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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§54 僕は君にこう言おう。鬼の如く、壊せ

 
前書き
とりあえず宣言は守れた……でしょうか
タイトルは気にしたら負け


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「はぁあ!!」

「ぐぉお!!」

 大上段で振りかぶる。十分な勢いをつけたそれは、抵抗を一瞬だけ感じるも、鬼の左腕を切断することに成功した。切り裂かれた鬼は苦悶の表情で叫ぶ。

「エルちゃん!」

「りょーかい、です! でっかいのいきますよー!!」

 恵那の声に呼応して、後ろでエルが引き金を引く。直後、轟音と共に弾丸が飛ぶ、着弾。爆音が周囲に鳴り響く。試作四号(ガーベラ)の名を冠するその兵器の元は某軍隊より拝借したお古の対戦車砲だ。これを解体し、型をとって、その型にミスリルを流し込む。そんなお粗末な工程で作り上げた試作品の一つ。天災のルーンが刻まれた弾薬を雷神の名を刻んだ砲身による電磁加速で発射する。連射性は皆無で隙は大きいが威力は絶大だ。

「これ危なすぎるでしょ。神獣を一撃って……」

 冷や汗を流す恵那の視線の先には、一メートル近いクレーターと、四散した鬼の残骸。黎斗の力作とはいえ、下位神獣とはいえ、一撃で仕留めるのは何処かおかしいのではないだろうか。そんな思考が脳裏を掠めるが――

「まぁ、こんくらい出来なきゃ黎斗さんの近くには行けない、か」

 苦笑しながら刀を下ろす。これで、もはや近くに鬼が居ないことはわかっている。というか、全部()が斃した後だ。

「相変わらずだねぇ……」

 黎斗の近くには唖然とする程の量の「鬼だったモノ」が山になっている。微塵切りに細断され、”一部を除いて”原型を留めていない。

「これで終わりかな」

 鬼の出現―――といっても従属神にも満たないような、神獣程度の取るに足らない存在だが―――という報告を聞いて飛び出した黎斗は、どういう訳か恵那とエルを連れて行った。恵那の側から「お願い」をすることはあっても黎斗の方から言われたことは初めてで。ぶっちゃけ今も連れてこられた理由がわからない。試作兵器の試し撃ちという線ならエルだけで良い筈だし。

「さて」

 黎斗が真面目な顔でこちらを見てくる。

「本番の仕事だ」

 自然と背筋が伸びた。自分たちを連れてきた理由がこれから明らかになるのだから。

「本番、ですか……?」

 緊張しているのか、引き金にかけた手を震わせながらエルが尋ね返す。

「うん」

 そう言って黎斗が手を上げる。

「――――!!?」

 指に絡めていたのだろうワイヤーが、勢いよく上空に跳ね上がる。周辺に張り巡らされていたワイヤーが一気に戻ってくる。そして、ワイヤーが束縛していた夥しい数のナニカ(・・・)がぱらぱらと落ちて来る。

「こ、これは……」

「えー、本日の天気は血の雨時々左腕でございまーす」

 黎斗のふざけた声と同時に落ちてくるのは、左腕。左腕。左腕。たちまちに山ができる。

「マスターまさか……」

「そのまさかだよ。回収手伝って貰える? 流石にこれだけあるとめんどくさい」

 二百までは数えたんだけどさぁ、などと嘯く黎斗には呆れるしかない。

「一体何かと思えば……」

 投げやりに、試作四号を投げ捨てるエルの目が虚ろだ。

「これどうする気なのさ。なんか新兵器作るの?」

「うんにゃ。よーかの左腕に」

「「はぁ!!?」」

 この人は何を言い出すのだろうか。鬼の腕を隻腕となった陸鷹化に接合する気なのか。

「とりあえず翠蓮にはよーか君貸してもらえるようにお願いしといたから」

「本人の意思無視ですか……」

 死んだ目でエルが呟く。彼女もこの展開は予想していなかったのだろう。

「義手は必要でしょ 機械での義手だとドニの権能で封殺されるからさ」

「何と戦うことを想定しているんですか……サルバト-レ卿と対峙した時点で鬼の手だろうがなんだろうが勝てませんよ」

「まぁ、そうなんだけどさ」

 あっさりとエルの意見を認める黎斗。それにイヤな予感がする。

「でも鬼の手って恰好良くない?」

「れーとさん……」

「大体ただの手だとつまらな……げふんげふん。頼りないからちょっとばかし改良しようかと」

「待って、れーとさん。今つまらないって」

「さー帰ろう!」

 強引に話題を断ち切って歩きはじめる黎斗。逃げられた。

「……まぁなんでもいいけどさぁ」

 半ば呆れを含ませながらも、恵那とエルは黎斗の後を追う。左腕の回収を忘れていることに、まだ誰も気づかない。





●●●





「お前阿呆だろ」

「いやいや何を仰いますかスサノオせんせい」

 須佐之男命にボロクソに言われた。なんでだ。黎斗は必死に考える。

「なんで本来の力を解放するのに一々呪文がいるんだよ」

「なぜなら――――その方がカッコいいから!!」

「もう黙れよお前」

 辛辣なツッコミにも黎斗はめげない。

「まぁそれは半分冗談だけど。前提としてさ。いくらよーかが強くても所詮人間だし。神獣クラスの力を持つ腕を扱う、ってのはしんどいと思うのよね」

 人間の脆弱さを知るが故の発想。多分、神にこういう発想はないのだろう。

「……ふむ。一理あるな」

「だから通常時の出力を落とす。必要時のみ力を解放させることで肉体にかかる不可を減らす。あ、僕医療魔術とか詳しくないからあんまツッコまれてもわからんからね」

 陸鷹化の腕の太さは確認済みだ。持ち帰った腕を全て調べて、丁度良い太さの腕を見つけ出した。これを素体として、作り上げたのは義手。その名も「鬼の腕」

「賢者の石を動力源とする、か……」

「というより呪力の貯蓄源としてよーかの呪力を蓄え、稼働する、みたいな。あとは過剰呪力による強化(ブースト)やら自己再生(リジェネレート)機構ぶちこみたいかな」

「で、完成品がコレと」

 須佐之男命達の前に出したのは、人間の左腕のようなものだ。ただし色が紫と桃色を基調としており皮膚が無い。そのまま筋肉の繊維が見えており血管が浮き出て見える。ぶっちゃけ、グロい。

「なんというか、気色悪いですな。作成者の感性を憐れんでしまいそうな程に」

「黎斗に美的センスなんかある訳ないだろ。常識的に考えろ」

「これは確かに。失礼致しました」

「そこ煩い!!」

 僧正め、なんてことを言ってくれる。まぁ、確かに美術の成績2とか3とかその辺だけれども。何故に感性を馬鹿にされにゃならぬのだ。

「しょうがないじゃん鬼の腕なんだからグロくて当然でしょ!!」

「畏れながら黎斗様、これでは使用者が人目を気にしてしまい使いにくいのでは……」

「うぐっ」

 玻璃の媛にも暗にボロクソに言われ、黎斗のメンタルに亀裂が入る。

「性能は悪くない、がセンスが論外だな」

「むぅ……」

 だが、鬼の手以外手段があるだろうか。神の手など人間に使えるような代物ではない。

「……護堂の”猪”から拝借……しても無駄か。手じゃなく足だしなぁ」

 吸血鬼、も可能性はあるのだが。

「やっぱ鬼の手ってロマンだしなぁ……」

 窮地の状態で「南無 大慈大悲救苦救難 広大霊感 白衣観世音……」などと唱えながら手袋を外す。封印されていた絶大なる力を行使する。

「ゼッタイこのシチュ燃えるって」

「お前の趣味を押し付けんなよ……」

 須佐之男命の言にも一理あるのであまり暴走する訳にもいくまい。今回こちらは加害者側なのだから。

「ふむ。じゃあよーかにちょいと聞いてみますかね」

 そういっておもむろに取り出す携帯電話。数コールで件の人物が出てきてくれた。

「これはこれは師祖ですか。陸鷹化、師祖の……」

「師祖って何さ。あとそんな長々口上述べなくて良いから。ぶっちゃけそんな大変なのは翠蓮だけで十分でしょ」

「いえいえ。師父の師父ともなればこの陸鷹化にとって師祖とも言える御方。礼儀を尽くさねば」

 どうやら師父とやらの師父は師祖というらしい。父の父だから祖父、みたいなものだろうか。

「あ、さいですか……」

「……師祖が口上をあまり好まれないようですのでそこらは臨機応変にいかせてもらいます」

 微妙な表情をしたのを察したのか、追記してくる陸鷹化。本当に、こちらの気配を探るのが上手い。と、そんなことに感心していたら微妙な顔の須佐之男命の顔。早く本題に移れ、といったところか。

「……じゃあそれでよろしく。んでさ。鬼の腕ってどう思う?」

「鬼の腕、ですか? 中々厄介な代物ですね」

「欲しい?」

「は……? 強大な霊具ではありますし、是非拝見したいものではあります」

「欲しい?」

「……師祖?」

「欲しい?」

「……はい。頂けるなら、是非」

 それだけ聞ければ十分だ。

「そっか、ありがと!」

 携帯を切り、勝ち誇る。

「ほら見ろ! 許可とったぞ!!」

「……今の会話の何処に許可とった要素があんだよ。まぁいいや。俺は知らん」

 最終的に匙を投げた須佐之男命の協力を取り付けて、試行錯誤の繰り返し。疲れ切った須佐之男命達の顔を背に、ホクホク顔で黎斗は屋敷を後にする。





●●●





「マスターいつの間に……」

 帰り道で、エルが聞いてくるのは、いつ陸鷹化とアドレスを交換したのか、という疑問だ。それに関する黎斗の答えは単純明快だった。

「ほら、翠蓮たちが帰る前によーか土下座してたじゃん?「師父の師とは知らずに失礼いたしました!!」って。そん時に聞いてた」

 あの時の陸鷹化の表情は酷かった。この世の終わりのような表情で、更に全身真っ青。

「あぁ……」

 黎斗もエルも同情するだけでなく、甘粕が心配する程なのだからその深刻さが窺えるというものだ。

「……マスター」

「ん?」

「恵那さん、どうするんですか?」

「……いきなり話題切り替わったなオイ」

 エルの発言は、奇襲過ぎた。煙に巻かない機会を狙っていたのだろうか。

「もう少し期間が欲しい、というのが本音かな」

 人並みに異性に興味はある。ましてこちとら何百年も童貞拗らせているのだ。だが。

「……こっぴどくやられてるからね」

 最初に会った神殺しは、キスによる呪縛でこちらを洗脳してきた。今から千年近く前の話だ。初めてのキスが呪いとかもはやイジメである。そして、最初に出会った神は冥府の女王。殺されかけたことは忘れてはいない。

「女性は怖い、というのがね」

 エルはキツネだし、”雌”だから大丈夫だが恵那はそうはいかない。玻璃の媛だってまともに話せる様になったのは何百年前か。幼女みたいに殺しにかかってこないと安心出来る存在や二次元(がめんのむこう)は問題ないのだけれど。

「いつまでもそんなんじゃダメですよ?」

「わかってる」

 幸か不幸か。護堂(ハーレムやろう)の身近にいたおかげでこの数か月は女子と話す機会が激増した。恵那との同棲生活を得て、大分マシになってきてはいるのだが。

「もう少し、ね」

 せめて克服するまでは。

「……私達と違って恵那さんの寿命は有限なんですから。それまでにヘタレは治してくださいね?」

 やれやれと。本当にしょうがなさそうにエルが納得するのを見て、黎斗は胸を撫で下ろす。

「努力します。……さ、いざよーかの元へ」

 気分を切り替えて、歩き出す。彼はこの時間帯メイド喫茶にいるらしい。いざ往かん萌えの聖地へ――――!!



 黎斗から腕を受け取った陸鷹化の顔は引き攣っており、それを見た周囲の人間は同情した。しかし、この日から彼は再び左腕を得た。もっともその腕は人に過ぎた物。全力を解放した戦闘中、突如左腕の自由を失うことも多々あった。その度に「くっ、静まれ僕の左腕……!!」などとやることになり、その様子をエリカや馨にネタにされることを本人は未だ、知らない。 
 

 
後書き
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とりあえず師祖&右腕云々のフラグ回収!
あと恵那関連の話とかちょびっとやりつつ。


最新刊いぇい、色々どーしませうってカンジになりつつありますがまぁどーにかなるでしょう、多分(死

まさか二郎真君出るとは思わず(苦笑
本筋は……もう矛盾点は「己の道突き進んでるから」で良いですよね(遠い目 
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