちゃん」
ふと辺りを見回すが、アランの姿はない。
いつもならこの2匹を宥めるのは、既にライアーに次ぐ苦労人となっているアランの役目なのだが。
そんなココロの視線に気付いたウェンディがギルドの入り口辺りを指さした。
「魔炎爆火!」
鋭い叫びが飛んだと同時に、アランは地を蹴った。
その両拳には紅蓮の炎が纏われ、拳の攻撃力を高めている。
「たああああっ!」
「フン」
「っうあ!」
振るわれた拳を、エルフマンはヒラリと避ける。
空振りした拳の勢いに転びそうになるアランだが、地を蹴って宙で回転し、着地を決めた。
「アラン!漢ならもっと力強くきやがれ!」
「は、はいっ!」
誰であろうと漢を主張する事は変わらず。
エルフマンの、背後に『漢』という文字が見えそうなほどの勢いにアランは一瞬びくっと体を震わせたが、すぐにその目は真剣な光を宿す。
「なら・・・これでどうでしょう!悪魔殲滅光!」
「!」
エルフマンに向けた両掌から、黒のような紫のような光が放たれる。
その眩しさにエルフマンは右腕で目元を覆った。
そしてその一瞬を、アランは見逃さない。
「もらったああああああっ!」
右拳に悪魔殲滅光を纏い、エルフマンのガード無しの腹に叩き込もうと拳を振るう、が―――
「!?」
「不意打ちか。漢なら・・・」
がしっ、と。
その右手首をエルフマンが掴んだ。
目を見開くアランにエルフマンは口を開き――――
「正々堂々きやがれえええええっ!」
「うあああああっ!」
思いっきりアランを放り投げた。
防御の構えを取ったアランだが、やはり地面に叩きつけられた時のダメージは大きいようで、数秒の間起き上がろうにも上手く体が動かない。
「そこまでだ。勝者エルフマン」
「漢オオオッ!」
そんなアランの状態を確認したフリード(暇そうだったから審判を頼んでいた)が止める。
「いたた・・・」
「すまねぇアラン、大丈夫か?」
「大丈夫です・・・気にしないでください、本気で相手をしてほしいって言ったのは僕ですから」
表情を歪めながら立ち上がるアランにエルフマンが申し訳なさそうに声を掛ける。
が、アランは特に気にした様子はなく、薄い笑みを浮かべた。
「それにしても、近距離で拳を振るう魔法っていうのが共通してるからってエルフマンに鍛えてほしいって・・・」
「それならエルフマンさんじゃなくても、連合軍で一緒に戦ったナツさんとかがいますよね?」
そう、ジュビアのいう通りだ。
アランは今日ギルドに顔を出すなり、エルフマンに鍛えてほしいと申し出たのだ。
その時、頼まれたエルフマン本人を含め、その場にいた全員が目を見開いた。
確かにエルフマンは強いが、格闘術系の魔法を使うアランが鍛えてほしいと言うなら、炎を拳や足に纏って殴ったり蹴ったりするナツや、魔法の力を借りずとも鋭い蹴りを放つティア、元々素手で戦うのに慣れていそうなガジルといった適切な人間は多い。
アランの使用魔法から考えると、エルフマンに申し出るより“炎を纏って格闘術を使う”ナツに鍛えてもらった方がいいんじゃないか、と全員が思っていた。
「・・・確かに、頼めるならナツさんに鍛えてほしいなとも思いましたけど・・・」
勿論、エルフマンに鍛えてもらうよりナツに鍛えてもらう方が自分の魔法に合っている事は、アランも気づいていた。
だが、どうしても頼めなかったのだ。
「ナツさんにはティアさんの件があるから・・・」
困ったように笑うアラン。
すると、そこに桃色のツインテールを揺らしながら、サルディアが走ってきた。
「ねぇっ、アラン君達!」
「サルディア、どうしたんだよ?そんな息切らして」
肩で息をし、その額に少し汗を浮かべるサルディアにエルフマンは首を傾げた。
しばらく呼吸を整えていたサルディアは、ギルドの中にまで届くような大きな声で叫んだ。
「ティアちゃんが・・・ティアちゃんがどこにもいないの!」
「今日、朝起きたら朝ご飯があって・・・なのにティアちゃんがどこにもいなかったの。部屋にいるかなって思って部屋に入ったんだけど、いなくて・・・しかもティアちゃんがいつも使ってるショルダーバックもなかったの!」
焦ったように叫ぶサルディアの言葉に、全員が驚愕した。
昨日あんな事があって今日ティアが行方不明となれば、自然と浮かんでくる事があるが、そうじゃないと信じたい。
「今クロス君たちが街の中を探してるんだけど・・・どうしよう!」
「落ち着けサルディア。私達もティアを探す」
「ルー、お前は空から探せ!ハッピーもな!」
「うん!」
「あいさー!」
焦るサルディアをエルザが落ち着かせる。
真っ先に飛び出して行ったアルカはルーとハッピーに指示を出すと、素早く駆け出した。
ルーは全身に風を纏って飛び、ハッピーは翼を使用して飛ぶ。
「シャルル!私達も行こう!」
「ウェンディとシャルルは空からお願い!行こうココロ、僕達は・・・」
「ギルド周辺、でしょ?私達はまだこの街にそんなに詳しくないもんね」
ウェンディを抱えたシャルルは空を飛び、アランとココロはアルカを追って駆け出す。
「あたし達も行こう!」
「おう!」
「私はイオリの墓に行ってみる。お前達は一応ティアの家やティアが行きそうな場所を当たってくれ!」
「解った!」
最強チームもギルドを飛び出す。
そして3分も経たず、ギルドから人が消えた。
全員、ティアを探す為マグノリアの街へと駆けて行ったのだ。
そんな中、誰もいない文字通り無人のギルドに、1人の少女が現れた。
どこから現れたのかは解らない。
その少女は真っ直ぐにギルドのステージへと向かい、淡い水色の封筒を置いた。
「・・・さよなら」
封筒を置いた少女は、誰に告げる訳でもなく呟く。
見覚えのあるショルダーバックを片手に、少女はギルドから消えた。
その背中に水の翼を生やし、青い閃光は空を飛ぶ。
―――――――――全てに決着をつける為に。
それから1時間近く経った頃。
「街中探したけど・・・ティアいなかったよう」
「オイラ・・・もう魔力が・・・」
「私も、そろそろ限界・・・」
空からティアを探していたハッピー、シャルル、ルーは完全にへばっていた。
元々ハッピーとシャルルは魔力が多い方ではないし、ルーはティアを探そうと街を何十周もした為、魔力がもう限界に近い状態なのである。
「エルザ、イオリの墓は?」
「誰もいなかった・・・そっちはどうだ?」
「家にはいないし、ティアの好きそうなものを売ってるお店とかも片っ端から見ていったけど・・・ダメだった」
「オレァ街から少し出てみたけどよ、それらしき奴はいなかった」
妖精の尻尾に所属する魔導士の数は多い。
詳しい数は解らないが、とりあえず多いのは解る。
それだけの数の魔導士が総動員で探しているというのに、1人の女魔導士を見つけられない。
見つけるどころかそれらしい人間もいない。
完全にティアは姿を消したのだ。
「ティア・・・実家に帰っちゃったのかな」
「それは有り得んっ!姉さんが自らあの家に帰るなど!」
ポツリと呟いたルーの言葉を、クロスは力強く否定した。
その声には怒気が込められている。
1番不安なのは双子の弟であるクロスなのだ。
「あああ・・・やっぱり俺が姉さんの部屋にいればっ!いや、俺達が交代で姉さんを見張っていれば良かったのか!?」
「落ち着いてください、主!過ぎた事に何を言っても変わりませんよ!」
「ライアアアアアアアー!頼むから今姉さんのような事を言うなあああああっ!姉さんが恋しくて恋しくてっ・・・うああああああああああっ!」
クロス大崩壊。
テーブルに突っ伏したかと思えば、声を上げて大号泣し始めた。
姉が突然消え、しかも行く先が曖昧にしか解らないとなると、シスコン(自覚はないし認めない)のクロスは一気にダメ男になってしまうのだった。
「・・・ん?」
そんなクロスを宥めようとしていたライアーがふとステージに目を向ける。
そこには淡い水色の封筒があった。
「何だこれは・・・“マスター及びギルドの奴等へ”?」
『!』
整った字で書かれた文字をライアーが読み上げる。
それを聞いたギルドメンバーはライアーを中心に集まった。
封筒を引っくり返すが、差出人の名前はない。
迷わずライアーは封筒を開け、便箋に書かれた言葉を読み上げた。
************
マスター及びギルドの奴等へ
私は、妖精の尻尾を抜けるわ。
言っておくけど、これは私の意志じゃない。
ギルドを抜ける気は全くないし・・・だって、私が抜けたらバカナツのストッパーが消えて、あのバカの事だから仕事先で大暴れするでしょ?
お祖母様の命令通り、私は家に帰る。
だけど、お祖母様の―――――あの女の命令に従ってる訳じゃない。
命令に従うなんて私のガラじゃないし、そんなの誰も望んでないもの。
戦いに行く。
あの腐りきった愚かな、力だけはあるカトレーンの一族と敵対する。
確かに私もカトレーンの姓を持っている一族の人間よ。
だけど、私はあんな奴等と同類になった覚えはない。
同類になるくらいなら孤独でいい・・・カトレーンの姓だって捨ててやる。
きっと一族相手に私1人で戦うなんて無理だと思う。
私の故郷フルールは、“魔法都市”だから。
でも、だからってアンタ達には頼らない。
これはカトレーンの問題よ。関係ないアンタ達が巻き込まれていい問題じゃない。
勿論、クロスも。
いつもみたいに「姉さんの為なら!」って突っ走って来ないで。
私の為じゃなく、アンタはアンタの為に剣を振るいなさい。
他人を仲間と見なして、その仲間の為ならどこへでも突っ走るアンタ達の事だから、どんなに書いても私を追ってくるんでしょう。
そんなの、未来予知が出来なくたって解るわ。
それが妖精の尻尾、それが私のいたギルドの姿だから。
だけど、今回は何もしないで。
私を追う事も、カトレーンの家に行く事もしないで、ただ何も無かったようにいつもみたいに仕事に行って、騒いでいて。
きっと私は、もうその場所へは戻って来れない。ヘタをすれば死ぬかもしれない。
だけど、それでいいの。
カトレーンと戦うと決めたのは私だから。
あの無駄に明るい師匠の教え通り、自分で選んだ道には絶対の自信を持ってる。
愚かで、憐れで、醜いけど、これが私の信念だから。
あのお祖母様と言葉だけで戦えるとは思ってない。
確実に力を振るわないと戦えない。
それで―――――もし、私がお祖母様を殺してしまったとしても、アンタ達はこう言って。
『妖精の尻尾とティア=T=カトレーンの繋がりはもうない』って。
『無関係だ』って。
それがギルドのやり方に反してるのは解ってる。
ギルドを抜けようが無関係じゃねえ、と怒鳴ろうと思ったでしょ?ナツ。
だけどね、そうしないとギルドに迷惑がかかる。
ただでさえギルド最強の女問題児で迷惑をかけてきたんだもの。
最後くらいは何事もなく終わらせたいじゃない?
ワガママだっていうのは承知してる。
さっきも書いたけど、アンタ達に何を言っても私を追ってくる事も解ってる。
それでも、私は最大限の足止めをするわ。
最後に言っておく。
これはアンタ達の為に言ってるんじゃない・・・私の為なの。
アンタ達に“醜いカトレーンの裏側”を知られたくないから。
カトレーンを知らずにアンタ達が生きていく為なら、私1人が傷付くくらい安いものだわ。
――――――どこまでも繋がる空の下
アンタ達が変わらず笑っていられる事を祈って。
ティア=T=カトレーン
************
「何、だよ・・・これっ・・・!」
ぐしゃり、と。
手紙が歪んだ。
ライアーが身体を震わせ、その手に力が入った結果。
「何故だ・・・」
クロスの声が空を裂く。
溢れ出る全ての感情をその言葉に託して、叫ぶ。
「何故いつも傷付くのは姉さんなんだっ!」
その叫びが、ギルドに響いて、消える。
信じられないほどの静寂と沈黙が、妖精の尻尾を支配した。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
区切りが中途半端ですが、仕方ないのです。
だって次回はどうしてもここで終わりたい!っていうのがあるので。
感想・批評、お待ちしてます。
次回、遂にルーとアルカが絡んでいく!
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