ネギまとガンツと俺
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幕間 第29.5話「空話~謝罪の言葉~」
「一緒に回らないでござるか!」
言われた瞬間、どれほど胸が躍っただろうか。
すぐに頷きたくて、でもそうすれば心が流れてしまいそうで、返事に困った。
とりあえず、反応していた探知機が示す生徒を処理して、時間を稼ぐことにする。もちろん、稼げる時間は数分だが、それでもそんな僅かな間すら欲しかった。
「ふっ」
生徒をぶん投げて、彼女へ返事をするために来た道をもどる。
誘われた瞬間は沸騰していた脳は深呼吸を繰り返せばすぐに落ち着いてくれる。
わかっている。
自分という人間が明後日以降、誰かと交わることがなくなるだろうことくらい。
だから、彼女への返事は決まっている。
「……ふぅ」
首をふり、ため息を吐く。
そう、NOだ。
楓の顔が見えた。
その途端。
「っつ!?」
――そんなに辛そうな顔をしないでほしい。
自分でも驚くほどにその姿を見るのが辛かった。
一気に近づくために最後の跳躍を。
既に距離はごく僅か。
近づいたせいか、体が風を切る音と共に楓の声が耳に届いた。
「さて、仕事の続きを始めるでござるよ?」
それを認識して。
「……っく!」
――そんなに無理のしている声を出さないで欲しい。
自分でも驚くほどにその声を聞くのが辛かった。
完全に拒否されたと考え、去ろうとする彼女たちの目の前に着地。
「スマン、待たせた」
そして、用意していた答えを言うため、口を開いた。
「今日は夜まで見回りがある。スマンがその後になるが」
――それでもいいか?
気付けば、そう告げていた。
「「……え!?」」
楓どころか桜咲さんの顔すらも一気に明るくなった。そんな彼女達の表情を見て、自分の失言に気付く。
「あ、いや。ちが――」
「良かったじゃないか、楓!」
慌てて取り消そうとした言葉を遮り、桜咲さんが楓の肩を叩いていた。その顔は本当にホッとしている様で、友人として余程心配していたのだろうことが、簡単に見て取れる。
「う……うむ」
楓は楓で、断られたと思っていた分その喜びもこんがらがっているのだろうか。顔を真っ赤にしたり、頬を緩めたりとまるで七色のように表情をコロコロと変化させている。
し、しまった。
これではさすがに断れない。
楓の辛そうな顔と声のせいで自分の感情がごっちゃになってしまった。断るつもりだったにも関わらず頷いてしまった自分の愚かさに頭が痛くなる。
だが。
ちらりと彼女に目を配る。
「しかし、夜からでござるか……いけるところが結構限られてくるでござるなぁ」
どこかウキウキとした彼女の声に、満更でもない息を漏らす俺がいたことを、俺は確かに気付いていた。
広場の高台で待ち合わせをすることを決めて、一旦別れる。
仕事終わりまでまだまだ時間が残っている。
告白阻止に身を委ねつつ、俺の思考はやはりこの後のデートへと向かう。
――これで良かったのかもしれないな。
今回向こうから誘ってくれたということは少なくともある程度の好意をもたれていることは想像できる。
それが友人としてか、はたまた異性としてかはまた別の話だが。
もし今回の騒動がなければもしかしたら、いい線までいけたかもしれない。
――少し……というか、男としては大分惜しいが。
だが、これがいい機会だ。
彼女が好きだから。
自分は遠からず死ぬことになるだろうから。
しっかりと、別れを告げよう。
そして、時間が来た。
既に心は硬く、固く、堅く。
目的地に到着した自分を待っていたのは幾分緊張した面持ちの彼女。
そんな微笑ましい姿に、だが、何も言わない。
「ほら」
そう言って手を差し出す彼女の手に、まるで山の中での出来事を思い出す。
『夕餉でもどうでござるか?』
『晩飯か?』
まるで付き合ってるみたいだ、と楽しくも自惚れていた。
「……」
彼女の手をジッと見つめる。
『よし、それじゃあ行くでござる』
『行くって……どっ!?』
あの時に繋いだ手のぬくもりはきっと、忘れないだろう。
「タケル殿?」
首を傾げる楓に、俺はあえて自分の手を彼女の手へとむける。
『楓って……呼んでもいいか?』
『……いいでござるよ?』
そう、この時彼女に恋をした。
だから、しっかりと――
楓の手を掠めて、後ずさる。
触れ合うのは一瞬で、俺と楓の行く道はこれから先に交わることはない。
唖然とした彼女の顔が胸に痛い。
――俺が恋した最初で最後のキミへ。
「さよなら、と。それだけを言いたかった」
そして
「明日で、学園を去る」
告げる。
「キミといる時間が一番温かかった」
トボトボとこちらに足を向けて、腕を伸ばす楓の動きがまるで機械人形のようにぎこちない。
「もう、会うこともない」
告げる。
「俺は確かに……キミに恋をしていた」
彼女の目が大きく見開かれた。
「だから、さようならだ」
電力が切れたように、そのままで完全に停止した楓を背にして数十Mもの高さを誇る高台から一気に飛び降りる。
「……」
何かを堪えるかのように目を閉じた後。
着地の瞬間。
呟く。
「……ごめん」
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