戦国異伝
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第百五十七話 延暦寺その三
そのうえで信長から言われたことを大僧正に伝える、周りには延暦寺を動かしている高位の僧侶達がいる。
その話を受けてだ、大僧正はまず彼等にこう問うた。
「僧兵と荘園じゃな」
「その二つを手放せとです」
「右大臣殿はそう申されています」
「その刻限は一日だと」
「そうも言われています」
「左様か」
その話を聞いてだ、大僧正は考える顔で言った。
「荘園がなければな」
「はい、荘園を守る僧兵もいりませぬ」
「そうなります」
周りの僧達がすぐに応えてきた。
「そうなりますな」
「少なくともほぼいりませぬ」
「しかも近頃近江はまとまっておる」
大僧正はこうも言った。
「賊もおらんようになった」
「そのせいか山も平和です」
「穏やかなものです」
「全く以てな」
この事情もここで話される。
「僧兵が動くこともなくなった」
「そして荘園の代わりにですか」
「檀家ですか」
「それで実入りがありますな」
「そのお布施で」
「うむ、そこまで考えておるな」
大僧正は信長の考えを理解していた、そのうえで言うのだった。
「右大臣殿は」
「では、ですか」
「僧兵と荘園のことはですか」
「我等も受けますか」
「そうされますか」
「うむ、そうする」
実際にこう答える大僧正だった。
「ここはな」
「それで残った僧兵達は」
「あの者達は」
「残りたい者はここに残らせよ」
そうせよというのだ。
「ただ僧兵ではなくじゃ」
「僧侶ですか」
「普通のそれとしてですか」
「うむ、寺で学んでもらう」
これが大僧正の考えだった。
「もう僧兵や荘園の時代ではないのやもな」
「我等が武力を持つ時代ではありませぬか」
「最早」
「そうやも知れぬ」
近頃の流れも見てだ、大僧正は言うのだった。
「だからじゃ」
「では僧兵達もですか」
「あの者達も」
「そうじゃ、しかしじゃ」
それでもだとだ、ここでまた言う大僧正だった。
「それに従わぬ者もおるな」
「はい、普通の僧侶達もです」
「あの者達の中にも」
「そうした者がいるかと」
「ですから大僧正様の断にも」
「しかもじゃ」
大僧正は難しい顔でだ、目を閉じたうえで言った。
「あの二人じゃが」
「杉谷殿、そして無明殿」
「あの二人ですか」
「そもそも何者じゃ」
大僧正はこう言うのだった、二人で。
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