戦国異伝
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第百五十七話 延暦寺その一
第百五十七話 延暦寺
信長は平手と合流したうえで近江に入った、そして延暦寺の近くでだった。
軍を止めた、そのうえでこう命じた。
「ここに布陣せよ」
「そしてここで、ですな」
「動かないのですな」
「そうじゃ、決して延暦寺にも近くの町にもj入るな」
これは絶対にというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「ここで」
諸将も足軽達も信長の言葉に従い布陣しその場から動かなかった、信長は本陣に留まり金ヶ崎から合流した平手に問うた。
「爺、延暦寺に人は送ってあるな」
「はい」
既にだとだ、平手も答える。
「そうしております」
「ではよい、あちらから人が来るな」
「そう答えてきました」
実際にそうなったというのだ。
「ですから間も無くです」
「そうか、あの者達のことも聞けるな」
「久政殿の傍にいて殿のお命も狙った」
「うむ、そうじゃ」
杉谷善住坊、それに無明のことだ。
「あの者達もな」
「しかし延暦寺とは」
「爺もそう言うか」
「はい、あの山は天下の聖山の一つです」
名札の中の名札だ、それでだというのだ。
「腐った僧はこれまでいましたが」
「そこまでの妖僧はじゃな」
「いたでしょうか」
「潜り込んだのやもな」
信長はいぶかしむ平手にこう述べた。
「若しやな」
「あの寺にですか」
「高野山の話は知っておるか」
「高野山?」
「そうじゃ、高野山もまた聖山じゃな」
「はい」
空海と並び称される高僧空海が開いた寺だ、この寺もまた相当な聖山である。しかしそれでもだというのだ。
「あの寺にですか」
「あやかしがおるという」
「高野山にあやかしとは」
「そうした話もあるのじゃ」
こう話すのだった。
「そもそも山にはあやかしの類は常じゃな」
「鬼なり天狗なりですな」
「色々おるな」
「はい、古来より」
「まつろわぬ者も山におった」
信長は古事記や日本書紀からも話した。
「だから比叡山におってもじゃ」
「不思議ではありませぬか」
「うむ、そうではないか」
こう平手に語る。
「あの山といえどもな」
「ううむ、まさか」
「わしも今思った、しかしな」
「その危険はですか」
「考えてみればある」
比叡山にあやかしの様に妖僧がいることもだというのだ。
「高野山がそうである様にな」
「そういえば寺には」
ここでだ、平手も気付いて言う。
「そうした話が時折あります」
「そうじゃな、伝教大師の力が幾ら強いといってもな」
「御仏がどれだけ集まっていても」
「潜び込む者もいよう」
それでだというのだ。
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