ソードアート・オンライン ~命の軌跡~
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Episode2 偶然の遭遇
前書き
感想、お気に入り登録してくださった方々、ありがとうございます。
Episode2が書きあがったので、投稿します。
この先も、これくらいのペース、だいたい一週間に一話更新できたらなぁ、って思います。まぁ、多分もっと間隔が長くなると思いますが……。
それでは、どうぞ!
2014.04.13
ソードアート・オンライン~命の軌跡~の設定を変更したので、このEpisode2も内容が一部変更になりました。
アインクラッド標準時 2024.10.17
ここは、第24層にある『深緑の森』と呼ばれ、太く背の高い木々のおかげで鬱蒼とした感じの森だ。
「スゥー…、スゥー…」
ここで僕は、気持ちを落ち着かせるため静かに息を数回吐きながら、樹木の陰に身を潜めている。なぜなら、樹木を挟んで反対側、距離にして約十五メートルの位置に<ドールウッドマン>と呼ばれる人間と然程大きさの変わらないモンスターがゆっくりと歩いているからだ。《隠蔽スキル》のおかげで、まだこちらには気づいていない。
<ドールウッドマン>という名前の割には、精巧な木人形とは程遠い姿をしており、まぁ簡単に表現するなら木のお化けだ。木の幹の部分が顔と身体で、そこから足を模るように二本の根が生えており、腕を模した枝の先が三本に枝分かれして手を表現している。頭は木の葉がたくさん生い茂っていて、まるでアフロヘアーのようだ。色々ツッコミたくなるが今は止めておこう。
(射程範囲はギリギリだけど、なんとかなるかな…)
直方体の形をした矢筒から一本の矢を取り出し、それを構える。そうするとシステムが規定モーションを検出し、矢が黄色のライトエフェクトを纏うとスキルが立ち上がる感覚を感じる。そして、その感覚が最高潮に達した時、矢が放たれる。その矢は、まるで吸い込まれるかのようにモンスターへと飛んでいく。そして、命中した矢はモンスターを穿つ。
弓遠距離攻撃技《スパイラルシュート》。スキルによって回転の強さ、回転の速さ、回転の回数を増大させることで強力な貫通力を生み出し相手を穿つ技であり、弓スキルの中でも上位の攻撃力を誇る。だが、このスキルには欠点がある。強力な貫通力ゆえ、乱戦には向かない。なぜなら、穿ったモンスターの背後に他のプレイヤーがいた時、そのプレイヤーも貫いてしまうからだ。それともう一つ、この技は弓遠距離攻撃技の中でも射程が短い分類に入り、最大射程は十六メートル。
ちなみに、技によって最大射程距離が異なり、敵が射程外に居る場合はスキルが発動しない、もしくは不発に終わりそのまま硬直状態になってしまう。したがって、弓使いには相手との距離感を正確に目測する能力が求められるわけだ。
(やっぱり、一撃では無理だよね…)
相手の左腕、枝の付け根の部分を抉り、欠損させたもののHPは三分の一以上残っており、全て削りきれてはいない。当然、攻撃されたことによりモンスターはこっちに気づく。とても短い足のような二本の根をすばやく動かしながら、突進してくる。スキル後の硬直はすでに解けているが、あわててすぐに次の攻撃を仕掛けないで樹木に背を預け待ち構える。
(いまっ!)
敵モンスターの体当たりをギリギリのところで、樹木の後ろへ回り込むように回避する。わずかな振動音が耳に届く。その隙に、樹木から樹木へと隠れながらモンスターとの距離をとる。八メートルくらい距離が開いたところで、矢を二本取り出し、一本だけ構える。弓遠距離攻撃スキル《クイックシュート》。二本の矢を一本ずつ続けざまに放つ、弓スキル唯一の連続掃射なのだが、最大射程は十メートルと弓遠距離攻撃技の中で最も射程が短い技だ。
「ヴォォォー!」
重低音の声が森の中に響き渡る。それには、明らかに怒気を含んでいることが感じ取れる。モンスターの身体に二本の矢が突き刺さっていることから、両方命中したことが分かる。敵のHPはレッドゾーンに突入している。これ以上戦闘を長引かせると、ヤツの叫び声に釣られ他のモンスターが接近してくる可能性がある。
(次で決めないと、まずいな…)
敵との距離は変わらず、約八メートル。この距離なら、使用可能な全ての弓スキルの射程内だ。
(よし!)
矢筒から再び二本の矢を取り出し構える。そして、続けざまで放たれた二つの黄色の閃光はモンスターを消滅させた。
ソードアート・オンライン ~命の軌跡~
Episode2 偶然の遭遇
<ドールウッドマン>との戦闘を終え、目の前に紫色のフォントで、獲得経験値やドロップアイテムリストなどが表示される。右手を振り、メニュー画面を呼び出し、アイテム欄を開きアイテムを確認する。
「よし!とりあえず、これだけあれば十分かな?」
〈ヤドリギの枝〉―――素材アイテムの一つで、僕にとっては重要なアイテムなのだ。今日一日かけて、ここ『深緑の森』で狩りをしていたのは、このアイテムのためだ。
ドロップ品を確認した後、矢筒に矢の補充を行う。弓使いが戦闘後必ず行わなくてはならないことが、この矢の補充だ。矢は無限ではない。そこまで都合のいいシステムは、このSAOには存在しない。もしかしたら、何かのクエストで〈無限の矢〉みたいなレアアイテムが存在するかもしれないが、少なくとも僕は聞いたことが無い。
「使った矢は全部で五本か…」
今回の戦闘で使用した矢の数だ。《スパイラルシュート》の時に一本と《クイックシュート》のとき計四本。使用した本数が少なくても、矢筒への補充はこまめ行わないと命取りになる場合がある。このSAOの世界では全ての矢が一回限りの使い捨てである。そして、矢の補充にはメニュー画面を操作しなくてはならない。なので、戦闘中の矢の補充は隙を作ってしまうことと同義なのだ。
「ストックも結構減ってきたし、そろそろ矢の獲得クエを受けに行かないとダメかな」
弓と矢は、店では売っていない。つまり、矢のストックを増やすには、専用のクエストをクリアしなくてはならない。弓についても同様で、クエストでしか入手方法がない。
そのクエストも何種類か存在し、難易度が高くなれば、矢も強力な物が手に入る。そして、一度のクエストで入手できる矢の本数は、約二百五十~三百本。レアな矢の場合なら十本以下だ。
こんな感じで、遠距離攻撃が可能な弓スキルだけど、意外と大変なのだ。確かに、強力なスキルではあるが、弓スキル射程は思いのほか長くは無い。まぁ、それがユニークスキル《射撃》の場合なら、威力も射程も掃射数も桁違いなのだが、僕はあくまで《弓スキル》のみで、二人目の弓使いだ。その辺の詳しい話は、長くなるのでまた今度にしよう。
「さてと、そろそろ戻るとしようかな」
時刻は、午後二時半。夜の森は危険なので、目的のアイテムが集まらなくても、暗くなる前には森を出ようと思っていた。しかし、思いのほか早く集まったので、少し早い気もするが今日は帰って休むことにした。
(っ!)
弓使いに必須ともいえるこの《索敵スキル》。当然僕もこのスキルと《隠蔽スキル》は鍛えている。弓使いは接近されたら無力なので、距離を取るため逃げるしかない。よって、周囲への警戒は常にしておかなくてはならない。その警戒網に何かが引っかかった。警戒しつつ、辺りに目を配る。
(ん?あれは…!)
十時の方向、約二十メートル程の樹木に付近に小さいモンスターを視界に捉える。<ラグー・ラビット>。S級食材〈ラグー・ラビットの肉〉をドロップするレアモンスターだ。
(こんなところにも現れるんだ…)
もっと上層階に行かないとお目にかかれないと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。まぁ、もともとエンカウント率が極めて低いモンスターだし、正確な情報はないのかもしれない。なんとなく、神出鬼没なイメージが強い。
(まだ、こっちには気づいていないしけど、これ以上近づくのは難しいかな……。さて、どっちでいこうかな?)
と言いつつも、迷わず一本の矢を取り出す。相手が噂通りの逃げ足を誇る<ラグー・ラビット>なら、選択肢は決まっている。
(いけ!)
先ほど放った二つの黄色い閃光が、霞んでしまうような速さで飛んでいくそれは、黄色い細い糸のようで、真っ直ぐターゲットへ飛んでいく。弓遠距離攻撃技《スピードスター》。弓スキルの中でも最速の技であり、最大射程も三十メートルと非常に使い勝手のいい技である。今の僕のレベルでは、《閃光》の二つ名を持つ彼女の剣技には劣るが、他には負けていないと自負している。
ポリゴンが砕ける効果音が耳に届き、目の前にお馴染みのフォントが浮かび上がる。
「フゥー」
そこで、肩の力を抜きアイテム欄を確認。そして、右手で小さくガッツポーズをする。僕は、ホームに戻るのを変更して、少し寄り道することにした。
第五十層 『アルゲード』
ここに到着した時には、すでに午後三時を回っていた。だが、まだ三時。そして、圏内に入ってしまえば、遅くなっても問題はない。僕は、アルゲードに着いたところでフード付マントを装備し、フードを被る。これには、一応理由があるのだけれど、これもまたの機会で……。
あいかわらず、道に迷いそうな場所であるが、目的の場所は何度も訪れているので、本当に道に迷うことはないだろう。別の場所なら自信はないけどね。そうこうしているうちに、目的の店に到着したので、いつものように―――
「おじゃまします」
と声をかけ店の中へ入っていく。
(おっと、先客がいたみたいだね)
店の中には、黒尽くめの服装をした少年と、白を基調とした制服を纏った少女、それに少女と同じようなデザインの制服を着ている男の人がいた。そして、少年には見覚えがあった。
(確か、キリト君……だったかな?)
攻略組の中でも最高クラスのプレイヤーと謳われている少年。それに、彼女のほうは直接面識がないけれど、アインクラッドの中でも超が付くほどの有名人。
([血盟騎士団]の副団長、アスナさん)
そんな二人が言い合ってる?とアスナさんが入り口の前に立っている僕に気づいた。
「ほら、邪魔になってるでしょ!早く行くわよ!」
「お、おう。それじゃあな、エギル。感想文を八百字以内で書いてきてやるよ」
「そ、そりゃあないだろう!!」
エギルさんが、がっかりしたような表情を浮かべているが、キリト君とアスナさんは、それをスルーして店を後にしていく。すれ違った時、アスナさんが軽く会釈してきたので、僕も会釈し彼女たちの後ろ姿を横目で見送った。視線をエギルさんの方へ向けると、まだ回復していないみたいだ。被っていたフードを脱ぎ、カウンターまで移動する。
「こんにちは、エギルさん。それより、どうしたんですか?」
「ん?なんだ、シンか……。悪いが俺は、今日もう店を閉めたい気分なんだ」
エギルさんとは、結構長い付き合いになる。といっても、あくまで店の店主と客という間柄なのだが、お得意様ということで、割と良くしてくれる。
「まぁ、そう言わず、とりあえずいくつか換金お願いします」
アイテム欄からいくつかアイテムを選択し、トレードウインドウに入れていく。それを、仕方ないといった表情で確認するエギルさん。その途中で、トレードウインドウをスクロールしている手が止まる。
「おい、シン……」
「ん?どうしたんですか?何か問題でもありましたか?」
「やっぱり、お前は最高だぜ!!」
エギルさんがトレードウインドウの中にある、あのS級食材を見つけたみたいだ。さっきまでの表情とは一変し、そう言いながら、カウンターを乗り越え抱きつこうとしてくる。しかし、それを寸前のところで回避。弓使いの敏捷値は意外と高いんですよ!
「おいおい、かわすことないだろ!俺とお前の仲だろ?」
「残念ですけど、僕にそんな趣味はありません」
「フー。相変わらず、ノリが悪いっていうか、冗談が通じない野郎だな、お前は」
「悪くて結構です。それより、どうでしょう?」
「そうだな……、全部合わせて七万コルでどうだ?」
「相変わらずですね、エギルさん」
いつも通りのエギルさんに思わず苦笑してしまう。
「お前、今笑っただろ?」
「はい、笑いましたよ」
「そういうお前も相変わらずだな。それに、どうせお前のことだから、こうなることが分かってたんだろ?」
エギルさんは、腕を組みながら左側の口の端を吊り上げるようにして笑う。僕たちはいつもこんな感じなのである。エギルさんのモットーは、安く仕入れて安く提供することだ。一応、僕のことをお得意様のカテゴリに入れてくれているみたいだけど、それでも少し上乗せしてくれる程度だ。だけど、それで構わないと思っている。別に儲けようと思っているわけじゃない。
「いつもの事ですからね。とりあえず、交渉成立で問題ないです」
「毎度あり!!」
トレードが成立して、エギルさんから七万コルが振り込まれてくるのを確認したので、ウインドウを閉じる。エギルさんは表情が今度は少し緩んでいる。きっと、〈ラグー・ラビットの肉〉の味でも想像しているのだろう。そういえば、エギルさん料理スキルはどのくらいなんだろう?ただ焼いて食べるのは、勿体ない気がするけど……。それは、置いておいて。
「すいません、エギルさん」
「ん?まだ何かあるのか?」
「はい。どこか腕のいい鍛冶屋とかって知ってますか?」
「ん~、鍛冶屋か……。おっ!そうだ、確か四十八層にある『リズベット武具店』ってところは、なかなか腕がいいって聞いたことがあるぞ。って、俺のとこの武器を買えば済む話だろ?」
「『リズベット武具店』ですね、ありがとうございます」
必要な情報だけをしっかり聞き、後半は聞こえなかったことにする。今回、かなりサービスしたのだから、これくらいではバチは当たらないだろう。エギルさんが何やら喚いているが、それを無視して店を後にすることにした。
To Be Continued
後書き
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
説明ばかりになってしまった気が……。
読みづらい、誤字がある、文法表現がおかしいなど、お気づきになりましたら、ご連絡下さい。
さて、今回は弓という武器について触れてみました。この設定は、初期の段階から決めていました。かなりの無茶振り設定なので、賛否(否のほうが圧倒的に多いと思いますが……)が分かれると思います。
これからも、このような無茶振り設定が出てくると思いますが、それでも構わないという方、次回もよろしくお願いします。
それでは、お楽しみに!
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